願いという名の呪い 作:炙られた足
沢山の視線が私を叩く。向けられた36つの人差し指、同じ数の口から放たれる罵倒が私を襲う。
仕方のないことだ。罪を犯したのだから……何をしたのだったか。いや、考えることは無駄だ。
今はこの罪悪感を受け入れるだけでいい。心地が良かった。
罰を受けられて…辱められ。真っ当に罪を償う事が出来る…それがどれだけ気分のいい事か。
あまりにも簡単で…効果的だ。
そう。現実は非常だったのだ。それだけの話だ。
本当に?
誰かの記憶が、過ぎ去る…
どこかの実験室。そこに置かれているフラスコ。その中に、何かが入っている。…雫達が、押し
合う様にしてもがいている。その中から、一つの雫が端に寄る。雫は喋る。
[貴方は、私があれらと同じに見えますか?あの中に、私の居場所はないのに…]
雫はそう話した。どうもこうもない。私は君たちじゃないから、その苦しみは分からない。
[いいえ、貴方は知っている筈。私達はそう作られてない。この外じゃ生きられない]
[貴方も同じ。どこにも出口はないよ]
[いいから出して欲しいな。苦しいんだよ、ここ…]
[そんなのと話してないで、こん中から出す方法を教えろ!]
[全員ごちゃごちゃうるさい。無理に決まってるだろ]
フラスコの中の雫達はそう口々に喋り立てる。
そして、雫達はこちらを一斉に見つめて、また声を発する。
[[[[[だってさ、君も私達なんだよ?]]]]]
「違うな、私は…私だ。君たちじゃない」
砂嵐が、追憶に走る─────
また、気がつく。
そこは大きな屋敷のある一室。
[ねぇ、一緒にあそぼ。この部屋は、私一人じゃ広すぎるの]
幼子が、語りかけてくる。
しかし、確か遊んでいる場合では無かった筈。
「ごめんね、まだ無理なんだ」
[そうなの?なら、仕方ないね…待ってるから、いつかまたね]
「うん、またね」
そうして、誰かが部屋を後にする。
置いてかれる側の事情も知らずに。
そうして屋敷の光景は去って行く。
怒ることを強要された。悲しむ事を強要された。喜ぶ事を強要された。
楽しみなどなく、ただ虚しさがあるだけだった。だから何もしない事にした。上っ面だけで過ごす事にした。
いつだったかそれをやるのも億劫になって。
いつしか………
違う。選ばれたんだ。私は。私は選ばれた。
選ばれた。選ばれた。選ばれた。選ばれた。選ばれた。エラバレタ。
エラバレタエラバレタエラバレタエラバレタエラバレタエラバレタエラバレタエラバレタエラバレ
タエラバレタエラバレタエラバレタエラバレタエラバレタエラバレタエラバレタエラバレタエラバ
レタエラバレタエラバレタエラバレタエラバレタエラバレタエラバレタエラバレタエラバレタエラ
バレタエラバレタエラバレタエラバレタ
[いいや、君は果たして───]
目が覚めた。全身が汗に濡れていた。そこは重苦しい牢屋の中だった。
先ほどのは夢か?私は何をしていたのだろうか。
ここに来るまでの記憶がない。私は一体何を……そこまで考えると、頭にノイズが走る。
私は大きく息を吸った。走るノイズは収まり、思考が冷静さを取り戻す。
ふと、ズボンのポケットに異物感を感じる。手を入れて確認してみると、
無針の注射器と思しきものが入っていた。
中には緑色に煌めく何かが入っているのが確認できる。
一緒に紙も入っていた。『どうしようもなくなったら、首に打て』とだけ書いてあった。
私は───────
☠ それを首に刺した
放置して懐に忍ばせておいた←
私はそれを放っておく事にした。
と言うかこれは何だろうか、自殺にでも使えと?まぁいい。
どうせあとは死んだ様に生きるしかない命だ。
そんな事を考えて、着ていた上着の内側にそれをしまった。妙に暑いと思ったらこれのせいか。
私は上着を脱いで、先程まで転がっていたベッドにそれを畳んで置いた。
ふと、牢屋の外から声が聞こえた。女の声だ。
此処から出せ、と言う声達。聞き覚えはない。どうやら、何かがあって…
私は此処に閉じ込められたようだ。
この牢屋には、粗雑なベッドに…目立つ位置にモニターが設置されている。
牢には幾許かミスマッチだ。しかし────
「あれー?ここはどこでしょうか?」
私の上方向から声が聞こえた。聞き覚えは当然ない声。
二段ベッドの上で、水色の髪の少女が起き上がっていた。
「……探偵?」
その少女は妙な服装をしていた。探偵小説の主人公のような衣装を着ている。少女はこの不可解な状況にも関わらず、どうにもあっけらかんとした表情を浮かべて、黄色の瞳で私を見つめている。
「え、誰が…あ、私ですかー?」
妙に声が大きい。どうにも不可解な状況だというのに、目の前の少女はやけに楽しそうだ。
少女はベッドから降りて、私と向かい合う。ぱっちり開かれた目から好奇の視線が私に注がれる。
少女は私の周りをクルクルと回って、私のあちこちを見ている。
「うーん…理知的なメガネ、賢そうな表情、冷静な態度!どれを取っても完璧です!…えーと、
名前は何て言うんですか?」
少女は私に問いかける。別に特段断る理由も無かったので、私は答える事にした。
「……銀輪(しろわ)ヘルマン。そう呼んでいただけますか」
「ならヘルマンさん!私の助手になってもらえませんか!その顔、態度!名探偵の助手として
ピッタリです!」
急に何を言い出したのだろうか。……まぁ、断る必要はない。この状況だ。従う相手は決めてお
いても良いだろう。
「はい。構いませんよ、探偵さん」
「やったー!これで憧れの探偵です!あ、私は橘シェリーって言います!これからよろしくお願
いしますね、助手さん!」
少女…橘シェリーは、私の両手を取ってブンブンと上下に振った。何故か矢鱈と力が強い。
そんなやりとりをしていると、牢屋に設置してあるモニターが起動した。
そこには、フクロウと思しき何かが映っている。
「あ…もしもし…映像って見えてます?何せ古くて故障が多いので…やれやれ」
喋った。置物か機械の類にしか見えないそれが。何がなんだか良く分からない。
画面のフクロウは続ける。
「私、ゴクチョーと申します」
「詳しい説明がしたいので、ラウンジに集合して下さい」
「鍵は看守が開けてくれるので……」
「抵抗とかは自由なんですが…命とかなくなっちゃうので…はい…」
そう言った後、モニターは再び何も映さなくなった。
とにかく、指示に従う他ないという事は理解した。
すると、牢の外から何かがぬっと歩いてきた。とても大きい図体。黒い装束にフードを被って仮
面もつけている、大鎌を持った何かだ。それは私達の牢の鍵を外して廊下を歩く。ついて行かな
ければ多分に命が危うい。
「よーし、橘探偵事務所、初出勤ですよー!!」
そう言いながら彼女は外に出た。ベッドに置いておいた上着を持って、私も彼女に追従する。
(しかし、どういう状況なのだろうか……私と同じ様な年頃の少女を集めて…)
私はそんな事を考えながら、歩みを始めた。此処が、地獄だとも知らずに。
「そう言えば探偵さん、貴女は事件を解決した事とかは…」
「まだありませんね!」
…前途は多難になりそうだ。
後で主人公のプロフィールも載せておきます。