夢限∞三剣士 ~more than a goal~ 作:夜光電卓
ゴールデンキッドは小さな焚火を見つめていた。
ユラユラと揺れる焔は、淡く彩を移り変えながら、パチパチと音を鳴らしている。
それだけでゴールデンキッドは昂ぶる興奮ともに、頭が冴え冴えと冷えていくのを感じていた。
「み、見ろ……」
「紅い月が、上った」
声の方を見ると、友人たちが荒野の向こうを見つめていた。
二人の友人たちが立っているのは崖の端だ。
その下には険しい絶壁と、その裾から広がる荒野が広がっているはずだが、霧が深く立ち込め、眼科をうかがい知ることは出来ない。
そして荒野の先、霧の中から突き出て、空をギザギザに割る山々のシルエットの中で、一番高く天を貫く火山。
その切っ先に煌々と紅く輝く三日月がかかっていた。
「まるで鮮血のようだ――」
二人の友人のうち、体の大きな方がそう呟く。
「嫌な予感がする。帰ろう、元々無理な冒険だったんだ!」
背の低いもう一人の友人は、体の大きな友人の腕を引きながら、そう嘆いた。
まったく、そんな意気地の無い覚悟でよくここまで来れたものだと、ゴールデンキッドは小さく嘆息する。
しかし、それも仕方がないのかもしれない。
自分は国の英雄。だがその正体を誰も知らない謎の騎士『ゴールデンキッド』だが、残る友人二人は少し腕っぷしや、悪知恵に自信があるだけの、ただの市民なのだから。
そういう自分も、その身分や正体を隠している分、友人たちからは同じような……、いや二人にバカにされるほどの小市民でしかないのだろう。
それでも、と、ゴールデンキッドは友人たちに厳しい口調で告げた。
「僕は、反対だな」
「なに!」
ゴールデンキッドの言葉に、大柄な友人は声を荒げながら眉間に皺を寄せる。
「このまま引き下がることはできないよ」
「生意気なこと言うな! お前に何がわかるんだよ!」
背の低い友人も同じように食い掛かる。
「俺達だけで、なにができるっていうんだ!」
「僕たちに何ができるかじゃなく、僕たちは何をすべきなのか。それを考えるべきじゃないのか?」
ゴールデンキッドの言葉に、友人たちは苦虫を噛んだ。
ゴールデンキッドは崖の方を指さすと、平素は見下され、自分の事を蔑む友人たちに厳しい口調でつづけた。
「君たち、この深い霧の底に『常闇の城』ある。姫君はそこに囚われ助けを求めている。だからこそ、僕ら四人は使命に燃えて村を抜け出して来たんじゃないのか?」
ゴールデンキッドの言葉に友人たちは息をのんだ。
きっといつもと違う自分の雰囲気に驚いているのだろう。
そう、いつもの自分の姿は世を忍ぶ仮の姿でしかない。
どこかボーっとしていて、ドンくさく、優柔不断。勉強もできる方ではなく、だからといって運動もできる方では無い。
とりあえず剣道部に入っているものの、事実上試合にも出してもらえない雑用係。
いじめられてもしょうがない。
そんな常日頃の自分とのギャップに驚いているのだろうと、
ゴールデンキッドは心の中で優越感に浸りながら小さくほくそ笑む。
まだまだ驚くのはまだ早い。メインイベントはまだここからだ。
ゴールデンキッドが心の中でそう呟いた時、緊迫した声が場を割いた。
「兄上、音が聞こえます! 崖の下、大勢です!」
弟の声に、ゴールデンキッドは素早く駆け寄ると崖下をのぞき込んだ。
「近づいてきます、霧の中から、百、二百もっとかもしれません。小さな青白い焔が揺らめいでいます」
隣で同じように崖下を覗き込む弟の言葉に、ゴールデンキッドは小さく頷く。
「鬼火か、人魂か……」
「いや、魔王軍の松明――」
後ろで友人たちが震えだした。そして慌てて焚火の火を慌てて消し始める。
その顔は蒼ざめ、恐怖に打ちひしがれている。
「早く消せ、場所を気付かれる!」
「早く逃げるんだ!」
友人たちはそうゴールデンキッドに背を向け、身支度を整え始めた。
どうやら多勢の敵を目の前に、怖気づいてしまったようだ。
ここまでか――。ゴールデンキッドは再び嘆息を吐くと、口元を歪めた。
まぁいい。ここから本番だ。
「あんな大軍と戦える訳ない!」
「そうだ無理だ。もしかしたらもう此処も包囲されてるかもしれない……おれ達逃げられないじゃないか!!」
その顔は今にも泣きだしそうだ。それも仕方がないだろう、所詮はただの十四歳の中学生だ。
いや、本来はそんなの関係なく、そう望んでいるからかもしれないが。
その時、
「君たち――」
友人たちは後ろから声をかけられ、ビクッと肩を震わせた。
そして恐る恐る後ろ振り返った。
其処にいたのは、
「もう狼狽える必要はない。僕が来たからにはね」
其処にいたのは、黄金の鎧を着けた騎士だ。マントは真っ赤。兜は顔まで隠したフルマスク。
正体不明の謎の騎士。
そのタイミングでゴールデンキッドの後ろから、真っ白な虎がその巨躯を躍らせる。
「巨大な白虎を伴にする、黄金の騎士。アナタは、ゴールデンキッド!!」
友人たち二人は驚きの声を上げる。
その表情をみてゴールデンキッドは、兜の中で満足そうに微笑みを湛えた。
「まさしく、僕がゴールデンキッドだ。僕が来たからにはもう心配は無い」
驚愕を顔に張り付けたまま、友人たちは先ほどまでの不安を一気に忘れたようだった。
状況だけ見れば、いったい誰がゴールデンキッドなのかはすぐに解りそうなものだが、其処は、そういう仕様である。
そうでなければ、先ほどまでの小市民のゴールデンキッドの行方と、その弟が何処へ行ったのか?
という噺になってしまう。上げ足は取らないのがこの世界の掟ということだろう。
元々、人が虎になるなんて荒唐無稽も極まれりという所だ。
ゴールデンキッドはスゥーっと白虎になった弟に視線を流す。
白虎はそれに応える様に、剛毅な咆哮を上げた。
「どうしてアナタが此処に?」
「人々が救いを求める刻、僕は必ずその前にやってくるのさ!」
―――轟――
ゴールデンキッドの言葉に頷くかのように、白虎はまた咆哮を上げる。
「だ、だけど……」
そこで大柄な男が水を差すかのように震えた声を出した。
「流石のゴールデンキッドもあんな大軍団を相手では……」
ゴールデンキッドは再び兜の中で微笑んだ。
「タケゾウくん、僕を見くびらないでほしい」
タケゾウと呼ばれた大柄な友人は目を丸くする。
「ツネオくん、僕はいったい何者だ?」
ツネオと呼ばれた小柄な友人はすかさず答えた。
「正義の騎士、ゴールデンキッド!」
ゴールデンキッドは満足そうに頷くと、白虎の背にヒラリと飛び乗る。
「ならば二人に一つこの世の真理を教えてあげよう」
ゴールデンキッドは二人に見えるよう、高らかに剣を掲げると、勇ましく叫ぶ。
「正義は、必ず勝つのだ――!」
叫ぶとともに、ゴールデンキッドを乗せたまま白虎は風の様に天へ舞った。
そしてそのまま崖の方へ降りていき、霧の中へと吸い込まれていった。
プロローグと一話前篇です>>
完全に物語が始まるのは二話目(更新としては三話目?)からですかね。
評価、感想、誤字脱字ありましたら是非お願いいたします。
後篇は、12月6日(土曜日)を予定しています。