乙女ゲー世界はヒロインと悪役令嬢が相容れない世界です   作:氷破 熾央漓(ひば しおり)

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【11】誰が為の騎士

「アンジェリカ様!」

 

「リオン!? 何故その女を庇う!?」

 

 

 怒りのままにオリヴィアに平手打ちを見舞おうとしたアンジェリカ。そんな二人の間にリオンが分け入った。それは見ようによってはオリヴィアを助け庇う様にも見えただろうか。

 オリヴィアはリオンのその姿に安堵と喜びの表情を見せ「リオンさん……」と感嘆の声を漏らす。

 リオンの頼もしい背中を見詰めるその時のオリヴィアの心中はさながら物語の中のヒロインと言った心情だったのかも知れない。

 

 逆にアンジェリカの顔は怒りから悲しみへと変わり目には涙迄滲み出す。

 目の前に立つリオンはオリヴィアを護り庇っているかのよう。

 そんなリオンを目の前にしたアンジェリカはまるで自分が物語の悪役にでもなってしまったかの様な惨めな気持ちになる。

 そしてそれはユリウスに捨てられた心の傷をも再び開かせるかの様。

 

 

「リオン! 君までも私の元を去ろうというのか!?」

 

「違います! 俺はアンジェリカ様の……アンジェの騎士です! 貴女の為に全てを捧げると誓った貴女だけの騎士です!」

 

 

 そしてリオンは振り上げたアンジェリカの右手を掴むとその掌を自分の胸に押し当てた。

 アンジェリカは掌に伝わる鼓動を受け徐々に昂った感情が鎮まっていくのを感じる。

 アンジェリカのその顔からは怒りも悲しみも消え失せ、涙こそ流したままだがそこには安堵の表情が浮かんでいた。

 

 その様子に今度は逆にオリヴィアがその心と表情を安堵から一転、悲しみと困惑のまま声を上げる。

 

 

「何……ですか、それ。リオンさんさっき私を庇ってくれたじゃないですか! それなのにどうして私じゃなくてその人の肩を持つんですか!? それにさっき言った【アンジェ】ってその人の愛称ですよね? どうしてですか!? 前に私のことを愛称で、【リビア】って呼んでくださいって言った時は呼んでくれなかったのに!? どうして!?」

 

 

 悲しみと困惑のままに納得できないとばかりに叫びを上げたオリヴィア。

 それは自分を庇ってくれたと思ったリオンが肩を持った相手が、自分ではなくアンジェリカだったから。

 

 

「オリヴィアさん、何か勘違いしてないか? 君を庇ったのは君の為じゃない。若し俺が止めずアンジェが君を叩いてたらあの五人が黙っちゃいないだろう。アンジェの事を激しく責め立てるにとどまらず酷い報復を仕掛けてきただろう。アンジェをそんな目に遭わせるわけにはいかない。俺はアンジェの騎士だ。だからアンジェの事を全力で護る。そのためにしただけの事だ。君の為じゃないアンジェの為だ。それと愛称の事だが俺にとって愛称は特別な相手にだけ向けるものだ」

 

 

 オリヴィアがリオンに愛称で呼ぶのを求めた様に、アンジェリカもまたリオンに愛称で呼んで欲しいと求めていた。だが公爵家令嬢と男爵と言うあまりの身分の開きに恐縮するリオンに無理強いは出来なかった。

 それでも何時の日か呼んで欲しいとアンジェリカの頼みに、リオンも何れ応えたいと思っていた。

 そして今、これまでにない程不安と怯えで取り乱したアンジェリカの為に呼ぶべきは今と決心し呼んだのだった。

 

 

「その特別な相手はアンジェだけだ。オリヴィアさん、アンタじゃない。アンジェだけが俺が愛称で呼ぶと決めた相手だ」

 

 

 

 それは今までにない程の強烈な拒絶の言葉。気丈に抗ってきたオリヴィアも流石にこたえたのか膝から崩れ落ちへたり込んみその眼から涙を溢れさせる。

 その姿にリオンも流石に胸が痛んだのか顔を歪ませ、その表情をアンジェリカに見せたくないと思ってか彼女の頭を自身の胸に押し付けるように抱きしめる。

 自分のようなモブはオリヴィアの隣は相応しくない。彼女に相応しいのは攻略キャラ達だと何度も己に言い聞かせてきたリオンであったが、それでも胸が痛むのに耐えかねる様にオリヴィアから顔を背ける。

 

 正直今のオリヴィアの事を可哀想だと思わないわけではない。気を抜けばそのまま一緒にしゃがみこんで肩を抱き慰めてしまいそうだった。いっそそうしてしまえればどんなに楽だろうとすら思う。

 そしてこの場に留まり続ければそうしてしまいそうで。だけどそんな事してしまえばそれこそ全てが台無しになる。

 半端な同情心など捨てろと自分に言い聞かせ、そしてアンジェリカの肩を抱きその場を立ち去ろうとする。

 

 

 

 

「オリヴィア!? 泣いてるのか!? 一体どうしたんだ!?」

 

 

 立ち去ろうとしたリオンの耳に飛び込んできた声。声のした方に視線を向ければそこに居たのはブラッドだった。

 ブラッドは直ぐさまオリヴィアの元に駆け寄り膝を着き、涙を拭うべくハンカチを目元に当てる。

 その様子にリオンは小声で、姿を消しながらも直ぐ傍に寄り添っているルクシオンに小さな声で「お前が呼んだのか?」と尋ねると『いいえ私ではありません』と。

 

 ルクシオンの返事にリオンは安堵の表情を見せる。

 今まではオリヴィアが苦しんでたり困難な状況に直面してれば、その都度ルクシオンに命じそれとなく攻略キャラ達五人に意識を促す様にしてた。

 だが最早そんな手助けが必要ないくらいオリヴィアと五人の絆は深まってるのだと実感する。

 ならば自分はこの場所にはもう用は無いと、自分の出る幕ではないとアンジェリカと共に立ち去ろうとする。

 だが――

 

 

「待てバルトファルト! オリヴィアが泣いてるのが見えないのか!? 泣いてる彼女を放ってどこに行こうというんだ!」

 

「なんで?」

 

「なんで、って彼女は君にとっても大事な友達だろう!? そんな彼女が泣いてるのにそのまま放っておくというのか!?」

 

「俺なんか必要無いだろ。オリヴィアさんの騎士様のアンタが来てくれたんだ。その間に割って入るほど野暮じゃないよ俺は」

 

 

 リオンの言葉にブラッドは絶句する。その隙を突く様にリオンは「そういう事だから、じゃあ」と立ち去ろうとすると、ブラッドに腕を掴まれる。

 

 

「待てと言ってるだろうが! それよりさっきの言葉どういう意味だ!? 彼女の騎士と言うのならそれは君だろう!?」

 

「俺がオリヴィアさんの騎士? 何を言ってるんだい? 俺とオリヴィアさんはただの友達――いやもう友達ですらないただの顔見知りかもな」

 

「なっ!? 本気で言ってるのか!?」

 

 

 ブラッドはオリヴィアがリオンを慕ってることを彼女から直接聞いていた。だがそれを抜きにしても彼女がリオンについて語る時の熱を帯びた視線や弾む声色から、たとえ聞いていなかったとしても十分察することが出来た。

 自分ですら察することが出来たその気持ちを当のリオンが気付いてないわけがないと。

 

 

「答えろバルトファルト! 君を慕うオリヴィアの気持ちに気づいてないとでも言うつもりか!? 彼女がどんなに一途に君を思っているのかを!」

 

「オリヴィアさんが俺に好意を持ってたとして、それに応えなきゃいけない義務があるのかい? それに、俺は騎士として命と剣を捧げる相手は決まっているんだ」

 

 

 リオンが言いながら傍らに視線を送る。その視線の動きにブラッドはその場に居たもう一人の女性に気づく。

 

 

「レッドグレイブ公爵令嬢……? バルトファルト、まさか彼女が君が騎士として誓いを立てた相手だとでもいうのか? 正気か!? オリヴィアを差し置いて迄選ぶのがそんな女だというのか!?」

 

「そっちこそ口を慎めよ? 公爵令嬢たる彼女に向かって無礼な物言いするんじゃねぇよ」

 

「いいや言わせてもらうね! その女は僕や殿下達からマリエを引き離そうとした女だ! 傲慢な貴族の物差しでしか物事を計れず人の幸せを平気で邪魔できる性根の曲がった女だ! 対してオリヴィアは、人の幸せを願う事が出来、思いやりがあって心優しい素晴らしい女性で僕にとっても大事な友人だ! そんなオリヴィアよりその女を選ぶなんて――それにオリヴィアが今泣いてるのだってその女のせいなんじゃないのか!? そんなの黙って見過ごせるか!」

 

 

 リオンはブラッドにアンジェリカを悪し様に罵られたことに憤りを感じつつも、オリヴィアと攻略キャラとの恋愛成就と言う大願の為に怒りを飲み込む。

 

 

「そっちこそ笑わせんじぇねぇよ。それだけオリヴィアさんの事を大事に思っていながら友人同士だと? どう見たってお似合いの恋人同士にしか見えないぜ?」

 

「だ、だから僕と彼女は違うと言ってるだろう! 僕と彼女の間にあるのは純粋な友情だ! そうさオリヴィアは僕の大切な友達だ! 泣いてる友達の為に何とかしてあげたいと思うのは当然だろ!?」

 

 

 リオンに噛みつく様に食って掛かったブラッドの呼吸は荒くなっていた。頬も心なしか赤く見え、それは怒りともまた違ったようにも見える。

 本人は自覚が無いのか、それとも自覚しながらも目を背けているのか。

 こんなにも熱くなってるのにあくまでも友達と言い張ろうとするその姿は、リオンにはどう見てもオリヴィアに惚れ込んでいるようにしか思えず滑稽にすら見えた。

 そんなブラッドの姿にリオンは手応えも感じつつも呆れの気持ちも。

 ゲーム進行的に主人公と攻略キャラの間に絆が結実しつつある望ましい展開の筈なのに当の本人たちには自覚が薄いこの状況。

 一体どうしたものかと思っているとまた別の声が。

 

 

「一体何の騒ぎだ!」

 

 

 また新たにこの場に駆け付け声を発したのはブラッドの友人であり、彼同様オリヴィアが新たに友人関係を築いた攻略キャラの一人で、この国の王太子でもあるユリウスだった。




収束するどころか更に泥沼化する修羅場
折角の連休最終日ですから何時もの夜投稿の前にも投稿しました
夜にまたお会いしましょう
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