限界少女とハイスペックダメ人間   作:スティック/糊

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架空の地名などの名称は大体それっぽいものを意識していますが現実と被ってたら申し訳ない。

感想評価誤字報告ありがとうございます。

周ェ!誕生日おめでとう周ェ!


バレンタイン

 

 それから特に形容するようなことがない3学期が始まり、健全な生活サイクルが出来上がっていた。

 

 

「時間を持て余す気が……?」

 

 

 夕月は時間を持て余していた。

 

 平日平均5時間のアルバイトと勉強2時間を学校以外で費やしていた女である。

 

 アクティブな方ではなかったはずが、慣れた習慣と言う物は怖いもので体力を余らせていた。

 

 余らせていたので身体のケアや化粧の練習などにある程度時間を割いてはいるものの、割と暇だ。

 

 こうしてみると自分がいかに無趣味であったかが良く分かる。

 

 以前は病床のベッドとお友達であったか、お仕事が恋人状態であったからそんなことを考える暇もなかったのだが。

 

 ベッドの上の住民をしていた時も暇なときはシスターが用意してくれた問題集なり、本なりを読んで……ああ、今自分の背後に数千冊の本あった。

 

 夕月はそう考えてからは暇な時間は本を読むことにした。

 

 いつの間にやら料理本が棚にシレっと置かれているのは彼の気遣いなのかもしれない。

 

 献立や飽きないような食事のローテーション、栄養価のことを考えれば結構時間はかかりそうだ。

 

 健康は何物にも代えがたいのは夕月も身をもって知っているところだ。

 

 不健康な食事とは言わせんぞ。

 

 

 

 と言った感じで夕月は献立を考えることが日課となった。

 

 趣味料理と聞けばだいぶ健全ではなかろうか。

 

 

 献立を考えるのであれば、彼の好物を飽きない程度の感覚で挟み込みたい。

 

 卵料理なら大体喜ぶと言うわかりやすい所はあるが露骨に嫌いなものはなさそうである。

 

 

 どうせだったら更にこれが好き、ってものがあれば記念日なんかに力を入れることもできる。

 

 

「好きな料理とかないんですか」

 

「お前の手料理」

 

「……具体的に」

 

「夕月の手料理なら何でも?」

 

 

 ……うん、察してた。

 

 いつものように夕食を共にして彼の好みを聞き出そうと夕月は問いかけたが不発に終わった。

 

 なんだろう、全面的に信頼してもらえているのはうれしいけど……メニューを聞いて何でもいいと返ってきたような気分である。

 

 

「とりあえず私としては真護さんが卵料理好きなのは理解しました。その中でもこれが好き、みたいなものがあればある程度メニューを考える参考になるんですが」

 

「なるほど。だが、これと言って特定のものが過剰に好き、外食でもこれは絶対頼むみたいなものはないぞ。色々食うのが好きだな」

 

「ではレパートリー増やしてあまり被らない方向で行きます。これが好き、みたいなものがあれば言ってくださいね?今の所真護さん観察していて10品目あるかないかくらいだと思いますので」

 

「……そんなに顔に出ていたか」

 

「ほとんど卵料理でしたけどね」

 

 

 どうにも本人的にはだいぶ仏頂面の様だが、しっかり見ていれば結構表情に出ている気がする。

 

 後は箸の進む速度が分かりやすく上がっているようにも見える。

 

 なんとなく、好みの系統はわかってきた気がするがそう言った情報はあればあるほど良い。

 

 

「……胃袋どころか舌まで掴まれ始めたな」

 

「え、胃袋掴めてます…?」

 

「がっつりな」

 

 

 お前が居なければ流れるようにひどい食生活になりそう、と彼は何気なしに言う。

 

 ……そう言う所だぞ。

 

 

「そう言う夕月は何か好きなものはないのか」

 

「私ですか。基本的に発ガン性物質モリモリの消し炭以外なら」

 

「……好み以前の問題だ」

 

「何を言いますか。好き嫌いなく食べられると言うことは極限状態で山に放り込まれても生存確率が上がって便利なんですよ」

 

「そんな状況にはしない」

 

「あ、はい」

 

 

 夕月は突然山でサバイバル生活を開始しろと言われれば一か月は生存できる自信がある。

 

 野草のえぐみとかもある程度耐性があって便利なんだけど。

 

 

 真護はそもそもそんな状態に妻が陥る状況にするつもりなど一ミリもない。

 

 ひもじい生活などさせるものか。

 

 ……真護は時折彼女に限界突破する生存能力を感じていた。

 

 本当にどんな生活を送っていたんだ……?

 

 真護は訝しむが、夕月はシスターの軍事経験から生存セオリーを叩き込まれているだけである。

 

 

「チョコは」

 

「カロリーと糖分が取れて良いですよね」

 

「クッキー」

 

「以下同文」

 

「ラーメン」

 

「脂質と炭水化物とカロリー摂取は優秀ですが塩分が多すぎますね。自家製で一から作ろうとするとコストがあれほど見合わないものも珍しい」

 

「うどん」

 

「小麦と塩さえあればどこでも作れますが茹でる工程が長く燃料に不安が残るので個人的には類似系統ですいとんを推します」

 

「……一度、生存バイアスを抜いて味で考えてくれ」

 

「何でもおいしく食べます」

 

 

 ……夕月も食の好みに人のことは言えないのではないかと真護はやはり訝しんだ。

 

 だが彼女の言う通り、なんでも美味しく食べられるのは素敵なことだな。

 

 

「食に関して何も文句をつける所はない。よほどのゲテモノを出されない限り」

 

「わかりました。私も好き好んで癖の強いものを食べたい訳じゃありませんしね」

 

「癖の強いもの、とは」

 

「聞きますか?」

 

「……やめておく」

 

 

 それからいくつかの会話の末、激辛、過度に苦みの強い、過度に匂いのきついもの、パクチーは除外となった。

 

 藤宮長男家ではパクチーは許されなかったのだ。ミントはアイスに限り可。

 

 

 

 〇 〇

 

 

 1月を終えれば、2月は学年末考査。

 

 万全の状態で迎えた試験ではかつてない達成感があり、事実同率一位を獲得した。

 

 同率一位相手は夕月が負け続けていた全免さん。……あの子のポテンシャルどうなってるの?

 

 彼女との交友は特にないけれどあの子凄い。

 

 

「さて、第一回チョコ選手権を開催するわよ」

 

「ドンパフですわ」

 

 

 そんな期末考査を終えた土曜日、近藤邸にて第一回チョコ選手権なるお料理教室らしきものが開催されていた。

 

 第一回と言うことは今後も存在すると言うこと……?

 

 

 このチョコ選手権の開催に至っては夕月の世間知らずが少しばかり関係している。

 

 今年のヴァレンタインは日曜日のため、金曜日の夕方に二人はチョコをプレゼントした。

 

 プレゼントはしたが夕月のリアクションが怪しくちょい突けば「ああ、存在だけは」くらいのとても軽いリアクションであった。

 

 これはもしや……?

 

 二人は顔を見合わせ、これまた聞いてみればチョコのチョの字の用意もしていないと言う。

 

 新婚さん、これはいかん。

 

 二人は急遽チョコを作ろうと言う名目で近藤邸に緊急招集したのである。

 

 

 それはそれとして夕月の手作りお菓子が合法的に食べたかったと言うのが大半の理由である。

 

 

「今回は極めて手に入りやすい市販品のチョコを用いてチョコケーキ、生チョコ、クランキーチョコを各々で作り、その完成度を競うわ。チョコ以外は例によってスポンサーBY近藤農園よ」

 

「と言っても小麦とバターとミルクくらいのものですが」

 

「くらいで済ませていい量じゃないんですよ」

 

 

 キッチンに積まれた明〇の板チョコレートが可哀そうになるくらいに立派なその他材料が積まれていた。

 

 ……このバターちょっとお高めのスーパーでこの前見た覚えがあるんだけど?

 

 

「ワタクシにとって些細なことでしてよ」

 

「あ、私は単調だとアレかなって家で贔屓にしてるところの抹茶持ってきたわ」

 

「私無手……」

 

「夕月はそこにいてくれるだけでいいのですわ。と言うかお菓子作ってくれる手間賃ですわね」

 

 

 いやいや、二人も作るんだよね?

 

 

「……まぁ、調子に乗って色々作ると決めて材料を揃えたは良いですけどこれを消費しきるのは並みの女子高生にとっては天敵でしてよ」

 

「カロリーヤバいわ」

 

 

 と言うかそもそも我が家たまに兄姉両親が顔を見にはきますけどほどお手伝いさんと2人暮らしなので消費しきれませんわ、とのこと。

 

 

「……メアリは勢いとパッションで生きすぎでは?」

 

「え、ワタクシからそれを取ったら何が残ると言うのですわ!?」

 

「美人で可愛くて、面倒見が良くて、頼りになって、賢い美少女成分は残ると思うけど……」

 

「そんなに褒めてもいい材料しか出てきませんわよ」

 

「褒め、と言うか事実を陳列しただけなんですけど」

 

 

 まったくこれだからっ、と小さくメアリは声にならない声で呟いた。

 

 とにかく、始めますわよとメアリは無理やり流れを変えた。

 

 

 〇 〇

 

 

「夕月、極めてどうでもいい話だけど漫画とかで定番の『プレゼントはワ・タ・シ♡』する時はチョコレートシロップがベターよ。市販の板チョコだと融点管理がめんどくさい上に成分分離であまりおいしくはないわ。ミルクチョコ等の何かを混ぜてみるt―――」

 

「ドスケベドッグ、貴方犬だから今日のチョコ要りませんわね?」

 

「要るわよ。これは学びよ、いわば夫婦間でチョコを溶かすようなアツアツの関係を維持するための」

 

「貴方は仮に相手が出来てやりますの?」

 

「やらないわよ。食材勿体ないし」

 

 

 しっかり本格的にチョコの温度管理をしながら湯煎で溶かしているとそんな情報が流れてくる。

 

 夕月も食材を無駄にするような類いのことは避けたい人間だ。

 

 指先に付けるくらいならまぁセーフだろうか……?

 

 結構唇じゃないところも舐めてくるしな……。

 

 

「精々リップ型のチョコを唇に塗ってみるとかそれくらいの範囲にしておきなさいな」

 

「メアリなら相手が出来たらする、と?」

 

「んなまどろっこしい事する訳ないじゃないですの。ベッドに引きずって押し倒しますわよ」

 

「夕月、こう言うタイプがド本命の前だととても乙女になるのも王道だからいつかの未来を楽しみにしておきましょうか」

 

「そう言うのもあるんですね……?」

 

 

 ……未知、あまりにも未知の領域過ぎる。

 

 男女間の関係のABC的なアレは一番夕月が進んでいると言うかゴールインまで済ませていると言うのに二人から零れ落ちている情報は夕月にとって未知の領域過ぎた。

 

 誘い方にも色々あるんですね‥…?

 

 片やネット知識、片やアメリカンな知識の影響で非常に偏っている情報だと言うことは夕月はまだ知らなかった。

 

 

 

「あの隔離してある分は……?」

 

「旦那さんにバレンタインとしてお渡しなさいな」

 

 

 作って、片付けてお茶にしようと言う段階で夕月は一つの疑問符を受かべ聞いてみると、ストンと納得した。

 

 

「二人に気を使わせちゃった、ごめ―――」

 

「謝罪よりも感謝が欲しいわ」

 

「ですわよ」

 

「うん、ありがとう」

 

 

 謝罪しようとする夕月に二人は待ったをかける。

 

 友情を続けるには相手を想った行動に対しては謝るよりも感謝であってほしい。

 

 押しつけがましいかもしれないが。

 

 

「と言うかそれはオマケですわよ」

 

「本命は夕月の手作りお菓子を食すことッ!」

 

「……私の手料理にそんなに価値ある?」

 

「大いに」

 

「以下同文」

 

 

 そんな目的にしては些か回りくどいんじゃないだろうか。

 

 手料理一つでこんなに喜んでもらえるなら今度何かお礼の品を用意しよう。

 

 そうなると……バレンタインの対にホワイトデーがあるんだったか。

 

 その時に二人に何かお返しを考えよう。

 

 

「私も二人の料理を食べられるのはうれしい」

 

「いくらでも食べなさい」

 

「今まで手出ししかなったですけどあんな細っこい夕月を見るのは心が痛みましてよ」

 

「……つくづく心配されてるなぁ」

 

「心配と言うか愛ですわ」

 

「愛ね」

 

「恥ずかしげもなく……」

 

「愛することに恥などありませんことよ。聖ウァレンティヌスとて恥じることはないと言いますわ」

 

 

 この二人にはしっかりと何かお返しをしよう。

 

 夕月はそう固く心に誓った。

 

 

 その一方で二人は一年生の間にどれほど夕月に助けられたかと、ほんの少しづつでも彼女に何かを返せているのだろうかとそんなことを頭の隅に置きながら、今はこのお茶会を楽しもうと力を入れた。

 

 

 

 〇 〇

 

 

 

「バレンタインデー、と言うことでチョコです」

 

「いつの間に」

 

「友人たちが気を効かせてくれて一緒に色々とチョコを使った料理を作ったんです。お嫌いなものがなければいいですが」

 

「全部食う。たとえ激苦だろうと激辛であろうとも!」

 

「……そこら辺の変わり種は来年以降用意しますね」

 

「……いや、普通の一般的な範囲がいい」

 

 

 2月14日の朝、夕月は昨日帰宅する際にきっちり密閉したことで匂いを零すことなく自宅に密輸することに成功したそれを彼に手渡した。

 

 彼に手渡せば尻尾をブンブンと振っているのを幻視する程喜んでいた。

 

 危ない、夕月一人では確実にバレンタインに何かを用意することを忘れていた。

 

 友人二人には感謝である。

 

 

「そんなに勿体なさそうに食べなくてもいくらでも作りますよ」

 

「……初めてなんだ、母さん以外から貰うチョコ」

 

「……え、本当ですか」

 

「ああ」

 

 

 それならもっとこう……美味しいと言う評判のチョコでも探しておくべきだっただろうか。

 

 

「夕月の、手作りだから価値があるんだ」

 

「そ、そうですか。喜んでもらえて何よりです」

 

 

 力強く、はっきりとしたトーンで言われたことで夕月も茶化すと言うか思考を逸らすことができなかった。

 

 珈琲入れてきます。

 

 そう言ってキッチンに向った夕月の耳はほんのりと赤みを帯びていたのは真護だけが知る所だろう。

 

 

 午後になると志保子さんから美味しいと評判のチョコ各種が送られてきた。

 

 真護の分だけではなく、夕月の分も。

 

 と言うか8割夕月の分であったのは別の話であり、しばらくの間お茶の御供がチョコになったのは言うまでもないだろう。

 

 




最初は夕月がチョコ用意し忘れて「こういう時、デザートは私ってやればいいんだっけ…?」と知識事故を起こして丁寧に溶かされるルートも存在したが、スケベな事しか書けなくなるので没。当作品にR-18ルートはない(断言)
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