乙女ゲー世界はヒロインと悪役令嬢が相容れない世界です   作:氷破 熾央漓(ひば しおり)

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【1】差し伸べられなかった手

 

「こんなつもりじゃなかったんだけどな……」

 

 

 呟いたのは黒髪の少年【リオン・フォウ・バルトファルト】。細身ながらも鍛え込まれた体躯を除けば背の高さも顔立ちも同年代の中ではごく普通の15歳の少年。

 だが彼はその見た目に反し特殊な事情を抱えていた。それは前世の記憶を持ってるという事。

 そしてその前世の記憶によれば、この世界は前世でクリアした乙女ゲーム。

 

 だが彼はその知識でゲームメインキャラと関わろうなどとは微塵も思っていなかった。むしろ避けたかった。

 にも関わらず彼は主人公たちが籍を置く王都の学園に居た。

 関わりたくないと願う一方で無事ゲーム通り進むのか見届けたいと思ったのだった。彼自身の平穏な日常の為に。

 

 平穏を望む彼にとって主人公たちメインキャラ達のドラマチックな人生に関わるつもりは無かった。

 だが彼は関わってしまった。

 亜麻色の髪はミドルのボブカット、綺麗な青い瞳に優しそうな顔立ちの美人ではあるがやや地味な印象の少女。

 主要キャラ中の主要キャラ、主人公の【オリヴィア】に。

 

 

「……ったく何やってんだよ王子様たちはよ」

 

 

 貴族の子弟が通うこの全寮制の学園に、ただ一人平民でありながら招かれた特待生のオリヴィア。

 そんな彼女が貴族の女生徒達にイジメられてる所を見るに見かねて助けてしまい、気付けば友人関係に。

 ゲーム本来のシナリオであれば彼女は王子たち五人の攻略キャラの誰かと愛を育んでいたはずだった。

 ゲームクライマックスでこの国を襲ってくるラスボスを討つため、確かな絆で結ばれた恋人との間に育まれた愛が必要不可欠なのだ。

 本来なら攻略キャラ達の誰かがヒロインのピンチを救ってた筈なのに、と。

 置かれた状況を嘆く様に顔の上半分を覆うように手を置く。

 

 

「俺が主人公様と親睦深めてどうすんだよ……」

 

 

 

 

 

 

 時は流れつい先日入学したばかりと思ってたのに、気付けばその一学期も残すところ数日。

 相変わらずリオンとオリヴィアとの交流は続いている。

 リオン自身に主人公と交流を深めるつもりは依然無いつもりだが放っておけないのも事実。

 貴族の子弟たちだらけの中、孤立する彼女を放っておけずついつい構ってしまった結果。

 

 

「マジで何やってんだよ王子様達はよ。主人公そっちのけであんな女にかまけて。いや王子達も問題だが、あの女こうも見事に王子達を篭絡するとか……」

 

 

 リオンの言うあんな女。それは【マリエ】と言う子爵令嬢。金髪碧眼の小柄な美少女。

 王子達を篭絡させた手腕はある意味見事と言えるもので、だがラスボスは主人公でなければ倒せないのを知ってるリオンからすれば度し難い行為。

 どうにかマリエを王子達から引き離し、そして王子達には主人公であるオリヴィアと親睦を深めてもらわねばならない。

 そう思う一方でこの状況をうまく利用できないかとも。

 

 王子たち攻略キャラ達には皆婚約者たちが居る。主人公が王子達と親睦を深めるためには、その婚約者達と対立は避けられない。

 だがリオンから見たオリヴィアはとてもそんな事が務まる女子とは思えなかった。

 穏やかで優しい性格の彼女が婚約者の居る男性と親密になりたいなどと、延いては婚約者達と対立するなど想像しづらかった。

 

 だがマリエが王子たち攻略キャラとその婚約者の仲を破壊してくれればむしろ好都合なのでは、と。

 だからマリエの主人公気取りの愚行にもしばらく目を瞑る。

 やがて行き着くとこまで行き着いた愚行に、一人の令嬢が堪忍袋の限界を超えた。

 

 

「拾え。売婦。殿下達を誑かした魔女め」

 

 

 怒りの声と共にマリエに白い手袋を叩きつけ決闘を申し込んだのは、輝くような金髪をアップにしてまとめた力強い赤い瞳の美少女【アンジェリカ・ラファ・レッドグレイブ】。攻略キャラの筆頭である王太子ユリウス殿下の婚約者である公爵令嬢。ゲームに置ける役割は悪役令嬢。

 そして告げる。自分が勝てば王子に金輪際近づくなと。

 

 そんなアンジェリカに対し、ユリウスはマリエを庇い、自分が代理人として決闘に応じると。

 彼だけではない、同じようにマリエに篭絡された他の攻略キャラ全員が決闘代理人になり、結果攻略キャラ全員を相手に決闘する羽目に。

 

 婚約者であるはずのユリウス王太子からは拒絶を通り越して強い敵意を向けられ、自分の取り巻きにも見放されたアンジェリカ。

 リオンの目にその姿はあまりにも哀れに見えた。

 だから、放っておけず思わず一歩踏み出そうとしたリオンの袖を掴む指が。

 

 

「あ、あの……リオンさん、どうするつもりですか?」

 

 

 オリヴィアだった。リオンはそんなオリヴィアに向けて諭すように微笑みその指を優しく解こうとするが――

 

 

「危ないことしないでください!」

 

「オ、オリヴィアさん?」

 

 

 オリヴィアが抱き付きしがみつき声を上げたのだった。

 リオンが困惑気味に声を上げオリヴィアの顔を見る。その顔は目尻に涙を滲ませ顔一杯に心配の思いを浮かべた表情で自分を見詰めていた。

 

 

「リオンさんに若しもの事があったら、私……私……」

 

「わ、分かったから……。危ないことしないから……」

 

 

 今にも泣きだしそうなオリヴィア。そんな彼女を振りほどいてまでリオンはアンジェリカの元へ向かうことは出来なかった。

 そしてアンジェリカ達の方も王子達との決闘の合意が済んでしまったようだった。

 

 

「行きましょうリオンさん。何時までもこんな場所に……」

 

「あ、ああ……そうだな」

 

 

 リオンはアンジェリカを見捨て見殺しにする様な後ろめたさに後ろ髪引かれる。

 だが、心配するオリヴィアの気持ちを無碍にすることが出来ず、彼女に促されその場を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

「アンジェリカさんの様子どうなってる?」

 

『外部の者に決闘代理人を頼んだようです』

 

「やっぱそうなっちまったか」

 

 

 ここは学園の寮。その中の一室、リオンの部屋。

 リオンが会話を交わしてるのは宙に浮く金属の球体。灰色の球体ボディに一つ目のような赤いレンズを備えた人工知能端末。

 リオンは入学前に未発見のダンジョン踏破と言う偉業を成し遂げていた。そこで手に入れたロストアイテムこそ人工知能を備えた宇宙戦艦【ルクシオン】。

 宙を浮く球体はそのインターフェイスユニット。

 前述した前世の記憶あればこそ手に入れられたチート級と言っても過言ではないほどの力を秘めたロストアイテムだった。

 普段はステルス機能を使い姿を隠しリオンに付き従ってる。だがここは彼の部屋なので姿を隠す必要もなくステルスを解いて姿を現していた。

 

 

「学園の生徒で代理人になってくれる奴が居なくて外部の代理人を雇う。相手がヒロイン主人公じゃないのを除けばゲームの決闘イベント通りとも言えるな」

 

『それなのですが。実はあの後、アンジェリカの代理人になるべく名乗りを上げた学園の生徒たちが居たのですが彼女が断りました』

 

「え? なんで……あっ。巻き込まない為、か?」

 

『おそらく』

 

 

 相手は王太子である。盾突いて決闘しても勝てる見込みは薄く、仮に勝ってもその後只で済む訳が無いのは明白。

 

 

「他人の心配してられる場合じゃないだろ……」

 

『どうされるのですか? 今からでもマスターも決闘代理人として助けに名乗り出ますか?』

 

「いや、アンジェリカさんの覚悟が決まってるのなら今更学園の生徒である俺が名乗り出ても受け入れてくれないだろ」

 

 

 リオンは俯きため息を吐く。

 

 

「ルクシオン、アンジェリカさんが雇ったって言う代理人達ってどれくらいやれそうだ?」

 

『勝ち目は極めて薄いと言わざるを得ないでしょう』

 

「だよなぁ……」

 

 

 リオンはアンジェリカの事が気になって仕方なかった。なぜこんなにも気になるのかと疑問を抱きつつも。

 だがそれでも足を踏み出せないのは、オリヴィアにアンジェリカを助けようとしたのを妨げられたから。

 彼女はゲームの、この世界の主人公。本来なら彼女がアンジェリカと対立するはずだった。

 だが実際には全く別の女――マリエがその役割を行使してしまった。そしてそれを黙認しようとしてる様にリオンには見えた。

 役割を担う人間が変わったとしても、大局的に見ればゲーム進行通りと言う事なのだろうか。

 そう思いつつもリオンは一つの思いに至る。

 

 

「ルクシオン、これから俺が言う通りの事出来るか?」

 

『マスターが御望みとあらば』

 

 

 

 

 

 

 

 後日、宣言通りアンジェリカとマリエとの、互いに代理人を立てた決闘が行われる。

 決闘の形式は【鎧】と呼ばれる搭乗式の人型兵器を用いたもの。

 マリエ側、アンジェリカ側、双方ともに決闘代理人達は自前の鎧を用いて決闘に臨むのであった。

 その決闘の場には勿論、観客席にもリオンの姿は無い。

 

 

「凄い盛り上がりみたいだね。離れたここにまで喧騒が聞こえてきてるくらいだし」

 

「そうですね。でも気にするの止めましょう。決闘なんて危険な事、私たちは関わらないって決めたんですから」

 

 

 リオンとオリヴィア、二人が居るのは学園の図書室。

 そこでオリヴィアは自習に励み、リオンは適当な本を手に取り開いていた。

 特待生として招かれたオリヴィアは、優秀な成績を収めながらも更に上を目指し時間を見つけては勉学に励み、図書室の常連でもあった。

 リオンは成績は可もなく不可も無く、また特別必要以上の勉学に励むつもりもなかったので、オリヴィアに誘われたものの暇を潰す様に適当に選んだ本を手に取りページをめくる。

 

 オリヴィアがリオンを図書室に誘ったのは心変わりをして決闘に首を突っ込まぬよう見張るという意図があってだろう。

 リオンもオリヴィアの言葉をゲームの意思であるかのように解し従った。だが従いつつも決闘の進行には注視してた。

 リオンは本を読むふりをしながら、ルクシオンに命じステルス機能で姿を消したドローンなどを通じ決闘の実況を聞きながら進行を見守っていた。

 

 

(今のところはアンジェリカさんの代理人も善戦しかろうじて互角保ってくれてるな。ルクシオンにこっそりチューニングさせたのが効いたみたいだな)

 

 

 多くの生徒達のマリエ側の王子達の圧勝の予想を覆す展開。

 ゲームの進行を思えばアンジェリカには負けてもらうべきなのだろうが、それでも無残な惨敗は哀れと思えた。

 それで気付かれぬようアンジェリカ側の鎧にルクシオンに命じ密かにチューニングを施させていたのであった。

 

 

 そうして二人は決闘の喧騒を遠くに聞きながら、オリヴィアは決闘を意識の外に追い払うように自習に没頭し、リオンは我関せずと本を読む振りしながらルクシオンを通じての実況に意識を傾ける。

 そんな二人の耳に大きな爆発音の様な音が届く。

 その音にリオンは読みかけの本を閉じ椅子から立ち上がる。リオンが決闘場に向かおうとしてると察したオリヴィアはその腕を掴みは止めようとするが一歩遅かった。

 

 

「今の凄い音! 何があったか気になるから見てくる! オリヴィアさんはここで待ってて!」

 

「待ってください私も行きます!」




原作本編でもオリヴィアは決闘を止めようとしましたが、それ程強く主張しなかったためにリオンは彼女の手を振り払いアンジェリカの代理人として名乗りを上げました
本作ではより強い意志で決闘への参加を妨げ、結果それが分岐点となりました

第二話は本日夜投稿します
三話以降は一日一話づつ投稿します
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