願いという名の呪い 作:炙られた足
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私達はラウンジへと集められた。この場にいる誰もが、信じられないという顔をしていた。
……困惑しているのは仕方ない。こればかりは誰が止められたとかの話ではないのは明白だ。
とにかく、今は説明を聞かなければならない。すると、ゴクチョーが飛んできた。
「さて……起こっちゃいましたね、殺人事件。……今日の夜、魔女裁判を開廷します。そこで城ケ崎ノアさんを殺害した犯人を見つけてください。出来なければ……ここにいる全員が処刑されます。今から捜査時間をとりますので……まぁなんでしょう、楽しんでくださいね。あぁ、それと不正がないように現場には立ち入りを禁止します。状況は保持しておいてくださいね。それでは」
とぼけたような言い草で述べて、ゴクチョーは飛び去っていった。
今の時間帯は午前8時頃。ここからなら捜査の時間はかなりあるだろう。
なら、手早く終わる方がいいだろう。エマに声をかけようとした所で、レイアが中央に立ち口を開いた。
「こんな事態になってしまい、非常に心苦しいが……私は、犯人を特定しなければならないと思う!」
「賛成よ。謂れのない事で処刑されるなんて御免だもの。犯人を魔女として裁いてもらうべきだわ」
「そして、犯人と疑わしい人物もすでに目処がついている……遠野ハンナ。浮ける魔法を使える君しか、あの現場において犯行は不可能じゃないか?」
「んなっ……!?」
どうやら、ハンナが疑われているようだ。筋道としては決して間違ってはいない。
しかし、今現在の状況ではこの場の全員に嫌疑がかかっているのと同じだ。
レイアの言も、また信用できないものなのは変わらない。
「ちょ、ちょっと待ってよ!ハンナちゃんが犯人な訳ないよ!」
「本当にそうかな?まぁ、今夜には全てがはっきりするだろうけどね」
そう言って、レイアとマーゴは出て行った。
彼女らの間に、猜疑の視線が行き来している。
疑念の種は芽吹き、大きく花をつけた。もう止めることは出来ないだろう。
「あ、あの……私、アンアンさんを医務室に連れて行きます。この状態じゃ、捜査はできませんし……すいません……」
申し訳なさそうにメルルはアンアンを連れて出て行った。これで残されたのは私とエマとシェリー、そしてハンナだけになった。
「なら私達の出番です!助手さん、準備はいいですね?ハンナさんの無実を証明しに行きましょう!」
「承知致しました。必ずやご期待に沿ってみせましょう」
「うん!行こうみんな!絶対やってないって、レイアちゃんに証明するんだ!」
「そうね……絶対見つけますわよ」
先ずは現場の調査に向かおうというシェリーの言に従い、囚人房に向かう事になった。もう、引き返せはしない。寄り道も、安心もない道をただ歩くのみだ。
さて、城ケ崎ノアの房を見に来た訳だが。変わらず酷い有様だ。匂いも酷い。塗料の匂いが充満していて、血液の匂いがしない程だ。そして血は飛び散り、蝶の絵を描くように広がっている。これは……通常の描画方式で描かれたものではない。
つまり────
「……城ケ崎ノア氏の魔法を知っている方はいますか?」
「確か、ノアちゃんの魔法は【液体を操作する魔法】だったよ」
「感謝します。この絵はつまり、魔法で描かれたものだということですね」
「そう考えると、バルーンとしての絵も魔法を用いて描いたものなんですかね?」
シェリーが死体の写真を撮りながら言った。改めて見ると、不可思議な点が幾つもある。
「まず、転がっているボウガンの矢ですね。矢先に血も付着してますし、これが凶器であるのは間違いないでしょう!」
「そういえば、ナノカさんがボウガンを持ち出した誰かがいると言ってましたわね」
「ノアちゃんは、ボウガンで殺されたのかな?」
「いいえ、その可能性は低いかと。ボウガンの矢は城ケ崎ノア氏の体に突き刺さっておりません。仮に貫通していたとしても、ボウガンの矢先以外に血がない事に違和感があります」
「つまり、犯人はボウガンの矢を直に刺して殺したということでしょうか?それだとハンナさんが殺したとしても違和感が……」
「だからやってねーって言ってるんですわ!?」
「待って。ハンナちゃんが本当に殺害したなら、この床の傷はなに?」
見ると、房の端の方に傷がある。この部分だけ塗料が剥がれているのが確認できた。
「傷……確かに床に付いてますねー!石の床に傷をつけられるなら、金属の類いでつけられたんでしょうか?」
「塗料もここだけ剥がれています。恐らく犯人が付けた傷だと思われます。そして、これがあるならば……遠野ハンナが魔法を使い犯行に及んだという指し示しにはなりません」
「それは……でも……」
エマの顔に影が差す。が、止まる事は出来ない。私は更に考える。凶器に関しては、まだ目処がつきそうにない。ならば一旦放置しよう。
「床の塗料も血も乾いているようですね。この中で、生前の城ケ崎ノア氏を最後に見た人は?」
「少なくとも、ボクが夕食に行くまではノアちゃんは生きてたよ……」
「ふむ……血は乾いていますね。風通しが悪い事を加味すると、かなりの時間が経過していてもおかしくないでしょう」
「となると、助手さんが戻って来た頃にはノアさんは殺されていたんでしょうか?」
「時間としてはそうですね……午後8時頃には合流できましたので……城ケ崎ノア氏が殺されたのは、その時間からから死体発見時刻までという事になります」
「8時から今日の朝……随分と範囲が広いんですのね」
つまり、その時間帯には理論上全員が犯行に及べた。それを解消する為には……アリバイが必要だ。
「一つ提案があります。全員のアリバイを教えてくださいませんか?8時から就寝までの」
「なるほど、それは大事ですね!娯楽室でのリボン騒動があった後は自室でレイアさんの配信を見ていました!」
「私もメルルさんと一緒に部屋で配信を見ていましたわ。アリサさんも部屋に戻ってきていました」
「ボ、ボクも医務室でアンアンちゃんと見てたよ。そのあとはちゃんと房に戻ったし……」
「なるほど。そして配信が始まったのが21時、終わったのが22時。リボン騒動は……何時頃終わりましたか?」
「20時から丁度21時には終わった筈ですよ!」
「補足に感謝致します。その時間のアリバイを聞きに回りましょう」
一旦ここにいる人の無実は証明出来そうだ。しかし、疑問は残る。
「それと桜羽エマ。質問をしても大丈夫でしょうか?」
「え、えっと、ボク?」
「貴女と夏目アンアンは医務室で配信を見ていたと仰っていましたね?」
「そうだよ。アンアンちゃんとは仲良く出来なかったけど……」
「その後、夏目アンアンと貴女は死体を発見していました。彼女は医務室で就寝し、今日の朝には戻って来た。状況に間違いありませんね?」
「うん。アンアンちゃんは配信が終わるまで医務室にいた…つまり、医務室から深夜に出れるはずがないよ!」
「彼女に詳細に話を聞いてみるのは如何でしょう?」
「助手さん、今日は妙に冴えてませんか?」
「快眠だったからでしょう」
「そうしてもらわないと私の無実が証明できませんのよ!シェリーさんこそ、何か案を出したらいかがですの?」
「いやぁ、出来のいい助手を持てるなんて幸運ですね〜」
「話を聞きやがりなさい!」
なら、他の人々にも話を聞いていこう。
それと、怪しいと思った箇所はちゃんと記憶しておく。
医務室の夏目アンアンから話を聞いた。ずっと医務室にいたらしい。彼女の魔法は【洗脳】という事も分かった。相互に納得さえすれば、言葉で相手を操れるらしい。つまり、彼女が犯行を行うのは恐らく不可能。殺人を納得出来る人物は恐らく医務室にはいなかったからだ。彼女のスケッチブックに描かれた絵が気になったが、それ以上話す気はないようだったから、別の場所も調べる事にした。また氷上メルルからハンナのアリバイも確認出来た。
娯楽室では沢渡ココがサボっていた。態度は悪かったが、アリバイはあるようだ。どうやら、配信の前には佐伯ミリアと共に準備をしていたらしい。だが協力的な態度ではなかったから、放置して別のところに向かった。
ラウンジには黒部ナノカが佇んでいた。しかし、彼女からはアリバイを聞けなかった。彼女が言い残した「どうせみんな生きては帰れない」という言葉が引っかかる。また、近くのホールで分解された箒が見つかった。
湖には紫藤アリサが座っていた。昨日は一度寝ようとしたものの、レイアと鉢合わせて気まずくなって一度逃げたのだと言った。そして髪リボンを渡してくれた。ナノカが探していたものだろう。リボンには血と塗料が付着していて、殺人に使われたのは間違いなかった。
シャワールームには蓮見レイアと宝生マーゴ、佐伯ミリアがいた。マーゴはリボン騒動の後は部屋に戻っていたようだ。ナノカも戻って来ていたらしい。また彼女は朝、死体が発見される前には起きていたようだ。ミリアはココと同じように準備をしていたと言った。レイアはどうしてか忘れた風に誤魔化した。考えている途中、何故か鏡の中から声がしたから叩き割った。すると声は聞こえなくなった。……正直、マーゴに煽られて苛ついていたのは間違いない。
私が集められた情報はこの位だ。十分かどうかはこれから分かるだろう。
私達は再びラウンジへと集まり、情報の整理を行う事にした。
「さて、情報を整理しましょうか!」
「うん。犯行時刻は昨日の20時以降だったよね?」
「そこから朝に死体が発見される前には、ノアさんは亡くなっておられましたわ」
「しかし、深夜に出歩けた人物はいません。つまり、殺人は昨日行われた可能性が高いです」
「それだと皆さんが死体を見逃した事になりますわ」
「塗料の匂いで血の匂いは消えていましたから、気付かないのも無理はないのでは?」
「あくまで証拠の一つとして考えた方がよろしいかと。そして問題が一つ」
「うん……アリバイが唯一ない、レイアちゃんだよね」
「はい。彼女は佐伯ミリアと沢渡ココが準備をしている最中、何をしていたのでしょうか?」
「怪しいことこの上ねーですわね……」
「蓮見レイアの怪しさからは一旦離れましょう。これで遠野ハンナにかかった嫌疑は晴れるでしょう。アリバイの確認が完了し、それを共有出来る人物もいますから」
「まったく、びっくりしちゃいましたよ!これじゃ探偵じゃなくて弁護士みたいです!」
「これで私は無実ですわ!」
「けど、信じたくないよ……この中に殺人犯がいるなんて……!」
「桜羽エマ、覆水は盆には返りません。自殺の線も薄い現状、犯人を特定しなければ」
「わかったよ……」
そして話を続けようとした途端、荘厳な鐘の音が聞こえた。その場の全員が、顔を弾かれたように上げた。
「時間切れですね。行きましょう」
私達はシェリーの言葉と共に歩き出した。裁判所への大扉が、地獄への門のように思えた。躊躇うことはない。迷わずに私は踏み出した。
裁判所の中には、証言台が用意されている。囚人番号によって振られていたが、私にはシェリーと同じ証言台が割り振られていた。どうにも拒絶されている気がする。少女達は火花を散らしており、まさに一触即発といった雰囲気だ。ゴクチョーの説明がされる中、私はシェリーに小さく耳打ちした。
「まずは私達が調べた証拠とアリバイを並べましょう。議論はその後でも大丈夫の筈です」
「分かりました!助手さんもサポートお願いします!」
「それでは魔女裁判、開廷です!」
その言葉に小さく頷いた瞬間、ゴクチョーが大きく言った。タイムリミットは1時間。それまでに犯人を見つけなければ。嫌にうるさい心拍を抑えるように、私はシャツの裾を握り締めた。
「さて、先ずは何から話すべきかな?」
「ではでは!この名探偵シェリーちゃんが、この事件のあらすじについてお話ししましょう!」
そう言ってからシェリーは調べた事について話し始めた。現場の状況、凶器、死亡推定時刻。そして、塗料で血の匂いが消されて気が付けなかったこと、そこからの時間の経過。関連する各人のアリバイの確認。関連して、深夜帯には殺人が不可能だったこと。これはエマやマーゴ、そしてナノカとアンアンが証明に協力してくれた。そして最後。
「そして、ノアさんの死亡が推定された時刻にアリバイがないのはあなた一人!蓮見レイアさん!貴女が城ケ崎ノアさんを殺したんじゃないでしょうか!?」
「……へぇ?」
レイアが妖しく微笑む。戦端はここに開かれた。もはや止められはしない。一切の希望を捨て、地獄に歩みを進めるとしよう。止まる事は最早許されない。
汝、この門を潜る者、一切の希望を捨てよ。(ダンテ・アリギエーリ作「神曲」より)