限界少女とハイスペックダメ人間 作:スティック/糊
「夕月、貴方前世はデ〇ズニープリンセスか何かでしたの」
「そんなわけないでしょう。昔からの特技……と言うか特性ですね」
GWを目前に控えたこの頃。
夕月の膝上にはどこかの飼い猫と思われる猫が膝に乗っかっていた。
今日は天気がいいので外で食べましょうか、とメアリの発言で夕月と皐月とメアリは学校の中庭でお弁当を食していた。
メアリは手製で、皐月もメアリの手製。
どうせならみんなで一緒に食べようと夕月の手元にもメアリ手製の弁当があった。
メアリと夕月は通学勢であるが、皐月は一時期家族とギスっていた時期がありその関係で寮暮らしなのだ。
寮暮らしの割には寮がつまらないとメアリの所に高頻度で遊びに行っているらしい。
そんな感じですっかりと葉桜になった桜の木の下……だと芋虫が食事中に出てくるのはイヤなので少し離れたベンチに腰掛け昼食をとっていた。
とっていたのだが、どこからともなく現れた猫が夕月の膝の上に乗っかりわが物顔で占領した。
「なんというか昔から犬猫の類いに好かれやすくて。……毛が付くから降りなさい」
「にゃー」
「ニャーじゃなくて」
夕月は昔から謎に猫と犬に好かれやすいのだ。
それこそ夕月が捨てられた段ボールの中に2匹の猫が入り込んであっためてくれていたと言うエピソードが存在するくらい昔から。
シスターにもメアリからツッコミを食らったように『おめーの前世はディ〇ニープリンセスか』と言われたし、名付けられるときにシスターが暮らしていた向こうの風習に乗っ取ってミドルネームに
日本国籍的にミドルネームとファーストネームは一体化されて登録されるものだと知ってから小猫にするか夕月にするかで少し悩んだらしい。
その話を聞いた時、小猫じゃなくて良かったと夕月はホッとしたのを覚えている。
流石に小猫は可愛すぎる。
夕月はわが物顔で己の膝の上を占領する猫の首根っこを掴んでゆっくりとどかす。
また膝に乗っかってこようとするので鼻先をつつきながらダメだと告げる。
「にゃ」
「それでよし」
そこまですれば猫も妥協したのか夕月の近くで小さく丸くなってあくびをこいた。
猫に説得が聞くことを理解したのは割と最近のことだ。
「夕月羨ましい……」
「服が毛まみれになって大変なだけなんですけどね」
「私は猫に死ぬほど嫌われてるわ」
「……変な構い方してるんじゃ?」
「してないわよ」
その様子を見て皐月から何やら恨めし気な声がやってくる。
やってくるが、なんというか皐月的にすごい勢いで構い倒して嫌われる図が夕月の脳裏に浮かんだ。
「ですが皐月、あなた昨年の夏にうちの実家に遊びに来た時はジョンとケロにアホほど嘗め回されていたじゃありませんの」
「犬には好かれるのよ……大型犬にだけ」
「やっぱり子犬ではありませんか」
「違うわよ」
ああ、犬はスッゴイ舐めてくるのはわかる。
態度はすごい甘えてくるんだけど手も顔もベロベロと。
夕月は心の中で同意しながら慣れた様子で折り畳みの埃取りを取り出してサッと払った。
「興味本位ですが、猫カフェに夕月を入れたらどうなるのか気になってきましたわ」
「バイトの面接に行ったら引くほど好かれて営業にならないからって採用見送られるくらいでした」
「どんな状況ですのそれ!?」
「猫まみれになる」
「何それみたい」
あの時は顔に張り付かれるわ、肩によじ登られるわ、膝を占領されるわで大変だった覚えがある。
猫カフェの店員にまたたび仕込んでんのかと疑われたレベルだ。
私はいつからキャットタワーになったのか。
夕月にとって猫は気が付くと寄ってくる毛玉だ。
一般的に猫に嫌われない作法だのが存在するらしいが、勝手にこっちに来るものだと思っている。
昔、教会のベンチでうたたねしていたらその周りで野良猫の集会が始まった時は何事かと思ったこともあった。
「猫はまだいいの。犬はタックルかましてくるし飛びついてくるから大変で」
「……うちの実家にいる犬はハスキーとサモエドなのですが」
「バイト帰りに散歩中のハスキーに追い掛け回されたことならありますよ」
「……追い掛け回しそうですわね」
「わからないけど追い掛け回されそうな自信はあるわ」
これはいつか皐月と夕月を並べてどっちに興味を示すのか見てみたいですわね。
なんてメアリの呟きを耳にしながら、猫に占領されて食べるのが止まっていたお弁当の残りを食べたのであった。
〇 〇
そんな会話をしていたのはフラグだったのか。
GW初日、夕月と真護は家から比較的近い位置に存在するショッピングモール内にあった清潔で匂いがきつくないと噂の猫カフェに来ていた。
名目は真護の執筆環境の気分転換。
真護は夕月と婚姻する前までは休日に適当な喫茶店を見つけては気分転換にそこで執筆活動をしていたと言う。
それに関して夕月は何か制限させてしまっているようで申し訳ない気持ちになるが、真護的には料理を作るのが面倒で喫茶店に行っていた側面が多いので、寧ろ今の環境の方が落ち着くと言う。
それでも何故今日は外に出たのかと言えば気分転換半分、取材半分。
過去の夕月のバイト遍歴を聞いて、バイト戦士な主人公を題材とした話を年始ごろから書き始めて春先に原案、プロットを編集に送信したのがあの体調を崩したころのことだ。
概ね一巻は仕上がり、来月には店頭に並ぶらしいがそれに先駆けて続編の構想を練っているらしい。
それで夕月の『前世:デ〇ズニープリンセス説』がツボに入ったらしく実際に足を運んだ訳だ。
「話通りとは恐れ入った」
「私の基本は誠実がモットーなんですが?」
入店し、小さなバリケードを越えた瞬間夕月に猫が群がり、席に着いてから流れるように猫まみれになった夕月を見て真護はカメラ片手に感嘆とした声をあげた。
開店直後にやって来たからかあまり人が居なかったのが救いだろう……店員は目を点にしていた。
「ほら、キミは降りる、肩は重い、顔もダメ」
張り付いた猫を慣れた様子で夕月は剥がしながら注意をしていけば渋々と言った様子で離れていく猫との図に真護のシャッターは止まらなかった。
「……まぁ、物珍しい部類だとは思いますけどそんなに連射するものでもないでしょう」
「ハッ、つい」
「ついで撮らないでください」
最終的に夕月の膝上を獲得した三毛猫を撫でながら思わず真護に注意を入れてしまう。
「可愛い×可愛いは正義」
「私の友人みたいなこと言ってる」
力説、と言わんばかりにぎゅっと握った拳をガッツポーズの様に構えながら力説されると何とも。
今構えているカメラだって夕月と旅行と言うかデートをする様になってから忘れさられたように彼の書斎の奥深くから発掘してきたものらしい。
コレからアルバムで棚一つ埋めるくらい色々写真を撮るのだと彼は意気込んでいた。
……藤宮家の御約束事、みたいな感じなのだろうか。
夕月は次に義実家に伺わせてもらった時には志保子の元にそのアルバムは手渡される光景が目に浮かんだ。
「ん…?」
「真護さんの元にも来たじゃないですか」
そんなことを言っていれば同じようにひょいと猫が一匹彼の膝を占領した。
「……夕月の匂いが原因だろうか」
「私の匂いにそんな機能は無いと思いますけど?」
と言うかそこまで匂いが付着する程密着していた覚えもない。
……ない、はずだ。
「試しますか、上着で」
「毛まみれになっても大変だろう」
「既に毛まみれなので誤差みたいなものでしょう」
猫に群がられるのは察していた夕月は今日はシンプル目なコンサバ系で、明るい色合いのためそこまで毛が目立つと言う訳ではないが、それなりに毛が付着していた。
「わふ」
羽織っていたジャケットを脱いで、近くの猫でテスト……しようとすると夕月の視界が暗く染まった。
「急に何するんですか」
「減る」
「何が!?」
夕月の視界を覆ったのは真護の上着であった。
「……俺の取り分?」
「家帰ったら好きなだけとればいいじゃないでs―――――加減はしてください」
「いや、無理」
私の大半貴方のものでしょう、とは口には出さない。
大変なことになった覚えがあるので。
夕月はおとなしく再び自分のジャケットを羽織り直し、真護に上着を返す。
この人ギアを上げるように甘やかしにかかると言うか、溶かしてくると言うか……こちらも自制するの大変なんだぞと言ってやりたい。
「……上着脱ぐと見えますよ、首筋の」
「夕月もな」
「悪びれてる表情が一切ないこの人」
昨晩のアレかと、人の振り見て我が振り直せと言わんばかりに色々察した夕月は何も言えなくなり、寧ろドヤ顔しているこの人には上着を叩きつけた方が良かっただろうかと思ってしまう。
視線を逸らすようにうつむくと、三毛猫と目が合った。
猫と目が合うと言うことは威嚇に相当するとかどこかで見た覚えがあるが、三毛猫はこてんと首を傾げるだけだ。
彼の小さな独占欲染みたものに特に何言う訳ではないし、自分も自分でやり返してしまっているので何とも言えない。
……猫吸うか。
照れた顔を隠すように夕月は猫で顔を隠す。
三毛猫はひょいと持ち上げられても何を言う訳でもなく、小さくニャーと鳴くだけった。
あ、この子雄だった。
〇 〇
猫カフェを程々の時間で切り上げてコロコロと粘着テープで毛を取り除くとモール内の本屋に来ていた。
彼が本屋とすれ違うと大抵1,2冊は入った袋を持って出てくる。
モール内の本屋は全般的に品ぞろえが良い所らしく、新刊コーナーでひょいと数冊手に取りながらも店内を散策する。
欲しい本があれば躊躇うなと言うのが彼の談。
「それなら家の本棚にある」
「……うっかり同じ本を買ってしまうとかないんですか?」
「無いな。覚えてる」
「記憶力がいいんですね」
彼の後ろを着きながらなんとなく本を取ってみれば彼からのコメント。
ちらりと見ただけで家にあるかどうかが判断できると言うのだからすごいものだ。
私はうっかり同じ料理本を買いそうになりましたが?
「あ、並んでま……売れてますね」
「おかげさまで」
「大黒柱ありがたや」
書店の一角、本棚の横にある平積みされたコーナーに真護の作品が並んでいた。
……作家の特集コーナーらしく、数名の作家の作品がまとまっていた。
本は多く積まれている訳ではなく、他の作家よりも山は少なくB5サイズの単行本の帯に『シリーズ累計〇〇〇万部突破の人気シリーズ』の文字が見えており、売れていることが分かった。
「……夕月は俺の仕事に特に何も言ってこないよな」
「人の仕事には口出しませんよ。それに仕事と私どっちが大切なの、なんてめんどくさい事も言うつもりもありません」
「そうか」
すごいな旦那、なんて思っていると真護からそんな言葉がこぼれた。
「昔、シスターに言われたんです『人に口出しする時は責任を持て、興味本位で場をかき乱す馬鹿にはなるな。首を突っ込んだら後始末までしっかり熟せ』って。私には真護さんのお仕事の責任は取れませんから。……あ、それ以外のことはちゃんとやって支えますからね」
「……ありがとう」
夕月は昔、シスターに『人に積極的に好かれるわけではないが、敵を作る訳でもない生き方』と言うものを教わり、その一つがそれだ。
後は『長いものに巻かれて生きたとしても積極的に巻かれに行こうとはするな、己で考えることを忘れるな』『悪意に便乗して人を叩く馬鹿にはなるな。そんなことで正義になったつもりならつまらない人間の出来上がりだ』なんてものもあった。
それらをまとめて言ってしまえば適切な人との距離感の考え方の話になってくるのだろう。
「貴方が私に心を割いてくれるならそれを包めるくらいにはお返しをしたい、それだけですよ。こちらこそいつもありがとうございます」
尤も私に返せるものなどたかが知れていますが。
「それを更に包んでやるくらいには頑張らないとな」
「私のキャパ考えてくださいね。既にオーバー気味です」
「俺のやりたい自己満足だ。気にするな」
「……おバカ」
夕月は真護の頬を軽く摘まみ、抗議をしたが軽く笑って返されてしまった。
「コレ会計したら服を見に行こう。奥さんセレクトで身を包んでおきたい」
「……難易度の高い事を」
「時間はいくらでもあるからな」
「当初の目的はどこ行ったんですか」
「夕月の淹れたコーヒーがあれば頑張るさ」
「……まったく、先に入口の方に行ってますよ」
「直ぐに行く」
当初の目的である執筆環境の気分転換は何処へ流れたのだと摘まんだ頬を追加で引っ張り、呆れたように夕月は苦笑いを浮かべ、今度は男性者のファッション誌の一つでも買っておくべきかと考えながら会計の列に並んでいく彼を横目に入口近くの壁に背を預けるのであった。
纏う衣服も気分転換の一つか、と。
夕月は色々なバイトに挑戦していた過去がありますが一番生活環境をキープしやすく現実的だったのが飲食店とガソリンスタンドのバイトだったと言う裏話。
某借金執事ほどでは無いが色々なバイト歴が存在しているので細かい謎技能を持っていたりする。
数日後の猫カフェ
店員「(数日前の猫まみれカップル……ではないな)」
猫「(ん?あんときの嬢ちゃん……いやちゃうわ)」
周と真昼来店時に一瞬身構える店員と猫の図が存在するとかしないとか。