願いという名の呪い   作:炙られた足

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裁判パートはとにかく長くてガバがないか不安になります。上手く調理出来る人はガチで尊敬します。



通算UAが3000を突破致しました!ありがとうございます!!!


第一裁判(2)

「何か不都合でもおありですか?早く使ってください」

「……私の魔法はとても強力なんだ。一度でも使ったら──」

「これは貴女の無実の証明です。魔法が【魅了】だと分かれば、私の疑問も解消します。同時に貴女の無実も証明でき、アリバイがなかろうと犯行は不可能だと皆が分かってくれるでしょう」

「……わかった」

「よろしい」

 

特に前動作のようなものはない。ただ、魔法を使われた。まるでカメラがフォーカスするように、私の視界はレイアが中心になる。そして……動かせない。配信の時の違和感の正体はこれか。視界、というか関心が固定されている。体は動くものの、目が彼女から離せない。これではっきりとした。

 

「なるほど、そういう事ですか」

「どうかな?すっかり私に───」

「いいえ、これで分かりました。少なくとも貴女の魔法は【魅了】ではない。貴女の魔法は───自身に視線を集める、若しくは人の関心を操れる魔法です」

「じゃ、じゃあレイアさんを見るとドキドキするんじゃなくて……」

「逆だったんだ。目が離せないからドキドキさせられたんだ!」

「だが、キミは体を動かせた。ノアくんだって、これなら抵抗が可能な筈だ!」

「いいえ、貴女が殺人衝動に駆られて城ケ崎ノア氏を殺害したなら、その証拠は確かにここにある。それは───」

 

私はスマホの【魔女図鑑】を起動して、ある一節を示す。【魔法】について書かれた一節を。

 

「ここにある通り、魔女になるにつれて魔法は強化されます。強化されたそれならば、抵抗をさせずに城ケ崎ノア氏を殺害出来たはずです。そして、貴女の魔法でしかこの方法で殺害は不可能と考えられます」

「……そんなのはただの憶測にしか過ぎないよ」

「ですが、説明はつきます。戻ってきた佐伯ミリア、沢渡ココは共に城ケ崎ノア氏の房の前を通過している。一緒にいた貴女の魔法ならば、自身に注意を引いて誤魔化せる……そこに匂いも合わされば更に確実です。これならば、不自然な点の説明に大凡納得はできます」

「へぇ……差し詰め、【視線誘導】とでも言っておくべきかしら?」

 

これならどうだ。彼女の魔法は魅了ではなく、別のモノだ。その証明はある程度だができた。正直もう少し詰められないかとも考えたが、時間がそこまで残されてはいない。だが、時間稼ぎとしては十分な結果だろう。

 

「……キミたちの言う事は全て状況証拠だ!それにヘルマンくんの魔法だって、本当にそうだと証明できるのかい?魔法の内容は、完全には誰も証明できないんだ!」

「そうかもしれませんが、その証拠が揃い過ぎています。この中で一番怪しいのは貴女です」

「確かにそれは事実だとも!だが……私が犯行に及んだという確たる証拠はどこにもない!きっとこれは陰謀だよ。誰かが私を陥れようとして────」

「いいや、レイアちゃん。君が犯行に及んだ証拠が……確かにあるよ!それは───これだ!」

 

間に合った。私の思惑は成功したようだ。あのままレイアにペラを回させたら、気弱なエマでは押されかねない。だから私が一度無理矢理にでも前に出る必要があった。何も考えなしに博打をするほど、私も向こう見ずではない。エマは証拠として、ノアの房にあったスプレーを提出した。……そういえば、あれも落ちていたか。何かあるとは思わなかったが。

 

 

「レイアちゃんは、これを持ち帰ってしまったんだよ!自分でも気づかないうちに!」

「ど、どういうことですの?」

「思い出して。ノアちゃんの部屋には傷がついていたよね?塗料も剥がれていて……じゃあ、そこで無くなった分の塗料はどこに行ったんだろう?」

「んー、ホウキ使って長いもん作ったんっしょ?だったらそこにでも付いてたんじゃね?」

「でも、ホウキを調べてみても何も付いてませんでしたよ?」

「じゃあ、リボン越しに触れたんじゃねーか?」

「いや、リボンが間に入ったなら床に傷は付かないわ」

「確かに、あれは硬い物が直接叩き付られた跡だったような……」

「床に傷がついていた様にも思えましたので、鋭く硬いものが引き摺られた跡に近いと思われます」

「それに、あの塗料は木製のものに付くと取れなくなるんだよ。ホウキには何もついていないかったし、他の物でつけられたと思うんだ」

「じゃあ犯人が使ったのは鋭くて硬くて、木じゃなくて現場に残っていないもの……ま、まさか!」

「そう、槍を構成していたのは【矢】と【ホウキ】と【何か】……そして槍は途中で崩れて、【何か】は床を傷つけたんだ!その何かは───レイアちゃんの持つ、剣だったんだ!それが床を擦って傷つけたなら、剣の先には塗料がついている筈だよ!」

「ふふ……はははは……」

 

証拠が出揃ったというのに、レイアは乾いた笑いを漏らすのみだ。少なくともおかしくなった訳ではないだろうに、どうしたというのか。

 

「なら見せてあげるよ」

 

そう言ってレイアが抜いた剣の先には、塗料など付着していない。証拠は既に隠滅されていたのだ。考えてみれば当然の話ではある。消せる時間は十分にあったのだ。

(これ以上は証拠がないか……どうする?まだ何かあるか?かくなる上は……)

懐の注射器に手をかける。最後の手段ではあるらしいが……ダメだ。何が起こるかわかったものではないし、これで真相に辿り着ける事は無いだろう。ならばこのまま時間切れに持ち込めば……恐らく逃げられるのがオチだ。何か、何かないのか?

 

「どうだい?これで私の潔白は──」

「待ちなさい」

 

自信満々といった様子のレイアを釘を刺すかのようにナノカが止めた。

 

「まだ私の事が信用ならないと?証拠はもう出尽くしたよ?」

「ただ、あなたへの容疑が晴れていないというだけ。まだ、議論は続けるべきよ」

「でもこれ以上何を議論しろっていうんだい?証拠品、死体、他に話していない事なんて──」

「……ちょ、ちょっと待ってください。私たちはまだ、あなたの事を詳しく聞いていません……あなたが一人の時間、何をしていたかを……」

「アリバイの事ならあまり詳しく覚えていないと……」

「なら、その後のことでも構わないわ。出来る限り詳しくお願い」

「ああ、分かったとも。その代わりこれ以上証拠が見つからないなら、私への詮索はやめて貰おう。謂れのない事で疑われるのはごめんだからね」

「いいわ。私はこれ以上疑わない。……それでいいわね、桜羽エマ」

「……うん」

 

エマは顔を上げる。その顔には、確かに意志があった。あの時に見たものと、同じ。……まだ、私も諦める訳には行かないか。恐らく最後のチャンスだ。

 

そうしてレイアは話し始めた。配信開始から、その後眠るまでの。その時間は特に何もなかったと同室のミリアも証言した。配信前も急いで来ただけで何も変な所はなかったとココも言った。私には証拠の見当も付かなかった。まだ何かあるなら……くそ、我ながら役に立たない。

 

「さぁ、私が犯人だという証拠は見つかったのかい?もしもあるなら、見せておくれよ」

「レイアちゃんが犯人の証拠は……これだ!この配信は、ノアちゃんを殺害したと思われる直後に行われた……つまり、この配信の時点なら、剣にも塗料が付いていた可能性があるよ!」

「そういえば、レイアさんは剣を使った曲芸をやらされてましたね!」

「あら、残念ながらそれは不可能よ。アーカイブを確認したけど、剣の先端は映っていなかったわ……素人のカメラ配置だもの。ココちゃんを責めないであげてね?」

「ちょ、それはあてぃしのせいじゃねーだろ!」

 

……見えたと思った光明が潰えたか。どうする?本当にこれを使うか?待て、剣を使ったのなら……配信の時点なら、剣に塗料は付着していた……?私はシェリーに小さく耳打ちする。

 

「探偵さん、少しよろしいでしょうか?」

「なんでしょう?」

「蓮見レイアは配信において、剣で何をしていたのですか?」

「えーと、剣を使って投げられたリンゴを貫いてまし……って、ああ!」

「……その貫いたリンゴは、何処に?」

「確かミリアさんがスタッフが美味しくいただくって!」

「それなら……そのリンゴに結果は残っている筈。佐伯ミリア!!」

「うわっ、ビックリした!」

 

いきなり大声で声をかけられて驚いたのか、ミリアは小さく跳ねた。

 

「貴女は配信の時、曲芸に使ったリンゴを何処に置きましたか?」

「な、何でそんないきなり?ええと、確か後で食べようとしてポケットに……」

「それを今すぐ取り出して見せてください」

「わ、分かった!」

 

ミリアはポケットからリンゴを取り出す。それには……貫かれた跡と共に、リンゴの物ではない白い痕跡が僅かに残っていた。此処にあったのか。

 

「っ!こ、これ……全然、気付かなくて……」

「白い痕跡……それが蓮見レイアの剣で貫かれたこのリンゴに付いているならば」

「ええ。犯人はもう明らかです!蓮見レイアさん!これが証拠です!犯人は……あなたですね!!これ、一度言ってみたか──」

「少しばかりお静かに」

「レイアちゃん……本当に、キミが……?」

 

レイアは黙ってしまった。先程とは違い、何も喋らない。怪しかったのも彼女ではある。しかし。彼女はこの場の誰よりも全員の安全を気にしていた。彼女は何故犯行に及んだ?彼女の顔は青ざめ、悠々とした表情はかけらも残っていない。

 

「ハハハハハハハ!!あーあ、バレてしまっては仕方ないか。そうだよ。私が、殺したんだ」

「本当に、あなたが……!?」

「認めるんですね?自身の犯行を……」

「レ、レイア……」

 

全ては白日の元に晒され、舞台の幕は今まさに閉じようとしていた。アンコールも、何も聞こえず。静寂のみが劇場を支配する。観客は、最早誰もいない。ここに、終演は告げられたのだ。




次回。第一裁判、決着。
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