限界少女とハイスペックダメ人間   作:スティック/糊

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志保子は固まった

 

 志保子は固まった。

 

 

「ご挨拶が遅れてしまい申し訳ありません。本来こちらからご挨拶に伺うのが筋かと思いますが、ご足労頂きありがとうございます。真護さんと婚姻させて頂きました。夕月と申します」

 

 

 真護の妻は玄関先で志保子と修斗を迎えた。

 

 

 礼を入れる姿はあまりにも堂に入っている。

 

 だが、志保子が固まったのはそこではない。

 

 その姿があまりにも似通っている。

 

 少なくとも赤の他人では通用しないほど、自身が可愛がりたい椎名真昼と言う少女と瓜二つであった。

 

 勿論子細は違うし、ほんの一瞬そう感じるだけで多くの部分は違う。

 

 髪型、好みであろう服装。

 

 多くが違うし別人だと認識は出来るが余りにも似ている。

 

 

 ―――うちの息子たちの趣味は非常に似通っているのかしら。

 

 

 様々な可能性に脳裏が高速で動き回るが、志保子の着地点はそこだった。

 

 

 〇 〇

 

 

 12月31日。

 

 夕月は御昼過ぎ頃にやってくると言う藤宮家のご両親と顔合わせをした。

 

 場所は真護が居を構える都内某所。

 

 

 初手、第一印象が9割と聞く。

 

 チャイムが鳴ると同時に夕月は自身の持つ全霊で先制の挨拶を決め込んだ。

 

 

「初めまして。真護の父の藤宮修斗と申します。志保子さんがどうしても最短で会いたいと急な対面になったけれど気を楽にしてほしいな。真護も半年ぶりだね」

 

「ん、久しぶり」

 

「以前あった時より顔色が良くなったんじゃないか」

 

「夕月パワー」

 

「そうか。良くしてもらっているんだね」

 

「居ないと俺が死ぬ」

 

 

 真護さん曰く藤宮家の良心、大黒柱。

 

 穏やかで優しく見守ってくれる人。

 

 僅かに探るような視線はあるが決して何か厳しいものを見る視線ではない。

 

 距離を測られているのだと思う。

 

 真護の言葉もやはり短いものではあるが、その気楽さをとても感じる。

 

 

 そして、もう一方。

 

 女性の平均身長程の背丈でパンツルック。

 

 バリキャリ、とまではいかないものの共働きをしていると聞くのでその影響だろうか。

 

 とてもエネルギーを感じる雰囲気の女性だ。

 

 そんな彼女は目を見開いて目を点にして口に手を当てながら何か大きな衝撃を受けたような表情をしていた。

 

 

「あの、何か粗相をしてしまいましたか」

 

「え、あ、違うの。ちょっと個人的な衝撃が大きかっただけよ。決してその、夕月ちゃんが何かした訳ではないわ!」

 

「は、はい」

 

 

 何かやらかしてしまっただろうか。

 

 いや、初手以前の段階からマイナスな印象であることは否めないだろう。

 

 なんというか何か気を使わせてしまった。

 

 夕月の眉は少し下がった。

 

 

「ほんとに、本当に極個人的なことで衝撃を受けて、可愛い娘ヤッターって感情が駆け巡って固まっちゃっただけよ。夕月ちゃんは何も悪くないのよ!?」

 

 

 重ねて気を使わせてしまった。

 

 夕月の眉は再度落ちた。

 

 

 

 〇 〇

 

 

 

 ちょっとした擦れ違いから始まったが志保子が慌てれば慌てるほど事態はすれ違うようで、真護がちょっと落ち着けと言わんばかりに夕月を抱き上げ、修斗は志保子をドウドウとなだめながらリビングへと向かって行った。

 

 何か盛大にすれ違ってる。

 

 真護は説明しておく、珈琲が良いと思うと夕月をキッチンに置き、両親を連れてソファーに向かって行った。

 

 

 ……緊張でやらかしてしまった。

 

 夕月はここから入れる保険はありませんかと部屋の隅で丸くなりたい衝動に駆られながら、お湯を沸かしている間にゴリゴリとハンドミルで珈琲を挽いた。

 

 少し手間がかかるものを選択したのは夕月の冷静さを取り戻すためのものだろう。

 

 何かと気を使わせてしまっている。

 

 こう、優しさ由来のものであるからこそ夕月には気が重かった。

 

 絶対ダメな子だと思われた。

 

 

 ゆっくりと時間をかけて気を落ち着かせるように珈琲をドリップして、珈琲に合うだろうメアリのおすすめの中から選んだ万人受けしそうな茶菓子を選んだ。

 

 

「お待たせしました」

 

「ありがとう」

 

 

 夕月は慣れた様子でサーブし、ご両親の対面の席に腰を下ろした。

 

 

「真護から聞いたけど、本当に挨拶の手順など気にしないでほしい。本来そこに気を付けないといけないのは真護だからね」

 

「そう言って頂けると気が休まります」

 

「ああ。二人が幸せで居られるかどうかが最優先だからね」

 

 

 ……これが藤宮家の良心。包容力がすごい。

 

 事前の段階から真護も自身が悪いと自戒していたが、こう彼が放す言葉は二手三手飛ばして結論を述べることが多い。

 

 流れとして話していた所は確かに不自然ではないのだが、その中に結構結論を混ぜ込みがちな気がする。

 

 旦那の真意を拾えなくて何が妻か。

 

 当の本人たちは気にしていないことを理解しながらも気を引き締めるため夕月は心の中で懺悔した。

 

 悔い改めよう。

 

 

「本当、本当に気にしないでね」

 

「はい、すみません緊張から少々穿った考え方をしてしまいました」

 

「俺が悪い」

 

「そこ、話しの展開省いて結論述べる癖」

 

「……すまない」

 

 

 うん、これは真護なりの『穿った考え方になったのは俺の言葉足らずに起因するものだろう』と言うフォローなのだろうが、やはり飛ばしている。

 

 真護さんの悪い所はそう言うところだと思う。

 

 かと言って、彼が素直に話している時はドストレートの本心で話し始めて心臓が持たないのでこちらの勝手でセーブさせているのだから、やはり私はダメ人間なのだろう。

 

 そしてそれを口に出せば真護の分厚く熱い熱量の言葉がやってくるのでお口にチャック。

 

 

「はは、夕月さんは真護の癖のある話し方もちゃんと理解があるようでよかった。真護も程々にしないと愛想をつかされてしまうよ」

 

「それはな……い」

 

「彼が素直に話すとドストレートに本心を話してくるので私の身が持たず、自重して頂くようにお願いしているので、善性・ポジティブな方面のことを言っていることは理解してますし、真護さんもそこは断言してください」

 

「ん」

 

「どちらかと言えば私が愛想付かされる方が早いかと思いm―――」

 

「それはない」

 

「……そう言う所ですよ」

 

 

 なんでこうなのか。

 

 本当にそう言う所。

 

 

「うん、杞憂だったみたいだね」

 

「そのようです」

 

 

 

 〇 〇

 

 

 

「あの、この状態に持って行きたがるのは藤宮家の特性か何かで」

 

「……ごめんね?」

 

「流石にこの年になってこの状況は気恥ずかしいのですが」

 

「いつものことだろ」

 

「それはあなたが夫だからでしょ」

 

「私も義母だから許して?」

 

 

 私は猫ではないんですけど。

 

 珈琲が少し冷めるころ、すれ違ったことにダメージを受けしょぼくれる志保子を見てか、真護は志保子をダイニングテーブルからソファーに行くように指示し、その流れのまま夕月は真護にひょいと持ち上げられてソファーに座った志保子の膝の上に収まった。

 

 そのことに抗議の声を上げれば、まぁまぁと言わんばかりに宥められた。

 

 

「彼は大柄で力持ちですが、その志保子さんには重いのでは」

 

「幸せの重みね!」

 

 

 ここまでされれば夕月は嫌でも志保子から悪い印象を持たれている訳ではないことはわかる。

 

 けれどもこの体勢をほぼ初対面の女性に取られるのは恥ずかしい。

 

 

「……コレから長いお付き合いをさせて頂くのですから背後から抱きしめられるよりも対面で目を合わせてお話をさせて頂きたいのですが、ダメでしょうか」

 

「もうちょっとこの状態で」

 

「……」 

 

 

 夕月の作戦は通らなかった。

 

 女性らしい柔らかさに包まれながら、夕月は藤宮家の包容力を食らった。 

 

 どこか夕月に効果は抜群だった。

 

 既に真護にキャパオーバーまで愛情は注がれていたが、それとはまた別途の何かの様に感じた。

 

 

 

「誤解を解く方法が力業過ぎる……ああ、お二人に言っているのではなくこのデカいのに言っているんです」

 

「すまない」

 

「どう見てもすまないって感情の顔じゃなくてやり遂げた顔じゃないですか」

 

「僕からもごめんね」

 

「私からもごめんなさい」

 

 

 たっぷり三分志保子に抱きしめられ、解放されると今度は真護の膝の上に載せられそうになったのでどうにか流れを元に戻すため再び席に戻った。

 

 

「……私はどういう感情になればいいんですか」

 

「藤宮家に慣れてくれ」

 

「既に包容力はイヤと言うほど理解した気がします」

 

 

 すっかり温くなった珈琲を口に含みながら、すっかり取り繕う気力がなくなっていた。

 

 ビジネススマイルの様に張り付けていた笑みはなくなり、いつものフラットな表情に戻ったのだが藤宮家の皆の視線は温かい。

 

 ……やはり力業過ぎる。

 

 

「流れるように化けの皮をはがされてしまいました」

 

「夕月は可愛い」

 

「まったく……飲み物入れなおして頂いて良いですか」

 

「わかった」

 

 

 夕月は頭を抱えたいような状況から一つため息をつくと、真護に飲み物を入れてきてほしいと頼んだ。

 

 意識を切り替えるにはブラックコーヒーでは少し足りなかった。

 

 ご両親のカップ……はまだ減っていないか気にしないでほしいと意思表示をされたためか夕月と自分のカップを持って彼はキッチンに向かって行った。

 

 

「改めて、彼との関係性……と言うか籍を入れるに至った経緯をお話させてもらえばと思います」

 

 

 夕月は真っすぐ彼らを見て、事の経緯を隠すことなく説明した。

 

 それこそ、自身が陥った状況から彼との中々癖の強い出会いまで。 

 

 彼らは途中で口をはさむことなく静かに聞いてくれた。

 

 

「……とまぁ、そんな流れで彼に娶られまして。作り物めいた話ですがどれも証拠が残っているので証明は出来ますね」

 

「うぅ……私この子幸せにするぅ……」

 

「母さん、それは俺の役目だ」

 

 

 説明中、志保子さんの顔はころころと変わり、修斗さんは無言でコーヒーカップを傾ける回数が増えていた。

 

 

「それからまぁ、成人までは庇護して慰謝料として幾ばくかを残す、なんて公正証書を本気で起こそうとしていた姿は何処へやら。彼はこんな感じになってました」

 

「……起こすか」

 

「話の流れで言っただけ。それについては解決したでしょ」

 

 

 椅子に座っているのに真護は夕月を抱きしめんとソワソワし、志保子は小さく涙し、修斗は完全に真顔になっていた。

 

 

「真護」

 

「ああ」

 

「ならいいんだ」

 

 

 修斗と真護はアイコンタクトを交わし、夕月には分からない何かのやり取りがあったようだ。

 

 これで伝わるコミュニケーション……。

 

 

「手が足りなければいつでも動くよ」

 

「ありがとう」

 

 

 そこまで言えば修斗は真顔からふっと元の柔らかな表情に戻った。

 

 

「夕月さんは何も心配しなくていいからね」

 

「は、はい」

 

 

 その笑みが別の意味で怖く感じてしまうんですが。

 

 

 〇 〇

 

 

 混沌。

 

 僅かな頭の痛みを覚えながら夕月が顔を上げるとその場の光景は混沌としていた。

 

 時計を見れば既に年は明けており新年を迎えている。

 

 ダイニングテーブルでは修斗と真護が突っ伏しており、そのそばには酒瓶がいくつか。

 

 

「夕月ちゃん起きたのかしら。あけましておめでとう」

 

「え、あ、はい。あきえまし、あけましておめでとうございます」

 

「今年からも末永くよろしくね」

 

「は、はい。よろしくお願いします」

 

 

 夕月は状況が飲み込めなかった。

 

 ソファーから目を覚ました夕月は目をぱちくりとさせながら再度状況を確認するがやはり呑み込めない。

 

 

「もう少し膝枕しててもいいのに」

 

「え、あ、いえ――――すみません!?よ、よだれが」

 

「気にしない気にしない。気持ち悪いとかない?」

 

「そう言うのはありませんけれど、あの」

 

「夕月ちゃんは気にしいなのねえ」

 

 

 先ほどまで志保子に膝枕をされていた状況や、酔いつぶれている男性二名、慈愛の表情を向けている志保子。

 

 やはり夕月は状況を飲み込めない。

 

 目を白黒させているとお水持ってくるわね、と志保子が席を立ちキッチンに向かって行く背を見て、どうしてこうなっているんだと頑張って思考を巡らせた。

 

 

 

 夕月が覚えている範囲を思い返す。

 

 昼過ぎに帰って来た夫妻にご挨拶をして、なんかすっごい包容力にぶち込まれ、結婚に至った経緯などの説明をした。

 

 うん、ここまでは覚えている。

 

 

 その後時間が時間で、そろそろお暇させてもらうねと修斗が帰宅を促したが志保子が娘を可愛がりたいとごねてもう少し時間は延長し、お泊りする方向に話は進んで行った。

 

 年越しそばと、何か食事を僕が用意しようと修斗が張り切りった。

 

 何から何まで客人にさせる訳には、と夕月は食い下がり一緒に料理をすることに。

 

 じゃあ、これを機に真護にはお酒で失敗しないように飲み方を覚えて貰おうと言う話になり、居酒屋でバイトをしていた経験があるのでそう言った類のメニューなら何でも作れますと名乗り出た。

 

 夕食は修斗が用意し、お酒のつまみを夕月が作る。

 

 そう言う話にまとまって、近所の24時間営業のスーパーに真護の運転でみんなで行った。

 

 志保子に包まれ、真護に手を繋がれ微笑ましい表情をしながらカートを押す修斗と言う構図になってたのも覚えいる。

 

 

 帰ってきて修斗と料理を作っていると真護と志保子が乱入しようとしてキッチンが狭いと追い出したのも覚えている。

 

 

 それからお蕎麦メインで夕食を食べて、夕月は色々と居酒屋メニューを作り……あれこの後が思い出せない。

 

 僅かに痛む頭を抱えながら必死に思い出そうとする。

 

 

「お水どうぞ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「夕食の時、夕月ちゃんが間違って真護に注いだ日本酒飲んじゃってね。本当に気持ち悪くなってたりしない?」

 

「少し、頭は痛いですが大丈夫です」

 

「そう、お水飲んでね」

 

 

 どうやら夕月は酔ってしまったらしい。

 

 やらかした。

 

 ―――――ん?

 

 夕月はお酒を飲んでしまったこと、という事実を認識すると徐々に記憶が戻ってきて顔を真っ青に染める。

 

 やらかしたどころの騒ぎではない。

 

 

「―――顔真っ青、え、救急車」

 

「あちがい、違うんです。酔っぱらった時の自分のやらかしの記憶が戻って来ただけなので」

 

「本当に具合が悪い訳ではないのね」

 

「はい」

 

 

 ダメだ、まともに顔を見れる気がしない。

 

 真っ青になった顔を赤く染め上げながら夕月は近くにあるクッションを手に取り、顔を埋めソファーの隅で丸くなるように小さくなった。

 

 羞恥がすごい。

 

 ほんの少し思い返すだけでも、突然抱き着くし、泣きわめくなどをしていた。

 

 

「別に私たちはこんなことで嫌いにならないし、寧ろ嬉しかったのよ」

 

 

 小さくなった夕月の頭を志保子は優しく撫でる。

 

 先ほどまでの素直で可愛らしく、感情を表に出して、息子のことを好きだと満面の笑みで告げた夕月の姿がこの上なく嬉しかった。

 

 自制心がとても強い子なのは良く分かったが、もう少し自分に優しくていいのに。

 

 それは彼女の中ではとても難しい事なのだろう。

 

 志保子はそのことを理解しながらも少し不器用な娘が出来たことがうれしかったのだ。

 

 

「安心して。あなたはもう藤宮さんちの家族よ」

 

 

 志保子は自己嫌悪に陥ってしまった娘をゆっくりと撫で続けた。

 

 

「今後お酒は、飲みません」

 

 

 夫婦そろって酒でやらかすなんて。

 

 

「私たちは楽しみにしてるわ」

 

「揶揄ってませんか」

 

「揶揄っては……いないわよ?」

 

 

 それでも成人するその日を楽しみにしてくれるのだと、成長していく姿を見守りたいのだと言う思いは確かに夕月に伝わった。

 

 




以下・夕月のやらかし(だと思っているモノ)一部抜粋

・志保子にいきなり抱き着く

・志保子にお母さんって呼んでいいのよーと言われると「シスターは最後までお母さんって呼ばせてくれなかった」とギャン泣き

・出来の悪い子でごめんなさいとギャン泣き

・盛大に惚気る

・二人におとうさんおかあさんと甘える


 修斗は真護が可愛い嫁を見すぎるなと嫉妬して酒で潰しにかかるのが楽しくてハイペースになったが潰れているふりして狸寝入り。

 真護はそんな修斗を見て満足し、完全につぶれた。

 志保子はみんな酔っぱらってしまったのでハンドルキーパーで飲まなかったが唯一素面で一番おいしい空気吸ってた模様。

 時系列整理し直したら原作で志保子が真昼と初邂逅した翌日が当作品の夕月と真護がであった日の模様()
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