限界少女とハイスペックダメ人間   作:スティック/糊

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ひどい独自解釈と最早アンチ・ヘイトまである椎名家の闇が捏造されるぞ!

地雷だぞ!

自分に合わねぇときはバックブラウザでお願いします。


虹は掛からない限界少女の門出

 

 夕月はJKである。

 

 昨今の学歴社会では最低限高校くらい出ておかないと最低限の職にすら就けないとされているし、何なら大学を卒業していないと更に厳しいとまで言われている時代の中で特待生と言う身分を手に入れバイト三昧徹夜上等でそれなりにパワフルに頑張って来た苦学生でもある。

 

 何分夕月は捨てられっ子だ。

 

 12月の寒空のもと、町外れの教会に捨てられた孤児である。

 

 高校入学の特待生を勝ち取るまでは質素ではあるモノの、シスターに育てられてどうにか生きてこれた。

 

 高校に入る少し前に面倒を見てくれた教会のシスターは儚くなり、人生ハードモードの突入である。

 

 

 最低限でも生きていくためには高校を出ておきたいのが若者と言う物。

 

 必死に手に入れた特待生と言う地位を捨てたくなかったのだ。

 

 

 夕月には夢がある。

 

 幸せな家庭を築いて日々のご飯に困らない、そんな生活を送ると言う夢だ。

 

 

 人並みの人生を手に入れたいのであれば落ち目の様な夕月は人一倍頑張らねばならなかった。

 

 成績の維持を頑張り、常に学内で上から片手で数えるほどの上位を維持し続けた。

 

 夕月が進学したのはそれなりの進学校で私立だ。

 

 公立高校よりも私立高校の特待生枠の方が魅力的であったためだ。

 

 順位を落として特待生資格を落とそうものなら学費が払えずドロップアウトは容易に想像がついた。

 

 

 夕月は孤児だ。

 

 保護者をしてくれていたシスターが儚くなってからは管理者の居なくなった築50年オーバーの教会が夕月の住処となっている。

 

 NPO法人や児相、色々と面倒なあれやこれがあり、シスターが亡くなって半年が経つ今はシスターが属していた教会の代表が名目上の親権代理人をしてくれている。

 

 してくれているが事実上なんの支援もない。

 

 人生ハードモードだ。

 

 数少ない救いは教会は法人管理している関係上、電気と水と寝床の心配がないことくらい。

 

 ガスまで見て貰えたなら夕月ももっと楽に暮らせたかもしれないが、家賃が0と言う救いの前では何も言えない。

 

 教会の清掃、維持が夕月が暮らす条件なのだ。

 

 

 夕月は苦学生のアルバイターだ。

 

 早朝からガソリンスタンドでのアルバイト、学校が終わればすぐに飲食店のバイトが条例に引っ掛かるギリギリまで続く。

 

 ガソリンスタンドは単純に給料が良いからであり、飲食店のバイトは賄いに釣られた。

 

 家に帰れば成績維持のための勉強が始まる。

 

 そして丑三つ時に寝て、陽が昇る少し前に起きてバイトをしている。

 

 中々の人生ハードモード。

 

 それが夕月の人生であった。

 

 

 〇 ☆ 〇

 

 

 夕月がシスターに拾われた12月12日が戸籍上の誕生日として扱われ、何やかんや人生で初めて一人ボッチで16歳を迎えたことに感動も喜びもなく、ただ年を取ったのだと実感した。

 

 誕生日とクリスマスに焼いてくれるシスターのケーキが夕月は何よりも楽しみだったのだが、シスターはもういない。

 

 すっかりと冷え込んで、教会の居住部もすっかり冷え込んでいる。

 

 寒がりな夕月は冬と言う時期はとても嫌いだ。

 

 何か電気で動くタイプの暖房器具の一つでも欲しいのだがそんな余裕はない。

 

 年季の入った石油ストーブも気楽に使える訳ではない。

 

 ……ひもじい誕生日だ。

 

 そんな日でも夕月は如何に肌を露出している時間を減らすかを考えて急いで着替える。

 

 バイトには遅れることはできない。

 

 冷えた服は乾いているのか濡れているのか分かりずらくて嫌いだ。

 

 いくつかの服をローテーションで着まわしているためかすっかりクタクタだ。

 

 栄養は足りていないはずなのにボリュームを増している駄肉が夕月にとってとても煩わしかった。

 

 

 

 最低な誕生日だ。

 

 夕月はバイト先から逃げるように、奴に見つからないようにと高揚している心臓を必死に抑え込み息を殺すように帰路に着いていた。

 

 

 端的に言えばバイト先の店長に一服盛られた。

 

 そんなことをするから貴様はハゲでデブの独身アラフォーなのだと愚痴りたい気分だ。

 

 さっさと家庭に入ることに関しては夕月もそれは望んでいることだ。

 

 これ以上苦労したくはない。

 

 

 それでも夕月はハゲデブの独身アラフォーで清潔感のない男はイヤだ。

 

 落ち目ではあるものの、夕月はそれなりに結婚と言う物に憧れを持っている女子高生だ。

 

 清貧に育てられたとはいえ、男女が契ることは尊いものなのだと教えられ育ってきた。

 

 真剣に交際して、生涯この1人なのだとそう決めて契りたいのだ。

 

 

 故に一服盛られて致すなど夕月にとって耐えがたい屈辱だ。

 

 下卑た視線を向けてくると思ってはいたが……この様子だと更衣室に隠しカメラを仕掛けられていても何ら不思議ではない。

 

 バイト先の店長に襲われそうになり、アレを力いっぱい蹴り上げて出てきたは良いものの、不調極まりない。

 

 近くの公園の木陰で身を隠すように、木に背中を預け火照る体をどうすればいいのやら。

 

 外は氷点下にでもなっているはずだと言うのに不思議と寒くない。

 

 最悪の気分だ。

 

 バイト先に学校の制服置きっぱなしだ。替えを買う金などない。

 

 色々と最悪の事態が脳裏をちらつくがあのバイト先には行けそうにない。

 

 ……警察を頼ればいいのか?

 

 こんな時にどうすればいいのかなんて知らないのだ。

 

 

 チョンと冷たいものが肌に触れた。

 

 バイト先の飲食店の制服は少し薄手だがバイト中は動き回るから寒いなんてことは感じない。

 

 それでも冷たいのは己の涙が、それとも雪か。

 

 

 こんな形で初雪を拝みたくなかった。

 

 

 もう、どうすればいいのかなんてわからない。

 

 自分の身を必死に抱きしめるようにうずくまる。

 

 

 誰か助けて。

 

 

 そう、言葉にもならない悲鳴を上げる。

 

 こんな社会的弱者などありふれているはずなのに、どうしてそれが自分で、こんなにもつらい思いをしなければならないのか。

 

 何かを信じても救い何てものはなかった。

 

 きっと神様何ていないんだ。

 

 

 

 もう、全部が嫌になってきた。

 

 辛いのだ。

 

 

 がさりと隠れていた植生が揺れた。

 

 

 ああ、終わった。

 

 もうどうにでもなれ。

 

 

 

「あ、悪い、ちょっと退いt――――」

 

 

 奴が来たのかと、あきらめた。

 

 だが、夕月と目が合ったのはそうではない。

 

 小奇麗なスーツを着た若者だ。

 

 夕月とは違った意味で肌は高揚している。

 

 十中八九酔っぱらい。

 

 それはそうだ。ここは飲み屋街近くの数少ない公園なのだから。

 

 

 そんな彼は夕月に退いてくれと頼み切る前に口に手を当てる間もなく、酔っぱらいの最終形態に移行した。

 

 

「ヴォロッロロロロロロロ」

 

 

 ゲロ。

 

 豪快なゲロである。

 

 酒類を提供する飲食店でバイトしているためこういった人を見たことは一度や二度ではない。

 

 その後処理だって何度もしたことがある。

 

 

 それでも真正面からゲロを被る日が来るなんて。

 

 

 夕月はとっさのことに避けることもできず、ただただゲロを浴びた。

 

 

 後に思えばこのゲロが人生においての最大の岐路だと言うのだから救えない。

 

 

 初雪とゲロと誕生日と人生のターニングポイントは少し汚かった。

 

 

 

 〇 ☆ 〇

 

 

 翌日、夕月は処女を失ったが人妻になった。

 

 相手はゲロをぶちまけてきた先日20になったばかりの青年。

 

 

 

 あの日、ゲロをぶちまけられた後の話をしよう。

 

 ゲロをぶちまけられてそれをどうにかしないととわったわったとタクシーに放り込まれそうになったがタクシーに拒否されて、コインランドリーがあって一時的にどうにかできる所……飲み屋街の近くには当然の様に存在するラブホテルが目に入った。

 

 シャワー浴びて身も綺麗にできるし。

 

 シャワー浴びてコインランドリーに服をぶち込むまでは良かった。

 

 

 替えの服などない。

 

 裸体にガウンを身に纏い、一服盛られておかしくなった女と酔いで理性がおかしくなった男が裸体に近しい状態で二人きり、何も起きないはずはなく……と言うやつだ。

 

 

 目が覚めた時には完全に事後。

 

 ベットの上はえらいこっちゃで、破瓜の証拠はがっつりと。

 

 破瓜の痛みの覚えがなかったことだけが救いだろうか。

 

 

 ゆっくりと起き上がればベッドの脇で土下座している男が一人。

 

 

 そこからは怒涛だった。

 

 夕月が致してしまった男はクソが付くほどの真面目人間であった。

 

 誠心誠意謝られ、服の弁償や慰謝料として多額を包まれそうになった。

 

「金で解決できるものだとは思っていない。俺にできることは何でもしよう」

 

 訴えるつもりであれば訴えて貰って構わない。償いはする、と。

 

 そう言われ、ヤってしまったものは仕方ないと夕月のリアリストな面が出来てきて、利用する様で申し訳ないが精々生活基盤を整える助けになってもらおうとした。

 

 

 

 バイト先の制服がクリーニングから返ってきて、それに着替えてタクシーに乗って教会に帰ったらまさかの教会全焼。

 

 意味が分からない?

 

 後に分かったことだがバイト先の店長が火をつけたらしい。

 

 俺のものにならない奴など―――みたいな。

 

 

 処女失って、家失って、ついでにバイト先も失った。

 

 目の前が真っ暗になった。

 

 

 訴えないから電気ストーブが欲しいと夕月は言い、近くの電気屋で買ったそれをその男が家まで運ぶと荷物持ちをしようとしてその場まで着いて来ていた。

 

 置き場を失った電気ストーブの箱を片手に崩れそうになる夕月を支え、こう告げた。

 

 

「責任取って後は俺がどうにかする」と。

 

 

 

 文字通りの最大限の責任を取られた。

 

 責任、それは何か事柄に対して応答する義務。

 

 

 アレを入れられた相手の籍に夕月は入った。

 

 婚姻、つまりは結婚だ。

 

 

 法律上女性は16歳での結婚が許されていた為、多くのことを片付けるのに便利であり、夫と言う立場でなら動けることは多くあると彼―――藤宮真護に娶られたのだ。

 

 役場に居た気のよさそうな老夫婦が婚姻届けの証人になってくれた。

 

 

 そこからの多くは彼任せだ。

 

 夕月はしばらく買えもしなかった新品の衣類を身に纏い、暖かなマンションの一室で委任状を書いて彼に渡してひたすらゴロゴロしていた。

 

 直近で家を出たのは警察の調書を受けた時と唐突ではあるが辞めることを告げにバイト先に足を運んだことくらい。

 

 

 被害届の提出、教会を管理していたNPO法人との相手、非常事態のため一時的な登校が出来ない旨と特待生としてのあれやこれ、焼失物に関しての確認などを1週間も満たない内にすべてこなして見せた。

 

 ……責任を取ると言われてここまで完璧に取られるとは。

 

 

 夕月は新しい制服ができる前には冬休みがやってきてしまうため一足早い冬休みを手に入れて、アルバイトも辞め真新しい参考書を解く、そんな日常を迎えようとしていた。

 

 

 婚姻届けを書くまで名前も知らなかった男の妻になり、夕月は突然やって来た幸福に訳の分からないまま暖かな炬燵でぬくぬくとしていた。

 

 肝が据わっている訳ではない。

 

 結構動揺もした。

 

 今自分に何が起きているのか、それがつかみ切れていない。ただそれだけなのだ。

 

 

 〇 〇 〇

 

 

 夕月は16歳人妻JKとなった。変な属性過多。

 

 皆より一足先に冬休みに突入した。家の全焼を鑑みてである。

 

 常日頃の成績はこういう時に響くのだとしみじみ思う。

 

 特待生の地位を失うことなく、冬休み前に一度課題を取りに行けばいいと言うのだからありがたい話である。

 

 

 夕月の夫となった男は堅苦しいと言うか生真面目。

 

 やや言葉が足りないことがあるが真意を問えばしっかりとその文脈が分るので苦ではない。

 

 個人的には慣れればどうと言うことはないだろう。最初の印象が癖が強いだけで基本的にはいい人だ。

 

 穏やかな質ではあるが、基本的に行動力がおかしい。

 

 聞けば応えるが気の使い方に難は見受けられるが説明すればしっかりと理解する。

 

 なんというか交友関係経験値初心者、とでも言いたい人だ。言葉が足りないのだ。

 

 

 彼は自営業で小説家。

 

 物語を作るお仕事をしている。

 

 昔から本を読むのが好きで物語を考えるのが好きなのだと言う。

 

 現在進行形で売れている作家らしいのだが、娯楽の類いには触れてこなかった夕月にはピンとこなかった。

 

 年は20歳の7月9日生まれ。最後に測った身長は186㎝。

 

 肥満体型と言う訳ではなく、体力維持のランニングや散歩が趣味。

 

 過去に女性との交際経験はなく、物語を作ることだけに夢中になっていた人間。

 

 こんな出来事でもなければ自分は生涯独身だっただろうと彼は言う。

 

 

 彼は金銭に無頓着……と言うか浪費しようと言う考えがないらしい。

 

 強いて言えば椅子や机、パソコンなどには拘っているらしいが夕月にはよくわからない世界だ。

 

 夕月は婚姻届けを提出し、彼の住居である3LDKに転がり込んでから早々に通帳、キャッシュカード、銀行印、クレジットカードを手渡された。「好きにしてほしい」とのこと。

 

 ……訳が分からなかったので問えば、家計は一任すると言うことらしい。

 

 稼ぐことに関しては一切の心配はしないで欲しいと言う。

 

 頭が痛くなった。何を考えているのだと。

 

 

 先達の様を見ていればわかる通り、妻の尻に敷かれているくらいがちょうどいい。

 

 男はATMくらいが一番平和に過ごせる。小遣いは月に3万程あればいい。いや、こう言うのは交渉するのだったか。

 

 そう堂々と言い放った。

 

 

 色々と話し合った結果、月の小遣い3万円。必要経費別。5万を超える買い物は要相談に落ち着いた。

 

 夕月に課された条件ではなく、藤宮真護が自らに課した条件である。

 

 結局夕月が通帳を握らされた。

 

 今現在の預金額だけでも持っていることが怖くなりそうだったのでキャッシュカード以外は戸棚に封印した。

 

 通帳には現時点で一般的なサラリーマンが10年以上働いた年収くらい詰まっていた。部長クラスのである。

 

 とてつもなく金を稼ぐ人間と言うことはわかった。

 

 わかったから結婚指輪は給料3ヶ月分だったかと言って年収の3ヶ月辺りの指輪を本気で送ろうとしないでほしい。

 

 日常生活が気が気ではなくなる。

 

 やはり頭が痛くなってきた。

 

 

 そんな金を稼ぐがそれ以外に無頓着な男は気の使い方が下手くそだ。

 

 ただ家でゴロゴロとしているのも居心地が悪いので家事をしようとすれば「しなくていい」と言われる。

 

 訳を問えば君は家政婦ではなく妻だ。金で解決することはそれでどうにかする。金は稼ぐ。

 

 彼の基本的な考え方として「嫁に貰ったからには苦労はさせない」と言うのが根底にあるらしい。

 

 あるらしいし、それを実行できるだけの財力は有していた。

 

 ……とんでもない家の御曹司なのかと言えば彼の実家は中流を抜けない一般家庭だと言う。

 

 実家の様に家に帰れば誰かがいる、そう言う家庭を築きたいと言うのだ。

 

 それに対して妻をどう労わって良いのかがわからずにでてきたのがこの発言な訳だ。

 

 

 ただおとなしくしているだけだと気分が落ち着かない。

 

 それとも人の手料理は食えないのかと問えば、寧ろ手料理や家庭の味は好きだと言う。

 

 夕月が説き伏せて料理も作ることになった。家事は分業。

 

 将来的に専業主婦の座が目に見えている夕月は出来る範囲はすべてやるつもりだったのだが、稼ぐ男であろうと家のこともやれることはやる主義らしい。

 

 ……こんな優良物件が今までキープされていなかったのが不思議で仕方ない。

 

 

 〇 〇

 

 

 藤宮夕月は人妻である。

 

 この一週間でここまで彼に心底懐かれるようなイベントはあっただろうか。

 

 思い返してみても夕月にはピンとこないが彼のお眼鏡には適ったらしい。

 

 20を越えれば成人として生きていけるだろうと未成年の間の庇護と離婚時の慰謝料のあれやこれを決めようとしていた姿はどこかに行った。

 

 夕月として健康的で平均以上に稼いで毎日の寝床と食に困らなければいいと言う質なので彼と添い遂げることに異を唱える要素はなかった。

 

 ごくごく普通に取り繕う訳でもなく自分らしく過ごしていただけの様に思う。

 

 それなのに夕月の目の前にいる男は古臭さと現代の価値観の捉えずらい男から大型犬の様になっていた。

 

 ……本当に身に覚えがない。

 

 

 だが人生における目標、食うに困らずそこそこ幸せな家庭を築くことは叶いそうだ。

 

 

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