限界少女とハイスペックダメ人間 作:スティック/糊
感想評価誤字報告ありがとうございます。
「
「うん、元気してた。メアリのお陰でご両親の挨拶の茶菓子に困らなかった」
「それは何よりですわ!」
夕月は冬休みの最終日、近藤・S・メアリと六連皐月の二人に呼ばれ、メアリの家でお茶をしていた。
3学期まで待てねぇですわと言うメアリの発言からもう少し早い段階の冬休みのどこかのタイミングでお茶をしようと言う話だったのだが、色々と予定が嚙み合わずに最終日になっていた。
そこまでズレたのなら学校で会えばいいのでは、なんて思ったのだが学校だと夕月が絡んでこないと半強制的にこの日となった。
「何ぶー垂れてやがりますの皐月は」
「……私も役に立ちたかった」
「皐月の立ち振る舞いはとても参考になったよ。ほら、私結構粗暴なので」
「そう」
頼るタイミング、と言うか得意な場面が皐月とメアリで違うのだからこれは仕方ないのだが、皐月は夕月に頼られずにメアリばかり頼られたことに拗ねていた。
「夕月はそのままでもとっても素敵よ」
「かなり贔屓目入ってない?」
「そんなことない」
「そうですわよ、もう少しあなたは自身の魅力を理解しなさいな」
「魅力……?」
隙あらばスキンシップしてくる皐月に手を包まれながら、夕月は慣れない賞賛の言葉に首を傾げた。
「どうしてそこで首をかしげるの?」
「私はただの意地汚い普通の子だよ」
「何仰いますか、一見は儚げな令嬢と言わんばかりの儚さと圧倒的な精神の誉高さ。その様はまさに儚さとチカラ強さを両立する高嶺の華」
「……そんな立派なものでもないよ。せいぜいアスファルトから生えてくる雑草くらいじゃないですか」
「夕月、この世には雑草と言う名前の花は無いのよ」
「そうですわ。どこで咲いていようとそこにいると分かる生命力が素晴らしいのですわ。高嶺の花だってそこに訪れた者にしか本当の姿を見せないものですわよ。野風雨風に負けず、ただそこで腐らず咲き続け、否、咲き誇っているから美しいんですわよ」
「本当に大層なものじゃないんだけどね」
まぁ、頑張ってアピールして見つかった、と言うより場末にやって来た変人に見つかった。
その変人がたまたまいい人だったって感じなんだけど。
「くっ、こうなったらwrestlingで分らせるしかありませんわね」
「剣道合気道どっちでもいいわ」
「何で言葉困るといつも肉体言語になるの二人は」
「「
……まぁ、夕月が彼女らと仲良くなれたのは二人がお嬢様の皮を被った脳筋だからである。
端的に言えば、入学直後に成績トップに躍り出た夕月が気に入らない皐月が絡んできて、他でも勝負しろと騒ぎ立て、夕月はバイトがあるからと拒否し、最終手段で皐月がバイトに行く際の妨害をしてきてブちぎれてKOBUSHIで語り合ったら仲良くなった。
端的に六連皐月はどんなジャンルであれ強い人間大好きウーマンでなのだ。
近藤・S・メアリもしぶとく立ち上がり続ける人間が好きな質である。
夕月のバイト妨害は学食2週間奢って貰うことで許した。
パッションが暴走した二人とこの後軽く組手した。
〇 〇
「いい汗かきましたわね、ちょっとスパ準備してもらったので入りましょうか。サウナもありますわよ」
「よし、行きましょう夕月」
「えぇ……?」
さも当然の様に室内に道場の様なものが近藤邸に存在し、そこで疲れ転がっているとピンピンとした様子の二人にドナドナと引きずられていく。
173㎝のメアリと165㎝の皐月に比べ150㎝あるかないかの夕月が並ぶと見事な大中小。
流れるようになぜか存在していた運動する際の袴から着替えながらドナドナされながら風呂に入っていく。
近藤邸の風呂は一体どうなっているんだと思うサイズ感で教会にあるシャワーが壊れた時に向っていた近所の銭湯を思い出してしまうくらいにはデカかった。
「ちゃんとご飯は食べられているようでよかったですわ」
「え、それの確認のため?」
「いえ?体動かしたかっただけですわ」
湯船に浸かる前にシャワーで汗を流すとまじまじとメアリにそんなことを言われるが、只の副次効果に過ぎなかったらしい。
「そう言えばメアリから貰ったケア用品焼けちゃった。ごめん」
「夕月が無事ならそんなことどうでもいいですわ。と言うか家に腐るほどストックありますから帰りに持って行きなさいな」
「いやいやいや、流石にそこら辺の用品買うのに困らない財力旦那にあるから申し訳ないよ」
「ふ、そう言われると思っていい感じに使い切るくらいに使用期限やってきそうな在庫処分品から引っ張って来たので気にしないでくださいまし。夕月が受け取らなかったら破棄されるだけですわ」
「パワープレイ」
どんなペースで使い切るかは想定していないのでほぼ通常販売品である。
ケア!素材がもったいないからちゃんとケアしてくださいまし!と言いながらメアリはよく試供品と称した新品を夕月に押し付けていた。
素材があまりにも良すぎるッ!
メアリは不屈である人間と同じくらい可愛いものが大好きであった。
つまりは夕月はそこのハイブリット。ド直球で好きなのだ。
〇 〇
メアリは脳筋の名に恥じない通り、小中で女子レスリングで日本の女王の名を数度取った女である。
北海道出身の道民らしく、僅かに入ったロシア系の血筋と、アメリカでブイブイ言わせていた母親の血筋が混ざり合ったハイブリットフィジカルモンスターであったメアリはその恵まれた体を持って幼少期から遊びまわっていた。
レスリングを始めたのはただの偶然テレビで世界選手権を見たから。
何度でも立ち上がり、一瞬で勝敗が決まることもあるその世界が魅力的に映ったのだ。
両親も『人より早く自分の武器を見つけた人間は人生において豊かになれる』と言う信念を持っており、興味を持ったことは何でもやらせてくれたし、年の離れた異母兄弟である兄や姉にも可愛がられて育ってきた。
その才能はみるみる開花し、小学校、中学校と年上をなぎ倒しながら何度も日本一を取った。
ああ、自分はこの世界で輝くのだと納得した頃、本気で競技をやっていくには厳しい怪我を負ってしまった。
ひどい虚無感に襲われ何にもやる気が起きなくなっていた。
メアリにとって人生における初めての挫折であった。
交通事故でもない割とありふれた靭帯をやってしまったのだ。
虚無に襲われ腐りそうなメアリを母が『一度心を学びなさい』と叩き込んだのが現在通っている女子校であった。
ひどく退屈な毎日かと思ったが、その日メアリはひどく空虚な大和ナデシコに出会ったのだ。
まぁ、その大和撫子とは名ばかりの子犬で、何にでも噛みついてくる皐月とひと悶着あったのだが、今では良き友人である。
彼女と出会わなければもう少し虚無の時間は長かったように思う。
そして高校に進学し、今度はハムスターに見せかけたとんでもないのがメアリの前に現れた。
噛みつく子犬に弱い者いじめはやめろと言いに行こうとしたらそこには小動物とはおこがましい強く気高いそんな少女。
どんな所に咲こうと美しい花は美しいのだと、メアリはその時初めて知ったのだ。
〇 〇
「……夕月、半年前よりおっきくなってない?」
「これですか?邪魔なだけですよ」
「持つものが持たざる者にそう言ったら揉んで良いという不文律が―――」
「ねぇですわよ」
しっかり汗を流し、体を洗い、髪を洗っていると皐月のセクハラが飛んできたが、メアリがシャワーを冷水でぶっかけてそれを邪魔した。
「本当にあっても動くのに邪魔ですもの」
「ね」
「脳筋ども」
「あら、そこに鏡ありましてよ」
メアリはがっつり体を動かすのが好きで暴れまわる北岳は邪魔であり、夕月も装備にかかる金銭的負担から横尾山が邪魔でしかなかった。
大和撫子は昭和新山を寂しく眺めた。
二人が露骨にデカい部類に入るだけであり、皐月も平均よりは普通に大きいのだが。
「……貴方ちゃんと下着は選んでますの?」
「一応……?」
「風呂から上がったらちゃんとした選択方法を教えてあげますわ」
「ありがとう」
「邪魔でもしっかりケアしておかないと残念なことになりますから」
「私も盛る技術ならあるわ」
「貴方は盛らずとも均整の取れた体型でしょうに」
「そうだそうだ、ちんちくりんの私にタッパを下さい」
「貴方はちんちくりんではなく小柄な身体に多くの機能を詰め込んだトランジスタグラマーと言うのですわ。ちなみにこれは1959年近辺で真空管ラジオをトランジスタラジオが駆逐した際に生まれた小柄で女性的な魅力が詰まった女性を指す言葉らしいですわ。和製英語です」
「60年以上前にそんな素敵な言葉が。これが大和魂」
「ぜって―ちげぇますわ」
夕月的には小柄で胸が出ていても視覚的にデカいと感じるだけで数字上は小さいし、体積はしっかりとした身長の幾つかアルファベットの小さい人に負けるのであまり良いものではないんだが、と心の中で呟いた。
〇 〇
「どちらかと言うとこっちが本命ですわね。協賛、美容関係で働くワタクシのお姉様」
「with私」
「オイこら私の服何処にやったんですか」
「そこの紙袋に入れてありますわ。ケア用品色々ぶち込んどいたので一緒に使ってくださいまし」
風呂から上がると夕月が元から来ていた服は紙袋に仕舞われており、広い脱衣所にはハンガーラックに掛けられた服が用意されていた。
「つまり今日は私を着せ替え人形にするつもりだった、と」
「髪色の明るい夕月も素敵だから、つい」
「ついで用意する量じゃないんですけど」
「大丈夫、夕月が負担に感じないように私が家族とギスって着なかったサイズの服ばかりだから」
「あ、はい」
「一度も袖を通してないから安心して」
皐月も皐月で色々とあってミッション系の学校に通い始めた女の子だ。
そこにはちょっとめんどくさい拗れ方をした家族仲と言う物が存在し、偶然夕月はそれを解決してしまいそれ以降夕月に懐きまくった背景がある。
あと袖を通したとかそこらへんは気にはしない。
夕月の御供は中古用品店だ。
「姉さんと母さんも夕月に譲るなら本望とのことだったわ」
「すっごい複雑な気分」
「元々捨てられずにウジウジしていただけだから気にしないで。……と言うか、不和が解消してからものすごい勢いで私も着せ替え人形にされてるのよ。いい空気吸わせて」
「末の娘の宿命ですわね」
「これが終わったらいいお茶用意してるから」
良く分かる、と2人が首を縦に振る姿を見て夕月に何か悪寒が走ったが、事実としてその頃本人が知らぬ間に遠くの地で志保子が色々な服を楽しく選定していた。
……まぁ、ファッションを学ぶと思えばいいか。
夕月は二人が盛り上がるのを冷静に見ながらひたすら着替えた。
え、ブラってこんな肉持ってくるものなの……?
あ、はい。ブラ検討します……。
数時間後。
「満足しましたわ」
「ふりっふりもよかったけどやっぱり夕月はシンプルなまとまったデザインにちょこんとワンポイント乗せるのがいいわ」
「タイトなものよりも裾をふんわりさせるAラインも捨てがたいですわ」
「露骨に甘すぎない感じが一番いいわね」
「わかりますわ」
夕月は溶けていた。
人をダメにするクッションなどと言う包み込まれるようなクッションに身を預けていた。
この数は聞いていないって。
シンプルな着替え疲れである。
「はい、うちの農園で作られた材料100%のミルククッキーですわよ」
「ん……」
「姫千歳せんべいも美味しいわ」
「はむ」
正気を取り戻すまで夕月はひたすらお菓子を食べさせられるのであった。
「ココアうまぁ……」
メアリの実家である近藤農園は北海道でとんでもない広さの農園を営んでおり、おそらく北海道の生産数のパーセンテージに食い込むような大会社だ。
作れそうなものをとりあえず作っているらしいが、メインは乳牛の畜産とジャガイモ。
「まぁ、自給自足で飯に困ることはねぇですわね」と言うのがメアリの談である。
作るものが多すぎでメアリは把握していないらしいが食い物なら大体あるらしい。
最近は魚の養殖に手を出したとか。
節操なくなんにでも手を出してみてるだけの新興企業なだけですわ、と本人は謙遜するがそれが成功しているのだから恐ろしい。
本人の料理スキルはもちろんだが、農園直送の彼女の作るものは大体うまいのだ。
いつかは遊びに来て貰いますわよ、とのこと。
「メアリは料理上手だよねぇ」
「どうしましたの、食事にケチでも付けられましたの。シバいてやりますわよ」
「違う違う、私は超庶民的と言うか居酒屋メニューだったら自信をもって作れるんだけど、それ以外はまだまだ練習中で。早く色々覚えたいな、と」
旦那家族はめちゃくちゃ褒めてくれるんだけど、そうあればなおのこと頑張りたいものでは無いかとそう告げた。
「向上心、愛のなせる業ですわね」
「そうね。私たちなんかただの花嫁修業の一環だったわ」
「愛かどうかは分からないけど私の魅力だと思ってもらえる要素は一つでも多い方がいいじゃないですか」
一つでも自分自身を手放すのが惜しいと思える要素は一つでも多い方がいいだろう。
夕月は最低でも彼の胃袋を掴むまではしたいところ。
「それを愛と言わずとして何といいますの」
「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」
「ネットミームこぼれてますわよ駄犬」
「気のせいよ……まぁ、私は和食だったら何でも作れるけど、それ以外はまるでダメよ」
「ま、私は洋食メインのハイカロリー飯には自信がありますが繊細なものは苦手ですわよ」
メアリ曰くおもしれ―俗物系大和撫子な皐月はボッチを拗らせてネットに浸っていた時期がある……と言うか現在進行形で色々と拗らせているのはメアリと夕月の中では公然の秘密である。
「そうですわね、いつかみんなで料理大会しましょうか。たまには武道以外のことで女の子らしく競い合おうじゃありませんの」
「競い合う時点でアレじゃない…?」
「女がこまけぇこと気にしてたらやってられませんわよ」
「メアリ、それ逆多分よ」
「こまけぇですわね」
「細かくはないんじゃないかなぁ」
この分だと料理対決は結構近いうちに開かれそうである。
機械音痴のネラーってなんやねんということで数話前の微修正を行いました
(2025/11/7)