乙女ゲー世界はヒロインと悪役令嬢が相容れない世界です   作:氷破 熾央漓(ひば しおり)

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【8】見届ける者

「見たかよ、ルクシオン」

 

『ええ、大したものでしたオリヴィアの防御魔法は』

 

 

 会話を交わすリオンとルクシオン。彼らが居るのは戦いの舞台となった大型倉庫群の遥か上空。そこに待機する彼専用の鎧の操縦席。

 

 

「確かに魔法も凄かったけどよ。あの二人イイ感じだったじゃん。正に囚われの姫とそれを助けに駆け付けた騎士って感じでよ。やっぱブラッドにあそこに向かう様に手を打って正解だったようだな。良くやってくれたよルクシオン」

 

 

 救出決行前、ブラッドが突入を決めた地図に記された倉庫が光ったように感じたのは錯覚ではなかった。

 実はあの作戦室にルクシオンのドローンが姿を消し忍び込んでいた。

 そして一瞬だけピンポイントで微かな光を当てたのだった。そしてそれは狙い通りブラッドの注意を引くことに成功したのだった。

 

 

『労いのお言葉を頂くほど大したことではありません。しかし相変わらず回りくどい真似をなさいますね』

 

「何度も言ってるけど大事な事なんだよ。お陰で俺らの出る幕無しで済んでくれた訳だ」

 

『折角のマスターの専用鎧――アロガンツのお披露目の機会だと思ってたのですが』

 

 

 アロガンツ――それはルクシオンがマスターであるリオンの為に用意した鎧。ロストアイテムであるルクシオンの手により生み出されたその力は、彼に言わせればこの時代の他の鎧の追随を許さない圧倒的な力を備えていた。

 

 リオンはルクシオンからオリヴィアが攫われブラッドや王子達がその救出に向け動き出したとの報を受けた時言った通り、若し彼らの手に余る様な最悪の場合自ら助けに行ける様に、彼もまた鎧に乗り込み待機してたのだった。

 

 

「強力な鎧を準備してくれた事には感謝してるよ。でも言ったろ。念の為だって。まぁでも使わずに済んで良かったよ。ここで俺が出張っちまったら折角育んだオリヴィアさんと攻略キャラ達の絆に水を差しちまってたからな。さてと……」

 

 

 リオンは大きく体を伸ばす。それほど狭いコクピットではないし戦ってたわけではないがいざとなれば何時でも駆けつけるべく気を張ってたのだ。

 コレで一息つけると気を緩める。が――

 

 

『いえ、未だ終わりではないようです。というより終わらせるつもりはないようです。彼らこのままの勢いに乗って空賊の本拠地に乗り込み賊の頭を叩くつもりの様です』

 

「マジか!? それはちょっと調子に乗り過ぎ……いやイケるか? まあ戦ってのは時に勢いも重要だが……しゃあねえ俺の方ももうしばらく付き合って見守ってやるか」

 

 

 

 

 その後、空賊本拠地に乗り込んだ彼らの活躍は目を見張るものだった。

 空賊の名が示す通り賊どもがその本領を発揮するのは飛行船と鎧がその力を十分に振るうことが出来る大空。そして賊の名が示す様に略奪に蹂躙と言った攻勢に回った時。

 裏を返せば飛行船を停泊させた状態の所に奇襲をかけられてはその本領を発揮出来るわけもなかった。

 

 それでもその中の一隻が離陸する。そして備え付けられた大砲を鎧に乗ったブラッドや王太子達に向け撃ち放った。

 いかに頑強な装甲で護られた鎧とは言え大砲の直撃に耐えられるものではない。

 だがそんな絶体絶命の攻撃を防いでみせたのはまたしてもオリヴィアの魔法だった。

 

 オリヴィアもまた空賊本拠地への奇襲に参加してたのだった。

 彼女の居場所は助けられた時から引き続きブラッドと共に彼の鎧の操縦席。

 大切な友が戦いの場に赴こうというのに自分だけ安全な場所で待っていられないという思いであろうか。

 また自身の魔法の力への手応えを感じ助けになりたいと思ってであろうか。

 果たしてその力をいかんなく発揮して友を護り大きな助けになってみせたのだった。

 

 その様子は遥か上空で引き続き見守っていたリオンとルクシオンも目の当たりにしていた。

 彼の鎧――アロガンツの操縦席に備わったモニターに望遠カメラにより撮られた映像が映されていた。それはまるで目の前で繰り広げられてるかのように詳細に。

 

 

「マジで凄いなオリヴィアさん……。銃弾どころか大砲の弾迄防ぐほどのシールド展開できるなんて。流石主人公。流石聖女様」

 

『確かに驚嘆に値します。そしてそれはマスターとの出逢いで得たメリットですよ。マスターに守られていた事でオリヴィアには勉学に励む時間が豊富にありましたからね』

 

「いや、俺と出会ったメリットなんて微々たるものさ。ブラッドと知り合った後、良くアイツと一緒に魔法の修練に打ち込んでたろ? 魔法の才に掛けちゃトップクラスのアイツと切磋琢磨しあったんだ。やっぱ攻略キャラってのは伊達じゃねぇな。ヒロインとの出逢いでお互いを高め合えるなんてよ」

 

 

 五人の内、最初にオリヴィアと知り合ったブラッドは武芸の腕こそ他の四人に劣るものの魔法の扱いにかけては五人の中では勿論、学園中でもトップクラスに抜きんでていた。

 オリヴィアは回復魔法を元々得意としてたが、彼女は更なる魔法の才を磨き上げたのだった。それは同じく魔法を得意とするブラッドと切磋琢磨することで開花されたものだった。

 

 イベントの事の起こりこそリオンが前世のゲームでプレイしたものとは異なるものだった。

 だが終わってみれば主人公オリヴィアと五人の攻略キャラ達が力を合わせての空賊討伐をイベント成功を収めたのだった。

 

 その後の顛末も実にスムーズなものだった。

 空賊、それもこの国でも指折りの凶賊を討伐したことにより王子やブラッドたち五人は大いにその名を轟かした。それこそ先の決闘での醜態を拭い去る程に。

 また、彼ら五人が護ろうとし、そして五人の戦いを支えてみせた彼女の強大な魔力も大いに驚嘆させた。最早誰も彼女を平民と蔑む事が出来ない程に。

 

 そして、今回の発端となったオリヴィアの誘拐を指示し空賊と密約を交わしていたオフリー伯爵家とその令嬢ステファニーの処罰。

 先ずオフリー家の当主と次期当主は処刑となった。そして残されたオフリー家も大きく爵位を下げ、元の爵位であった伯爵家から貴族としては最下級の騎士家にまで落とされその領土も殆どが没収された。

 ステファニーも牢獄への禁固刑を科された。だが学園への在籍は許され、牢の中からとは言え課題をこなすことで進学と卒業の可能性も残された。

 しでかした罪からすれば処刑もおかしくなかったのを思えば驚くほど軽い処罰。

 そこにはリオンの関与があった。

 

 

『一体どういうつもりですかマスター。ステファニーの減刑の為に匿名で金を積まれるなんて。私には理解できかねます』

 

 

 本来なら騎士家への降爵どころかお家お取り潰しで、ステファニー自身も最悪処刑、良くて学園追放。

 それを思えば十分過ぎるほどの減刑。

 

 

「オフリー家の処分についての法廷の様子見たろ?」

 

 

 王太子手ずからの空賊討伐、更にはその討伐により明るみに出たオフリー家との繋がり。上級貴族に分類される伯爵家の醜聞。

 話題性十分とばかりにその裁判には多くの人々が関心を寄せた。

 リオンは直接見には行かなかったがルクシオンのドローンを通しその顛末を見届けたのだった。

 

 

『ええ。特にステファニーは終始悪態をつき、最後まで見苦しいことこの上ありませんでした。中でも自身の取り巻きや側付きに対し役立たずと罵る様は目に余るもので正に醜悪の一言に尽きました』

 

「そうだな。傍聴席の貴族たちからも評判悪いことこの上なかったな。特にあの縦ロールの高飛車な女……何て言ったっけ、ローズヒップ?」

 

『ローズブレイドです。伯爵家ですね。そこの令嬢ディアドリー』

 

「ああ、ソイツだ。特に辛辣なこと言ってたな。貴族の面汚しだとか、最後ぐらい自分を支えてくれた者を庇う矜持も無いのか、とか何とか。けどよ、庇わなかったからステファニーの取り巻き達はむしろ軽い処分で済んだんじゃねぇのか?」

 

 

 実際、裁判の席でオフリー家とステファニーには非難が集中してたが、彼女の取り巻き達に対しては醜悪なステファニーに無理やり従わされてた被害者と言った体で同情の目を集めていた。

 

 

『それは、つまり――』

 

「ああ、裏を返せばあの時ステファニーが取り巻き達を庇っていたら逆にアイツと取り巻き達の間に確かな絆があり、それは取り巻き達もこの事件に大きく関わったとして重い処分が下されてたかもしれねぇ」

 

『ステファニーが取り巻き達を護るためにあえて醜悪な振る舞いをしたと言うのですか? その様な気遣いが出来るような令嬢でしょうか? そもそも内にも外にも評判の悪いことで有名な令嬢でしたし』

 

「内にも外にも、か。実際取り巻き達からの恨みは相当溜まってたみたいだからな。コレで終わりならと今迄の鬱憤全部ぶちまけた子も居たらしいし。自分が連帯で処罰されるとしてもステファニーが罰せられるの見れて胸がすく思いがしたと迄言って子も居たらしいしな。若しかしてステファニーもそんな取り巻き達の本音聞いて、自分がどれだけ虐げて来たのか思い知らされてそれであえて最後まで悪役演じきったのかもな」

 

『流石に深読みのし過ぎでは無いでしょうか? ただ考え無しに気持ちの昂るままに罵り悪態をついただけでは無いのですか?』

 

「かも知れねぇな。だけどよ、取り巻きの為に悪態をついてみせたのかも知れねぇと思っちまったら、つい助けてやりたくなっちまってな」

 

『助ける、ですか。オリヴィアに手を出した女にですか?』

 

「けどそのお陰でオリヴィアさんと攻略キャラ達、特にブラッドとの間の新密度好感度は大きく上昇したろ? プラマイで言や十分プラスで、むしろよくやってくれたと思うよ。それに悪役なら最後まで悪役らしくってのも嫌いじゃねぇ。逆にあの縦ロールが言ったみたいに最後だけ貴族の矜持だとか格好つける真似してたら虫唾が走ってたろうぜ」

 

 

 顔に皮肉っぽい笑みを浮かべるリオンに対しルクシオンは『相変わらず捻くれてますね』と呆れとも感心ともつかぬ呟きを零すのであった。




次回からアンジェが再登場です
そしてここからがある意味本番の始りです
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