乙女ゲー世界はヒロインと悪役令嬢が相容れない世界です   作:氷破 熾央漓(ひば しおり)

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【7】救出決行

「未だ分からないのか!? オリヴィアの行方は!?」

 

 

 心配と焦りの気持ちを隠そうともせず声を荒らげたのはブラッド。

 オリヴィアが攫われたと聞き居ても立っても居られないのだろう。

 

 

「落ち着け。焦ってもどうにもならん。今は捜索結果が届くのを待つんだ」

 

「落ち着いてなどいられますか! 今こうしてる間にもオリヴィアは恐ろしい目に遭ってるかもしれないんですよ!? 恐怖に震えてるかもしれないんですよ!? そう思うと……!」

 

「オリヴィアが大事なのも心配なのも俺たちも同じだ。彼女は俺たちのマリエを思う気持ちを否定せず素晴らしいと言ってくれたんだ。そんな彼女を悪漢どもの手に捉われたままになどしておけるものか! 必ずや救い出してみせるぞ!」

 

「殿下……」

 

 

 焦るブラッドを宥めたのは紺色の髪を短くした王太子殿下【ユリウス・ラファ・ホルファート】だった。整った顔立ちに紺色の瞳の彼は王族の一員に相応しい威厳を感じさせる。

 ブラッドとユリウスだけではない。他の攻略キャラであるジルク、グレッグ、クリス皆揃ってた。

 

 あの日リオンが言った通りオリヴィアはブラッド以外の四人とも絆を紡いでみせていた。もっともブラッドはじめとした五人が相変わらず恋慕の情を向けてるのは依然としてマリエで、オリヴィアが慕っているのはリオンのままであったが。

 それでも友好的な友人関係は将来恋愛関係への発展を十分期待させ得るものだった。

 

 ユリウスに続き他の三人も宥めるように声をかけるとブラッドは気持ちを同じくする仲間たちの声に平静さを取り戻す。そして改めてオリヴィアを救い出してみせると決意を固めるのだった。

 

 やがてユリウス達の配下や取り巻き達がオリヴィアを攫った者達の情報を持ち帰って来る。

 誘拐犯たちの正体は空賊団ウィングシャーク。そして奴らが潜むのは王都の外れの大型倉庫群。

 だが残念なことにどの倉庫に捉われてるのかまでは割り出し切れなかったが、それでも五つまで候補は絞り込めた様だった。

 

 地図を睨みながら作戦を練るブラッドや王子たち。候補は五つ、ブラッドやユリウス達も五人。五人各々が鎧を駆り同時に踏み込む事に。

 ブラッドはその地図の倉庫群の一つが一瞬光ったような感覚を覚える。目の錯覚の様にも思えたが同時に天啓の様にも感じ、彼はその倉庫に向かうべく名乗りを上げたのだった。

 

 

 

 

 

 埃と汚れに塗れた薄汚い大型倉庫。そこにオリヴィアは捕らわれていた。縄で拘束され無造作に床に転がされ。

 多少の擦過傷はあるが大きな怪我などはない。だがいかがわしげな風体の屈強な男たちに周囲を囲まれ生きた心地がしなかった。

 

 恐怖に押し潰されそうになりながら固く目を瞑るオリヴィアの耳に突如爆発したような大きな音が届く。

 音のした方を反射的に振り向き目を見開けば壁に大穴が開いていた。先程の音は壁が破壊された音だったのだろう。壊れ崩れ落ちた破片が土埃を舞い上がらせる。

 壊れた壁の穴から、立ち上る埃の向こうから姿を現したのは巨大な人影。鮮やかな紫色に染め上げられ鎧。

 

 

「ブラッド……さん?」

 

 

 それは先日の事。鎧の修繕メンテナンスが完了したブラッドがその喜びを分かち合いたいとオリヴィアに見せてくれたのだった。

 彼の髪色と同じ紫色に染め上げられた鎧は力強さだけでなく優美さをも感じさせるものだった。

 その鎧が今オリヴィアの目の前に降り立ったのだった。

 

 

「大丈夫かオリヴィア!? 怪我とかしてないか!?」

 

 

 ブラッドがハッチを開けその姿を見せると、オリヴィアはその顔に安堵の表情を浮かべる。

 オリヴィアの一先ずは大怪我など負ってなさそうな姿にブラッドも安堵しかけるも、縄で縛られ擦り傷や埃の目立つ姿に沈痛な表情に。

 先ずは彼女の自由を奪っているその縄を解いてあげようと鎧から下り歩み寄る。

 だが次の瞬間発砲音が轟く。

 

 

「ブラッドさん!?」

 

 

 それは賊の撃った銃声。見ればブラッドの肩に抉られたような傷が生じ血を溢れさせている。

 賊の銃弾は致命傷にこそならなかったものの肩を掠め皮膚を抉り少なくはない量の出血を起こさせていた。

 

 だがブラッドは怪我の痛みをおくびにも出さずオリヴィアに微笑みかけ、彼女を縛り付けてる縄を手早く絶ち切る。自分の怪我などよりオリヴィアが縛られ拘束されてる方が一大事と言わんばかりに。

 そしてさらに銃弾が放たれでもしてそれでオリヴィアが負傷しない様にと、彼女を庇いながら護る様に賊どもに背中を向ける。

 

 オリヴィアはブラッドの出血、彼の肩越しに見える銃口を向ける賊、そして彼がそんな怪我負いつつも自分を護ろうとしてくれてる状況に、心の中が一つの想いで満たされていく。

 自分の為に駆け付けてくれた大事な友達を助けたい。絶対に死なせたくない、と。

 

 

「ダメぇっ!!」

 

 

 オリヴィアの叫びとともにまばゆい光が迸る。それは魔力により作り出された光のシールド。

 光のシールドは賊どもの弾丸を一つ残らず防いでみせる。それだけでなく、その強烈な輝きにより賊どもの眼をも眩ませた。

 

 ブラッドはオリヴィアの放った強力な防御魔法に驚きつつもこの機を逃さない。

 オリヴィアの背中と膝裏に手を差し入れ抱き上げると、すかさず鎧のコクピットに飛び込み急いでハッチを閉める。

 

 賊たちは眩しさから未だ視力が戻らぬまま銃を撃ち続ける。だがブラッドがオリヴィアと共に乗り込んだ鎧には傷一つ着かない。

 未だ敵陣真っ只中とは言え、オリヴィアの身柄を確保し鎧の操縦席の中と言うことで一先ずの安全が確保されたのでブラッドは語りかける。

 

 

「大丈夫だったかいオリヴィア!?」

 

「私なんかよりブラッドさんが! 私のせいで怪我を……」

 

 

 賊の銃弾により負傷したブラッドの肩から溢れる血にオリヴィアの瞳に涙が滲む。

 そんなオリヴィアに向かいブラッドは優しく微笑みかける。

 

 

「そんなの気にしなくて良いよ。君は僕の大事な友達なんだ。助けに駆け付けるのは当然だろ? 何より騎士を目指すものとして女性には優しくしないとね」

 

「ブラッドさん……ありがとうございます」

 

 

 オリヴィアはブラッドの微笑に自身も微笑みで返す。傷を負った肩にそっと手を伸ばすと柔らかな光が溢れ出す。

 それはオリヴィアの回復魔法。掌から発せられた優しく温かな光に照らされブラッドの傷は徐々に塞がり痛みも引いていく。

 

 

「これは……回復魔法? そう言えばさっきも魔法のシールドで護ってくれたね。君がいつも勉学だけでなく魔法の修練にも熱心なのは知ってたけどこんなにも凄かったんだね」

 

「私回復魔法は昔から得意でしたから。他の魔法は学園に通う様になってから勉強して、実際使うのは初めてだったんですが成功して良かったです。ブラッドさんがいつも訓練に付き合って下さったお陰です。そんなブラッドさんにこれ以上怪我して欲しくなくて思わず無我夢中で……」

 

 

 あの時、自分を助けに来てくれたブラッドを護りたい一心で発動したのだった。

 ブラッドはオリヴィアの想いに胸が熱くなるのを感じる。

 互いが互いを助けたいと二人は想いが通じ合ってるかの様だった。

 

 だがそんな二人の耳に唸り声の様な機械の駆動音が届く。見れば工場の片隅から立ち上がろうとする巨大な人影が。賊たちもまた鎧を起動させたのだった。それも一体だけでなく複数体の。

 

 

「賊どもめ、数を頼みにすれば勝てるとでも思ったか? 僕を舐めるなよ!」

 

 

 ブラッドは賊たちの鎧を睨み気を吐き吠えた。その想いに呼応する様に彼の乗る鎧が淡い紫色の光を放つ。そして背中に装備された武装が起動し展開する。

 それは持ち手の無い騎兵槍の様な武装――通称スピア。魔力により操作可能な兵装で魔力の扱いに長けたものが扱えば恐るべき力を発揮する。

 

 ブラッドが「征け」と命令するように力強く呟くと展開された計四本のスピアが放たれた矢のように賊の乗った鎧に襲い掛かる。

 凄まじいスピードで襲い掛かるスピアに賊どもは反応できない。

 賊の乗った鎧はある者は頭部を、ある者は脚部を、またある者は武器を装備した利き腕を貫かれ何れも戦闘不能に陥る。

 

 多対一の不利と思われた状況をあっさりと引っくり返して見せたブラッドにオリヴィアは目を見張り「凄い……」と感嘆の声を漏らすと、ブラッドは少々照れくさそうに微笑みで返すのだった。

 

 倉庫内に残る賊の残党も数で勝ってた筈の自分たちの鎧が倒され右往左往してる。

 オリヴィアを無事助け出せた今、後は殿下達共に来た仲間と合流し賊を制圧するだけ。

 

 そう安堵しかけた時、ブラッドが倉庫に侵入する際壁に開けた穴に何かが突入してきた。

 賊の増援かとブラッドは身構える。果たして突入して来たのは賊のものと思しき鎧だった。

 だがその姿は戦闘によると思われる損傷を負っていた。そして目の前で大の字に伸びており突入してきたと言うより叩き込まれたといった様相。

 

 

「ブラッド! 俺んとこはハズレだったから助太刀に来てやったぜ!」

 

 

 そして穴から続けて姿を現したのは槍を装備した鎧。操縦してるのは【グレッグ・フォウ・セバーグ】。彼のトレードマークの逆立てた赤髪と同様の朱色に染め上げられた機体。

 彼もまたブラッド同様上級貴族の子弟だが、貴族らしからぬ荒っぽい口調が特徴でその風貌もまたワイルドな容姿の持ち主だった。

 

 

「ああ、オリヴィアは無事だよ! 僕が踏み込んだココが当たりでたった今救出したところさ」

 

「よしっ! それじゃあ後は残った賊どもの後始末だな!」

 

 

 

 言いながらグレッグがその槍を振り上げると倉庫内に居た賊どもは震えあがり諸手を上げて降伏の意を表す。

 誘拐の犯人でもある賊を放っておく訳には行かない。戦意を喪失した賊どもに向かい互いが互いを縛るように命令する。

 

 

「賊どもの後始末は俺が引き受けた。だからブラッド、お前はオリヴィアを連れて殿下達の所へ向かって安心させてやんな」

 

 

 グレッグの言葉に応える様にブラッドの鎧が離陸する。

 

 

「分かった、そうさせて貰うよ。ありがとうグレッグ」

 

「私からもお礼を申し上げます。グレッグさんありがとうございます」

 

 

 そしてブラッドは突入時に自身が開けた大穴をくぐり外へ飛び立つのだった。




次回で空賊編は終わりです
次々回からはアンジェ再登場
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