澄み渡る空、眩しい太陽。まさに絶好の大会日和。
暖かく穏やかな風が吹く中迎えた、夏愛商店街主催のTBF大会開催当日の日曜日
会場となるのは、夏愛商店街の一角にあるレンタルスペース。発表会や講習会等々、様々な用途に利用できる多目的なスペースだ。
そんなレンタルスペースには本日、戦場となるバトルセウムが複数台設置されていた。
「えー、本日は、我が夏愛商店街が主催しますTBFの大会にお集まりいただき──」
会場の一角に設けられた特設ステージ、その壇上で開会の挨拶をするのは、夏愛商店街の会長を務める老年男性。
そんな会長の挨拶を、はやる気持ちを抑えて耳を傾ける大会参加者達。その中には当然、倉矢達の姿もあった。
「えー、皆様ご存知の通り。この夏愛商店街は戦後の夜店通りであったものが復興と共に整備され、スーパーや銀行等が出店し、現在の商店街の原形を形成──」
何故、目上の者の話は長くなってしまうのか。
参加者への感謝の言葉や大会の目的等も終わり、あとは開会の宣言を残すのみと言う所で、会長が夏愛商店街の歴史を語り始めた。
その瞬間、参加者達の多くは悟る。あ、これ長くなるやつだ……、と。
「そして……。ん? 時間がない? あー、そうですか」
だがその時、大会の実行委員と思しき男性が会長のもとに駆け寄り説得を始めた。
すると、会長も納得したらしく、話を切り上げるのであった。
「えー、それでは。只今より、夏愛商店街主催のTBF大会を開会いたします!」
こうして、実行委員の男性のファインプレーもあり、話がだらだらと続く前に開会宣言がなされるのであった。
「皆さま、お待たせいたしました!! これより、夏愛商店街主催、血沸き肉躍る戦いの祭典、TBF大会のスタートです!! ……あ、ご紹介が遅れました。
刹那、司会者台に佇んでいた白のシャツに黒いスラックス、そして赤い蝶ネクタイと言う装いの壮年男性。ミスター・オオムギが早速、場を盛り上げるべく熱いトークを繰り広げ始める。
そして一頻りトークを終えた所で、大会の試合方式等の説明に入る。
「本大会のバトルは、スタンダード・レギュレーションで行われます! 試合方式は、参加者達によるトーナメント方式! ……即ち、最後まで勝ち上がったプレイヤーが、大会優勝の栄光と共に、副賞であるTBFテトークのフルセットパッケージを手に入れる事が出来るのです!!」
ミスター・オオムギの説明と共に、会場の空気が熱を帯び始める。
「それでは、注目の対戦カードの発表です!!」
刹那、会場の一角に設けられた大型ディスプレイに試合の組み合わせが表示される。
既に勝利を確信する者、緊張で強張っていく者、勝てるように祈る者等々。組み合わせを確認した参加者達は各々の反応を見せる。
しかし、反応を見せるのは参加者達だけではなかった。
会場に設けられた観戦エリア、そこで観戦する多くの観戦者達もまた各々の反応を見せていた。
「ほぉー、倉矢君の初戦の相手は
「坂井店長。倉矢くんの対戦相手の人、知ってるんですか?」
観戦エリアで倉矢達の応援を行う幸来は、隣の坂井店長が零した言葉に反応を示す。
「隣の市でそこそこ名が知られている小田井三兄弟と言うプレイヤーがいてね。彼はその末弟君だよ」
「強いんですか?」
「うーん、そうだねぇ……。彼らは三人とも、パテやプラ板、それに流用パーツを用いて機体の装甲を強化するのが好きでね。その為、"装甲三兄弟"とも呼ばれているそうだ」
「つまり、強いんですか?」
「……装甲の厚さと勝率は比例しない。と言う事さ」
「頑張って、倉矢くん!」
幸来が倉矢の大会初勝利を応援している一方、当の本人はと言えば。
参加者の為に用意された準備エリアにて、スマートフォンの無料の通信アプリを使って八尋が送った応援メッセージを確認していた。
「只今より、第一回戦のAグループを開始します。対象のプレイヤーは速やかにお集まりください」
刹那、ミスター・オオムギのアナウンスが流れ、対象である倉矢は急いでステージへと向かった。
指定されたバトルセウムに足を運ぶと、既に対戦相手が待っていた。
「テメェか、俺の初戦の相手は?」
「あぁ、そうだ」
「ふ……、勝ったな」
「え?」
「テメェがどれ程の腕前かは知らねぇが、TBFなんぞ、慣れちまえば簡単なもんよ! 現に、俺は今までテメェみたいなスカした野郎と何人もバトルして泣かせてきたんだぜ!」
倉矢と同年代と思しき対戦相手の男子は、粗暴な態度で口撃を始める。
「だがまぁ、大会に出る位だ、少しは自身があんだろ? けど残念、この試合、俺の勝ちだ!」
「随分な自信だな」
「そりゃそうさ! 何故って? 装甲さえ固めときゃあとは問題ないって、兄貴達が言ってたからな! ウッハハハッ!!」
最早完全に勝った気でいる対戦相手の男子。
それに対して倉矢は、臆することなく睨み返すのであった。
「準備はよろしいですね? それでは……」
「ラーベアハト、ゴーッ!」
「ポーンボックス・オリンピアカスタム!!」
程なく今回のバトルフィールド、起伏が多く安定した足場の少ない山岳のジオラマに二機のTBFが降り立つ。
「バトルぅー、スタートぉー!!」
そして、ミスター・オオムギの力強い合図と共に、戦いの幕が切って落とされた。
「見た事ねぇTBFだが、俺のポーンボックス・オリンピアカスタムの敵じゃねぇ!」
逆脚による高い跳躍力を生かし、山間を飛び越えるように移動するポーンボックス・オリンピアカスタム。
緑色に塗装された同機は、箱型の一体型パーツや腕部等、至る所にパテを用いて追加した装甲の数々が目を引く重装甲仕様。
「見つけたぜ! そのスカした顔、泣かせてやるよ! オラオラオラ!」
程なく、ラーベアハトを捕捉したポーンボックス・オリンピアカスタムは、右手のシャープマシンガンと左手のスタンダードハンドガンの引き金を引いた。
次の瞬間、弾丸の嵐がラーベアハトに襲い掛かる。
「くっ!」
シールドで弾丸の嵐を受け止めつつ、ビームライフルで応戦するラーベアハト。
だが、放たれた光線はポーンボックス・オリンピアカスタムの右肩に命中したものの、追加装甲のお陰で大したダメージは与えられなかった。
「くそ」
「どうした、どうした? だんだん、余裕なくなってきてんじゃねぇのか!?」
その後も撃ち合いを続ける両機。
一見すると互角の戦いを繰り広げている様にも思えるが、ポーンボックス・オリンピアカスタムの火力、更には山岳のジオラマは安定した足場が少ない事もあり、ラーベアハトが徐々に押し込まれていた。
それでも、倉矢は諦める事無く、突破口を見つけるべくポーンボックス・オリンピアカスタムの動きを見続ける。
「ん?」
その時、倉矢はある事に気が付く。
自身もポーンボックスを使った事があるが故に気付けた違和感。ポーンボックス・オリンピアカスタムの着地時の沈み込みの深さに。
(もしかして、増加した重量に関節が対応していない?)
刹那、突破口を見つけた倉矢は、応戦を止めて回避に専念し始める。
一方、対戦相手の男子は倉矢が勝負を諦めたと感じだようで、チャンスとばかりに追撃を仕掛ける。
「オラオラオラッ!」
「もう少し……、頑張ってくれ、ラーベアハト」
スマートフォンの画面に表示されたラーベアハトのアーマーポイントを気にかけつつ、倉矢はその時が訪れるのを待つ。
「これで終わりだぁ!」
やがて、追撃するポーンボックス・オリンピアカスタムが山頂に着地した、その時。
遂に耐え切れなくなったのか、ポーンボックス・オリンピアカスタムの右脚関節部が火花を散らすと、機体がぐらつき始める。
「なっ!」
「今だ!」
刹那、ラーベアハトがスラスターを噴かせ、彼我の距離を一気に詰める。
やがて、ポーンボックス・オリンピアカスタムの懐に飛び込んだラーベアハトは、力強い蹴りを繰り出す。
次の瞬間、繰り出された蹴りを受け止めきれず、ポーンボックス・オリンピアカスタムは麓目掛けて落下していく。
「あぁ! 折角固めた装甲が!!」
程なく、大きな音と共に地面に叩きつけられたポーンボックス・オリンピアカスタムは、その衝撃で追加装甲が剥がれ飛び、素体が露わとなる。
「これでトドメ!」
この絶好の機会を倉矢が見逃す筈もなく。
ラーベアハトはビームライフルの狙いを定めると、躊躇う事無く引き金を引く。
刹那、放たれた光弾は吸い込まれるように露わとなった素体に命中し、見事、ポーンボックス・オリンピアカスタムをブレイクダウンにするのであった。
「ポーンボックス・オリンピアカスタム、ブレイクダウン!! 勝者、八神 倉矢!!」
ミスター・オオムギにより倉矢の勝利が告げられるや否や、観戦エリアから大歓声が沸き起こる。
こうして、自身初参加となる大会の初戦を終えた倉矢は、バトルセウム内からラーベアハトを回収すると、次なる戦いに備えて準備エリアへと足を運ぶのであった。
倉矢達が白熱したバトルを繰り広げている一方、八尋はと言えば。
「ご乗車ありがとうございます。まもなく
車上の人となっていた。
夏愛商店街にもほど近い、市の玄関口である夏愛駅。そこから快速電車に乗って揺られる事数分。
八尋は、今回の目的地、その最寄り駅である秋天橋駅に降り立つ。
日曜日と言う事もあり、多くの利用客で混雑する秋天橋駅。
人込みをかき分け秋天橋駅を後にした八尋は、そこから歩くこと数分。遂に、目的地の秋天橋へと足を踏み入れる。
数多くの店舗ビルが立ち並ぶこの秋天橋。ビルに入居している店舗は、何れもアニメグッズの専門店や、模型やフィギュアなどを取り扱う店舗。更には、メイド喫茶と呼ばれる喫茶店等々。
まさに趣味に生きる者達の憩いの場、秋天橋は、所謂オタク街なのである。
日曜日と言う事もあり、多くの趣味に生きる者達が行き交う秋天橋の道。しかも、少々入り組んでいる為、初めてこの地を訪れた者は迷子になる事必須であろう。
そんな道を、八尋は迷うことなく慣れた様子で歩き進んでいく。
何故、八尋は迷うことなく歩けるのか。その理由は言わずもがな、八尋にとっては最早通い慣れた場所だからである。
オタク街である為、当然ながらTBFに関する専門店等も多い秋天橋。八尋がそんな夢の様な街をスルーする筈もなく、彼が初めて秋天橋を訪れたのは中学一年生の時。
それ以来、暇があれば足繁く通っていた為、既に八尋は秋天橋の事を隅々まで熟知していた。
そんな隅々まで熟知した八尋は、初めて足を踏み入れる者は躊躇するであろう細い路地などを慣れた足取りで進み続け、やがて街の中心地へと到着した。
そこにあるのは秋天橋を代表する巨大建造物の一つ、その名を"秋天橋タワー"である。
地上六十階と言う高さを誇るこの超高層ビルには、マニアックな専門店の数々が入居している他、アイドルのライブ等を行えるイベントホールも完備する等、まさに秋天橋と言う街を体現した建造物と言っても過言ではない。
そんな秋天橋タワーの最上階へと足を運んだ八尋は、そこでとある人物から歓迎を受けていた。
「おー、八尋君、よくきたであんすよ!」
「
笑顔で八尋を迎え入れた匠夢と呼ばれる人物は、瓶底眼鏡にチェック柄のシャツ、更にチェック柄のジーンズという装いをした壮年男性である。
そんな匠夢の部屋は、幾つものタワー型サーバーやモニターの他、壁には可愛らしい女の子のイラストが描かれたポスターが飾られ。その他にも、フィギュアや漫画などが整然と並べられた棚が幾つも置かれている。
「ちょっとまつであんすよ、今お茶を用意するであんす」
部屋の内装、更に特徴的な語尾から気付いているものも多いかもしれないが、匠夢は趣味に生きる人間である。
しかも、匠夢はこの秋天橋でも名の知れた人物なのだ。何故八尋はそんな人物と知り合ったのか、それは八尋が中学一年生の時に夏休みを利用して秋天橋に通っていた時の事。
その頃はまだ自室の研究室が十分ではなく、秋天橋のとあるTBF専門店に設けられた作業スペースで試作品の製作を行っていた。その時偶然通りかかった匠夢が八尋の試作品を目にしたことが切っ掛けとなり、以降交流を深めていった。
因みに、匠夢はアニメなどの女の子が好きである一方、出会いの切っ掛けとなったTBFに対しても造詣が深かったりする。
TBFが販売開始された直後から現在に至るまで傾倒を続けており、その造詣の深さとフルスクラッチによる個人製作を行えるほどの技術の高さは、八尋も感服する程であった。
「お待たせしたであんす。さ、八尋君。お茶をどうぞ」
「ありがとうございます、匠夢さん」
空いている椅子に腰を下ろし、匠夢が用意したお茶をいただく八尋。
そして、ほっと一息つき終えた所で、今回匠夢のもとを訪ねた用件を切り出し始める。
「匠夢さん。今日は、この間言ってたものを手に入れたんで、それをお渡しする為に来ました」
「ぬぉぉぉっ! そ、それは誠であんすかぁ!」
「はい」
八尋の用件を聞いた匠夢は、途端に興奮した様子で目を輝かせ始める。
そして、八尋がコンテナバッグから何かを取り出そうとしている様子を眺めながら、ますます興奮の度合を高めていく。
「こちらです。どうぞ、お納めください」
「ぬ、ぬぉぉぉっ!!! こ、これぞまさに。限定販売七分の一スケール、『ドラッヘハンター、デラックスフル可動アクションフィギュア、マースの振袖バージョン』!!」
八尋がコンテナバッグから取り出したのは、一体のフィギュアが入っている箱。その箱を匠夢が受け取った刹那、匠夢の興奮は最高潮に達した。
箱に入っているフィギュアは、ドラッヘハンターという深夜アニメに登場する女性キャラクターの一人、マースをモデルにしたもの。しかも同フィギュアは、匠夢が口にした通り数量限定の希少性が高い逸品であった。
「ナイスであんす! 八尋君、最高であんすよぉ!!」
そんな希少品の高いフィギュアを手に入れた匠夢は、嬉しさを爆発させ、その勢いは今にも箱にキスをしそうな程。
それから暫くして、興奮と感動を一頻り堪能し終え落ち着きを取り戻した頃居合を見て、八尋が再び話を始める。
「それで匠夢さん。頼んでいた事なんですけど……」
「おぉ、そうであんす!」
今回八尋が限定フィギュアを匠夢に手渡したのは、日頃お世話になっている感謝の印、という訳ではない。
これは、とある頼みごとに対しての報酬なのである。
「XX-G78という型番のコア・シャーシについて、製造しているメーカー、又は製造できる能力のあるメーカーを中心に調べてみたであんすが。残念ながら、手掛かりとなりそうな情報は何も見つからなかったであんす」
「そうですか……」
その頼みごととは、XX-G78と呼ばれる謎のコア・シャーシの素性に関する調査であった。
本人の技能もさることながら、秋天橋でも名の知れた人物故に情報収集に長けた人々との人脈を持つ匠夢。彼ならば何か決定的な、或いは手掛かりとなる情報を見つけてくれるものと思い、今回調査を依頼したのだが。残念ながら、期待していた情報は得られなかった様だ。
「では、怪盗ミラージュについては?」
「そっちも調べてみたであんすが。これと言った情報はなにも……」
現状、XX-G78の素性を知る唯一の手掛かり、怪盗ミラージュなる謎の人物についても、結果は同じであった。
「でも、落胆するのはまだ早いであんす! 今後も継続して調べてみるであんす。もし、何か有益そうな情報を見つけたら、直ぐに八尋君に知らせるであんすよ!」
「ありがとうございます、匠夢さん!」
しかし、調査はまだ継続するらしく、吉報が届く事を期待する八尋であった。
「それでは匠夢さん、そろそろお暇しますね」
「ん? もう帰るであんすか?」
「はい。……実は、この後お店を見て回ろうと思いまして」
「おぉ、そうであんしたか! なら、最近裏通りに珍しいTBFのパーツを──」
こうして用件を終えた八尋だったが、その後暫く、匠夢とのTBF談義に花を咲かせる。
そして、話しに一区切りがついた所で、八尋は匠夢に見送られながら彼の部屋を後にするのであった。
ここまで読んでいただきましてありがとうございます!
やっぱり灼熱バーニングな燃えも大切ですが、草冠の萌えも大切ですよね。