夢限∞三剣士 ~more than a goal~ 作:夜光電卓
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崖から霧の中へと降り立ったゴールデンキッドが見たのは、霧の中に現れた大軍の敵であった。
とても人間とは思えない……いやそもそも人ではないのか。
あえて言うなら、ウサギの耳のようなものを生やした化物。
ゴールデンキッドはどちらかといえば、RPGに出てくるようなゴブリンなどを予想していたのだが、それに比べればだいぶ可愛げのあるモンスター達だった。
それぞれに松明を持っており、もう片方の手は職種のような剣を携えている。
「せっかくなんだから、こうじゃなくちゃな」
ゴールデンキッドを乗せた白虎は、何の躊躇いもなくその軍団の中へと突っ込んでいく。
モンスターたちは、触手剣をゴールデンキッドに向けると、一斉に飛びかかってきた。
――閃――
ゴールデンキッドの剣が閃き、先行したモンスターの触手剣を根元から断つ。
モンスター群が一瞬硬直するように緊張が走る。
その隙を逃さず、ゴールデンキッドはモンスター達を白虎の背から斬りつけていく。
白虎はそのままの勢いで、モンスターの群れを突き進み、邪魔なモノは踏みつけ、咢で砕き、爪で裂いていく。
まるでモーセの十戒のようにゴールデンキッドと白虎はその剣と爪で、大軍のモンスター達を割っていく。
これだ、これぞヒーローだ。
ゴールデンキッドは自分の思っている以上に動く己の身体に恍惚を覚えながら、その興奮のまま剣を振るい続けた、
しかし、斬っても斬ってもその先は見えない。
ゴールデンキッドは多少じれったくなったのか、白虎の背から跳ぶ。
剣を両手で頭上へと掲げ、そのまま落下と同時に振り下ろす。
それと同時に蒼い閃光が走り、斬撃が正面を突き抜けていき、ゴールデンキッドと白虎の前に一本の道が現れた。
それでも両サイドから敵たちがわらわらと、ゴールデンキッド達に襲い掛かろうとしていた。
「仕方ない。トラ……跳べ」
言われると、白虎は高く高く頭上へ跳躍した。
その刹那だった。
ゴールデンキッドは剣を左小脇抱えるように構える。
そしてその場で横なぎに刃を走らせた。
再び蒼い閃光が閃き、斬撃が衝撃波と一緒に眼前の敵を霧散させた。
「なんてご都合主義な――」
自分の行動ながら、ゴールデンキッドはそうひとりごちた。
すぐに白虎が飛び降りてくる。
そして眼前の敵はいなくなった。
後方に敵はいるが、流石に恐れを成したのか散り散りなっていた。
さて――、とゴールデンキッドは眼前の先に聳える城を見つめた。
「此処が、常闇の城か――」
ゴールデンキッドはその霧の中から現れた城影を眺めつつ、そう呟く。
筈だった。
「あれ?」
そう素っ頓狂な声を上げる。
霧の中から現れたのは、崩れた……現在進行形で崩れている城の姿だった。
「なんで?」
ゴールデンキッドがそう言うと、後ろの白虎が呆れた声をかけた。
「さっきアニキの使った“必殺技”だろ?」
出てきたのは獣の哭声ではなく、少年の声だった。それも小学生ぐらいの。
「えっ、でもあれは敵を倒すための……」
「ご都合主義のこの世界も、必ずしも思い通りにならないってことじゃない?」
「そんなぁ……」
残念そうなゴールデンキッドはガックリと肩を落とす。
「えっ、じゃぁラスボスは? 姫は? ゲッ、まさか必殺技で……」
「その心配は無いみたいだよ」
白虎は霧の中に現れた二つの影に向かって顎を指す。
「よくも吾が城まで、やってくれたな。お主は吾輩を本気で怒らしたようだ……死の覚悟は出来ていような、ゴールデンキッド……」
霧の中から現れたのは、巨大な鬼だった。その立ち振る舞い、鎧装備から、間違いなくこいつが、ゴールデンキッドの言うラスボスのようだった。
「それにしても、明らかな死亡フラグというか……もうちょっとシナリオは考えた方がいいかもな。キャラデザはいいんだし……」
「それは本物のオイラに言ってくれるかい?」
ゴールデンキッドの言葉に白虎は、肩をすくめながらそう返した。
そして次にラスボスの後ろから、もう一人の人影が姿を現した。
豪華なドレス。しかし手首は鎖に繋がれている。
そう、彼女こそ、ゴールデンキッド達が救い出すために村を飛び出し、追い求めた。
姫君――――?
疑問符が付いた。
確かに霧の中から現れたのは、確かに姫君だった。
いやより正確には姫君の姿をした――、
「ナニ? あれ――、」
ゴールデンキッドが思わず白虎に問うたのも得心できる事だった。
姫君には、顔がなかった。
「あの、のっぺらぼうに見えるんですけど」
「のっぺらぼうだぁね」
「のっぺらぼうがなんで姫君なの?」
ゴールデンキッドがそう聞くと、白虎は溜息交じりに、そして可哀想にゴールデンキッドを見つめた。
「あのさ、アニキ。本物のオイラがアッチで言ってたと思うけど、この世界ではあくまでアニキの記憶や、思いや、感情、希望に願望……そんなんで構成されてるのね」
「あ、ああ」
「でも、アニキには理性もあるし現実的に考える合理性も持ってる」
「それが?」
「だからさっきの必殺技も、こっちの世界なら当たり前のようにモンスターだけ倒せるはずなのに『あれだけの威力なら、その先にある城とかにも影響とか出ちゃうなぁ』とかいう感じで、城まで攻撃しちゃってるわけ。もちろん無意識で」
「それが、姫様のっぺらぼう事件とどう関わるのさ」
「キャラクター設定もそう、そこら辺のNSCやモンスターはいいとして、主要人物はアニキ次第なわけよ。アニキがこのキャラはこんなイメージってのが先行されるわけ。剛蔵や恒夫がそうだったでしょ?
そこで、ズバリ恋愛経験が無いアニキは、命を賭して助けたい! と思えるような女性が、イメージとして湧かない!」
グゥ、っとゴールデンキッドは痛いところを突かれて呻く。
「結果、救い出す姫君のイメージをβ版では補えなくて、のっぺらぼうになっちゃった……。だってアニキは恋もしたこともないオタク童貞の中二だから!」
「つまり、アレは僕の所為ってこと?」
白虎は首を大きく振り、ゴールデンキッド肩を落とす。
しかしゴールデンキッドは諦めなかった。ヘコタレなかった。
首を大きく横に振ると、気合を入れなおして剣を構える。
「まぁ、姫君の件は仕方がない。それよりもあのラスボス……。死亡フラグは別として、あの巨体といい、如何にも蛸にも強そうで、手ごたえがありそうだ。
雑魚では物足りなかったところだし、此処はじっくり勝負を尽けよう――!」
「それは不味いよ!」
せっかくゴールデンキッドが意気込んだところ、白虎が水を差す。
「何が不味いのさ」
「アラームが、もう少しで鳴るんだよ。あと五分……ないかな」
「えっ、もうそんな時間? 困るよ、此処からが本番なのに。ラスボスをカッコよく倒して、姫君を救い出し、剛蔵と恒夫にゴールデンキッドの正体を見せて驚かすんだろ?」
ゴールデンキッドは思わず頭を抱えた。まったく、こんな事してる間にもし剛蔵達が追いかけてきたらどうするのさ――。
アッ――、とそこでゴールデンキッドは自らの失態に気付いた。
この世界は自分の思考や感情……あらゆるものに左右されやすい。
そんな場所で『もし』なんて考えてしまったら……。
「おーい、ゴールデンキッド!」
後ろから見事に剛蔵達の声が聞こえた。そして小さくだが人影も二人分確認できる。
おいおい、残りの敵兵どうしたんだよ! とゴールデンキッドもこのご都合主義の世界に悪態をつきたくなった。
「仕方ない。ただでさえ時間がないから、こっからスキップだスキップ。まずラスボスはさっきの僕の城まで届いた必殺技で瀕死の重傷を負い、此処まで来たが力尽きた事にする」
ゴールデンキッドのこの言葉に一番驚いたのは、言われた本人のラスボスだった。
「えっ、なにそれ? ちょちょっと、それズル……ぐ、グゥ……」
ラスボスは胸を押さえて苦しみだし、そして倒れた。おそらく息絶えたのだろう。
さっきは傷一つ負っていなかったはずなのに、倒れたそばから血だまりができていく。
「なんじゃそりゃ……」
白虎のツッコミも無視して、ゴールデンキッドは姫君に駆け寄る。
「ご無事ですか姫君!」
のっぺら姫君は、勿論喋ることは出来ないので、ただ頷くばかりだ。
そうこうしているうちに、後ろから剛蔵達が追いついた。
「ゴールデンキッド、ご無事ですか?」
「敵は? みんなゴールデンキッドが倒したんですか?」
追いついてきた剛蔵達は周りに敵がいないのを確認しながら、聞いてくる。
本来なら此処でなにかソレっぽいセリフを考える所だが、
今のゴールデンキッドにはその時間も惜しかった。
「そんな事より君たち、何か僕に質問はないかい?」
「へっ、質問?」
「俺も、ゴールデンキッドみたいな強さが欲しい。どうしたらゴールデンキッドみたいに強く……」
「そんなんじゃなくてさぁ……、例えば僕の正体とか!」
まどろっこしくなったのか、形振り構わずなのか。ゴールデンキッドはあからさまな単刀直入で、質問を促し始めた。
「正体? だってそれは秘密なんでしょ?」
「そりゃ、そうだけどセオリー的に一応聞くもんだろ。もうこういう時に融通利かないって、これ本当に僕の世界?」
白虎に投げかけてみるが白虎は素知らぬふりでいた。
「あー、もう面倒だ。今回は特別サービス。正体を教えよう!!」
友人たちが歓声を上げる。
ゴールデンキッドは自信満々にマスクと一体化している兜を取ろうとした。
そう取ろうとしたのだが……、
「なに、これ? 外れない」
必に死取ろうとするが、兜はいっこうに外れない。
「あっ、これ後ろで南京錠で止められてる」
白虎がそう冷たく呟く。
「えっ、南京錠? なんでどうして? いいや、トラ! 南京錠だけ壊して!」
ゴールデンキッドに請われ、白虎は仕方なく南京錠を口に咥える。そして、
大きく首を、いや頚を振った。
それでも南京錠は外れず、遠心力のまま南京錠と共にゴールデンキッドは、『グエッ』と嗚咽を漏らしながら、空中を舞った。
その時、ゴールデンキッドは空に飛んで光と消えていく、数々のアニメ作品の敵たちと時分をダブらせていた。
同時に機械的な電子音が頭に響き始める。
なんで、なんで僕の『夢』でこんな理不尽な――。
ゴールデンキッドは、
いや、樋野(ひの)伸(しん)太(た)はそう思いながら意識を現実へと浮上させていった。
次回は、12月13日(土曜日)の予定です>>