乙女ゲー世界はヒロインと悪役令嬢が相容れない世界です 作:氷破 熾央漓(ひば しおり)
「どうした! その程度か辺境伯令息!」
リオンの操る鎧――通常機より一回り以上大柄な灰色のカラーリングのアロガンツが鋼の戦槌を振るう。ブラッドの乗る紫色の鎧は防御し受け止めるもそのパワーに圧倒され吹き飛ばされ倒れ伏してしまう。
紆余曲折を経て決まってしまったリオンとアンジェリカの組と、オリヴィアとブラッドの組との決闘。
だがそれは決闘と呼ぶにはあまりにも一方的で凄惨なものだった。
一学期末同様に多くの生徒達の環視の中、闘技場で行われることになった決闘。
当初多くの生徒達はブラッド有利との見解が多かった。
ブラッドは学期末の決闘でこそ精彩に欠く戦い振りだったが、その後空賊討伐で功を成し名を上げたのが大きかったのだろう。
更に彼の乗る鎧は現在の主流の細身でスマートな体型の最新鋭機。
対するリオンは入学前のダンジョン踏破で名を上げたとはいえ鎧を用いた戦闘力は未知数。
しかも用意した鎧の体型は通常鎧に比べ大型で、それは一昔前の型落ちの様に見えた。
だから多くの生徒達によるブラッド有利との判断も致し方なかったもの。
だが決闘が始まるとその判断は覆される。
リオンの鎧――アロガンツは型落ちの様に見える大型の体躯からは想像もつかないスピードとパワーでブラッドの鎧を圧倒したのだった。
戦槌の一撃を受け倒されてしまったブラッド機だったが、直ぐさま立ち上がり反撃に転じようとする。
だがブラッドの鎧は立ち上がるよりも早くリオンの乗るアロガンツの蹴りを喰らい再び地に倒れ伏してしまう。
「拍子抜けだな! 良くその程度で空賊相手に勝てたものだな!」
アロガンツは戦槌を振り下ろすとブラッドは済んでのところで躱し、立ち上がると後ろに跳ね距離を取る。
「バルトファルト……まさかここまで強いとは……! だが、オリヴィアと約束したんだ! 必ず勝つと! だから僕は敗けるわけにはいかない!」
ブラッドが吠えると、その声に呼応する様に地面に散らばっていた彼の得物であるスピアが浮き上がりその穂先をアロガンツに向ける。
「フン、ご自慢のスピアか。そんなボロボロで未だやる気か? ソイツじゃ俺の鎧に通じないのは十分思い知ったはずだろ? 掠り傷一つ着けられなかったのをよ!」
リオンの言う通りブラッドのスピアは穂先が欠けたもの、折れ曲がったものなど、どれもボロボロだった。
空賊の鎧数機を纏めて相手にするほどのブラッドのスピアも、リオンのアロガンツの堅固な装甲の前にはまるで歯が立たなかった。それだけでなく撃ち落され叩き落され傷だらけだった。
ブラッドは鎧も武器も損壊が激しく最早勝敗は見えてるかの様。だが、彼の闘志の火は未だ消えていない。
「通じるか通じないかはこれから繰り出す攻撃を見てから言って貰おうか! スピアよ!」
ブラッドが号令の様に声を上げると宙に浮いたスピアが一斉にアロガンツに襲いかかる。
向かってくるスピアを迎え撃つべくアロガンツが戦槌を振りかぶる。攻撃圏内に入って来た瞬間叩き落さんと。
アロガンツ目掛けミサイルの様に真っ直ぐ飛翔するスピア。だがスピアがアロガンツの攻撃圏内に触れる直前軌道を変えた。
突如軌道を変えたスピアはアロガンツを取り囲み周囲を旋回し始める。まるで狼の群れが巨大なヘラジカを襲う様に。
アロガンツを中心に旋回するスピアが地表スレスレの高度を飛翔すると土埃が舞い上がる。
やがて巻き上げられた土埃はスピアの旋回と相俟って、砂塵による大竜巻を発生させアロガンツの姿を覆い隠してしまう。
砂埃で覆い隠されたように見えるのは観客の目から見た姿で、リオンの側からもまた周囲の視界を砂埃で遮られた形。
視界を塞がれたリオンがコクピットの中で毒づく。
「目眩ましのつもりか? ブラッドのヤツめ小賢しい真似を」
『赤外線カメラに切り替えますか?』
「ああ、そうしてく――何だ?!」
リオンは突如頭上から感じた衝撃に驚きを露にし、アロガンツの首を巡らせるとブラッドの鎧がその眼に飛び込んできた。
「ブラッド!? いつの間に!?」
砂埃でリオンの視界から姿を眩ましたブラッド。そのブラッドが再び姿を現したのはリオンの乗るアロガンツの肩の上。
そしてブラッドの鎧が手にした槍の穂先が突き付けてるのはアロガンツの――人で言えば襟元首元に当たる部分。
人を模した鎧には人間と共通の弱点急所が幾つかある。首元もその一つで、そこから刃を刺し込めばコクピットに届き操縦者の命を奪える急所。
「取ったぞ! バルトファルト!」
ブラッドが高らかに声を上げると周囲を旋回してた彼のスピアがその動きを変える。今迄砂埃の竜巻によりアロガンツの姿を覆い隠していたのを、逆に砂埃を吹き飛ばす。
ブラッドとリオン、両名の鎧が姿が環視の元に晒されると宙を舞っていたスピアは役割を終え力尽きたかのように地面に転がり落ちる。おそらくブラッドの残り魔力も限界だったのだろう。
「チェックメイトだ!」
アロガンツの肩の上に乗り、その首元に槍の穂先を突き付けたブラッドの鎧。それは観衆達の眼には勝負ありと映っただろう。
それは当然観客席から固唾を飲んで見守っていたオリヴィアの眼にも。
鎧が傷だらけになりながらも戦いを全うしたブラッド。
そして対戦相手のリオンを傷付けることなく追い詰め降参を呼びかける姿は、誰も傷付けず勝利して見せると言った約束を果たしてくれたよう。
オリヴィアの口から安堵の気持ちと共に感謝の言葉が漏れる。
「ありがとう……ブラッドさん」
一方、同じように試合を見守っていたアンジェリカは肩を落とし俯いてしまう。
「リオン……必ず勝つと言ってくれたじゃないか……。いや、コレが私のさだめか……。それに、むしろこれで良かったのかもな……」
アンジェリカはその眼に涙を滲ませながら目の前の現実を受け入れようとする。
自分は公爵令嬢とは言え婚約者に捨てられ親からも失望され見放され、この先明るい未来の保証などない。
そんな自分より王太子殿下であるユリウスに見出され彼の派閥に迎えられた方が前途を保証されてるのは誰の目にも明らか。
だからリオンにとってコレで良かったんだと思い込もうとするも、瞳から溢れる涙は止まらない。
リオンとブラッドの戦い。審判がブラッドの勝利宣言を上げ締め括ろうとする。
だがリオンはそれに異を唱え、声を上げる。
「待って貰おうか! 早計に過ぎるぞ決着宣言を上げるには!」
「見苦しい真似は止めろ! こうして急所に穂先を突き付けられた君の負けだ! 潔く受け入れろ!」
「そっちこそ寸止めで勝った気になってんじゃねぇよ! 勝ち名乗りを上げるのならその穂先をこの俺の鎧――アロガンツに突き刺してから上げやがれ! もっとも、突き刺せればの話だがな!」
「馬鹿な事を言うな! コレは決闘であって殺し合いじゃないんだぞ!」
リオンの声は勝ち名乗りを上げるのなら止めを刺せと言ってる様にブラッドに聞こえた。だがブラッドにそんなつもりは毛頭ない。
何せ彼が戦う目的はリオンをオリヴィアに引き合わせ取り持つため。リオンを傷つけてしまっては本末転倒である。
「そっちこそ分かってねぇみたいだな! そんななまくらじゃアロガンツを貫くどころか傷一つ負わせられねぇって言ってんだよ!」
「強がりは止せ! 幾らその鎧が頑強でも鎧の隙間から覗く内部フレームに刃を突き立れば損壊は免れないどころか、中に乗る君も無事で済まない! 突き刺すまでもなく分かり切ったことだろう!」
ブラッドの眼には絶体絶命の筈のリオンが意固地になって降伏を拒否してる様に見えた。
リオンが降参を口にしないのなら、とブラッドは鎧の首を観客席のアンジェリカが座る席の方に向ける。
「レッドグレイブ公爵令嬢! 己の騎士に死ぬまで戦わせるのが貴女の望みか!? 一学期末の決闘の様に己の為に戦ってくれた者をまた死なせるつもりか!? 違うと言うのなら貴女が降参を申し出ろ!」
ブラッドの言葉がアンジェリカの胸に突き刺さる。
その言葉に一学期末の決闘で自身の雇った騎士の乗った鎧が大爆発をした時の様子が思い出される。
あの鎧に誰も乗っておらず策であったことは後にリオンから聞かされてたが、今回もそのような策が準備されてたのだろうか。
リオンは今回の決闘に臨むに当たり強力な鎧を準備していた。
決闘終盤まで圧倒的な力の差でブラッドの鎧を追い詰めていた様子は正に圧巻で、決闘前に十分な勝算を語っていたのも頷けるほどだった。
裏を返せば、その強力な鎧をもってしても勝てなかったのならもう策は残っていないのではないのだろうか。
いかに強力な鎧とは言え急所に刃を突き付けられてはやはり諦めるしかない様に思える。
何よりリオンにこれ以上無理無茶をさせたくない。
「わ、私は……私たちは、この決闘――」
「アンジェ! ブラッドの言葉になんか耳を貸す必要ありません!」
アロガンツの得物は原作にはない戦槌にしました
スコップは場の空気に合わないしブレードやアックスは攻撃力や殺意が高すぎるんで