限界少女とハイスペックダメ人間   作:スティック/糊

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ありがとうございます。

感謝。

亀更新でエタると思いますがよろしくお願いします。


わかりやすくて分りずらい独占欲

 夕月の通う学校はミッション系でお嬢様学校系だ。

 

 クラシカルな可愛いと評判であるが夕月にとっては無駄に高い制服と言う印象しかない。

 

 私立であり、その運営元はNPO法人だ。

 

 一定数のお嬢様が通っているからか寄付は潤沢であり、庶民以下の底辺の夕月でも頑張り様では勉学の機会を手に入れられる努力するものには門を開くタイプの学校だ。

 

 偏差値も都内では上位に位置する進学校であり、金持ち喧嘩せずを体現したような穏やかで真面目な人間ばかりが集うそんな学校だ。

 

 

 ……と言うのは建前であり、ちょっと癖の強い子女を寄付でぶち込むケースもそこそこみられる。

 

 やんちゃな子に礼儀作法を覚えて来いとぶち込まれるような所なのだ。

 

 中高大の一貫校で、外部編入の夕月も当初は色々と絡まれたものだ。

 

 

 

 

 制服や教科書の類いを買いそろえるために一週間と少しぶりに夕月は学校の門を潜った。

 

 本場の様式を取り入れた大講堂には何やらすごい人が設計したと言うパイプオルガンが設置してあると言う厳粛な建物が真っ先に目に入る。

 

 終業式を終え閑散とし始めた午後の校内で職員室へ向かう途中に夕月は拉致され、一部上位寄付者の子女に与えられるサロンルームの一室に連れ込まれていた。

 

 

大親友(ベストフレンド)夕月!お元気な姿が見れてとてもうれしいですわぁ!」

 

「おはようございます、メアリ」

 

 

 日英ハーフの近藤・S・メアリ。天然のブロンドヘアにがっつり日本人顔であることがミスマッチだと本人的にはコンプレックスらしいがとても美少女。エネルギッシュの塊。

 

 夕月が真護の即断即決に耐性があったのは先にこの行動力の化け物に遭遇していたからだろう。

 

 ご実家は北海道で大農園を営む近藤農園の孫娘。

 

 

「ごきげんよう、夕月。大変な目に遭ったみたいね」

 

「皐月もおはよう」

 

 

 メアリと対になるようなTHE大和撫子と言わんばかりのおっとり黒髪和風美人の六連皐月。

 

 外見に沿った……と言うと語弊があるが大変堅苦しい御家柄で男系は大体警察の官僚で彼女自身も某県警の警視監の娘さんだ。

 

 

 そんな二人とは色々と縁があって……と言うか入学早々にトップ成績をとったことによる絡みから交友は始まった。

 

 最初期こそ喧嘩腰であった二人ではあるが今では良く分からないほど良くされている。

 

 口は悪いが基本的に面倒見のいい二人である。

 

 

「夕月に手を出そうとした不届き物はちゃーんと処してそれに関する人間も夕月の視界に入らないように処理したから安心してね」

 

「夕月のアルバイト先の飲食店も我が家が買い取って北海道系の飲食店に改修したのでバイト先の人間に恨みを持たれることもなくってよ」

 

 

「……ありがとうと言えばいいのか、サラリと色々な情報を握られていることに関して恐怖すればいいのか」

 

「感謝なんていいのよ。私の大切な大切な友人に乱暴加えようとしたカスは塵にするに限るもの」

 

「べ、べつにワタクシはあそこの土地結構立地良くて我が家的に理になるからそうしただけですわ」

 

 

 ふふ、と下品に見えないお上品な笑いでとんでもないことを言いだす皐月とツンデレ?ぎみに照れ隠しをするメアリに過保護が過ぎると呆れる気持ちとさらっと権力を行使し始めるあたりにお嬢様すごいの一言である。

 

 

「感謝は述べるね。ありがとう」

 

「いいのよ。気にしないで。そんなことよりもコレ、説明して」

 

 

 そんなこと、と分類するには夕月にとって多くの面倒ごとを発生するであろう事象の後始末を一言で流した皐月にとっては夕月の左手薬指に嵌められた銀色のそれに対しての言及の方が優先される様だ。

 

 すらりとしながらも剣道少女であることを表すように固い皮膚の皐月の手に左手を包まれる。

 

 メアリも気になるのか首をブンブンと縦に振っている。

 

 

「結婚した」

 

 

 左手の甲を出すように手を包まれたままほんの少し持ち上げる。

 

 真護がアホみたいな金額の指輪を送ろうとしてどうにか制して程々の金額に抑えられた――――と夕月は思い込んでいるがプラチナと内側にK24の金の装飾が細密に組み込まれたかなりのお値段の一品だ。

 

 それを見て二人はその育ちからかシンプルな甲丸リングの素材から雑に扱われている訳ではないと察した。

 

 

 ちょこんと埋め込まれている2連のカラーダイヤのランクを察したメアリは特にそう感じた。

 

 ブラウンダイヤは彼女の瞳の色から選ばれているモノだろうし、その隣のブラックダイヤはおそらく彼女の旦那のものであろう。

 

 夕月がこういった宝石類に疎いからと随分と盛りましたわね……。

 

 この短期間でここまで独占欲を滲みださせる男、只者では無いしそれを成した夕月にもほんのちょっぴり戦慄した。

 

 

「それは見て分かりますわ」

 

「結婚したのね私以外と」

 

「皐月、ここは日本だし私たちは女性同士だからね?」

 

「冗談よ」

 

「一切冗談の目をしてませんでしたわよ貴方」

 

 

 そもそも皐月との間にパートナーシップ的なものはない。

 

 一種のからかいではあると認識はしているが、一般的な友人関係以上の重い感情を向けられていることは理解している。

 

 

「突然夕月の住んでいた教会の全焼ニュースが流れて慌てて色々な情報を調べたら、事情聴取で生存していることは知っていたけれど追えば追うほど色々なことが出てくるからこの一週間ほんと気が気じゃなかったわ」

 

「そうですわね。ワタクシの方も皐月からそれを聞いて夕月のバイト先を調べましたが、飲食店の方はテンヤワンヤでガソリンスタンドの方もお辞めになられていると言いますし、大変なことになっているのではと慌てましたわ」

 

 

 それでも今日こうして学校に足を運ぶことを学校から聞かなかったら色々としましたわ、とのこと。

 

 

「心配をかけたみたいね。ごめんなさい」

 

「夕月が謝ることではないわ。全部、全部クソ野郎が悪いの。夕月は悪くないわ」

 

「ええ、これはワタクシ達が勝手に騒いでいただけですわ。気にすることではなくてよ」

 

 

 でもこうして無事な様が見れて一安心。

 

 そう彼女らは続けた。

 

 

「真っ先に私たちを頼ってくれて良かったのに。そうすれば良く分からない男に掻っ攫われずに夕月を囲い込めたのに」

 

「さらっと怖いこと言ってんじゃねぇですわ。ですが私たちに連絡を取らなかったことは少し寂しいですわね」

 

「……ごめんなさい」

 

「謝ることではないの。こっちの身勝手。夕月自身に連絡の術はないし色々と大変だったことは察するわ」

 

「これを機に連絡手段の一つは持っておいてほしいですわね。ですので―――」

 

「それに関しては夫にスマホを持たされた。使い方は良く分かってないけど」

 

 

 彼女らは真っ先に自分を頼ってくれないことに対する不満と、それが行えなかった状況は察した。

 

 それはそれとして今後このようなことがない様に、今ならスマホの一台や二台持たせられるチャンスなのではないかとメアリは懐から真新しいパッケージに包まれたスマホを取り出そうとするが不発。

 

 夕月が懐から6インチほどの端末を取り出したからだ。

 

 

 夕月は昨日出かけた際に真護から連絡手段がないと気が付かれてからは最速で彼と同じ携帯キャリアの最新機種とやらを持たされた。

 

 電話の応対は教えて貰ったがそれ以外はまるで理解していない。

 

 今まで教会の備え付けの電話で事足りていたからだ。

 

 スマホは夕月にとって未知の機械である。

 

 

「夕月に連絡手段をしっかり持たせるのはいい事ね。番号教えなさい、私が先よ」

 

「貴方キーボードオンリーの民でしょう、私が操作しますわ」

 

 

 夕月がスマホを取り出すと我先に己の連絡先を登録しようと皐月は身を乗り出し、不発に終わった端末を何も言わずに懐に戻したメアリがそれを制そうとする。

 

 メアリは2台めをシレっと持たせてもいいのではないかと思いはしたが、指輪からにじみ出る独占欲からおとなしく引き下がった。

 

 夕月は良く分かっていないし、二人の連絡先が分かる分にはどちらでもいい。

 

 何なら操作が分かるであろうメアリに投げてしまいたいほど。

 

 

「喧嘩するならじゃんけんして」

 

「そうね。喧嘩は良くないわ」

 

「そうですわね。覚悟はよろしくて」

 

 

「「最初はグー!」」

 

 

 2人は犬猿の仲、と言う訳ではないし彼女ら同士の方が夕月との交友関係よりずっと長いものだと聞いている。

 

 入学して彼女らと交友が出来てから『百合の園に邪魔する悪い猫!』と良く分からない生徒に突っかかられたこともあった。

 

 『そんなカプ厨は適当に捨てておきなさい』とメアリに雑に退かされていたが。

 

 まぁ、なんというか夕月としても手のかかる妹の皐月を包容力ある姉メアリが仕方ないとしているような構図であることはわかる。

 

 あとカプ厨とやらの説明はして貰えなかった。

 

 

 登録の優先権はメアリが獲得し、皐月はぐぬっていた。

 

 旦那に後ろ暗い所はなさそうだけれど無体を働かれたら直ぐに言うように、と念を押され夕月は本来の目的である職員室へと向かって行った。

 

 夕月の真新しいスマホには旦那と友人2名の名前が連絡帳に連なった。

 

 

 

 職員室で色々とお話を聞きつつ、今後の状況の確認をし購買部で必要な類いのものを段ボール一つにまとめて貰っていたのでそれを持って夕月は駐車場へと向かう。

 

 それなりに重量はあるモノのバイト戦士をしていた夕月にとって大した苦ではなかった。

 

 

「お待たせしました」

 

「気にしてない」

 

 

 女子高の駐車場に成人男性をぽつりと待たせているのはまぁまぁの苦行だと思うのだが。

 

 夕月が制服や体操服、教科書の類いを抱えて車に近づくと車のハッチを開けて荷物を受け取っていた。

 

 トランク部に荷物を置きドアを閉めるのを確認すると夕月は助手席に座る。

 

 

「お手洗いとか問題ありませんか?あちらに来客用のお手洗いがありますけど」

 

「問題ない」

 

 

 なんやかんやで空気的に居づらい場所ではあったようで夕月がシートベルトを締めるのを確認するとエンジンをかけて速やかに出発していった。

 

 ……必要があれば一人で乗り込んでいませんでしたっけ?

  

 

「これが学生服です」

 

「似合ってる」

 

 

 夕月は制服に家で一度袖を通した。

 

 以前着ていた制服はシスターに買って頂いた思い入れのあるものだったが、夕月が襲われた際に無残なことになったので処分となった。

 

 よくあの状況からバイト先の制服に着替えて逃げ出せたものだと今でも思う。

 

 形あるものに執着をするなとシスター教えられていた為、比較的落ち着いて受け入れられたのは彼女の遺品である十字架が手元に残っているからだと思う。

 

 決して自分は母ではない、導き生きるすべを教える先達でしかないと常々自称していた彼女はそんなことに執着するなと怒るだろうが、夕月にとってはそれは大事な事なのだ。

 

 

 新たな環境で新たな制服に身を包む。

 

 それは夕月にとって一つ意識を変える重要なポイントなのだ。

 

 

 なのだが……制服以前に彼に色々と服を与えられていたので大きな感傷はない。

 

 

 一瞬だけあの時の光景が脳裏を過ぎるが彼の柔らかな笑みでそれがいつか解れることを夕月は願った。

 

 

「制服でスケベなことはしません……よ?卒業間近くらいにしてください」

 

「しない!!!」

 

 

 夕月は少しトボケるようにそう告げる。

 

 きっとその頃には彼があの時のトラウマを消してくれるだろう。

 

 

 

 〇 〇

 

 

 

「クリスマス、ですか」

 

「ああ」

 

 

 本格的に冬休みに突入し、季節柄はすっかり年末。

 

 クリスマスだ。

 

 数日でクリスマスと言った所で真護からその日はどうするか、何か欲しいものはないのかと尋ねられた。

 

 スマホを手に入れてから二人とSNSアプリケーションでチャット……は夕月があまりにも文字入力に時間がかかるため通話をする様になった。

 

 通話料金のことで顔を真っ青にしたがすかさず真護のツッコミが入る。

 

 ネットも通話も定額だから気にするなと言われたため、一日30分程度と時間を決めて友人と会話をする時間が増えた。

 

『クリスマス、ですか。夕月にバイトなどで時間が削られることなく交友の時間が生まれたと考えれば盛大に祝いましょう』

 

『皐月。夕月は新婚ですわよ、おやめなさい』

 

 なんて会話があったので冬休みに彼女らとの予定はない。

 

 春休みには時間を作ってね、と念を押されたのでそれは調整させて頂く所存だ。

 

 

 バイトがあればクリスマス商戦のためにケーキ売りのバイトでもしていただろうがそれもないためすっかりと暇だし、彼と過ごすつもりであった。

 

 シスターの属していた教義では死とは神のもとに帰る喜ばしいこととされているため、仏教徒の様な喪に服すと言う物はないため祝い事はしっかりと祝うべきものとされている。

 

 それでも仏教徒に属する四十九日も過ぎているため問題はないだろう。

 

 

「特に欲しているものはないですね」

 

「……そうか」

 

 

 クリスマス、祝うぞ!と彼は割とイベント事には積極的な様子。

 

 曰く実家の両親、特に母がそう言った行事や季節ごとに力を入れる人だと言うのでその影響らしい。

 

 

「しいて言うなら料理本……でしょうか」

 

「いつでも買える……」

 

 

 日々料理をする様になり、夕月のレパートリーはそう多くないためメニューを増やすことは料理本だろうか。

 

 そう思案すると現に数日前に購入した料理本を手にしている夕月に真護はそれはクリスマスと言う特別なイベントごとに対するプレゼントとしては物足りないとツッコミを入れた。

 

 

「プレゼントなどなくとも別に一緒に居られるならそれでいいんですけど」

 

「……」

 

「あの、照れ隠しに頭を撫でるのはやめてください」

 

 

 彼に頭を撫でられるのは嫌いではないが照れ隠しに起因する事柄で撫でられるのはなんか釈然としない。

 

 頬を膨らませそう言えば困ったように優し気なまなざしで優しく撫でられた。

 

 

「好きな所触ればいいじゃないですか」

 

「ん」

 

 

 そう言うと彼は夕月をひょいと持ち上げて自身の膝の上にのせて背後から抱きしめられた。

 

 腹回りに手を回されているがきつい訳ではないので良しとしよう。

 

 

「そうですね……悩んでください。あなたの悩む時間を貰う事にします」

 

「……良いものを用意する」

 

 

 夕月はそれっぽい言葉で思考を投げた。あまり何かに執着しすぎたくないためだ。

 

 その考えを改めていい環境にいることは理解しつつも夕月にはまだ受け入れられてはいなかった。

 

 

 そんな夕月の内心とは裏腹に真護は気合を入れた。

 

 

 

 〇 〇

 

 

 

「女性の憧れる一品ですし、なんとなくあなたの意地は伝わりましたが一つ言わせてください―――おバカですか」

 

 

 クリスマス当日。

 

 夕月は真護に連れられて立派な夜景の見えるレストランに連れてこられ、しっかりとしたプロポーズできていなかったと婚約指輪を送られた。

 

 

「既に私はあなたのものでしょう」

 

 

 なのにこんなものを送って。

 

 彼の意地だとは理解する。金のリングに眩いダイヤ。女性の憧れる代物だろう。

 

 それなりの価値のものだとは思うが自身には過ぎた代物だと自戒する。

 

 

 それでも、と真護は配慮なんてものはない己の言葉で確かに彼女への思いを告げた。

 

 

 その指輪は静かに涙を落とす彼女の指に優しく通され、以後大切に保管されることとなった。

 

 

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