限界少女とハイスペックダメ人間   作:スティック/糊

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とりあえずかけた()


言葉足らず、勢い止められず

 12月26日

 

 夕月はホテルから車で家へ向かった。

 

 端的に言えば分からされた、とでも言えばいいのだろうか。

 

 少なくともまだまだ栄養失調と低体脂肪から女性特有のアレは不順を起こしており万が一の心配はないだろうが、そう言う心配のあることを行った。

 

 聖夜のn時間にまんまと乗ってしまった訳だ。

 

 些かふしだらな女になってしまったのではないだろうか。

 

 誠実な関係にあるからそれは違う、と言っていいのか。

 

 

 自分自身に対する羞恥と熱烈な言葉を浴びせられたことにより、一晩明けても火照っている気のする顔に飽きれながら、心身ともに娶られてしまったような気分になる。

 

 事実そうなのだが。

 

 昨日送られた一粒のダイヤモンドのついた指輪はまだ夕月の薬指に結婚指輪と共に嵌められている。

 

 帰ったら絶対ケースに入れて棚に仕舞う。

 

 夕月にとって傷つけたくない大切なものに確かになったのだ。

 

 

 少し視線を彼の方に向けると数日前より彼の表情が柔らかくなっているような気がした。

 

 何かやり切ったと言わんばかりの表情に小突いてしまいたい気持ちがある。

 

 

 もの言いたげな夕月の視線に気が付いたのかどうしたと笑う。

 

 ……かっこよく見えるどうしよう。

 

 自分はこんな軽い女だったのか。

 

 いや、操は立ててるし浮気などする気もないし、他に現を抜かすほどの隙を彼は寄越しはしないだろう。

 

 隙、と言うか好きを埋められたと言うか、愛情を注がれたと言うか。

 

 赤面する顔を必死に抑えるようにキャパをオーバーしそうな夕月は視線を逸らした。

 

 

 そんな夕月の様子を事故を起こさぬよう、横目で見ると綺麗に輝く太陽の様な髪に真護は小さく笑みをこぼした。

 

 

 

 帰宅するころには自制心が効いてきた。修道女見習いをして来た自制の力が発揮されたのだ。

 

 アレが常時だったら身が持たない。ダメ人間になってしまう。

 

 平静をとり戻した夕月を見て真護はそれはそれでと一つ笑った。

 

 ……もしかしたら彼はとんでもなく意地が悪いのかもしれない。

 

 善性方面で配慮しなくなった彼は少し心臓に悪い。 

 

 

 マンションのエントランスを流れるように真護はスルーしていったが夕月には部屋に割り振られたポストの中から不在票がはみ出ているのが見えた。

 

 

「真護さん、不在の伝票です」

 

「……?」

 

 

 足が長いからか歩調の広い彼に追いつこうと駆け寄り、不在票を手渡した。

 

 

「ああ、両親から……不在着信か」

 

 

 荷物の送り主は彼のご両親のようで、彼はスマホを取り出すと不在着信が来ていたことに気が付いたようだ。

 

 深く気にした様子はなくエレベーター前に向かう足取りはすんなりと小さくなっている。

 

 横に並ぶと自動で歩幅が狭くなっていらっしゃる……?

 

 

 

 自宅に着くと夕月は小洒落た女性らしいレストランのドレスコードに合わせたドレスをどう洗濯したものかと悩み、とりあえず洗濯ネットに入れてドラム式洗濯機に突っ込んでいると電話片手の真護にちょいちょいと手招きされた。

 

 

「4日まだ冬休み?」

 

「ええ。うちの学校は少し冬休み長いので」

 

「ん」

 

 

 夕月の通う学校の長期休暇は少し公立高校に比べて長い。

 

 その代わり授業内容の進行は早いのだが、如何せん良い所の子女が通っている影響か休みは少し長く10日まで休みが続く。

 

 熱心な信者たる生徒は新年礼拝に赴くが夕月はそれに該当しないため赴くことはない。

 

 修道女見習いとして育てられたが、将来は家庭を築きたいと思っていた為、教義への宣誓はしていない。

 

 つまりはなんちゃってシスター見習いと言うやつだ。

 

 だからこそシスターは夕月に生きていく術を教え込んだのだ。

 

 

 何故に休暇の予定を?

 

 そう疑問に思うが彼の手には電話。

 

 ――――え?

 

 まさかと夕月が動揺している間にも話は進む。

 

 

「大晦日に来るそうだ」

 

「……あ、はい」

 

 

 どうやら年が明ける前に夕月には一つの試練がやってくるらしい。

 

 え、年明けの予定を聞かれたのフェイク……?

 

 何故に一回フェイントを入れた。

 

 電話を終えたらしい真護の頬を何も言わずに小さく引っぱった。

 

 

 

 〇 〇

 

 

 

「決して、両親に隠すようなことではないし喜ばしい事だ。連絡を怠ったのは俺だ」

 

 

 ぷくりと頬を膨らませてソファーに座ればその前に真護は正座した。

 

 

「こう……準備と言うか、心構えをする時間とかってあると思います」

 

「すまない」

 

「私も親と言うものに対しての思考は抜けてたから責めることはできないですけど」

 

「決して親に紹介できないような子であるとか、そういう風に思っている訳ではない」

 

「ええ、概ね理解しました。色々と速度を求められている場面でしたし」

 

 

 真護は少しアワアワと身振りをしながら完全に両親への紹介と言うフェーズをすっとばしている事実に関しての謝罪をした。

 

 おそらく彼の天然の様な所で完全に思考から抜け落ちていたことも想像に難くはない。

 

 本心からそう思っていることはラフに両親と電話していたことから察せられた。

 

 

「……仮に結婚後に直ぐにでもご挨拶行くべきところをここまで忘れていた自分に恥じているだけですよ」

 

「そこは俺が動くべきところだった」

 

 

 それに君はいきなりどうこうできるような精神でもなかっただろうと彼は続ける。

 

 

「それはそうですけど、やるべきことを完全に忘れてた阿婆擦れのダメ嫁であると言う事実が」

 

「それは違う」

 

「これは自分への感情を整理する吐露ですので、構ってほしいアレとかじゃないです。だから手を包まなくていいですし、抱きしめなくてもいいですからぁ!」

 

 

 こういう所は行動で示すんだよなぁこの人。

 

 なんというか結構感情に機敏だ。

 

 夕月が自分を下げるようなことを口にした瞬間にこれである。

 

 これ以上口に出すと分からされるのでセーブ。

 

 ちょっと冷静になるようなことを思考の片隅に置いておかないと抱きしめられる熱量でどうにかなってしまいそうになる。

 

 ……やっぱり私ダメ人間だな?

 

 

 

「藤宮家は……俺の実家だ」

 

「貴方の性質を知っているからといってそれはそれ、これはこれでしょう」

 

 

 この体制にするのこの男大好きすぎではないだろうか。

 

 少し落ち着くと夕月は彼の腕の中に包まれるよう例によって膝の上に乗せられていた。

 

 

「ご両親のことを教えてください。お迎えする準備をしたいので」

 

「子供に気を使われるより構い倒したい類いの人間だ。準備はいい」

 

「真護さんは勝手知ったる我が家なご両親でしょうけど、私は初めまして何ですから最低限の準備くらいは許してください」

 

 

 こう、お好きな飲み物とか、食べ物とか。

 

 不出来な嫁と言うか義理の娘だとは思われたくないので、と夕月は顔を伏せるように続けた。

 

 夕月の中では初手マイナスで始まっているような状態なのだからこれ以上下がった状態にはなりたくはないのだ。

 

 

「その可愛さを見せれば一発。母さんは落ちる」

 

「違います、そうじゃなくてですねぇ」

 

 

 そのままの夕月が最適解、と胸を張ってドヤる真護から夕月はどうにかこうにか情報を引きずりだす。

 

 事前に用意しておいたハッシュドビーフをオムライスに掛けて昼食にすれば、行けるそのままで行ける、と言った思考を少し逸らすことに成功したのか彼からいくつかの情報は引きずり出せた。

 

 

 母君が志保子さん。

 

 エネルギーの固まりの様なハツラツとした人。

 

 何かとイベントごとに力を入れてくれていた人で娘ほしいなぁ、と常々言っていた為名実ともに娘になった夕月は構い倒されるだとろうとのこと。

 

 

 父君が修斗さん。

 

 穏やかな気質で母よりも料理を作る方。おふくろの味と言うより親父の料理が藤宮家の味らしい。

 

 放任、とまではいかないが子の意見を尊重して自由にさせてくれる人で『真護の選んだ人なら僕からとやかく言うつもりはないよ』との言質は取ったとのこと。

 

 

 藤宮家が子供をのびのびと育てていることは理解した。

 

 

「お好きな食べ物は」

 

「何でも食べる」

 

 

 おそらく『このなんでも食べるは好き嫌いの類いはない、出されたものに文句をつけるような人ではない』と捉えられるが夕月が聞きたいのは好きなものだ。

 

 せめて紅茶か珈琲か緑茶なのかくらいは教えて欲しいのだけど。

 

 彼が続けて言っているのは『取り繕わなくても藤宮家は受け入れてくれる』と言うことなのだろうけどそれはそれ、これはこれなのだ。

 

 夕月は一人百面相を行いそうになりながらも『普段通りを見せるのが一番理解する』と言うことを言いたいのだとしばらく自己問答をした末にたどり着いた。

 

 藤宮真護語学検定一級の道は程遠い。

 

 せめて子供ができる前には一級を取っておきたい。

 

 子供と旦那のすれ違いとか見たくないので。

 

 

 それはそれとして気は使いたいので食と美容に詳しいメアリに『義父母へのお茶菓子になにか用意したいのだけどアドバイスを』と頼れば大喜びで色々なものを選出してくれた。

 

 彼女のご実家の商品の中から年末期間でも営業している取り扱い店舗情報、そのような用途として平均的に選ばれるであろう価格帯、甘め、渋め、しょっぱめ。それに合う飲み物の選定まで短時間でしてくれた。

 

 持つべきものは友。

 

 ありがとうメアリ愛してる。

 

 そう告げれば『ふふ、食のことなら近藤農園を御贔屓に』と返って来た。

 

 夕月はスマホを拝んだ。

 

 

 〇 〇

 

 

 

 ひと月ほど前に末の息子の様子を見に抜き打ちチェックをした際に志保子は1人の少女と出会った。

 

 とても可愛らしく、昨今では珍しいほどの純朴な少女で、いつかくる将来を楽しみに感じる……そんな少女だ。

 

 早く娘になってくれないかなぁ。

 

 志保子は次男である周を生んだ際の後遺症で更に下の子を望めない体になってしまっていたからこそ、娘と言う存在には強いあこがれを持っていた。

 

 男の子な息子たちが可愛くない訳ではないが、それでも憧れと言うか昔からの願いと言う物はどこか引きずっていた。

 

 いわばこれはこれ、それはそれである。

 

 

 真昼ちゃんいい子だったなぁ。

 

 末の息子にあまり細かく進展具合を聞くのは自重しているがほんのわずかにこぼれてしまう。

 

 あの息子が自宅、それも私室にまで許している時点で息子からの矢印は上々。

 

 真昼ちゃんの方も全く意識していない男の部屋で寝ると言うこともないだろう。

 

 あの様子を見るに脈はあると思うのよね。単にお隣さん、という枠組みからは少し超えているのではないだろうか。

 

 些か自分に都合よく解釈してしまったか。

 

 それでも今後の未来が楽しみなのは確かだ。生活にハリが出る。

 

 話の流れから周の母であることから出てきた言葉であろうがお母様なんて言われた時は少し箍がはずれてしまったものだ。

 

 さりげなく真昼と連絡先を交換し外堀を埋めに走るのは少し出しゃばりすぎているだろうか。

 

 料理上手で気立てが良くて、とってもかわいい。

 

 訳あって親元を離れて一人暮らしを始めた周は中々運命的な出会いをしたものだ。

 

 あちらで暮らし始めて周にとって好転しているのであれはそれ以上に求めることなどないのだけれど、ほんの少し欲張ってしまいたくもなる。

 

 

 そして、志保子にはもう一人息子がいた。

 

 周よりも4つ年の離れた今年成人した息子だ。

 

 幼いころから本が好きで、高校時代に賞を取りそのまま作家としての道を歩んでいる。

 

 ちょっぴり言葉足らずではあるが藤宮家の人間はその言葉の意図はわかるし、あの子も周のよう少しばかり人間関係でトラウマを抱えた結果ああなったのも理解している。

 

 時間が解決してくれるものなのかどうかは分からない。

 

 親の贔屓目かもしれないが気配りは出来るし、見た目も少し冷たい印象はあるモノの美醜的にもウケのいい容姿だと思っている。

 

 もっと人と交友してくれればな、なんて大学への進学を勧めてみたりもしたのだが息子の執筆業は大当たりを起こし、地元の本屋でも特集の様に目立つ位置に並んでいるのを見かける。

 

 親として誇らしい気持ちと、あの子に時間は与えられなかったことへの悔しさ半々。

 

 高校を卒業を機に家を出て出版社からほど近い位置に家を借りて自立してしまった。

 

 本人も口下手なのを理解して余計に閉じこもっていく様だ。

 

 あの子にも何か転機が起きないだろうか。

 

 何か新しい趣味でもいいし、成人したからこその付き合いとか。

 

 正月の親類の集まりの前には程々のお酒の飲み方も教えないと。

 

 何か大きな失敗をする前に、親として教えられることがあるなら教えておきたかった。

 

 些か息子の自立するのが早すぎで寂しい。

 

 ダメ人間になってほしい訳ではないが甘えられるうちは甘えて欲しいのだ。

 

 母親から息子に向って思う気持ちだからか難しい所。

 

 夫の修斗も大きな反抗期もなく自立が早いと嘆いていた。

 

 反抗期と言えば父親を殴るくらいの反発があるのではないかとウキウキしていた人だ。

 

 今でこそ穏やかな人だが昔は結構アグレッシブだったらしい。

 

 

 

 そんな成人した長男と次男に志保子と修斗はクリスマスプレゼントを贈った。

 

 真昼ちゃんにも何か送りたかったのだが、交際もしていない男の母親から贈り物をされるのは少し重いだろうと自重した。

 

 自重したが外堀を埋めるように息子の写真は送った。

 

 

 クリスマス当日に着くようにプレゼントを贈り、その日の夜……だと何があるかは分からないがいきなりそこまでは進展しないか、と電話をした。

 

 周の方は少し前まで側に真昼ちゃんもいたようでなんだかいい方向なんじゃないのと口角が上がったまま真護にも電話をした。

 

 電話は繋がらず、不在着信。度々執筆に集中して気が付かないことがあるらしい。

 

 確認したら電話をすること、とSNSメッセージを送りスマホを閉じる。

 

 倒れている、なんてことはないだろうが明日の昼まで連絡がなければ行動に移せるように準備はしておく。

 

 周に様子を見て貰うようにお願いして、自分たちも動けるように。

 

 

「お兄ちゃんの方はお仕事が恋人かしら」

 

「もしかしたら真護にもいい出会いがあったかもしれないよ」

 

「そうだったら嬉しいんだけどねぇ」

 

 

 それでもこの時ばかりは夫と共にクリスマスだからとちょっといいワインを開けてすっかり寂しくなった我が家で夫婦で静かな夜を過ごした。

 

 

 

 翌日の11時過ぎに折り返しの電話があった。

 

 日曜日であっため問題なく電話に出れた。

 

 27と28はまだ仕事だから早く連絡がついてよかった。

 

 ちょうど修斗の運転で食材の買い出しに近所のスーパーに向かっている道中だった。

 

 

「真護から電話が来たから出るわね」

 

「ああ」

 

 

 修斗は車のエアコンの送風を少し弱くし、ナビのコンソールから音量を少し上げた。

 

 志保子も運転をする時はあるのでハンズフリーで通話ができるようにナビと繋がっており、電話に出ると車の音の反響から息子の声がした。

 

 

『母さんか、久しぶり。今不在伝票を見た』

 

「もう、お仕事に集中するのも程々に。健康が一番なんだから。とりあえず元気そうでよかったわ」

 

『最近は改善している』

 

「ホントかしら」

 

『ああ』

 

 

 電話に出てみればいつもの息子の声……なのだがほんの少し柔らかい様にも聞こえた。

 

 車の音響のせいだろうか。

 

 

「真護はまるで物欲ないみたいだから色々と良さそうなチョコとか、バームクーヘンとか。喫茶店のギフトカードも入れておいたから家に引きこもったままじゃなくて散歩するついでにでも使ってちょうだい」

 

『チョコとか菓子とかか。ありがとう』

 

「横着しないでちゃんと受け取りなさいよ」

 

『わかった。食材買いに行くついでに運輸に寄っておく』

 

 

 ……おや?

 

 ちらりと視線を修斗の方に向ければ彼も一瞬だけ志保子と合わせた。

 

 出来のいい息子なのだが如何せんだらけ癖の様なところがあるので、外食や宅配が多かったように記憶している。

 

 それが食材を買いに出かけるとは、本当に改善の傾向があるらしい。

 

 

「先に不在伝票に気づいたと言うことはどこか出かけていたのかい」

 

『ん、父さんも居たのか。と言うことはどこかへ買い物か』

 

「僕らも食材の買い出しに、だよ」

 

『そうか。俺は今帰って来たところだ』

 

「帰りには寄らなかったのかな」

 

『すっかり忘れて、とりあえず着替えるのに一度戻った感じだ』

 

 

 ……おっと?

 

 再び修斗と志保子が視線を合わせると無言でちょうど通りかかったコンビニの駐車場に車を止めた。

 

 

「いつものようにふとした拍子で小旅行?」

 

『都内のホテル』

 

 

 ん~?

 

 

「缶詰……と言う訳ではないのだろう?」

 

『ああ。ホテルのレストランの予約を取るのに出版社のコネは使ったが缶詰ではないな』 

 

「何か気になるものか取材かな」

 

『いや?プロポーズのリベンジ』

 

 

 ――――――英断。

 

 本当に速やかにコンビニの駐車場に車を止めたのは英断だった。

 

 冷静な方ではある修斗でも運転中だったらハンドル操作を誤ってしまいそうな衝撃が襲ってきた。

 

 流石の修斗も昨日は『もしかしたら真護にもいい出会いがあったかもしれないよ』なんて言っていたのが事実になっているとは思うまい。

 

 

「そ、それでそれで成功はしたのかしら。入籍は何時?」

 

 

 修斗が口を開く前に志保子が一瞬の硬直から復活して実際に近づける訳でもないのにナビの方にグイっと近づいた。

 

 その興奮はわからんでもない。

 

 親の知らぬ間に息子が一世一代の行動を起こしているとは。

 

 

 志保子も脳内の情報を整理する前に少なくともホテルから今帰ってきた情報から概ね成功はしているのだとは察してはやる気持ちを抑えきれずに入籍の予定を聞き始める始末。

 

 

『怒られた』

 

「……はい?」

 

『入籍自体は先週して、結婚指輪は送ったんだが。改めて婚約指輪を送ったらもうすでにあなたのものでしょうと怒られた』

 

 

 息子、ちょっと父には情報が過多だ。

 

 少し頭を抱えたくなるが今頭を抱えたらハンドルに頭をぶつけてうっかり車のクラクションを鳴らしかねない。

 

 

 志保子も想定の斜め上方向の情報に目をぱちくりとさせていた。

 

 情報が処理しきれない。

 

 

『今は彼女の指に重ね掛けしてるから問題ない』

 

「そ、そうなのね」

 

 

 セーフ。

 

 一瞬のことではあるが色々な想定が脳裏を過ぎったが破局はしていない模様。

 

 

『ん、ああ。籍入れたの伝え忘れてた。結婚した』

 

 

 今じゃない。

 

 息子が天然なのは理解しているがそれを伝えるタイミングは今じゃないじゃないか。

 

 志保子と修斗はシンクロする様にガクリとうなだれた。

 

 その勢いで修斗は小さくクラクションを鳴らしてしまい慌てて周囲に何でもないですとジェスチャーをするが近くに車は止まっていなかった。

 

 

「その、授かり婚とか……ではないんだね」

 

『そうではないな。緊急性に駆られる事情があって慌てて籍を入れたがそう言ったことはまだ先だし、彼女はまだ学生だ』

 

 

 ちょっと情報が多すぎる。

 

 緊急性……?結婚に緊急性を求められるものとは。

 

 パッと思いつくのは成人年齢の引き上げで来年から男女ともに結婚可能年齢と成人年齢が18歳になることだろうか。

 

 だが今の状況下では関係のない事だろう。

 

 

『彼女のプライバシーにかかわるから了承を貰わないと詳しくは言えないが、決して弱みを握られたとかそう言うものでは無い。……俺のやらかしが大きい部分はあるが』

 

「……色々と聞きたいことはまだあるけれど、ひと先ずはおめでとう。なんであれ真護の選んだ人なら僕からとやかく言うつもりはないよ」

 

「私も以下同文。報告が遅れたのは減点よ。義理の娘が出来たのはこの上なくうれしいのだけれど」

 

『……すまない』

 

「ひとまず、そのお相手の方のご両親とのご挨拶の日程とか決まり次第教えて欲しい」

 

「いえ、それより先に義理の娘に会いたいのだけど」

 

『彼女は孤児でお世話になっていたシスターを3月頃に亡くしている。だからいない』

 

「―――わかった、一先ず4日。年明けの4日に周の様子を見に行くつもりだからその時に会えるか確認できるかな」

 

『わかった。聞く』

 

 

 想像以上に複雑な話らしい。

 

 志保子と修斗には想像がつかないほどの何かがあったのだと思う。

 

 少し電話から顔を話したのか小さな音量で真護がすぐそばにいるらしい彼女に声をかけるのが聞こえた。

 

 

「いえ、年内。31日にはそっちに行くから」

 

「志保子さん……?」

 

 

 一転、志保子は真剣な声色でそう告げた。

 

 

『ん、伝えておく。切るよ』

 

 

 電話越しの真護はそれに呼応するようにしっかりとした声で返事をした。

 

 

「最後に、一つ。真護はその相手と幸せになれるかい」

 

『それだけは絶対に問題ないと言い切るよ。幸せにするし、幸せになるよ』

 

「ならいいんだ」

 

 

 それだけ聞ければ親として何も言うことはない。

 

 サポートは全力でするけど。

 

 

『ああ、彼女を逃がしてやるつもりはないからな』

 

 

 そう言って真護の通話は切れた。

 

 通話が切れて、車のナビからは再びFMラジオの声が流れ始めた。

 

 キッリ、と言わんばかりの真面目な顔をしていた志保子も通話が切れると首を左右に振り回しこの感情をどうすればいいのかと言わんばかりの暴れ具合。

 

 

「修斗さんどどどどどどっどおどどどどうしましょう。息子の奥さん。義理の娘、出来たわ」

 

「ああ、出来たね」

 

「どんな子か気になって、逸る気持ちでどうにかなっちゃいそうだから31日って言っちゃったけど……修斗さんは大丈夫かしら」

 

「問題ないよ」

 

 

 明日明後日がお休みなら今すぐにでも行きたいのに、と言わんばかり。

 

 ……この分だと親類の集まりは申し訳ないけど参加できそうにない。

 

 こればかりは息子の方を優先させてもらおう。

 

 

 息子の吉報と言うとんでもないプレゼントが一日遅れで藤宮夫妻の元に舞い降りた。

 

 

 突然の情報量に背中をシートに預け、天を仰ぐ。

 

 あの息子をああもさせる子とはどんな子なのだろう。

 

 どんな子であれ祝福はする。

 

 それに息子はもう成人済みだ。親が口を出すところではないだろう。

 

 彼は彼の選択をしたのだから。

 

 修斗も勢いで動くところがあるので若かりし頃の自分を思い出して苦笑いを浮かべてしまう。

 

 

 先ほどうっかりクラクションを鳴らしてしまったし、只車を止めるのも申し訳ない。

 

 高揚した気分を落ち着かせるためにも何か飲み物を買ってこよう。

 

 まだ感情の整理が追い付いていないらしい志保子に飲み物を買ってくると告げ、修斗は外に出る。

 

 

「快晴だ」

 

 

 

  




お隣の天使様にいつの間にかダメ人間にされていた件
コミカライズ3巻のスマホに表示されている12月11日が土曜日だったので
「ほな2021年と仮定するか。コロナとかめんどくさい要素は抜きにして」

私がガバしない限りは当二次創作に置いて主人公たちの出会いの年は2021年と仮定して曜日を思考します


―追記―
聖夜のn時間に誤字報告を頂きますが聖夜と言うか性夜の6時間と言うか――――おっと誰か来たようだ。

誤字ではない。
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