乙女ゲー世界はヒロインと悪役令嬢が相容れない世界です   作:氷破 熾央漓(ひば しおり)

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【10】運命 或いは 呪縛

 オリヴィアと攻略キャラを引き合わせ世界を本来の流れに戻す。リオンはその目標はほぼ叶ったと思っていた。

 オリヴィアと五人の交流が始まったばかりの頃は、未だオリヴィアが一人の時も多かった。

 リオンはそんな彼女を心配しつつも寄り添ったりはせず、だが目を離さず見守っていた。

 

 だが今はもう見守る必要ない。

 空賊討伐を成し遂げて以来オリヴィアと攻略キャラ達五人の新密度は目に見えて上がって見えた。彼女が一人で居るのを見る事は殆ど無くなり常に五人のうちの誰かが側にいた。

 その様子にリオンは自分の役割の終了を感じていた。そしてもうオリヴィアが自分を求めることも無いだろうと。

 

 リオンは明確な絶縁を口にした訳ではない。

 だが顔を合わす機会も口を利く機会も殆ど無くなった今、オリヴィアとの縁はもう消滅したと思い込んでいた。

 嘗て彼女が自身に好意を寄せていたことは肌で感じていた。気付きながらもその好意を躱し続けていた。

 

 しかしもうそんな気を遣う必要も無いと思っていた。

 オリヴィアの中にあった自分への好意などあの五人の存在によってとっくに上書きされてるだろうと。

 後はモブらしく表舞台から身を引くだけだと。

 だが――

 

 

 

「リオンさん!」

 

 

 自分を呼び止める声にリオンは歩みを止める。

 確認しなくても分かる。

 最近は関わることも無くなったが嘗ては毎日のように言葉を交わし耳に馴染んだ声。

 

 リオンは彼女と五人の仲に水を差すまいと声を掛けるのは勿論、掛けられるのすら避け続けてきていた。

 そしてここ暫く彼女と接する機会が減ってたので気が緩んでいたのだろうか。

 自身の迂闊さに歯噛みしつつも平静を装い口を開く。

 

 

「やあ、オリヴィアさん。申し訳ないんだけど今から用事があるんだ。そういう訳だから話があるのならまた今度――」

 

「待ちます。用事が終わるまで待ちます」

 

「え?」

 

 

 言い終わる前に遮る様に言葉を被せてきたオリヴィアにリオンは面喰う。

 

 

「い、いや時間かかるから。どれくらい待たせるか分からないからまた今度――」

 

「構いません。何時間でも待ちます」

 

 

 一歩も引く様子がないオリヴィアにリオンは思わずたじろぐ。

 いつものオリヴィアならこうして拒絶の言葉を並べられば戸惑ってオロオロしてたのに。

 こんな風に強情な彼女の姿をリオンは今まで目にしたことは無かったので。

 リオンが答えに窮する様に黙り込んでいるとオリヴィアが口を開く。

 

 

「噓、ですよね。用事があるなんて」

 

 

 オリヴィアの言葉にリオンは気まずそうに視線を逸らす。

 

 

「どうしてですか!? 何で私のこと避けるんですか!?」

 

「そんなの……決まってるだろ。あの五人と揉めたくないからで……」

 

「どういう……意味ですか?」

 

「オリヴィアさん最近あの五人と仲良いじゃん? 先日もアイツとデートしてたらしいじゃん?」

 

「えっ!? あ、あれは別にデートとかそう言うんじゃなくてブラッドさんと魔法の書物の買い物に……」

 

「ふーん、ブラッドか。アイツ、としかとしか言ってないのに?」

 

 

 リオンの言葉にオリヴィアは思わず口に手を当てる。鎌をかけられたのだと気付いて。

 

 

「とっさに名前が出て来たって事はブラッドと一番仲が良いみたいだね。それにしても他にも頼りになりそうなのが居るのに、よりによってナルシストでひ弱な軟弱野郎のブラッドとは――」

 

 

 リオンが鼻で笑いながら小馬鹿にしたように呟くとオリヴィアは思わず反論の声を上げる。

 

 

「なっ!? ブラッドさんは頼りなくなんかありません! 魔法にも精通してていつも私の魔法の勉強練習にも付き合って下さって! いざという時魔法以外でも戦える様にって剣術だって一生懸命特訓されてるんです! それに紳士的で優しくって!」

 

「へぇー、ブラッドの事よく見てるんだね。そんなに熱っぽく語るなんてまるで恋人みたいだね。いや、みたいじゃなくて恋人なのかな?」

 

 

 リオンの言った【恋人】という言葉にオリヴィアは顔色を変える。まるで何か失敗でもしてしまったかのように。或いは聞かれてはいけないことを喋ってしまったかの様に。

 

 

「ま、待ってください! 確かにブラッドさんはステキな方で大切な友達ですが、恋人とかそう言うんじゃないんです!」

 

「別に照れなくたっていいよ。美男美女でお似合いじゃないか。さっきはアイツのこと馬鹿にする様なこと言って悪かったね」

 

「ほ、本当に違うんです! だってブラッドさんにはマリエさんって言う恋人がいらっしゃって」

 

「マリエ? アイツ今学園に居ないじゃん? 姿見なくなって大分経つよ?」

 

「そ、それはきっと事情があって……」

 

「今居ない奴に対して遠慮なんかする必要無いよ。そもそもブラッドだって婚約者がいるのにマリエと付き合ってたんだ。それがマリエからオリヴィアさんに変わったって今更何もおかしくないさ。マリエより魅力的だったからブラッドはオリヴィアさんと新たに付き合った。何もおかしくなんか無いよ」

 

「だから違うんです! 幾ら私とブラッドさんが仲良しだからって、私とブラッドさんがお付き合いとか有り得ないんです! 先程も申しました様にブラッドさんにはマリエさんと言う好きな人が居て、私にも別に好きな人が居るんですから!」

 

 

 オリヴィアの言葉に今迄飄々としてたリオンの顔が強張る。まるで何か嫌な予感でも感じ取ったかのように。

 ここで言葉選びをしくじれば全てご破算になるかの様な焦燥感に駆られるが、そのせいで逆に言葉が出て来ない。

 そうして戸惑っている間にオリヴィアが言葉を発する

 

 

「私が好きな人はリオンさん! あなたです!」

 

「わ、笑えない冗談はよしてくれ。ブラッドや殿下達といったあんな素敵な男子たちに囲まれてるのに、ソイツ等じゃなくて俺が好き? そんな――」

 

「冗談なんかじゃありません! 本気です! 確かにブラッドさんや殿下達は私のこと気に掛けて下さる優しい人たちで、大切な友人です。でも! リオンさんとは違うんです! 私にとっての特別はリオンさんだけなんです! 私はリオンさんと一緒に居たいんです! 私はリオンさんが大好きです! それが全てです! 私は貴方が好きです!」

 

 

 オリヴィアは胸に仕舞っていた想いを吐き出した。それは秘め続けていた恋心。リオンへの恋慕の想い。

 そしてそれを耳にしたリオンは戸惑っていた。

 リオンはオリヴィアが攻略キャラ達と絆を育み結んでくれるのを願い手を尽くしてきた。そしてそれが実ったと思っていた。

 それなのにオリヴィアは、自身の心の内の恋慕の情が向かう先はこともあろうに自分だと言った。

 

 そして更にリオンを戸惑わせているのは自身の心の内の状態。

 オリヴィアの告白を受け自身の胸の鼓動が高まり頬が上気していくのを感じる。

 目の前にいるオリヴィアに対する愛しい気持ちが込み上げてくる。

 これではまるで自分がオリヴィアに惹かれ恋してるかの――

 

 

(違う! オリヴィアさんが俺に惚れるのも、俺がオリヴィアさんに惹かれるのもあっちゃいけねぇんだ! そんな事になれば今まで築きあげてきたことが……)

 

 

 リオンは困惑し戸惑う心に狼狽える様に後退る。

 心の中を二つの気持ちがせめぎ合う。このまま沸き上がる愛情に身を委ねオリヴィアを抱きしめてしまいたい気持ちと、この場を走り去ってしまいたい気持ち。

 相反する二つの気持ちに硬直するリオン。

 そんな彼の耳に激昂した声が届く。

 

 

「聞き捨てならん言葉が聞こえたぞ!? 特待生! 貴様、今何と申した!? リオンが好きだと!? ふざけるな! リオンは私の騎士だ! それに手を出そうなどと身の程を弁えろ!」

 

 

 声を上げたのはアンジェリカ。リオンとオリヴィアが言い合う姿、そしてその口から発せられた言葉に黙っていられず駆けつけ、昂る気持ちのまま叫んでしまった。それは彼女にとって見過ごせない聞き逃せない事だったから。

 

 更に言えばその言葉を言い放った相手が他の者だったらここまで激昂しなかったかもしれない。

 だが言葉の主はオリヴィア。今学園においてはマリエが去った後の殿下達を篭絡しその後釜に座ったと目されてる女。

 しかもリオンと面識があり交流もあった女。それこそアンジェリカがリオンと知り合うより前から。

 

 そんな女がリオンに向かって愛の告白をしたのを目撃してしまったのだ。アンジェリカが平静でいられるわけがない。

 アンジェリカは改めてその言葉を発した者――オリヴィアを睨み付ける。

 

 

「特待生! 貴様、聞けばマリエの真似事をしているらしいな。別に今更殿下のなさることを咎めるつもりなどない。あのお方に私の声など届きはしないのは嫌というほど思い知らされたからな。それに婚約破棄された今お諫めする義理も無い。だがリオンにまで手を出そうというのなら話は別だ! いつぞやの挨拶のときは慣例に従うだけマリエより幾分かマシだと思ったが、どうやらとんだ見込み違いだったようだな! 私の騎士にまで手を出して私が黙っているとでも思ったか!? 見くびるなよ小娘!」

 

 

 アンジェリカは生来の激情家で気性が激しくしかも公爵家の令嬢。それが本気の怒りを露にしたのだ。オリヴィアは気圧され畏縮してしまう。

 だがオリヴィアとて言われっぱなしで引き下がるつもりはなかった。

 

 

「……【まで】じゃありません」

 

「何だと?」

 

「さっき、リオンさんにまで、って仰られましたが違います。ブラッドさんや殿下達も大切な友達ではあってもそう言うのじゃありません。私にとってリオンさんは、リオンさん【だけ】なんです! 以前も、今も、ずっと!」

 

「貴様……言いたいことはそれだけか?」

 

 

 己を奮い立たせ思いの丈をぶつけたオリヴィアだったが、その程度でアンジェリカも引いたりしない。

 

 

「殿下達とは何もないだと!? その様な戯言信じろなどとはつくづく私を見くびってくれたものだな! それに私も言ったはずだぞ貴様と殿下たちのことなど知ったことではないと! そして引け! リオンは私の騎士だ! ただ一人私の元を離れず、私の元に残り私に寄り添ってくれた掛け替えのない友人だ! 貴様は! 多くを失った私からリオン迄も奪うというのか!? させてなるものか! 私の騎士に、私のリオンに金輪際近づくな!」

 

「……嫌、です」

 

「何だと?」

 

「嫌ですと言ったんです。私はリオンさんを諦めません。それよりさっきから聞いてれば、リオンさんの事をまるで御自身の所有物みたいなもの言い。リオンさんはモノじゃありません! そんな言い方する人に従うつもりはありません!」

 

「貴様!」

 

 

 アンジェリカは堪忍袋の限界だとばかりに右手を振り上げると、オリヴィアも流石にその圧と恐怖に耐えかねたかのように目を瞑る。次の瞬間に来るであろう平手打ちの痛みに堪えようとするかのように身を強張らせる。

 だが予測し恐れていた平手打ちと痛みは来なかった。

 それは二人の間にリオンが割って入って来たからだった。

 

 

「アンジェリカ様!」

 

「リオン! 何故その女を庇う!?」




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