乙女ゲー世界はヒロインと悪役令嬢が相容れない世界です   作:氷破 熾央漓(ひば しおり)

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【14】決着

「わ、私は……私たちは、この決闘――」

 

「アンジェ! ブラッドの言葉になんか耳を貸す必要ありません!」

 

 

 アンジェリカは、リオンの鎧アロガンツの首元に槍の穂先を突き付けたブラッドに迫られ降参を口にしようとするも、リオンの言葉がそれを遮った。

 そんなリオンに向かいブラッドが責め立てるように口を開く。

 

 

「往生際が悪いぞ! バルトファルト!」

 

「だから、俺のアロガンツをそこら辺の鎧と一緒にすんじゃねぇって言ってんだよ! 言って分かんねぇなら見せてやる!」

 

 

 アロガンツはブラッドの槍に手を伸ばし掴むと、その穂先を自らの機体に突き立てた。

 それはまるで自害自爆のような有り得ない行動に見えブラッドは驚愕の声を上げる。

 

 

「馬鹿な真似は止め……! 何だとっ!?」

 

 

 ブラッドは我が目を疑った。それはアロガンツがその首元に突き立てた穂先が刺さるどころか折れて砕け散ったからだ。

 アロガンツの規格外の強度にブラッドは言葉を失う。

 

 

「モノが違うんだよ! 俺のアロガンツは! それより何時までも人の鎧の肩に乗ってんじゃねぇぞ!」

 

 

 アロガンツは両腕を伸ばしブラッドの鎧を捕まえるとそのまま地面に叩きつけた。

 アロガンツの強力なパワーで叩きつけられ、その衝撃は搭乗してるブラッドにも伝わり思わず呻き声が漏れる。

 仰向けになったブラッドの鎧。そしてリオンの追撃は続く。アロガンツは仰向けになったブラッドの鎧の胸部を体重を乗せ踏みつけた。

 アロガンツの脚力と体重でブラッドの鎧の装甲と内部フレームが嫌な音を立てながら歪みひしゃげる。そうして鎧の損壊は、本来護る筈だった搭乗者のその身を脅かす。

 

 

「がああああっ!!?」

 

 

 損壊した装甲やフレームが圧迫し或いは突き刺さったのだろう。ブラッドの口から激痛による悲痛な声が響き渡った。

 

 

「さっきの言葉そっくり返すぜ。チェックメイトだブラッド。これ以上痛い目見たくなけりゃサッサと降参しろ」

 

「こ……断る! オリヴィアに約束したんだ! 必ず勝ってみせると! だから、絶対負けるわけにはいかない! スピアよ!」

 

 

 ブラッドの声に呼応する様に力尽きたかに見えたスピアがその身を浮き上がらせる。

 だがその浮き方は不安定でふらついてるかの様。やはりブラッドの魔力は底を尽きかけてるのだろう。

 

 

「フン。そんな尽きかけた魔力で未だ抗うかよ。だったらその闘志完全にへし折ってやる。ルクシオン、ドローンを出せ」

 

「なっ!? バルトファルトも僕のスピアの様な魔道具を使えるのか!?」

 

 

 リオンの声に応えアロガンツのコンテナから姿を現す戦闘用ドローン。宙を浮く複数のドローンの姿にブラッドは瞬時に自身の武器と同系統であると理解する。

 そしてアロガンツのドローンはブラッドのスピアに牙を剥きその恐ろしさを見せつける。

 

 

「落ちろ! 蚊トンボ!」

 

 

 リオンの声と共にドローンからの一斉掃射が行われブラッドのスピアは残らず撃ち落されてしまった。

 ブラッドは呆然とする。剣技で劣る分それを補って余りある力と自負していたスピアを一瞬で駆逐された。

 その上そんな強力な兵器をリオンはここに至るまで温存してた。つまりは見縊られていたのだと。

 だがそんな思考は直ぐに痛みにより中断される。アロガンツが再び踏みつける足に更に体重をかけたのだ。

 

 

「自慢のスピアも全滅したぞ。もういい加減観念したらどうだ?」

 

「い、嫌だ! 僕は絶対に降参なんか……ぐあああっ!!」

 

 

 最早ブラッドの打つ手は全て尽きてしまった。

 生殺与奪の権もリオンに握られた状態。

 それでも尚、ブラッドの心は折れない。

 だが――

 

 

「もうやめてくださいっ!!」

 

 

 観客席から上がったのはオリヴィアの悲痛な叫び声。

 目の前で繰り広げられたあまりに凄惨な光景に耐え切れなかったのだった。

 

 

「お願いです! これ以上ブラッドさんを傷つけないでください!」

 

 

 ブラッドの傷つきボロボロになった姿に彼女の心は限界だった。

 涙を滲ませ懇願する様に闘技場の二人を見詰めるオリヴィア。そんな彼女に向かい、リオンが口を開く。

 

 

「ブラッドが傷つくのをこれ以上見るに堪えられない、ってか? だったら、言うべきことは【やめてください】じゃないだろ?」

 

 

 リオンの言葉にオリヴィアの表情が曇る。それはリオンの言いたい事が分かるから。

 それは則ち、やめて欲しければ降参しろ、と言う意味だと。

 オリヴィアは俯き黙り込んでしまう。

 決闘に降参を申し出る。それはリオンを完全に諦めるのと同義で、決して選びたくない選択。

 だがこれ以上ブラッドが傷つく姿は見たくない。

 そして決心し、口を開く。

 

 

「分かり……ました。この決闘、降――」

 

「言っちゃ駄目だオリヴィア! 言っただろう君に諦めさせたりなんかしないって! だから……ガアアァっ!?」

 

「ブラッドさん!」

 

 

 降参を申し出ようとしたオリヴィアの言葉を遮ったブラッド。だが彼の言葉もまたアロガンツの更なる踏み付けによるダメージで言葉を継ぐことが出来なかった。

 

 

「黙ってろブラッド。大体お前が悪足搔きしやがるからオリヴィアさんが代わりに降参しようとしてくれてんだろうが。チッ……もういい面倒臭せぇ」

 

 

 アロガンツがブラッドの鎧を踏みつけたまま身をかがめ手を伸ばす。

 コクピットの中、リオンがルクシオンにだけ聞こえる様に語り掛ける。

 

 

「インパクトを使う。ブラッドには眠ってもらうぞ」

 

 

 インパクトは対象物に合わせた衝撃波を撃ち出すアロガンツの持つ特殊攻撃。これによりパイロットを傷つけることなく鎧のみを破壊、または逆に鎧を破壊せずパイロットの身を昏倒させることも可能。

 それはある意味これ以上ブラッドを傷つけまいとするリオンなりの気遣いだったのかも知れない。

 だが既にボロボロのブラッドの鎧に向かい手を伸ばすアロガンツのその姿は、オリヴィアの目には更なる危害を加えようとしてるかのようにも見えただろうか。

 

 

「もうやめてえぇぇぇっ!!」

 

 

 オリヴィアの叫びと共に。魔力を帯びた純白の光が迸る。

 光の波動はアロガンツを、踏みつけていたブラッドの鎧から引き剝がし闘技場の内壁まで吹き飛ばし叩きつけた。

 闘技場全体が震えるような轟音が響き渡る。

 

 

『信じられません。アロガンツの巨体を人の魔力で吹き飛ばし退けたと言うのですか!?』

 

「別に驚くほどの事じゃないさ。何せ空賊船の大砲だって防いでみせた程の魔力だ。これがオリヴィアさんの、いや――アルトリーベの主人公、聖女オリヴィアの力さ」

 

『コレが聖女の力……』

 

「ああ。どうやら今度こそ俺もやっと物語の舞台から下りられそうみてえだな。これからその総仕上げと行くか」

 

 

 リオンが操縦桿を動かすのに合わせアロガンツが若干めり込んだ闘技場の壁から身を起こす。

 倒れてるブラッドの鎧に向かうべく其方に視線を向けると良く通る澄んだ声が闘技場に響く。

 

 

「ブラッドさん!」

 

 

 声の主は当然オリヴィア。傷ついたブラッドを心配した彼女は魔力の波動でアロガンツを引き剥がしただけにとどまらず、観客席から闘技場に向かって跳び降りた。

 その高さは鎧の身長をも超えており人が跳び降り様ものなら大怪我どころでは済まない高さ。

 だがオリヴィアは魔力により発動させた風を纏う事でまるで木の葉か羽毛の様にふわりと着地する。

 

 

「ブラッドさん! 大丈夫ですかブラッドさん!」

 

 

 オリヴィアはブラッドの鎧に駆け寄る。以前ブラッドから鎧のお披露目の時教えてもらった緊急時のコクピットハッチ解放スイッチを押すが開かない。アロガンツの踏みつけにより大きく歪んでしまって故だろうか。だがオリヴィアが魔力による光を迸らせるとまるで見えない巨大な手がこじ開けるかのように歪な音を響かせながらハッチが開く。

 

 

「ブラッドさん! ひ、酷い……! こんな大怪我……!」

 

 

 オリヴィアが目の当たりにしたブラッドの姿は痛ましいものだった。損壊し歪みひしゃげた装甲やフレームにその身を圧迫されての骨折、或いは突き刺されての出血などの大怪我を負い満身創痍だった。

 すぐさま治療すべく回復魔法を発動させようとするオリヴィア。そんな彼女の耳に冷たい声が届く。

 

 

「困るなオリヴィアさん。未だ決闘も終わっていないのに勝手に入って来られちゃ」

 

 

 声の主はリオン。壁まで吹き飛ばされてたが何時の間にか元の戦っていた場所まで戻って来ていた。

 

 

「もうやめてくださいリオンさん! これ以上ブラッドさんに酷いことしないでください!」

 

「だったら言うべきは何か分かるだろ?」

 

 

 降参するよう促すリオンの言葉に、オリヴィアは意を決し口を開こうとする。だが――

 

 

「ダメだオリヴィア! 自分の心に背くようなこと言っちゃいけない!」

 

「ブラッドさん……ありがとうございます。でも、もういいんです」

 

「良くなんかないよ! 彼の事が好きなんだろ!? だったら――」

 

「いいんです。もう……好きじゃありませんから」

 

 

 ブラッドの言葉を遮り発せられたオリヴィアの言葉。

 その言葉にブラッドは我が耳を疑った。

 

 

「私、もうリオンさん……いいえ、バルトファルトさんのこと好きじゃありません。私の友達を……私の大切な人を傷つける人なんか、もう好きじゃありません……。嫌い……です。大嫌いです!」

 

 

 オリヴィアの発した声は泣くのを堪えてるかのようだった。

 そんな辛そうな振り絞る様な声を耳にしたブラッドの表情も苦しそうに曇る。自分が無力なばかりにオリヴィアに辛い言葉を言わせてしまったと。

 

 

 

「好きとか嫌いとかそう言うのはどうでも良いんだよ。今は未だ一応決闘中なんだ。聞きたいのはそんな言葉じゃないんだよ。何ならオリヴィアさんが決闘に介入したって事でそっちの反則負けにしたって良いんだぜ? だけどそれじゃそっちも納得いかないだろ。だから、は~や~く~」

 

 

 リオンが煽る様に降参を促すと、身をかがめブラッドに寄り添っていたオリヴィアが立ち上がりリオンが乗るアロガンツの方に振り返る。

 その瞳に涙を滲ませながらも強い決意を宿し。

 

 

「降参します。私たちの……敗けです!」

 

 

 オリヴィアの降参宣言を受け、審判は改めてリオンの勝利を宣言する。

 そして決闘はアンジェリカとリオンの組の勝利として幕を閉じたのだった。




次回でラストです
最後までお付き合いいただければ嬉しいです
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