プラモクラフトな世界で心に火を点け生きていく   作:ダルマ

7 / 15
第六話 ラーベアハト戦場に立つ!

 八尋が八神家で夕食をご馳走になった翌日。

 八尋はいつも通り暁高校へと登校し、午前中の授業を終えると、いつもの面々と共に昼休みを堪能していた。

 

「おぉー、遂に倉矢も自分用のTBFを手に入れたんだな! しかもこのフレーム、あのラーベアハトかよ!」

「へぇ、コア・シャーシは八尋くんからのプレゼントなんだ。太っ腹だね八尋くん」

「まぁ、始めたお祝いって事で」

「おめでとう、倉矢くん」

「ありがと、幸来」

 

 頭上に広がる蒼穹が圧倒的な解放感を感じさせる校舎の屋上の一角。そんな場所で弁当を食べ終えた八尋は、他の四人と共に食後の談笑に興じていた。

 そして、その際話題となったのが、当然と言うべきか倉矢のTBFであった。

 

「なぁ、倉矢。放課後、ニッパーで俺のグラディ・ムルミッローとバトルしようぜ!」

「あぁ、勿論!」

「ふふ、何だか二人とも、バトルセウムがあれば今すぐにでもバトルしたいって感じだね」

「そりゃ、TBFプレイヤーなら誰だって一番に新型とバトルしたいってもんだろ。"ハンディ・バトルセウム"があれば今すぐにでもバトルしてぇよ。けどな……、校則で禁止されてるしな」

 

 幸来の言葉に反応した拓叶が熱く語るも、最後は悲しい現実を思い出し、がくりと肩を落とす。

 

 TBFのバトルを行う際に必要となるのが、TBF本体とバトルセウムである。

 そんなバトルセウムにはニッパーにある設置型の他、拓叶が語ったように、ハンディ・バトルセウムと呼ばれる携帯用のバトルセウムも存在している。

 このハンディ・バトルセウムは最新のナノテクノロジーを応用し幾重にも折り畳む事を可能としたもので、折り畳んだ際は六十ミリメートル程度の立方体となり持ち運ぶ事が可能となっている。

 持ち運びには便利な反面、そのお値段は少々割高であり、尚且つ再現できるジオラマの種類も設置型と比べると少ないという欠点もある。

 

 それでも、やはり施設のない野外等でバトルを楽しめるという利点は魅力的らしく、その需要は販売開始以来年々右肩上がりだ。

 当然、八尋も一台所有しており、主に自作或いは改造したTBF用の武器の性能を自宅で試す為に使用している。

 

 そんなハンディ・バトルセウムだが、暁高校では校則として校内への持ち込みが禁止となっていた。

 だがこの措置はある意味で当然と言えた。何故なら、仮にハンディ・バトルセウムの持ち込みが容認されれば、休憩時間中は間違いなく、校内のそこかしこでバトルが繰り広げられている事が容易に想像できるからだ。

 

「そうだ八尋。今日はバイトないんだろ? だったら、倉矢のデビュー戦に付き合えよ!」

「あれ、でも。八尋くんの"スイープ・アンフ"はまだ修理中って言ってなかったっけ?」

「あ……」

 

 程なく、立ち直った拓叶が放課後にバトルしようと提案したのだが、葉月の言葉に、拓叶は思い出したように声を漏らす。

 葉月が口にしたスイープ・アンフとは、八尋が開発したワンオフ機の名前である。

 同機の特徴は何といっても背部のバックパックに装備した二本のサブアーム。このサブアームに武装やシールドを装備する事で、市販されている機体以上の火力や防御力を得る事が出来るのだ。

 

「それなら大丈夫。スイープ・アンフの修理と改良は、もう済んでるから」

「え、そうだったの?」

 

 そんなスイープ・アンフだが、実は完成したのはごく最近。しかも、お披露目兼デビュー戦にて、サブアームの可動部に試運転では見られなかった問題が現れる等、その信頼性はまだ完全とは言えなかった。

 しかし、開発者である八尋はデビュー戦で露わになった問題点を改良し、信頼性の向上に努めていた。

 

「お、だったら倉矢のデビュー戦はバッチリだな!」

「うん!」

 

 こうして、倉矢のラーベアハトのデビュー戦に全員参加できる事が確認できた後、五人は話題を変えて談笑を続けた。

 やがて、昼休みの終了を告げる予鈴が鳴り響くと、五人は午後からの授業に備えて、校舎の屋上を後にするのであった。

 

 

 

 

 そして迎えた放課後。

 今日は掃除当番ではなかった為、昨日よりも早く暁高校を後にした八尋は、真っ直ぐに帰宅すると、必要な荷物などをコンテナバッグに詰め込み始める。

 程なく荷物の用意を終えると、制服からテーラードジャケットにスタイリッシュなパンツの私服へと着替えを終えると、ニッパーへと向かった。

 十数分後、無事にニッパーへと到着すると、坂井店長に声をかけてバトルスペースへと赴き、他の四人の到着を待ちながら先に準備を始める。

 

 やがて、他の四人も到着し全員が揃った所で、倉矢のラーベアハトのデビュー戦となるバトルが始まろうとしていた。

 

「それじゃ倉矢、先ずは俺とバトルだ!」

「おう!」

 

 拓叶が一番手を立候補し、他の三人も異論がなかった為、倉矢の最初のバトル相手は拓叶に決定した。

 

「んじゃ、レギュレーションはどうする? 流石に、デビュー戦で"リミットレス"は不味いよな……」

「なら、スタンダードでいいんじゃない?」

「私も、それがいいと思う」

 

 葉月の提案に幸来が同意し、他の面々も同意した事で、バトルのレギュレーションは昨日と同じスタンダードとなった。

 因みに、拓叶が口にしたリミットレスというのが、ブレイクエンドも認められた、文字通りどの様な戦闘方法も認められているレギュレーションである。

 

「それじゃ始めるぞ」

 

 スマートフォンを片手に、バトルセウムの前に立つ拓叶と倉矢。グラディ・ムルミッローとラーベアハトが投入され、バトルセウム内の平原に降り立つ両機。

 

〈Main system ActiVating fighting mode〉

 

 そして、両機のセンサーカメラが光を放つと共に、審判役の八尋がバトルの開始を告げる。

 

「それでは、バトルスタート!」

「いけぇ、グラディ・ムルミッロー!」

「ラーベアハト、ゴーッ!」

 

 合図と共に、両機は会敵するべく平原を駆ける。

 

「わぁ、想像していた以上に素早いわね」

「本当です」

 

 バトルを観戦している葉月と幸来の二人の口から、ラーベアハトの動きを見た感想が零れる。

 機動力の高いトイアリス程ではないにしろ、ポーンボックスを上回るスピードで平原を駆けるラーベアハトは、やがてグラディ・ムルミッローを補足すると、右手に装備したビームライフルを発射する。

 しかし、放たれた光線はグラディ・ムルミッローの大型シールドに防がれてしまう。刹那、お返しとばかりに、グラディ・ムルミッローが装備していたスタンダードハンドガンの弾丸がラーベアハトに襲い掛かる。

 

「っ! すげぇ機動力だな」

 

 だが、ラーベアハトは自慢のスラスターを用いた回避行動で飛来する弾丸を躱していく。

 予想以上の性能に拓叶は舌を巻くが、それでも攻撃の手を緩める事はない。

 一方の倉矢も、いつまでも回避し切れないと察したのか、シールドや近くの木々を盾代わりに使用しつつ、再びビームライフルを発射する。

 

「だが撃ち合いなら、勝負は五分だ!」

 

 これに対してグラディ・ムルミッローも、大型シールドの耐久力を考慮し、近くの家の影に身を隠すと、スタンダードハンドガンで応戦を続ける。

 それから両機は、暫く決め手に欠ける銃撃戦を繰り広げる事となる。

 

「このままじゃ……、よし!」

 

 程なく、現状打破の為先に仕掛けたのは、ラーベアハトの方であった。

 武装をビームライフルからコンバットソードへと持ち替えたラーベアハトは、スラスターを用いて一気に距離を詰める。

 

「ぬおっ!?」

 

 反応が遅れたグラディ・ムルミッローは、武装の切り替えが間に合わず、スタンダードハンドガンでの近接戦闘を余儀なくされる。

 しかし、近距離となった為、スタンダードハンドガンの弾丸がラーベアハトの装甲を叩く。

 だが倉矢は、ラーベアハトが多少被弾してしまう事は覚悟の上で仕掛けていた。

 

「そこだ!」

 

 被弾しつつも、グラディ・ムルミッローの無防備な側面に回り込んだラーベアハトは、右手に装備したコンバットソードの剣先を、グラディ・ムルミッローの頭部目掛けて突く。

 刹那、グラディ・ムルミッローの頭部から火花が弾けると、グラディ・ムルミッローは地面に倒れ、再び動き出す事はなかった。

 

「そこまで! 勝者、倉矢!」

 

 八尋の勝利宣言と共にバトルが終了し、拓叶と倉矢は各々のTBFを回収する。

 

「ったく、初めて使ったって言うのに、やっぱ強えぇな。完敗だ」

「凄いね、倉矢くん。初めて使ったとは思えない動きだったよ!」

「いや、そうでもないさ。まだラーベアハトの機動力に振り回されてた部分があった」

「え、そうなの?」

「あぁ、だから、もっとバトルして、ラーベアハトを使いこなせるように頑張らないと!」

 

 幸来の称賛の言葉に対して、倉矢は先ほどのバトルで感じた問題点を挙げると、その問題点を改善する事を誓うのであった。

 

「それじゃ倉矢くん、修理したら、次は私とバトルしよう!」

「おう!」

 

 そして、八尋が用意したリペアジェル等を使いラーベアハトの修理を終えた倉矢は、続いて幸来とのバトルを開始する。

 補助型寄りの性能であるリトルマーチングでは、やはり一対一のバトルにおいてはやや不利となり。必然としてバトルの勝敗は、倉矢の勝利で幕を閉じた。

 

「じゃ、次は私ね!」

 

 そして、三戦目の相手は葉月のトイアリス。

 その機動力を生かしたヒットアンドアウェイの戦法で、ラーベアハトを翻弄したものの、振り下ろされたセブン・キーを紙一重で躱され、その一瞬の隙にラーベアハトが繰り出したコンバットソードが決定打となり、あと一歩のところで勝利とはならなかった。

 

「それじゃ、最後は俺だね」

 

 こうして三人とのバトルが終わり、遂に、八尋とスイープ・アンフの出番がやってくる。

 

 

 修理を終えたラーベアハトを片手に、バトルセウムの前に立つ倉矢。それに応えるように、八尋もスイープ・アンフを片手にバトルセウムの前に立つ。

 刹那、それまでの三戦とは異なる、張り詰めた雰囲気が漂い始める。

 

「二人とも、準備はいいか!?」

「おう!」

「勿論!」

 

 審判役を務める拓叶の問いに、力強く答える倉矢と八尋。

 

「そんじゃ、バトルスタートッ!!」

「ラーベアハト、ゴーッ!」

「スイープ・アンフ、発進!」

 

 拓叶が大きく振り上げた右腕を振り下ろすと同時に、両機がバトルセウム内を駆ける。

 

 その内の一機であるスイープ・アンフは、青と白を基調とするカラーリング。頭部のカメラを保護するためのバイザー、肩や腰部それに脚部などに施された装甲が、シンプルながらも力強い外観を印象付ける。

 右手には片手銃の"シャープマシンガン"、左手にはスタンダードハンドガンを装備し、背部のバックパックに装備した二本のサブアームには、それぞれ中型シールドが装備されている。

 本来なら、シールドを装備させるには片手を塞がなければならないが、スイープ・アンフは同機最大の特徴ともいえるサブアームを採用する事により、両手に武器を保持したままシールドの使用が可能となっている。

 

 一見するとその重武装による重量の増加から機動力は低いように思われるが、脚部などに追加されたスラスターや駆動部の改良に内臓パーツの絶妙な構成のお陰もあり、ポーンボックス以上の機動力を誇る。

 

「いくぞ!」

「こい!」

 

 やがて、両機は互いに相手を補足すると、互いに手にした武装を使い、銃撃戦を繰り広げ始めた。

 飛来する弾丸をシールドで防ぎながら、ビームライフルを発射するラーベアハト。対して、飛来する光線をサブアームの中型シールドで防ぎながら、二種類の銃による弾幕を展開するスイープ・アンフ。

 暫く銃撃戦を繰り広げていた両機であったが、やはり、単純に二倍の火力と防御力を誇るスイープ・アンフを前に、ラーベアハトは徐々に防戦に追いやられていく。

 

 刹那、一旦態勢の立て直しを図るべく、ラーベアハトはスラスターとバックステップを駆使して家の影に身を隠す。

 だがそんな時間は与えまいと、ラーベアハトが身を隠した家に対して、スイープ・アンフが弾丸の嵐をお見舞いする。

 

「くそ、このままじゃ……」

 

 家の壁が次々と穴だらけになっていく中、倉矢は状況を打開するための次なる行動をどうするか、思考を巡らせていた。

 

(倉矢、次はどうする?)

 

 一方の八尋も、自身が有利な状況にあるとはいえ、気を緩めることなく、次なる倉矢の行動に対応できるように動向を注視する。

 そして、家の壁も穴だらけとなり、今にも崩壊するかと思われた次の瞬間。弾丸の嵐が途切れた一瞬の隙をつき、ラーベアハトがビームライフルを発射する。

 

「甘い!」

 

 しかし、スイープ・アンフは瞬時にサブアームの中型シールドを展開させ、飛来する光線を防ぐ……、かと思われた。

 だが、放たれた光線はスイープ・アンフではなく、その周囲の地面に弾着し、周囲に土埃を発生させる。

 

「成程、煙幕の代わりか……」

 

 土埃により視界を奪われたスイープ・アンフの様子を目にし、八尋は倉矢の意図を見抜くと警戒感を高める。

 視界不良の中、何処からラーベアハトが仕掛けてくるのか、その予兆を見逃す事の無いように、周囲に気を配る。

 

「っ! 後ろ!?」

 

 刹那、死角となる背後に気配を感じ取ったスイープ・アンフは、咄嗟にサブアームの中型シールドを突き出す。刹那、鈍い音と共に、コンバットソードに武装を持ち替えたラーベアハトが弾き飛ばされる。

 

「な!」

「もらった!」

 

 背後からの不意の一撃を決める筈が、逆に不意打ちを食らい、驚きを隠せない倉矢。

 一方の八尋はこの機を逃すまいと、右手のスタンダードハンドガンを手放し、スイープ・アンフの両肩部に装備されたビームセイバーを抜刀する。

 刹那、光の刃を手に、弾き飛ばされ倒れ込んだラーベアハトのもとへと迫る。

 

 そして、急いで起き上がろうとするラーベアハトが目にしたのは、自身に光の刃の切っ先を突き付けるスイープ・アンフの姿であった。

 

「勝負あり、だね」

「……、俺の負けだ」

 

 こうして倉矢の敗北宣言により、バトルは八尋の勝利で幕を閉じるのであった。

 

 

 

 

 アークロンのデビュー戦となるバトルを終え、各々のTBFの修理を済ませた五人は、坂井店長を交えて談笑に興じていた。

 

「やっぱり、八尋くんのスイープ・アンフは強いね。私達じゃ勝てなかったラーベアハトに勝っちゃうんだもの」

「そうそう。それに八尋の操作技術の高さもあって、まさに無敵だな!」

「そうでもないよ。今回はスイープ・アンフだったから勝てたけど、他のTBFなら負けてたかもしれないし……」

「謙遜するなって、お前の操作技術が俺達の中で一番高いのは事実だろ?」

「そうそう、八尋くんなら、他のTBFでも勝ててたんじゃない?」

「あはは……」

 

 葉月と拓叶の称賛の言葉に、八尋は気恥ずかしくなり頬を掻く。

 一方の倉矢は、幸来と坂井店長に対し、スイープ・アンフと再戦する時に備えて己の操作技術を更に高め、ラーベアハトを完璧に使いこなす事を誓っていた。

 

「頑張ってね倉矢くん、私も応援してるから!」

「ありがと幸来」

「うんうん、向上心がある事はいい事だね。そうだ、僕も応援がてら、何か力になれる事があれば出来る範囲で力になるよ」

「ありがとう、店長!」

 

 二人からの応援を受けて、更にやる気に満ち溢れる倉矢。

 すると早速、倉矢は坂井店長のお言葉に甘えるべく、坂井店長に質問を投げかけた。

 

「だったら店長、この辺りで腕の立ちそうなプレイヤーとか知らないかな?」

「うーん、そうだねぇ……」

 

 打ち立てた目標を達成させる為には自分自身で練習することも大事だが、やはり一番の近道となるのは実際に他人とバトルを行い、経験を積む事だ。

 それならば、今回戦った四人とのバトルでも問題はなさそうだが、やはり慣れ親しんだ者とのバトルよりも、初対面とのバトルの方が新たな発見や刺激を受けやすく糧となり易い。

 

「お、そうだ。なら、これに出場してみるのはどうかな?」

 

 倉矢の期待に応えるべく頭を悩ませた坂井店長は、やがて何かを思い出すと、レジカウンターの下から一枚のポスターを取り出して倉矢に見せた。

 

「今度の日曜日、この夏愛(なつめ)商店街が主催のTBFの大会を開くんだけど、もしよかったらこの大会に参加してみないかい?」

「へぇー、大会かぁ」

「参加条件は自分のTBFを所有している事だけだから、今の倉矢君でも参加可能だよ。あと、参加費用に千円が必要になるけど、優勝すれば賞状の他に、副賞として大泉(だいせん)重工のTBF、"テトーク"のフルセットパッケージが贈呈される事になってるんだ」

「本当ですか、店長!?」

 

 坂井店長の説明を聞いた倉矢は、目を輝かせた。

 大会となれば、腕に覚えのある者達が参加のは必然。であれば倉矢にとっては初めての大会ながらも、経験もつめて、優勝すればフルセットパッケージも手に入る、まさに一石二鳥のこの機会を逃す手はなかった。

 

 因みに大泉重工は国内の重工業企業の一社であり、TBFブームの世界的な広がりを受けてTBF業界へと異業種参入した企業である。

 元々重工業という事もあり、製造・販売しているTBFは装軌(そうき)式や装輪(そうりん)式等、非二足歩行型のラインナップが多い。

 そして、今回大会の副賞として選ばれたテトークもまた、装軌式の脚部故の豊富な積載量と強固な装甲を備えた、まさに戦車の如き性能とデザインから人気の高いTBFである。

 閑話休題。

 

「俺、参加したいです!」

「やる気だね。それじゃ、この参加申込用紙に必要事項を記入してね」

 

 坂井店長が手渡した参加申込用紙に必要事項を記入した倉矢は、最後に参加費用の千円を坂井店長に手渡して、無事に大会に参加する運びとなった。

 

「そう言えば店長、この大会って八尋は出場するんですか?」

 

 参加申し込みを終えた所で、倉矢はふと、思い浮かんだ疑問を坂井店長にぶつける。

 

「実はね、本当なら八尋君にはニッパーを代表して出場してほしかったんだけどね……」

「あー、ごめん倉矢。大会当日はどうしても抜けられない用事があって、大会には出られないんだ」

 

 すると、話の途中から八尋本人が参加し、大会に出場できない理由を説明し始めた。

 どうやら先約があったようで、残念ながら日曜日の大会には不参加の様だ。

 

 大会という舞台で再戦を果たせると、内心期待していた倉矢だったが、八尋が不参加と知り肩を落とす。

 

「そんなにガッカリするなよ倉矢!」

「そうだよ、倉矢くん。八尋くんは不参加だけど、私達は参加するから安心して」

「えぇ! 拓叶と葉月さんも参加するの!?」

 

 だが、拓叶と葉月の二人が大会に参加すると知り、倉矢は再びやる気を引き起こさせる。

 これまでニッパーのバトルスペースでしか戦った事のない二人と、大会という晴れの舞台で戦える、これ程嬉しい事はないからだ。

 

「拓叶くんと葉月ちゃんも、大会に参加するんだ」

「そうだ、折角だから幸来ちゃんも参加しようよ!」

「え、私!?」

「うん、皆で参加したら楽しいよ! ね!」

 

 すると、葉月が幸来も大会に参加しないかと誘い始める。

 暫し悩んだ末、幸来は申し訳なさそうに不参加の意思を伝え始めた。

 

「私は、観覧席から皆の事を応援してる方がいいかな」

「そっか……」

 

 こうして、五人中三人が今度の日曜日に行われる大会への出場が決まった所で、今回不参加の八尋から三人に応援の言葉がかけられる。

 

「俺は参加できないけど、三人とも、俺の分まで頑張ってね!」

「任せとけ! 俺達三人で表彰台を独占してやるぜ!」

「ちょっと大袈裟な気もするけど。でも、それ位の気概で挑まないとね!」

「俺も、初めての大会だけど、優勝する気持ちで頑張る!」

「私も、応援しかできないけど、精一杯応援するね!」

 

 大会への意気込みを語り、その後も談笑を続けた五人は、やがて大会に備えた特訓として、再びバトルを始める。

 

「いいねぇ、青春だねぇ……」

 

 そんな五人の姿を、坂井店長は優しく見守るのであった。




ここまで読んでいただきましてありがとうございます!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。