限界少女とハイスペックダメ人間   作:スティック/糊

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母の日・父の日

 

 GWが終われば母の日がやってくる。

 

 5月の第2日曜日で今年は月初めが日曜日であったこともあり、8日がその日と本当に直ぐにやってくる。

 

 

 母の日と言うことで過去にシスターに度々お世話に成っているからと花壇で花を育てて贈ったこともあった。

 

 ぶつくさ文句を言いながらもあの人は受け取って私室に小振りの鉢植えを置いて面倒を見てくれたっけ。

 

 本当に頑なに(マザー)とは呼ばせてはくれなかったが。

 

 過剰に墓参りに行けば『死人にかまうな。自分に時間を使え青二才』ときっと彼女は怒るだろう。

 

 半年に一回程度にとどめておくことにした。

 

 

 孤児な夕月ではあるが義母が出来たため、志保子に何かを送ろうと計画していた。

 

 そのためGWの最終日に夕月と真護母の日の贈り物を検討するべく町を散策していた。

 

 真護はこの間のホワイトデーで本当に悩みまくり、母の日は連名にしてほしいとのことだった。

 

 

「……ベタなものですとカーネーションとか、フラワーボックスとかでしょうか」

 

「母さんはそこら辺の花でも喜ぶ人間だ」

 

「幼い頃はそうだったとしても、大きくなったんですからもう少し考えましょう」

 

「ああ」

 

 

 流石に自分の収入が出来てからはブーケやらを送っていたらしいが、昔は弟とそこらの河川敷で摘んだ花を花束だと言い張って贈ったらしい。

 

 そしてそれを志保子さんは枯れる直前まで嬉しそうに眺め、最終的に押し花にして大切にしているのだとか。

 

 今思えば摘んだ花の土地の所有関係とか大丈夫だったのか不安になって調べなおしたとか、知識が付いた大人らしいことも零していた。

 

 

「昨年は思い切って父さんと行ってきてくれと温泉の宿泊券を送ったんだが過剰だと怒られた」

 

「やることの段階」

 

 

 それなりに喜んでもらえたらしいのだが『こう言うのはもっとこう老後とかで……』とのことであった。

 

 思い切りが良すぎる。

 

 

「なので今年は無難な方向で」

 

「はい」

 

 

 

 〇 〇 

 

 

 

「公衆の面前で人の頭に顔を埋めてどうしたんですか」

 

「匂いがキツイ。夕月リセット」

 

「ああ、結構鼻がいいんですね」

 

 

 こういう時は無難にハンドクリームかと適当な雑貨屋に入ってみたのだが、真護は眉を顰め、夕月の頭部に顔を埋めた。

 

 単体の匂いは大丈夫だが、色々と混ざり込んでいるとだめなようだ。

 

 夕月は女子高通いで色々なにおいが混ざっているなど慣れっこではあったが、真護にこう言った耐性は無いらしい。

 

 ……かと言ってあすなろ抱きして匂いを嗅ぐのはどうかと思う。

 

 

「ほら、適当に一度出てリセットしましょう」

 

「夕月を嗅いでいれば平気」

 

「公衆の面前でやられるとこっちが気恥ずかしいんです」

 

「ん」

 

 

 手に取っていたハンドクリームを棚に戻し、重い背後霊の様にくっ付いてくる真護を引っ張りながらどうにかお店を出た。

 

 店員と客の目が痛かった。

 

 

 

 珈琲でも飲んで落ち着きましょうと適当なコーヒーチェーンに入ろうとすると、以前志保子からクリスマスプレゼントでギフト券を貰ったと、夕月の手に握らせてきた。

 

 

「ああ、呪文の所」

 

「じゅもん」

 

「ええ、俗世に疎い私でもなんか女子高生が放課後にふらっと寄ってラーメンよりもカロリーの高い甘いドリンクを飲むことで有名なことくらいは知っています」

 

「……概ね事実だが、言い方」

 

 

 これも今どき呪文を唱えなくてもネットでオーダーできると真護は続けかけ、途中で止まった。

 

 

「どうしました」

 

「……夕月に長いカスタムを唱えてもらうチャンスを逃した」

 

「何をアホなことを……トール・キャラメル フラペチーノ・ノンファットミルク・エクストラコーヒー・ウィズチョコレートソース・チョコレートチップですね。覚えました」

 

「……?」

 

 

 何やらアホなことを言っている旦那ではあるが、仕方ないので叶えて差し上げようと夕月はその画面を除いて中身を確認した。

 

 

「ほら、それ注文するんでしょう?行きますよ」

 

「一瞬で覚えたのか」

 

「飲食店バイト経験舐めないでください」

 

 

 ……飲食店バイトはあまり関係ないのではなかろうか。

 

 真護はぐっとこらえ、モバイルオーダーの画面を開いたスマホをポケットにしまった。

 

 

「トール・キャラメル フラペチーノ・ノンファットミルク・エクストラコーヒー・ウィズチョコレートソース・チョコレートチップとトールのエスプレッソ・アフォガード一つ」

 

 

 ……完全詠唱した、だと…?!

 

 真護は戦慄した。

 

 ………これなら某漫画の長い詠唱で有名なアレも即暗記できるのではないか。

 

 真護は今度お願いしてみようと心に決めながら商品受け取り列に並んだ。

 

 

 夕月に長いカスタムを頼んでもらうだけに選んだドリンクは程々に甘かった。

 

 

 

 〇 〇

 

 

 

 その後別の雑貨屋を巡り、真護は生花のカーネーションを夕月はソープフラワーのカーネーションの発送手続きを終えた。

 

 

「母の日が過ぎれば来月は父の日ですか。……修斗さんって何か好きなものあるんですか?」

 

「母さんと同じく大体なんでも喜ぶ」

 

「例年はどのようなものを……?」

 

「カジュアルな服装が多いからネクタイとか、ベルトとか。酒器を送ったらそれで成人になった後の帰省で少し飲んだかな」

 

「なるほど……」

 

「……そうだ。特に決まっていないなら一つ提案がある」

 

「なんでしょう」

 

「今週の中ごろに陶芸に行こう」

 

「とうげい」

 

「酒器なり茶碗なり、母さんとペアになるものがあればおそらく喜ぶ」

 

「なるほど……?」

 

「磁器婚式は去年だったがその時は特に何も送らなかったしな」

 

 

 磁器婚式、25年目の銀婚式や50年目の金婚式の様に20年を祝う呼び方だっただろうか。

 

 

「まぁ、式を挙げるのはしばらく先だから一足早い夫婦の共同作業、と言うことで」

 

「そう言う事でしたら」

 

 

 ……だが、そんな唐突に決めて陶芸できる所あるのだろうか。

 

 そんなことを考えている夕月の思考を読んだのか真護は続けた。

 

 

「この指輪もそうだが、俺の友人にアクセサリーだったり小物だったりを作る友人がいる」

 

「その方が陶芸も……?」

 

「ああ。少し山奥に住んでいるがこういった話の類いは断らない男だ」

 

 

 それとそろそろ奥さん紹介しろと怒られたようだ。

 

 ……お世話になった彼の友人とは一体どんな人なのだろうか。

 

 

 

 〇 〇

 

 

 

 クマ。

 

 大鉢十二(おおばち とうじ)と名乗ったその男に対して、人間にそう形容するのはいかがなものかと思ったが夕月が真護の友人を見た第一印象はそれだった。

 

 THE山男とでも言えばいいのか、真護よりもほんの少しデカい体躯と大変恰幅が良い体型をしてはいるもののだらしないと言った感じはない。

 

 筋肉の塊、と言えばいいのだろうか。

 

 相撲取りも全身は筋肉の様なものと聞くが、彼のは引き締まった筋肉。クマと言うよりゴリラ……?

 

 だが、髭を蓄えていることからやはりクマっぽい。

 

 彼と幾ばくか年が離れているのかと思えば、同い年で小中高と同じ学校に通っていたらしい。

 

 所謂真護の幼馴染と言うやつだった。

 

 

「このバカに振り回されてねぇか、嬢ちゃん」

 

「あ、いえ、基本的に言葉が足りないと言いたい時は多々ありますが非常に紳士的でいい人なので、そんなことは」

 

「こいつはほんとに根っからの善人だし、浮気の類いはねぇと思うから見捨てねぇでやってくれや」

 

「どちらかと言うと見捨てられるのはわたs―――」

 

「それはない」

 

 

 年季の入ったエプロンを付けて、ガハハと豪快に笑う所を見ると中々快活な性格をしているらしい。

 

 真護さん、既にあなたが私を手放す気がないことはと察しましたのでステイ。

 

 謙遜の一種です。

 

 

「ったく、こんないい嫁さん見つけたってのに一向に紹介しやしねぇ」

 

「怖いだろ、お前の外見」

 

「んなこったねぇだろ」

 

「その不精髭そり落としてから言え」

 

「あ?これはデザインしたおしゃれだってぇの」

 

 

 真護の両親への対応とはまた違った遠慮のないやり取りに彼とは長い付き合いが感じ取れた。

 

 

「こんな山奥までよく来てくれたな。こぎたねぇ所だが何か物を作るってことなら大概できっからよ」

 

 

 山奥に住んでいるのは革細工だの、加工物を作る時の臭害関係で周囲に迷惑をかけないようにであったり、金属加工の騒音の対策であったり、デカい窯を持つにはちょうどよさげな物件と考えた結果が山の中だったと言う。

 

 彼は小汚いと形容するが整頓されていて、几帳面な性格なのが良く伝わって来た。

 

 まぁ、年季が入った建物と言うことは確かで人によってはそう感じるかもしれないが夕月も結構な老朽物件に住んでいたこともあってそこら辺をとやかくと感じることはなかった。

 

 

「本日はお忙しい中急な申し出に……」

 

「硬い硬い、このクソボケに長年付き合わされてんだ。むしろ今回は連絡が早かった方だぜ」

 

「……そんなことはない」

 

「そんなことあるだろうがよぅ、おめぇその指輪オーダーしてから納期がどんなもんだったかもう一辺言ってやろうか?」

 

「……悪かった」

 

「ま、しっかりお友達価格じゃねぇ適正金額以上にぶち込まれちゃ断れねぇんだけどよ」

 

 

 あんときは修羅場だったぜ。そもそもダチの勝負時なんだからんなこと言わずにしっかりやったけどよ。

 

 そう言いながら豪快に笑う彼に、この旦那急な行動起こすもんなとなんとなく察して夕月も遠い目をした。

 

 

「って、んなこったァいい。もの作ろうや」

 

 

 色々とストックはあるからどんな雰囲気のもん作りてぇかだけ言いな。

 

 時間は有限だぜ、と言いながら彼は奥へと進んでいく。

 

 

「口は悪いが腕は確かだ」

 

「要らんこと言わんでいい」

 

 

 こいつは小恥ずかしい事を平然と言いやがる。

 

 夕月もそれには激しく同意と深く首を縦に振った。

 

 

 

 〇 〇

 

 

 

 大鉢の話を聞きながら湯呑を作ることと、素焼きの茶碗に絵付けをすることになった。

 

 思い描いていた陶芸の光景と言わんばかりに電動のろくろと棚に置かれた成形された器が並ぶ所に案内され、真護が先に湯呑を作り、その間に夕月が絵付けをすることに。

 

 

「絵柄に悩んだらベターに縁起のよさげなもんを選んでみるのも手だな」

 

 

 夕月がいざ色々な道具と素焼きの器を前に悩んでいると、大鉢はいくつかの作例を手にしながら日本で昔から使われている茶碗に描かれる絵柄について教えてくれた。

 

 十草は金を呼び、唐草は繁栄と長寿、籠目は邪気を払い、青海波は未来永劫と平和な暮らしへの願いがあるんだとか。

 

 器の絵にそう言った縁起を担いでいることを初めて知った夕月はなおのこと悩んだ。

 

 沢山悩めと彼は言い、苦戦しているらしい真護の方へと向かって行った。

 

 

 ……いざ、と言われてもいい感じのものが思い浮かばず、夕月は悩んでいると窓辺に鳥が通りかかった。

 

 山だから都市部よりは野生生物も身近か、と思うと同時に青々とした自然と鳥の構図でいいのではないかと思い付きそれらしい構図を思い浮かべながら書き始めた。

 

 

 

「嬢ちゃん調子はど……完成度たっけぇなおい。美術系の専門でも通ってんのか?」

 

「いえ、普通のミッション系です」

 

「マジか」

 

 

 とりあえず描けたなと一息つくと真護の方もいち段落したのか大鉢が様子を見に来た。

 

 夕月は椿と小鳥を描いた。

 

 

「絵を描くのが趣味とか」

 

「無いですね」

 

 

 入院生活でやることなさ過ぎてごねたらシスターに画材渡されてちょこちょこと風景画を描いていた時期もあったが、趣味かと言われるとそうではない。

 

 一時縁あって漫画家のアシスタントのバイトを見つけて2ヶ月程やっていたが生活リズム的に合うものでは無いと限界を感じて早々にやめたくらいか。

 

 週刊連載のアシスタントは本当に修羅場で勉強する時間が捻出できなかった。

 

 あのままだったらテストヤバかったな、なんて一年ほど前のことを思い返して遠い目をしてしまう。

 

 給料は割とよかったんだけど、バランスが……。

 

 

「はー、天性のもんかねぇ。ちなみに奴は絵心がまるでない」

 

「既定のパターンならいける」

 

「お、出来たか」

 

 

 大鉢は夕月の書いた絵付けをまじまじと見ながら感嘆の声を上げつつ、真護の絵心をあっさりと暴露していた。

 

 真護も小さく反論するが、軽く流される。

 

 夕月も自分の絵付けが出来たので真護の出来上がった湯呑を見ることにした。

 

 シンプルで表面に凹凸が繰り返されている焼き物の湯呑と言ったらこんな感じと言わんばかりのものが出来上がっていた。

 

 湯呑って感じの形状だ。

 

 

「んじゃ、交代だな」

 

 

 そう言われ二人は作業場所を交替し、黙々と作業を始めた。

 

 

 

 〇 〇

 

 

 

「すっかり日も暮れちまったから気ぃ付けて帰れよ」

 

 

 絵付けと陶芸が仕上がり、焼きあがったら指定の日にお前の実家に送っとくと言われ帰路に就いた。

 

 なんというか快活で気のいい人だった。

 

 昔からもの作りが好きな人で、同じように創作の類いが好きな真護とは気があって仲が良かったのだと言う。

 

 互いに高校卒業早々にしっかりと専業として仕事が出来ているのだからすごいものだ。

 

 

「お祝いも貰っちゃいましたね」

 

「ああ」

 

 

 ちょっぴり奥まった山道から峠道に出てゆっくりと下りながらも帰路を走る車の後部座席には置かれた木箱。

 

 そこには結婚祝いと称して彼の作った夫婦茶碗が収まっていた。

 

 

「俺にとって数少ない友人だ」

 

「気のいい人でしたね」

 

「些か大雑把が過ぎる所もあるがな」

 

 

 やや呆れたようにつぶやく真護の横顔にはそれでもどこか優しさを感じた。

 

 

「……奴に相手が出来たら俺も何か送るさ」

 

「そのいつかが楽しみですね」

 

「そうだな」

 

 

 あいつもひょっこりと突然結婚してそうな気がする。

 

 真護はそんなことを呟きながら、薄暗い峠から家に向ってアクセルを踏み続けた。

 

 




 とりあえず真昼との遭遇時期を考えるとするなら二人が付き合った後よなぁ、と考えていたらここまで伸びた。

 と言う訳で次回は原作で体育祭のあった6月上旬ごろのお話の予定。


 ちょっとした設定として真護の友人は小物作り職人(大鉢)と服飾馬鹿が居るものとする。
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