限界少女とハイスペックダメ人間   作:スティック/糊

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感想評価誤字報告ありがとうございます。

だんだん椎名家捏造が始まる……

原作のネタバレ(?)要素を含みます。ご注意ください。


ホワイトデー

 ホワイトデー。

 

 バレンタインデーに並ぶ新年以降のイベントの一つだ。

 

 夕月は藤宮さんちに嫁に来てから色々なイベントごとに当たっているような気がする。

 

 新年に入ってからでも、初詣、節分、バレンタインなど。

 

 けれど夕月が自分から何かをしようと動き始めたのはホワイトデーが初めてだ。

 

 自分が未婚の時に稼いだ給料と相談しつつ、義母の志保子、そして友人である皐月とメアリに何かお返しをしようと3月14日を控えた手前の土曜日に1人町に繰り出した。

 

 荷物持ちに、なんて言い始める真護には「志保子さんに何かお返しを用意したいので町に散策に行ってきます」と告げてある。

 

 配送するなら、と真護の実家の住所も教えて貰った。

 

 ……結構離れてるなぁ。

 

 この距離を車で移動を……?

 

 

 寒いだろうから、と一応防寒には気を付けていたはずだが真護のジャケットを一枚着せられた。

 

 ……旦那の匂いがする。

 

 

 社会人になれば運転はそこまで厳しい距離ではないが人生経験上まだまだ地元から殆ど出てこなかった夕月にとっては未知の距離であり、少し驚いてしまった。

 

 ……良いものを見つけて送ろう。

 

 

 真護にはカード使えと脅しを受けたが屈しない。

 

 お返しはちゃんと自分の財布から返したい。

 

 

 ……今のうちに使っておかないと事件の際に民事で訴えた件での慰謝料やら、なんか夕月が住んでいた教会の修繕費として寄付していたお金が法人経理のポケットにナイナイされた不正が見つかったなどの慰謝料と言う名の口止め料が入ってくるようなので純粋に自分で働いたお金だけで何かを買っておきたかったのだ。

 

 

 教会の修繕費に関しては学校の寄付主の一角を担っていた近藤家がバチクソ怒って「落とし前つけようや」したらしい。

 

 不正をした経理はちゃんと警察にドナドナされていったがどこかしらのパワーでニュースにはなっていなかった。

 

 ……複雑なんですね?

 

 

 

 さて、いざ町に繰り出した夕月は正直どこら辺に行けばどんなものがあるかなんて見当もつかなかったし、ちょっと大きなお店を目指してみれば駅で迷子になるなど、少し早めに家を出ていなければだいぶピンチだったかもしれない。

 

 元チャリンコ少女の夕月に複雑な東京の駅は難易度がまだまだ高かった。

 

 何故駅から出口にでるまでがあんなに長いので‥…?

 

 方向看板こっちであってますか……?

 

 

 家を出て早3時間。

 

 夕月は迷子になりながらとりあえず何か見つかりそうと言う理由だけで大型のショッピングモールにたどり着き、志保子宛てにホワイトデー向けの催事コーナーで見つけた缶に入った紅茶の茶葉にメッセージを添え、配送サービスで送る手続きを済ませた。

 

 皐月とメアリには何かベターなお菓子を作ることを検討している。

 

 その食材の類いは凡そマンションの近くのスーパーで見つけることができるだろう。

 

 ちゃんと送るものを見つけることが出来て良かった良かった。

 

 夕月は一人納得し、帰路に着く。

 

 

 同じ都内でも基本的に特定のルートを行き来するだけなので割と知らない土地が多い。

 

 バイト先を選ぶのも基本的に家から直ぐに行けることを選定基準にしていたので猶更。

 

 不思議と電車に乗って知らない土地に足を踏み入れるだけでもほんの少し世界が拓けた、そんな不思議な感覚がした。

 

 

 ……真護さんにカード使えと脅されたし使った、と言ういい訳でも作ろうか。

 

 生活に余力があるとはいえこういった嗜好品にお金を使うのは大変気が引ける。

 

 人に何かを送る、と言う事であればそれは躊躇うことはないのだが自分の贅沢に消費して良いものだろうか。

 

 下手に生活水準を上げると下げるのが難しくなると聞く。

 

 夕月はふと目に入ったファストフード店の看板前のメニューを見ながらそんなことを考えた。

 

 

 ……ファストフード、提供時間が短く手軽に食べられていいと言う割には結構いいお値段をしている。

 

 この値段なら牛丼チェーン店で並盛を頼んだ方が安く済むのではなかろうか。

 

 

 でも、シスターの好物だったらしいハンバーガーと言う物も気になる。

 

 長い病院生活で塩分多めの食は食べてこなかったし、アルバイト漬けの生活でも居酒屋の賄いばかりを食べていた。

 

 サンドイッチとかハンバーガーは……単純にスーパーとかでも他の製品に比べて高い。

 

 

 ……でも使えって言ったの真護さんですもんね?

 

 夕月は己が誘惑に負け、ベーシックなワッパー.jrを注文してしまった。 

 

 欲に弱い私は懺悔します……。

 

 紙袋を持ちながらどこで食べようかと考える。

 

 

 ―――ああ、そろそろシスターの命日だ。

 

 夕月はそのまま近くの花屋でいくつかの花を見繕ってもらい、シスターの眠る墓地に向った。

 

 

 

 〇 〇

 

 

 

 住み慣れた土地の最寄り駅まで戻るには少々時間がかかったが、駅が見えてくればそこからは勝手知ったと言わんばかりに足は進む。

 

 

「シスター、お久しぶりですね」

 

 

 夕月の手に持ったバーガーはすっかり冷めてしまった頃、教会の管理する墓地にたどり着いた。

 

 すっかりと焼け落ちてしまった教会が更地になった土地から西に5分程度の土地にある墓地。

 

 その一角に所属していた教会の出資で細やかながら彼女個人の墓地が建てられた。

 

 年明けに結婚報告に訪れたばかりだからか墓石に大きな汚れは見つからない。

 

 

「終ぞあなたと食べることはできませんでしたね」

 

 

 元気になったら一番うまいバーガーを食わせてやると彼女は言っていたと言うのに。

 

 あの人は本当にいい加減だ。

 

 夕月は花を供え、バーガーの一部と包み紙を千切り墓前に供える。

 

 行儀が悪いが、約束を果たさなかった彼女が悪いのだ。

 

 形式上添えているだけで帰る前には彼女の分も食べてしまおう。

 

 

「せめてその一番うまいバーガーとやらが分れば定期的に供えたものを」

 

 

 なので今回はなんとなく目に入ったバーガーです。

 

 数本のポテトも添えてしまおう。

 

 

「本当に形あるモノは殆ど残してくれませんでしたね」

 

 

 知識や記憶として残ると言うのはロマンチックではあるが少しばかり寂しくなってしまう。

 

 

「これは確かに結構罪の味かもしれませんね」

 

 

 ちょっと塩味が強いのではなかろうか。

 

 それがバーガーの味なのか、目からこぼれるものからなのか夕月には判断できなかった。

 

 羽織ったジャケットの匂いとバーベキューソースの匂いが混ざりながら、夕月は食べ終えるまでシスターに色々と報告をしながらゆっくりと食べた。

 

 

 

 〇 〇

 

 

 

 夕月は帰宅し、手を洗ってリビングへ向かうと真護にジト目を向けられた。

 

 

「……使わなかったな」

 

「え、使いましたよ?ちゃんと経済力のある旦那さんに貰われたってシスターに報告するのに生花買いました」

 

 

 生花どころか青果を付けてもよかったが、と彼は言うが食べ物を勿体ない事にするのは流石に気が引けたのでしなかった。

 

 生花だけでもさりげなくいいお値段しますからね…?

 

 と言うかなんでバレているのだと思えば、カードを使うと自動で真護の所に決済通知が来るらしい。

 

 不正利用されていないか確認するのに便利だとの弁。

 

 無駄使いはしませんけど……え、もっと趣味嗜好に使っていけ?難しい事を言う……。

 

 

「母さんへのホワイトデーのお返しの方、だ」

 

「それは、自分の蓄えから返したかったので」

 

「……夕月が選んで俺が金を出したことにすれば俺はお返しを考えなくて済んだ」

 

「そこは物ぐさらないでください」

 

 

 親孝行できるなら、出来るうちにボチボチと。

 

 夕月がそう言えばバツが悪そうにそっぽ向いた。

 

 

 こういう所適当なんですよねこの人。

 

 それでもお返しを渡さない、とはならないのが良い所なんでしょうけども。

 

 

「……明日、どこか連れて行ってください。私もお返しの品を考えるのお手伝いしますから」

 

「助かる」

 

「そのかわり、帰りにスーパー連れて行ってくださいね」

 

「お安い御用」

 

 

 明日晩御飯食べ終わってからでもお菓子は作れるだろう。

 

 夕月はさっそく決まった予定と、お菓子のレシピのおさらいをしておこうと自室に籠ろうとするが、そう言えばまだ着替えていなかったとドアに手をかけた所で止まった。

 

 風呂に入るまでは別に外着でもいいんだけどと思いながらも真護の上着を借りっぱだったことに気が付いた。

 

 ソースはついていないし……匂いがしみついている訳でもない。

 

 やはり真護の匂いしかしないなと確認し、真護に上着を返す。

 

 

「上着ありがとうございました」

 

「……ナンパはされなかったか」

 

「こんなちんちくりん誰もナンパなんてしませんよ」

 

「夕月は可愛い」

 

「贔屓目入ってますよ」

 

 

 おそらく贔屓目。

 

 首から下はそれなりに気を使っているが、厚着の冬場に顔で声をかけてくる人などいないだろうに。

 

 

「何度か道に迷っているらしい人に声はかけられましたがスルーしましたし……」

 

 

 どちらかと言えば迷子になっていたのは夕月の方で、分からないと言ってスルーした。

 

 

「夕月、それがナンパだ」

 

「……え?」

 

「ナンパの常套手段だ。スルーしたのはえらい」

 

 

 ……あれ、ナンパだったのか。

 

 うん、反省しよう。

 

 女だったら誰でもいいとか見境なさすぎでは?

 

 

 

 

 夜、風呂から上がり、着替える。

 

 

「どうした夕月」

 

「あ、いえ同じ洗剤使ってますが真護さんの匂いがしないな、と」

 

「臭かったか」

 

 

 加齢臭はまだ先のはずだ。

 

 そう弁明する彼に違う違うと否定する。

 

 

「真護さんの匂いは安心する匂いですよ、何なら今日一日包まれていたような気がしました」

 

 

 夕月はそう言いながら先に寝ていますね、と寝室へ向かおうとすると阻まれた。

 

 

「……いるか?」

 

「え、私が着続けても匂いが薄くなりますし」

 

 

 阻まれながら夕月が返した上着が差し出される。

 

 

「と言うか毎日真護さんに抱きしめられて寝起きしているんですし、それで充分です」

 

「……」

 

「え、なんですごい勢いで部屋の電気消し始めてるんですか、真護さんまだ寝る時間じゃないですよね―――ぴゃ、急に横抱きにしないでもら……え、目が怖いんですけど!?」

 

「夕月、ホワイトデーにはこんな言葉がある」

 

 

 男から女性へお返しは3倍で返すものだ、と。

 

 

 夕月はこの後めちゃくちゃ抱き枕された。

 

 ……何を返されたかはご想像にお任せする。

 

 

 

 〇 〇 ……▼

 

 

 

「買ってしまったと」

 

「うるせぇ」

 

 

 週明け周は友人の赤澤樹と学食を食べながらホワイトデーに向けてのお返しにツッコミを食らっていた。

 

 照れくささから思わず暴言がこぼれてしまう。

 

 交際していない女性にアクセサリーは引かれるのではないか、なんて問えば女々しいとばっさりと切り捨てられる。

 

 

「周相手だったらあの人はなんでも喜ぶ気がするけど」

 

「そうだけどさ」

 

 

 樹は校内で名前を出すと男子連中がめんどくさくなる天使様こと椎名真昼の名前をぼやかしながら、何やかんや三ヶ月ちょっとの交友から概ねの見通しでそんなことを口にする。

 

 アレは……脈あるって言っていいだろ。

 

 なんてそこまでは口にしない。口にして尻を蹴りたい気持ちはいっぱいだが。

 

 

「どんなの買ったんだ」

 

「……ピンクゴールドカラーの花モチーフのブレスレット」

 

「なんだ普通に喜ばれそうなやつじゃんか」

 

「……引かれないか」

 

「心配しすぎだって」

 

 

 随分と初々しい。

 

 数か月前の周であればこんな表情を見ることはなかっただろう。

 

 親友が甘酸っぱい恋愛模様を築いているようで後方理解者面をしてうんうんと首を縦に振ってやりたい気持ちだ。

 

 

「ま、気持ちだ。気持ち」

 

 

 ここまで来てヘタレている周の方をポンと叩いて小さく鼓舞を入れる。

 

 明日が楽しみですなぁ。

 

 

「あ、そうそう。周に聞きたいんだけどさ、椎名さんってお姉さんとかっていないよな?」

 

「本人は一人っ子って言ってた気がするが」

 

「んじゃ、俺の気のせいか」

 

 

 土曜、樹のバイト先にやって来たかなり椎名真昼に似ているセミロングの小柄な女性の姿を思い浮かべる。

 

 春には少し早く、シンプル目な装いに虫よけと言わんばかりに男性もののジャケットを羽織っていた女性だ。

 

 本当に椎名真昼に似ているのだが、全体的な雰囲気がどこか違ってはいたし左手薬指には明らかないいお値段するであろう結婚指輪が嵌められていた。

 

 つまり、結婚はしていると言うことは成人しているのだろう。

 

 椎名真昼を天使様と称するのであれば彼女はさながら聖女様と言った所だろう。

 

 

 他人の空似では済まされないレベルで似ていたように思うが、一人っ子ならそうなのだろう。

 

 まぁ、世の中3人くらい似ている人がいるっていうし。

 

 

 〇

 

 

「私に姉、ですか。いませんよ」

 

「あ、いや樹が真昼にそっくりな人を町で見かけたって言ってて聞いてみただけなんだ。他意はない」

 

「……そうですか」

 

 

 椎名真昼は藤宮周に姉がいるかと問われたが、それは否と答える。

 

 仕事に夢中な父がそんなことをするとは思えないし、母が愛人との間に子供を設けていたとしてもそれは妹か弟になるだろう。

 

 そんな話は聞いた覚えはないが。

 

 

 少なくとも真昼にとって姉という存在はこの世に存在しない。

 

 

 双子の、死産で亡くなった名前も付けられなかった姉以外は。

 

 

 




※当作品はホラーではない。

 生まれた直後から病弱でどっか知らんところにナイナイされた感じである。

 それは椎名母を慮ってか、お家のぐちゃぐちゃ具合か。


 ……真昼の祖父母にも頼れない発言とか、11巻の巻末キャラとか、父と母の関係値とか、11.5巻のセリフとかさぁ!

 はよ3月になって12巻を読ませてクレメンス。

 なろう版の最新話で名前だけ判明してるけどさぁ……一年待たせるとは佐伯さん先生は鬼畜では??(失礼)
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