乙女ゲー世界はヒロインと悪役令嬢が相容れない世界です 作:氷破 熾央漓(ひば しおり)
またこの話を書くに当たり辻褄合わせで最終話の一部加筆修正も行いました。
それはリオンとブラッドの決闘が繰り広げられてから数日後のこと。
常にアンジェリカに影のように寄り添っているリオンではあるが、それでも四六時中ではない。一人で言居る時間も無いわけでは無い。
そんな一人でいる時を狙いすましたかのように、リオンに声をかける女生徒が。
「リオン・フォウ・バルトファルト!」
それは立派な縦ロールの金髪の如何にも貴族の令嬢と言った風貌で、それに見合うような堂々とした自信に満ち溢れた高い声。直接の面識はないが一応聞き覚え認識はしてる相手。
「伯爵令嬢ともあろうお方が一介の男爵に何の御用でしょうか? ローズ……ヒップ先輩?」
「ローズヒップではなくローズブレイドですわ! ディアドリー・フォウ・ローズブレイド!」
「えっと、ローズ……ブレンド?」
「ブレイドですわ! ローズブレイド!」
リオンの飄々とした態度に思わず声を荒げたディアドリー・フォウ・ローズブレイド。先に述べたように伯爵家の令嬢でリオンよりは二つ上の上級生先輩。
ディアドリーは一つ溜息を吐くと気を取り直し口を開く。
「貴方、先日の決闘拝見しましたわよ。実に見事な勝利でしたわ」
それは意外にも賛辞の言葉だった。
「嫌味ですか?」
「人の好意は素直に受け取りなさい」
「これでも自分の評価は把握してるつもりですけどね。あの決闘の成り行きを見ていた生徒たち皆が皆、俺の事ボロクソに言ってるの」
実際決闘に対するリオンの評判は散々なものだった。何せ決闘で叩きのめした相手はブラッド。かねてより甘いマスクで女子に人気が高い上に、おまけに王子の覚えめでたく直近では空賊討伐の功を成し遂げた若き有望株の辺境伯跡取り。
そんな相手を一方的に蹂躙し更には煽り罵り最終的には彼と懇意にしてた女生徒に降伏まで強要。
「私から言わせれば学園の生徒達こそ見る目が無いとしか言えませんわ。相手が王子に重用された良家の跡取りだろうと憚ることなく煽り罵る様には私むしろゾクゾクしましたわ」
恍惚の表情で語るディアドリーに対し、リオンは評価してくれた嬉しさより性癖の歪みを垣間見むしろ引いてしまう。
「そ、そうですか。それはありがとうございます。それでは俺はこれで失礼――」
「お待ちなさい」
関わりたくないと早々に立ち去ろうとしたリオンだったが呼び止められてしまう。
「貴方、聞くところによると中々にお茶の腕前が立つと聞いてます。折角ですから私に茶を振舞いなさい。ティールームも既に抑えてありますわ」
正直関わりたくない相手と思いつつも上位貴族の求めを断る訳にも行かない。仕方ないとばかりにリオンは従うのだった。
「なるほど。香りといい味といい、中々に見事なお点前ですわ」
「恐縮です」
お茶の味に舌鼓を打つディアドリーに、胸を撫で下ろしつつも内心ではさっさと終わらせてもらえないものかと思うリオン。
「ところで貴方。私の取り巻きになる気はございませんこと?」
「お断りいたします」
「即答とはずいぶんとつれない事仰るのね。少しぐらい迷うそぶり見せなさいな」
リオンの即答にディアドリーは不満を露にする。
「あの決闘ご覧になられてたのならお判りでしょう。俺の忠誠はあくまでアンジェだけに向けるものです」
「そんなにも公爵令嬢の取り巻きが良いのかしら。もっとも、あの子ももう直ぐ公爵令嬢じゃなくなってしまいますが」
「俺が忠誠を誓ったのはアンジェが公爵令嬢だからじゃ……ちょっと待ってください! 公爵令嬢じゃなくなる!? 一体どういう事なんですか!?」
「アンジェリカから何も聞いてませんの? 此度の決闘私は高く評価させていただいてますが、どうやら公爵家はそうは思っていなかった様子。王子と懇意にしてる相手を叩き潰しさらに溝を広げた娘に対し、どうやら公爵は愛想が尽き果て傍系への養子縁組を決めたようですわ。実質的な親子の縁切りですわね」
ディアドリーの言葉にリオンはテーブルに突っ伏し俯く。自分が受けた決闘のせいでアンジェリカが親に棄てられるに至ったのかと思うと申し訳なさで胸が潰れそうだった。
「貴方……そこまでショックを受けられるとは……」
ショックを受けているリオンの姿にディアドリーまで思わず気の毒に思い言葉を次げなかった。
ややあってディアドリーが沈黙を破り口を開く。
「貴方、アンジェリカのことどう思ってますの?」
「俺は……アンジェの騎士として……」
「そう言う取り繕った言葉が聞きたいんじゃありませんの! 貴方、アンジェリカのことが好きなんじゃありませんの?」
「ですが、アンジェは公爵令嬢で、俺は一介の男爵に過ぎなくって……」
「ですから! そう言うのを聞いてるんじゃありませんの! 貴方の本音を聞かせなさい!」
正面から見据えて来るディアドリーの力強い光を宿した瞳。その瞳の前にリオンは生半可な答えは許されないと感じ覚悟を決める。
「俺は……アンジェのことが好きです。誰よりも愛してます」
リオンの答えにディアドリーは満面の笑みを浮かべる。
「グッド。思いの込もった良い答えですわ。でしたら私は進むべき道の導を指し示しましょう。貴方、子爵におなりなさい」
その言葉にリオンは目をしばたたかせる。
「貴方、先程の話聞いてましたわよね?」
「ええ、勿論です。アンジェが公爵令嬢じゃなくなり傍系の家への養子……」
言いながらリオンは何かに気づいた表情に。
「レッドグレイブ家の傍系に同等の公爵家やそれに準じる侯爵家はありませんわ。伯爵家があったのでおそらくその家の養子に出されるのでしょう」
そこまで聞いてリオンは理解した。
アンジェが伯爵令嬢になれば、自分の今のままの爵位の男爵では依然無理だが一つ上の子爵に陞爵すれば婚姻も可能。
「お話理解しました。ですがそれでも……」
例え一つでも爵位を上げるというのは相当な功績無くしては叶わない事。決して簡単な事ではない。
「貴方、オフリーと繋がりのあった空賊が討伐された話は御存じですわよね? あれ以来我が国ではこの機に乗じ他の空賊も討つべしとの機運が高まっています。勿論我がローズブレイド家も。そこで貴方に協力要請します。我が艦隊による空賊掃討戦に」
「ありがとうございます先輩!」
ディアドリーの意図を理解したリオンは勢い良く頭を下げた。
「礼には及びませんわ。決闘で拝見した貴方の鎧の力。あれが我が艦隊に強力下さるのならそれは此方にとっても心強い事。それに、何より私は機会を与えただけですわ。実際に子爵に成り上がれるかは貴方の槍働き次第」
ディアドリーの言葉にリオンは不敵に笑って見せる。
「フフッ、やはり貴方とても良い顔をされますわ。本当アンジェリカに先に取られてしまったのが悔しいくらい。精々励みなさい。推薦した私の顔に泥を塗らない様に」
そしてリオンは空賊掃討戦に身を投じる。愛用の鎧、アロガンツを駆って。
アロガンツ操るリオンの戦いぶり、それは鬼神もかくやと目を見張る程のもの。
相対する空賊を恐れさせ共に戦ったローズブレイド家の騎士たちを驚嘆せしめた。
幾つもの空賊団を壊滅させたリオンの活躍は、共に戦ったローズブレイド家からの王家への推挙により子爵への陞爵へと相成ったのであった。
そして晴れて子爵となりアンジェリカとの婚約を掴んだリオン。卒業後の結婚に夢を膨らませながら残りの学園生活を謳歌する。
その間、此度の一連の出来事で大いに助けてもらったディアドリーとも交流は続いていく。
そんなある日の出来事。
「え? ウチの兄貴のニックスですか? 先輩のお姉様と?」
「ええ、私の姉、ドロテアお姉様。お見合い続けてるのですが生憎どの殿方もお眼鏡に適わなくて。それで空賊掃討戦で活躍目覚ましかった貴方の話題が上り、そんな貴方の兄君はどうかという話が持ち上がりまして」
「そうですか。でも爵位のことはどうするんです? 俺はお陰様で子爵になれましたが、実家は依然男爵家のままでつり合いとれないのでは?」
貴族同士の結婚は爵位が釣り合わねば成り立たぬことはリオンは身に染みて実感してた。
だからアンジェとの婚約の為にと陞爵の為にと空賊討伐の功を重ねたのだった。
「それは貴方の気にすることではありませんわ。縁談さえ纏まればどうとでも方法はありますわ。お聞きになりたい?」
ディアドリーの言葉にリオンは頭を激しく左右に振る。一瞬そんな簡単に陞爵する方法があるのなら自分の時教えて欲しかったと思いかけるも、ディアドリーが浮かべた含みのある笑みに聞かぬが吉と感じたのだった。
「そう言う訳ですから貴方のご実家に言伝頼めるかしら?」
「分かりました。実家には話を通しておきます」
リオンにとってディアドリーは恩人と言える存在。借りを返すチャンスとばかりに快諾したのだった。
そして数日後。
お見合いがセッティングされ、滞りなく進み、終了。
その翌日、リオンはディアドリーの元に訪れていた。菓子折りを持参し。
「此度はウチの愚兄が先輩のお姉様のお眼鏡に適わず申し訳ありませんでした!」
「その事でしたらもういいですわ。貴方の反骨精神あふれる気骨を貴方のお兄様に迄求めた私も悪かったのです」
二人の会話からも伺える様にお見合いは失敗に終わった。
ディアドリーに恩を返すチャンスとばかりにリオンは見合いの成功を望み、兄ニックスに向かいしっかりもてなし愛想よく振舞う様に念を押した。
伯爵令嬢との見合いなど分不相応と全く気乗りしないニックスだったが断ることなど出来ず渋々臨みながらも言われた通り精一杯愛想よく振舞いもてなした。
だがそんなニックスに対しディアドリーの姉、ドロテアは「つまらない男」とばっさり切り捨てたのだった。
その結果にニックスは気乗りしない縁談でも此方から断る事の出来なかったので、向こうから断ってくれて勿怪の幸いと肩の荷が下りた気分であったとの事。
「折角先輩に借りを返すいい機会だと思ったんですが……」
「此方としても貴方と縁戚になれる良い機会と期待してましたのに。まぁ良いですわ。私としましてもこれぐらいで諦めるつもりはございませんので。そうですわね、この先私が婿を取り子を儲け、貴方もまたアンジェリカとの間に子を儲けたのなら、その子供同士で婚約を結んで頂きましょうか」
ディアドリーの言葉に、そんな卒業も結婚も未だ先なのに気が早いのではとリオンは思った。だがディアドリーの浮かべた笑みに決して冗談などでは無いのを感じ、乾いた笑いで応えるしか出来なかった。
(まぁ先のことあまり思い悩んでも仕方ねぇか。未来のことで思い悩むより今この時の方が重要だよな)
そして未来のことから目を逸らす様に、婚約者との時間に思いを馳せる。
(とりあえず今夜は久しぶりにアンジェと外食で豪勢なディナーだ。一週間前から予約入れといた人気店だしアンジェ気に入ってくれるといいな)
[ 番外編 了 ]
折角アニメ二期放送中ですので、何か出来ないかと思い番外編を書いてみました。
本編でもあのせかでも結ばれたニックスとドロテアですが私はひねくれものなので、この二人が結ばれない世界線だってあるのかもと思い書いてみました。