赤き大地の夢は遠く AnotherMars2207 作:くコ:彡の本棚
三式弾を撃ち放った砲口には、未だ高熱が揺蕩っている。
攻め寄せては退がる敵を味方に任せつつ、連装砲の照準はずっと敵艦につけていた。砲火と黒煙が飛び交う渦中、波動防壁を纏った"だざいふ"の周りだけ、時が静止したようでもあった。
正直のところ、モロトフは発射を下命した瞬間を覚えていない。二百発を超える砲撃を叩き込まれた巨大艦の装甲が、ほんの僅かにだが光を失った。
そう思った時、既に砲弾が敵の装甲に飛び込んでいたのだ。
「状況報告」
最大望遠で着弾箇所が映し出される。内部に食い込んだ砲弾の影はもう見えない。鴨緑色の外壁に走る罅だけが、着弾の証であるようにも見える。
光が、膨れ上がった。
それは燃え盛る揺らめきとなって溢れ出し、側方に向けて赤い柱が聳え立つ。
「……やった」
それは、己の声だったのか。それとも艦橋要員のものであったか。あの怪物に初めて血を流させた事実が、奇妙な感慨を皆に齎していた。
炸裂したのは一点だけではない。着弾箇所を中心として波及するが如く、小爆発が立て続けに巨大艦を染め上げた。
内から食い破るような炸裂。三式弾は脆弱なポイントを過たず撃ち抜き、敵の伝導系統をずたずたに引き裂きつつある。
「"アモン"に入電。本艦は目標に対する精密砲撃に成功せり。これよりは全艦隊でもって敵を殲滅する」
特殊装甲の出力もみるみる内に減衰していた。三十分以内には完全に消失するだろう、とのシミュレート結果が出ている。それを見計らい、全力の砲雷撃で巨大艦を沈めるのだ。
だが、残存する敵の抵抗は未だ止まず、輪をかけて執拗にすらなっている。護衛艦以下の小型艦艇は、それらへの対処に追いまくられているらしい。
"だざいふ"の周囲にも、敵の巡洋艦と駆逐艦数隻が湧き出すように現れた。いずれもドレッドノートを沈める火力は無いが、艦隊の再編を妨害するために現れたのか。
甲板に赤い巨人を乗せた一隻の護衛艦が、側を横切った。二式機動甲冑を纏った間。
護衛艦が前方に十数発の魚雷を投げつける。それを避けつつ対空砲火の網を放つ駆逐艦に、間が腕の機関砲を向けた。
エネルギー弾の煌めきは次々と駆逐艦に突き刺さり、装甲や砲塔を道連れに爆ぜ散る。一隻はコースを維持できず彼方へと消え、もう一隻は艦橋に直撃弾を食らい、原型を留めたまま静止する。
間はさらに両肩のパルスレーザーを射掛け、巡洋艦の放つミサイルを残らず落とすことまでやってのけた。
そうした援護もあって"だざいふ"は僚艦との連携を回復し、巨大艦殲滅に向けた艦隊の再編に成功する。
しかし、芳しからぬ報せもまた届いていた。"アモン"との通信が途絶したまま戻らないというのだ。
「被弾したか?」
「艦首に直撃を。通信システムがダウンしたか、それとも司令が応答できない状態にあるのかは、判然としませんが」
容易ならざる決断を迫られている。一時攻撃の手を緩めてでも、サエキの救助に要員を回すか。あくまで初志を貫徹し、敵の撃沈を最優先とするか。
モロトフは自問自答の答えを、全艦隊に向けて発信した。作戦に変更なし。巨大艦に残る火力を全て集中すべし。
あまり迷わなかった。目下最大の脅威たる巨大艦を消し去ってしまえば、憂慮すべき危険そのものがなくなるのだ。それを果たした後、サエキを救い出して戦勝報告をすればよい。
時宜を得た味方が高らかに砲雷撃を開始する。青い光の奔流の中で、巨大艦の輪郭は曖昧なものになっていくようだった。
────────
耳障りな警告音と、兵の狼狽の叫びが輪唱し、艦橋を揺るがしている。
砲弾で"イシュタルム"の装甲が貫かれた時、エルダインは己が視覚の異常さえも疑ったが、すぐに受け止めた。この艦の威容からすれば、傷とも呼べぬではないか。
しかし、真の異常事態は応射を命じた直後に起こった。右舷の五連装砲が命を拒絶するように沈黙したかと思えば、一基が爆ぜて折れ砕けたのである。被弾などしていないというのに。
三基の輪胴砲塔もその後を追い、炎に包まれた。旋回しない、発砲できない砲塔は十を超えている。
おまけに、艦の内外で連鎖する小爆発。被害状況を示すモニターが真っ赤に染まっていた。兵や機械人形を消火に差し向けるが、いつまで持ち堪えられるものだろう。
「あの箇所に砲弾を食らったことで、艦の伝導系が各処で寸断されています。暴走も時間の問題です」
これが狙いだったのだ。苦々しい納得感が去来する。無敵に思われた"イシュタルム"が隠してきた病痾が、表に噴出したと言うべきだった。
敵はただそれを突くために周到な罠を組み上げ、誘いをかけてきたのだ。
「敵が向かってきます!」
態勢を立て直した敵の火力部隊、それから快速艦とコルベットの群れ。こちらの機動部隊は未だ奮戦しているが、数の差は時を経るごとに広がってゆく。乱戦域を抜かれるのも無理はなかった。
「まだ何も潰えてはおらん」
声に罅が入っているのを自覚しながら、エルダインは気炎を上げた。脳裏にちらつく何かを振り払うように。
「この程度の劣勢、何をか恐れん。この上は一時敵に背を見せる屈辱を甘受し、敵陣を破って離脱する!」
それを宣言すると同時に、エルダインは遺跡への砲撃を命じる。これには周囲が驚倒した。アケーリアス・コードの破壊など、この戦を仕掛けた大義そのものを捨てかねない所業であると。
無論、エルダインに血迷ったつもりはない。一時的にでも遺跡による拘束から逃れぬことには、先の展望を描きようもないのだ。
それに、アケーリアスの遺産ともあろうものが、その中枢まで容易く破壊されることもなかろう。
「万が一遺跡が消え失せようと、浴び続けた力のデータは十分残っている。これを基に再現することも不可能ではあるまい、案ずるな」
左舷の五連装砲二基は未だ健在のようで、撃ち出された光条は遺跡を内包する岩塊に吸い込まれる。
しかし、悪影響から免れ得る訳もなかった。威力が目に見えて低下している。通常の半分を下回っているであろうことは、窓越しに見るだけでも分かった。
右方。ビームと魚雷が竜巻となって押し寄せてくる。稼働する輪胴砲塔に喝を入れつつ、旋回式発射管から爆雷をばら撒く。一基は動力が途絶えて沈黙したままだ。
光と熱の応酬が始まった。ビームの波に乗り、あるいは逆らいながら弾体が飛び交う。緑光の波濤は以前に比して勢いに乏しいのは否めず、防壁を張る快速艦に弾かれるものすらあった。
何より弾幕の薄いこと、致命的と評さざるを得ない。健在であれば、千発の魚雷であろうと火球に変えられる光の壁を押し出すところなのだが、稼働する輪胴砲塔は四割にも満たぬ。撃とうとして自壊するものまであるのだ。
「焦るな、十分に引きつけよ。いずれ味方も駆けつけてくる」
叱咤しながら、敵の砲撃に見出したものがあった。生きている砲塔や発射管を狙い澄まして撃っている。
迎撃の火線を潜り抜けた魚雷が、輪胴砲塔を道連れに炎と化す。爆雷を吐き出し続ける発射管にも敵のビームが集中し、各処から黒煙が立ち昇っていた。
新大帝の動く牙城たる"イシュタルム"が秒を追うごとに砕かれ、裂かれ、削られてゆく。爆炎に照らされる惨状を見かね、エルダインはほんの数拍だけ目を閉ざした。
そして開いた時、戦場は敵の放つ青い光に占有されていたのだ。愕然として床に縫いつけられた両足に、敵魚雷の着弾による振動が走る。
指示を、否、救いを求める艦橋要員の声が、エルダインの耳には遠い。脳裏に居座り続ける何かが、明瞭な輪郭と共に迫ってくると思える。
それは、終焉の二文字だった。
────────
あと、少しだけ。あと少し。取り憑かれたように念じながら、ラバシュームは遺跡の制御を続けた。声に出していたかもしれない。
戦闘が始まって以来、遺跡に文字通りの精神力を注ぎ続けている。
削られる、のしかかる負担がある訳ではない。精神の糸が遺跡の制御プロトコルと絡み合い、それが時を追うごとに深まるというだけだ。
それを解くには、相応の時と細心さを必要とする。強引に切断した者の脳は筆舌に尽くせない衝撃に襲われ、心臓が動くだけの骸に変わるだろう。
接続を解き、撤収する時が来たようだ。こちらの狙い通り、伝導系の弱点を貫かれた敵艦は動力伝達に異常をきたし、続く一斉攻撃で反撃の術も奪われている。十分以上の戦果だった。
精神エネルギーのベクトルを反転させ、繋がりを一つ一つ解いてゆく。その作業は、己を見つめ直す、あるいは取り戻す作業にも似ていた。
心は凪いでいる。不気味な細動が続き、土煙や小石が降りかかっても、ラバシュームは動じない。
無理からぬことなのだ。遺跡が破壊されることも覚悟していただろう敵の砲撃は短く、さしたる威力でもなかったが、老朽化した岩塊には耐え難かったろう。
敵の艦内がエネルギーの暴走に蚕食され、砲撃が止んでからも、崩落は収まらない。そうしたことは気にも留めず、ラバシュームは所定を終えて目を開けた。
始祖の遺したものに一礼を捧げ、駆け出す。
迷路のように入り組んだ通路といえ、内部構造は把握しきっている。崩落で道が塞がれる心配もあったが、無用のものだった。
ひた駆けた末に見えたのは、星空に身を曝す宙雷艇の姿である。
五体が、投げ出された。あるいは、埋め込まれた。
直前に轟音がしていた。天井が一気に崩れ落ち、群れをなす岩塊の下敷きになったのだ。他人事のように、そう思う。
圧迫感は少しずつ、しかし確実に強まり、息を吸って吐く余地を奪う。生けるものの存在を許さない閉塞。
そんな中ラバシュームが苦笑したのは、押し潰される直前、感応波を四方に放ったことを自覚したためである。
己を嘲笑う。己がテレパス能力など、無意識間でなければ何ら意味を成さぬものではないか。
薄れゆく意識は過去に遡行する。夢の中で接触してきたラバシュームを、サエキは如何なる理由で味方と断じたものか。遺跡の保全、封印に助力する交換条件として、惑星に迫る調略の阻止に協力を求められた。
サエキと、歴戦の老将というバクスト。三人で秘密の情報網を動かし、それは功を奏したのである。
楽しかった、と思う。忌み嫌われ、爪弾きにされ、刃を向けられるテレパスをひた隠す生き方に、慣れさせられていた。それが、ジレルならざる異星の民と秘密を共有し、大事を成し遂げたのだ。
形容し難い満足感を抱きながら、ラバシュームは眠った。
────────
一刻の猶予とて無い。"イシュタルム"に待っているのは、逃れようもない破局だ。
「ここまでやられますか、あの艦が?」
フランベルは言葉に出して、イピアは表情だけで驚きを表している。思い返すと、"イシュタルム"が初めて戦場に姿を現した時、艦載機隊を出していた。炎に包まれる死に体の巨影と、過日の姿がどうしても重ならないのだろう。
だが、現実だ。今の自分に何ができるか、バルムークは必死で考えを巡らした。
「お前は思念波の扱いに長けているそうだな。それで"イシュタルム"の内部を窺うことはできるか?」
イピアが頷くのを認め、バルムークはコンソールを叩いてあるものを二人に見せる。"イシュタルム"の四面図に幾つも光点が灯っていた。デスバテーターをつけられる空間的余裕のある箇所を示す。
「この中で艦橋との直通路が健在なもの、通過不能になるまで、少しでも時に余裕があるものはあるか」
あの艦の改修に主要要員として携わったことが、思わぬ形で生きたものだった。
艦載機の発着口は無事なようだが、艦内の兵士が脱出に使うであろうそれを塞いでしまうのは避けたい。
霊的存在と接触を図るような仕草で俯いたイピアは、程なくして答えを導き出した。結果を受け取ったらしいフランベルは、立ち昇る火柱を軽々と躱して機体を滑らせる。
左舷の艦橋基部に至った。視界に入るひしゃげた残骸は輪胴砲塔のそれで、どうも自壊したものらしい。
「ぶち破りますよ。それから先はどうかお気をつけて」
付近に兵がいないことを確かめ、機銃を掃射して外壁を破った。特殊な装甲を維持できなくなっていることが、皮肉にも幸いしたのである。
内部に着陸した機から飛び出し、必ず戻ると約してバルムークは駆け出した。
何かに、突き動かされている。前へ前へと引っ張る力、背中から押してくる大きな手。そうしたものを錯覚するに足る、きわめて激しい情動だった。
逸る心を抑え、バルムークは目についた通信設備に取り付く。
「閣下、バルムークです。聞こえますか、ご健在ですか」
呼びかけを三度繰り返した末、返事が齎された。
『バル、ムー……か……?』
言葉は途絶えがちである。エルダインの息遣いは呼吸というより、空気が漏れ出ていると表すべきもので、不安を搔き立ててやまない。
「出過ぎた真似を承知で馳せ参じました。畏れながら、この艦の命運は最早尽きております。脱出して再起の時を待ちましょうぞ」
通信回線に、ぱちぱちと弾ける雑音が混ざる。火が回っているのか。外からは艦橋が被弾しているとは見えなかったが、内部からの崩壊は既にそこまで及んでいたようだ。
『……ああ、終わりだな。この艦は……』
エルダインのこうした声は聞いたことがない。諦めと、潔さと、そして微かな安堵に満ちている。
『そして、我が覇道の終わりでもある』
足下の振動。下層から爆発の気配を幾度か感じた。ほぼ被弾の無かった左舷側にも、崩壊の時が迫っていた。
「何を仰せですか。"イシュタルム"の威容に届かぬとはいえ、座乗艦は建て直せます。艦隊も。逃げることは負けではありません。ここで諦めることこそ、真に敗北と言うべきでありましょう」
『……逃げるだの、負けるだのということは、どうでもいい』
溜まりに溜まった疲労の色を顔に浮かべ、薄く微笑むエルダインの顔を、バルムークは幻視した。
『分不相応な夢を見た。それに、悔いは無い。帝星亡き今、我らに許されるのは夢を見ることぐらいだからな。貴様には……返しきれぬ、恩……』
咳込む声が差し挟まる。苦痛に心身を掴まれながら、エルダインは言葉を継ぐのをやめない。
『あの女は……無事かは、分からんが……会えたら、連れて行ってやれ。達者でな』
「勝った後に迎え入れるという御約束ですぞ」
『我が夢は、どこまでも我のものだ。貴様は……あの女と共に、貴様自身の夢を見ろ』
さらば。……その一言を最後に、通信回線は永久の沈黙で満たされた。
「バル」
立ち尽くすバルムークの意識は、女の声で現実に引き戻される。
これは、幻か。エルダインを救えなかった無力感が、戯けた虚像を見せているのか。
目の前に、いた。己をここまで駆り立てた女が。
「バル……」
呼びかけられている。ようやく気づいた。自分を探しにここまで歩いてきた、そんな自惚れた想像はしないが、とにかく何か応えてやらねば。
言葉など、用意してこなかった。否、考えに考えたところで、気の利いた言い回しを思い浮かべることができたものか。
だが、一つだけ閃くものがあった。不思議に、以前からそれを知っていたようにも思える。
「クラリス」
女の……クラリスの双眸に光が宿った。こちらを射貫く程に眩しく、そしてどこか儚い。そして、自分を救ってくれるような光でもある。
自分自身の夢を見ろ。エルダインの遺した言葉が、途端に生けるものとして現れた気がした。夢か。それを、生きてゆく意味と言い換えるとすれば、この光の先にあるのではないか。
「行こう、クラリス」
バルムークの差し伸べた手を、クラリスは笑みと共に取った。
歩き出す二人。"イシュタルム"の崩壊は加速度的に進み、爆発による熱が近くに感じられる。
それも、二人が繋ぐ手と手の温もりに比べれば、無いも同然だった。
────────
意識を失っていたのは、ほんの少しの間だ。そう思うが、体感などあまり当てにはならない。
強い臭気が鼻をつく。ほんの少しの焦げ臭さと、錆を思わせる鉄分の匂い。
脇腹に感じる嫌なぬめり気は、やはり出血によるものだったようだ。
作戦はどうなった。その一事が、サエキに痛みを忘れさせる。モニターは落ちていたが、動力が滞っていただけのようで、すぐに復旧した。
画面一杯に映る影。総身を撃ち砕かれ、廃船と見紛う姿と化した巨大艦の姿である。漆黒の海に漂う魁偉な魔獣の骸。
「作戦は成ったか」
その一言に、万感の思いを籠めている自分が、サエキには意外だった。
味方による砲雷撃は未だに続いていた。既に戦闘の段階は過ぎ去り、解体の様相を呈しつつある。モノポール・ウェーブの照射は止んでいる。
それにしても、空前の怪物と言う他はなかった。一個艦隊を消し飛ばしても有り余る火力を叩き込まれ、艦としての形を保っているのだ。
救助を待つ間、サエキは己に止血処置を施すことにした。砲火の熱が冷めやらぬ戦場を見つめながら。
目を剥いていた。
動いている。まさか。奴はまだ動けるのか。それを言葉にできなかったのは、痛みのせいではなかった。
黒煙の襤褸を纏った死に体の巨大艦が、ゆっくりと回頭してこちらを見据えてくる。三つの複眼は炎の下に潰れ、残る左舷側の一つが爛々と輝いていた。
己が内奥を灼く炎を、映し出しているかのようだ。
味方の攻撃が輪をかけて激しいものとなった。ここで止めねば、何が起こるか分からないと悟ったのだ。ビームが内部の構造材を肉片よろしく吹き飛ばし、魚雷が爆炎の血飛沫を上げさせる。
だが、止まらない。死者をいくら撃ったところで効かないのと同じだ。
回頭をやめた巨大艦、その艦首下部が連鎖して爆ぜ飛んだ。こちらの攻撃による破壊が及んだのではなく、自らパージしたと見て取れる。
自らの顎を砕き、怪物が大口を開けてこちらを見据えていた。その奥に、横倒しの巨塔を思わせる構造物。
戦略砲撃システムのエネルギー増幅を担う、粒子加速器の一種であろう。静かに浮かび上がる光は、アナザーマーズを焼き払ったそれと同質のものだった。
つまりは、内部の施設を即席の大火力ビーム砲に仕立て上げたのである。それでもって、"アモン"を沈めようというのだ。
エネルギー充填は緩慢だったが、止まる兆しは無い。巨大艦が最後の一撃を発射するまでの時間と、味方が巨大艦を粉砕するまでの時間。頭の中で軽く試算すると、前者がほんの少しばかり短い。
このまま推移すれば、間違いなく"アモン"は消し飛ぶ。破片の一つとて残すことなく蒸発するだろう。
逃げようにも、あれだけ艦首砲を撃った後だ。ただでさえ大きく損傷している艦の船足が上がるとは思えない。
とはいえ、この砲撃は断末魔に等しいだろう。一度撃てば、それで真実あの怪物は絶える。そして狙われているのは、皆を欺き、基地を生贄に捧げながら、仕事を終えた一人の男だった。
このまま撃たせてやっても、よさそうなものではある。
「……データリンクは生きているか?」
口に出す前から、それを確かめている自分がいた。皮肉な笑みが漏れる。存外、自分は命が惜しいようだった。
各艦を繋ぐ見えざる糸は、未だ繋がっている。"アモン"はまだ存在意義を失ってはいなかったのだ。精密砲撃の中枢という役割を。
巨大艦のスキャンを開始する。高エネルギー反応増大。そんな分かりきった警告は気にも留めず、一つのものを探り続けた。
どこを撃てばいい。どこを撃てば、奴に引導を渡すことができる?脇腹の鈍痛が妨げてくるのを無視して、システムと無言の問答を続ける。
程なく答えは示された。剥き出しの内部、加速器のやや上方。味方の位置から十分狙える目標である。
それを全艦に転送し、サエキは息を吐いてシートに身を沈めた。出血か、それとも痛みによるものか、意識が彼方へと遠のいてゆくのを感じる。
今、やれることは全てやった。これから、どのような天命が自分を待っていようと、静かにそれを受け入れる自信はある。
渦を巻く緑の輝きは今にも溢れ出し、戦場を塗り潰さんとしていた。あと、十秒といったところか。そのカウントダウンは、己が終わりを意味するものかもしれない。
青い煌めきが飛び込んで、緑光を断ち割った。落ちかけていた意識が、微かに引き戻されるのを感じる。
奔る光条は迅さと鋭さと、量感にすら満ちている。"だざいふ"の砲撃だろう。狙うべき箇所を寸分の狂いも無く撃ち抜いていた。
今にも炸裂する筈だった輝きが、消えてゆく。巨大艦はまたも充填を始めようとするが、直後に殺到する火力の怒涛が、それを許さない。
決着を。終止符を。峻烈な砲撃の嵐は、皆の祈りを乗せているように思えた。
光が、差した。
内から、外へと飛び出してゆく光だ。巨大艦は、自らの発する光でその身を四散させ始める。
静かだ。敵が最期を迎えつつあるのを見て、抱いたのはそうした感情だった。
空前の戦艦に相応しい、死してなお宇宙を揺るがす凄絶な最期を遂げるのだと、勝手に思い込んでいた。
崩れゆく船体は海底へと投じられるように、ゆっくりと落ちてゆく。黒く焼けこげた装甲板も、ひしゃげた砲塔も、あの艦に何か望みをかけた敵がいた艦橋も。等しく宇宙の一部となって溶けてゆく。
誰かが息を呑む音さえ、聞こえない。
このような