願いという名の呪い 作:炙られた足
廊下はかなり騒がしくなってきている。人数は…私を除外して13人。
……何故か喧嘩している者もいる。この状況なら仕方ないか。
子供の様な者もいる。そしてどうやら、外から覗いて来た化け物が私達を案内してくれる様だ。
橘シェリーは廊下のあちこちに視線を巡らせて、調べている。
私も同じ様に周囲を見渡すが、おかしなもの、明らかな異常は見つからない。
暫く化け物について歩いて行くと、やがてラウンジに辿り着いた。印象としては洋風の部屋だ。ここもまた、異常などはあの化け物以外に見つからない。
少女達の顔も、また良く確認できる。
焦る者、困惑する者、余裕そうな者、どうでも良さそうな者と様々だ。
「いやー、目が覚めたら知らない屋敷で!化け物に見張られていて!なんかすごい事が起こっているのを感じます!!高まっちゃいませんか!助手さん!」
シェリーは私にそう話しかけてくる。この状況でそう言えるのは、一周回って健全なのだろうか。
「……確かに凄まじい事が起こっているのは私にも分かります。
しかし、このような状況でそのような発言をするのは、些か無遠慮が過ぎるかと」
「その方の言う通りですわ!」
そんなとぼけたような会話を交わしていると、突然誰かが会話に割り込んで来た。
人形のように着飾られた少女が、こちらを見ている。
「なぁーにが高まっちゃいませんかー、ですわ!?やべー事が起こってるんですのよ!?
もう少し危機感を持った方がいいんじゃないかしら!?」
「そちらの方が仰られた通りです。異常事態は楽しむものではないと私は考えます。
そして探偵ならば、落ち着きを持つのも重要であるものだと理解していただけると」
「もう、助手さんもつれませんねー」
「当然の事ですので」
着飾られた少女はシェリーにそう食ってかかった。彼女の態度はこの場にはとても似つかない。
それにしても、着飾られた少女は口調が不自然だ。まるで何かを…
そんな事を考えた瞬間、どこかからくすっと笑い声が聞こえた。
「今笑ったのは誰でやがりますの!?」
「いや、すまない。少し変わった喋り方だと思ってね…」
横から話に入って来たのは、精悍な顔立ちが特徴の中性的な少女だ。見に纏う衣装もちゃんと着こなし、
さながら役が堂に入った俳優のようだ。腰に刺剣を差して、まさに童話の王子といった風貌も、その印象に拍車をかけている。
「みんな初対面だと思うから、良かったら自己紹介をしていかないか?」
「先に名乗らせてもらうよ。私の名前は蓮見レイア」
その少女はそう名乗った。澱なく、自身ありげな表情だ。
「…ふんっ、遠野ハンナですわ。以後お見知りおきあそばっ……お見知りおきあそばせせ?」
着飾られた少女はそう名乗った。どうにも格好のつかない人だ。
「ちょっとお先によろしいかしら?貴女、レイアさんって言ったわね。
いきなり人の事を笑うのは失礼でなくて?」
「す、すまない。そんなに気にしてるとは思わなかったんだ。お手柔らかに頼むよ」
「きっ、気にしてないし…もういいですわ、はい次の方!!」
ハンナはレイアにそう言ったものの、逆に図星を突かれてしおらしくなってしまった。
…この2人は変な噛み合い方をしているように思えてならない。
「はいはーい!!私は橘シェリーっていいますっ!こっちは助手の銀輪ヘルマンさんです!
事件があるところに私たちあり!橘探偵事務所にお任せ下さい!」
「ご紹介にあずかりました、ヘルマンです。」
流れに合わせて、私も自己紹介をする。とはいえ記憶が少ないので、あまり変な事は言えない。
「探偵ぃ?貴女達が?」
「そうですよ!えっへん!何せミステリマニアですからね!」
「実際に2人で事件を解決した事があるのかい?」
「それはまだないですねー!ヘルマンさんとも、さっき知り合ってスカウトしただけですし!」
「そ、そうなのかい?」
「その認識で間違いありません。私達は先ほど知り合い、私は彼女にスカウトされました。
それと公的、法的に認められている訳ではないので、正しくは自称探偵と言っていいかと」
「はは、なんだか頭が痛くなってきたな…次の人、頼めるかな?」
まぁそれはこちらもそうだ。別にどんな目で見られようと構わない。
この状況に放り込まれて頭が痛くならない人間はいないだろう。
レイアは近くにいた白とピンクの少女を差した。
「ボ、ボクは桜羽エマ!」
「わ、わわわ、私の名前はひっ、ひっ、ひ…氷上メルルです…」
エマと名乗った少女は如何にも普通そうな少女で、やけに怯えているのはメルルと言うらしい。
よく見ると、エマは膝に傷を負っている。…そういえば、先ほどの廊下で喧嘩していたのも、彼女達だったか。
「エ、エマさん…そ、そそっその…膝、怪我してます…」
「え?このくらい大した事は…」
「大した事、ありますっ…!」
メルルと名乗った少女は、エマの方へと向かい、膝に手をかざす。
すると光が起きて───エマの傷はすっかり消えていた。
(何だ…?嘗て神の遣いは奇跡を起こしたというが…この少女は人間だ)
私はメルルの服装から聖職者、それに準ずるものをイメージしたが、恐らくメルルはその類ではないだろう。
人間ではない何か、という線も考えたが…確認する方法はなく、また、ここで彼女を問い詰める意味もない。
……今はよしておこう。私はそう結論を出して再び意識を戻した。
そして私がそうしている間に、場の空気は再び自己紹介に戻ったらしい。
「…その力について詳しく聞きたいけれど…まだ他の子も残っているだろうし、お互いの自己紹介を優先しようか。次、キミでいいかな?」
次に、レイアはオレンジ色の少女を指した。ヘッドホンをつけているが、声はちゃんと聞こえているらしい。
「あー、あてぃし?あてぃしの名前は沢渡ココ。んであんたさぁ、ちょっといい?あてぃし、テレビであんたのこと見た事がある気がして」
ココと名乗った少女はレイアに無遠慮な視線を向けている。
「あっ、それ私も思いました!!有名人の方でしょうか!?」
シェリーも反応する。……そんなに有名なのか?
レイアは表情を崩さずに返答した。
「芸能事務所に所属しているからね、色々活動はしているさ。舞台が一番多いけれど…テレビにも良く出るかな」
……そんな人物が何故こんな所にいるのだろうか。テレビ番組のドッキリ、という訳ではないだろう。
それだとターゲットはレイア一人で良くなってしまう。私達が閉じ込められる事に対する説明がつかない。
「すごーい!生芸能人、始めて見ましたっっ!サインくださーい!」
「ちょ、うぜーなコイツ!あてぃしが先だっつの!あてぃし配信しててさぁ〜とりあえずコラボしてくんね?」
……ココはいいとして、シェリーはやっぱりもう少しだけ落ち着いたらどうだろうか。
まぁいい。止めろと命令もされていないし、自己判断だけで行動すると碌な事にならないと誰かが言っていた。
むしろ、これこそ彼女の美徳なのかもしれない。
「はは、今は自己紹介の最中だし、その話はまた今度。キミ達、次いいかな?」
レイアはそれを軽く受け流し、まだ名乗っていない少女達を促す。
「ええと、やりづらいな…佐伯ミリアだよ〜…よ、よろしくね〜、あはは〜…はぁ」
金色の髪をした少女が答えた。装飾が矢鱈とゴテゴテしている。最近の流行はそんなものなのだろうか。
憂鬱そうな感じだが、特段気にする事でもない。
「私は宝生マーゴよ。かわいい子がいっぱいでゾクゾクしちゃうわ。うふふ」
妖しい笑みを浮かべたまま、少女はそう名乗った。その衣装にあしらわれているのは蝶だが、
まるで蛇か蜘蛛の様な印象を受けた。
「チッ、紫藤アリサだ。…言っとくけど、てめーらと慣れ合うつもりはねーからな」
いかにも風貌が悪そうな少女はそう名乗った。マスクで顔は見えないが、苛立っているのは感じ取れた。
こういう手合いは放っておくのが──────
「アリサさん、ですよね。どうしてマスクを?顔を見られるとマズかったりします?」
シェリーは一切恐怖することもなく、アリサへと話しかけた。
……バカという訳ではないんだろうが、フレンドリーすぎるのも考えものだ。
「うっせえな、テメェには関係ねえだろ…!」
「えぇー、とっても気になります!名探偵の血が騒ぐんです!」
「それ以上絡むんなら殴るぞてめえ!!」
「君たち、諍いはよそう!シェリーに苛立つ気持ちはわかるが、まずはお互いの事を知らないと」
「私の事、さりげなくディスってません?」
「そんな事はないさ、ちょっと黙ってて欲しいと思うだけで…」
「えーん、フラれちゃいましたー!助手さん、慰めてくださーい!」
「蓮見レイア氏の意見は尤もです。此処は静かにするべきかと」
「てへっ⭐︎なら黙ってますねー!」
そういうとシェリーは下がった。やっぱり変な人だ。
「ええと、あと残っているのは…」
レイアは後ろの方を見て、壁隅で丸まっている少女に目を向ける。少女はスケッチブックを取り出して、
そこに書いている文字を見せた。どうやら話せないのか、別に何かがあるのか。
スケッチブックには、
『わがはいは夏目アンアンである。以降、どうか話しかけないでいただきたい』
と短く書いてある。
「…黒部ナノカ」
次に名乗ったのは、何故か背中に長銃を背負った少女だ。剣呑な物は持たないで欲しい。
神経が無駄にすり減る。というかレイアの刺剣より危険だ。
「私の名前は、二階堂ヒロだ」
最後に名乗ったのは、生真面目そうな少女。顔は笑っているが、神経質そうな声色で喋っている。
そう言えば、桜羽エマと揉み合っていたのは彼女だったか。
「キミ、キミだけまだ名乗っていないんだ、名前を教えてくれるかな?」
レイアは輪から外れていた、やけにカラフルな少女に声をかけた。
「んー?なまえ?のあはのあだよ、城ケ崎ノア」
妙に舌っ足らずな様子で喋っている。よく見ると、目もカラフルだ。
どうしたらああなるんだろうか。ちょっと興味が湧いた。
自己紹介を終えると、ノアはまた室内の物色に戻った。
「全員の名前が知れて何よりだよ。此処に来た意味は私にも分からないけど、冷静に行動するべきだと思うんだ。とにかく、落ち着いて説明を待とうじゃないか」
レイアは最後にそう締め括った直後、何かが羽ばたく音が聞こえる。
見ると、モニターに映っていたフクロウもどきが来ていた。
巡回していた化け物が、フクロウの近くに着く。
「あっ…人がいっぱい…ええと、改めまして…この屋敷の管理を任されている…
かわいいフクロウの、ゴクチョーと申します」
そこからは説明が始まった。どうやら私達のように此処に…『牢屋敷』に閉じ込められた少女は魔女になる因子を持っていて…「魔女」は、この国に災厄を齎す存在らしい。……正直なところ、荒唐無稽な話だと思う。
ここは現実だ。ファンタジーやら伝奇ものの映画ではない。しかし、それが嘘でない事位は理解できる。
それと…あの看守。殺人を起こした魔女のなれはてらしい。私もあんなものに化けてしまうのか?
訳がわからんうえにさっぱりだ。
…そんな事を考えていると、不意にゴクチョー以外の声が聞こえた。
「それは間違っています。私は悪ではない」
ヒロが一歩前に進み、声をあげていた。
いきなり何のつもりだろうか?
「この国に害をなす危険因子は…間違いなくこの子だ」
そういうと、エマの方に視線を向ける。エマは青ざめた表情を浮かべて、ヒロを見ている。
あの二人の間に何があったのか…知るよしはない。が、この状況は嫌な事が起こる予兆だ。
「はぁ〜〜…あの、お願いですから悪者を受け入れて下さい。私も残業とか嫌ですし、
みんな仲良く楽しくがいいので………」
「間違っている…!私は悪ではない…!」
爆発一歩手前の雰囲気。私は二階堂ヒロを……
☠️止めた
傍観していた
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