願いという名の呪い 作:炙られた足
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シェリーが集めた証拠とアリバイを羅列したが、役者としての経験かレイアはまるで態度を崩さない。彼女が犯人だとするなら、ここで逃す訳には行かない。襟を軽く締め、呼吸のペースは一定に。もう、迷わない。集中し、状況を見据え……完璧に。
「さぁ、レイアさんに質問です!あなたは20時から21時までの時間、どこで何をしていたんですか!?」
「はは、困ったな。そんな事を言われても、何も覚えていなくてね……」
どうやら誤魔化しにかかったようだ。最も愚かな手を取ったな。怪しさが更に増すだけだろうに。
「覚えていない、等という事はない筈です。貴女は昨晩の記憶を忘れている程、記憶能力に問題を抱えている筈はありません。ただ答えてください」
「うーん、でも本当に覚えていなくてね……ああそうだ。小腹が空いて食堂にでも行ったっけな」
「あら、お腹が空いたなら仕方ないわね♡」
「そんな言い訳でどうにかなると思ってんのか!?」
「落ち着きたまえ、アリサくん。ココくんがノアくんの死体を見逃していたように、人の記憶とは曖昧になってしまうものなんだよ。それに、アリバイがないなんて些細な事さ」
それはそうだ。が、それをレイアが誤魔化しに使うのはおかしい。ただ答えろと言うだけでははぐらかされる羽目になってしまう。ならばここは……
「そして、私にはノアくんを殺害する方法がないんだ。独房から3メートルも離れたノアくんを塗料を越えて殺害する方法はない。それこそ、空でも飛べなければね」
「……塗料を越える必要は、なかったんじゃないかな?」
「……どういうことだい?」
エマがレイアに対して反論した。
「確かに、犯人は足跡を残していない。なら、部屋に入らず外から殺した可能性があるんじゃないかな?その方法なら、浮かなくても犯行はできるよ」
「ですが、ボウガンで殺されたなら矢が体に突き刺さっている筈。しかし城ケ崎ノア氏の体にはそれがありません。持ち出されたボウガンが犯行に使われた可能性は低いと考えます」
「じゃあ、犯人はボウガンではない凶器を使ったという事でしょうか?」
「けど、それは証明のしようがない。私にはそんな凶器を用意する事は出来ないんだ。だから犯人は空を飛んでノアくんに矢を突き刺した。そうとしか考えられないよ」
「蓮見レイア。先程言った通り、遠野ハンナのアリバイは証明されております。余計な事を言うのは止めてください」
「なんとしても私を犯人にしたいようですわね…!」
つまり、凶器を用意した証明をする必要が出てきた。しかし、私にはまだ見当がつかないのも事実。ここは一度発言を控えるべきだろう。整理しよう。まず、凶器である矢には先端以外に血はついていない。そして、ボウガンの破壊力はそこまでではなく、更に床の傷を加味すると体を貫通したという線は限りなく低い。浅く刺さったなら、今度は殺害が出来ない。つまり、犯人は矢を突き刺した後、引き抜けた。しかし、なぜかボウガンの矢は回収されていなかった。一番の証拠であり、問題のそれを。回収を敢えてしなかったのか、回収出来なかった理由があるのだろうか?それを調べる必要がある。そして床の傷は、何によって付けられたのか。
「で、では……もう一度、詳しく状況について話してみるのはどうでしょうか……?」
「その意見に賛成するわ。この状況で重要なのは現場で何が起きたか。そこに納得出来ないと、この裁判は終わらない」
「では、現場の状況を再び整理してみましょうか!」
審問が、再び動き出す。
「まずは犯人が城ケ崎ノアの部屋を訪れた所からよ」
「犯人が部屋を訪れた時には部屋は塗料で覆われていました。ノアさん自身がそれをしたんですよね?」
「彼女の魔法は液体を操作する魔法らしいので、間違いはないかと」
「そうして部屋に入った犯人は浮いてからノアくんの体に矢を突き刺した。……筋は通ってるだろう?」
「だから違うって言ってんじゃありませんの!?空中以外からでも矢を刺す方法はあるはずですわ!」
「そもそも遠野ハンナが殺害したなら矢は回収され、床の傷もついていないはずです。適当を言うのは止めてください」
「なら犯人はダーツの要領で投げたか、それとも腕でも伸ばせたのかしら?そんな魔法に心当たりはないけど─」
「……!そっか!マーゴちゃんの言う通りだ」
「あら、犯人は腕を伸ばせたとでも言うつもりかしら?」
「ううん、腕を伸ばすんじゃなくてリーチだけを伸ばしたんだ!それなら、離れたノアちゃんを刺せる!そして、犯人がリーチを伸ばせた証拠がこれだよ!」
エマは分解された箒の写真を証拠として提示した。なるほど、柄の部分を使いリーチを伸ばしたと。それならば……待て。これだけではまだ追い詰められないか。
「で、それがなんだよ。棒高跳びでもしたん?」
「いや、それだと跡が残っちゃう。犯人はこれに矢を付けたんだ!」
「槍として使ったという訳ね」
「ならブラシの部分が分解されていたのも説明がつくわ。槍として改造したのね……」
「けどけど、それだけだとリーチが足りませんよ。もう少し伸ばさないと、ノアさんまで届かないと思うんです」
「他のロッカーを確認してみましたが、分解された箒はありません。一本の箒のみで犯行が行われたなら、その足りないものをどうやって補ったのでしょうか」
「うん。それは……犯人が身に付けているものだ!レイアちゃんは剣を持っているから、それを使ったなら犯行が可能だよ!」
「剣に鞘を組み合わせれば、確かに届きそうね」
「……全て憶測じゃないか。そんな事を言い出したら───」
「それ以上逃げるのはやめて下さい。大方時間を切らして逃げてしまおうという魂胆なのは分かっています」
「けれど、私がその槍を作った証拠もないのに犯人だなんて疑われるのはおかしいじゃないか。私には犯行は不可能なんだよ」
「いいや、槍が作られた証拠は確かにあるよ。それは……」
再びエマは証拠を提示する。アリサが持っていたリボン。元々ナノカのものだったそれには、確かに血と塗料が付着している。桜羽エマ……強いな。気弱そうな人物だと考えていたが。
「血だけじゃなく、塗料が付いているならこのリボンは犯行現場にあったんだよ!」
「リボンを無くしたのは昨日のこと。殺害のタイミングには合っている……」
「確かに偶然だとは思えませんわ……」
「けどよ、どうやってそれを犯行に使ったんだよ?」
「矢を……括り付けたんだ!箒と矢をリボンで組み合わせて槍を作って、それでノアちゃんを……でも、犯人にも予期しない事が起こったんだと思う。リボンが解けて槍が崩れちゃったんだ。だからリボンには血と塗料が付いてて、矢は回収されていなかったんだ!」
「なら床の傷はその時についた物と言うことね」
「……仮にそれらが正しかったとしても、私がやったという証拠がない。むしろ、私にはキミがみんなを騙そうとしていると思えるよ」
ここまで出揃ってはいるのに、レイアの喉にはまだ刃が届かない。もう少し、あと少しでいい。何か、彼女を追い詰められる手はないか?
「それに、仮に私が槍を組んで殺したとしてもだ。その間ノアくんは何をしていたのかな?まさか、自分が殺されるのをずっと見ていたとでも?」
「それじゃ……変だな。まるであいつ、死にたがってたみたいだ……」
「そう、考えれば考える程おかしいんだ。だから、もう一度私の話を───」
「その必要はありません」
これ以上、彼女に話をさせる訳には行かない。ここで畳みかけてしまおう。そして、反論の内容……ノアが何故動かなかったのか。それは……魔法のせいではないか?視線が、私に集中する。
「貴女は自らの魔法を使い、城ケ崎ノア氏を動けなくしたのでは?」
「……何を言い出すかと思えば。私の魔法は【魅了】だと言わなかったかい?みんなにちょっと恋心を──」
「違います。貴女は嘘をついている」
「嘘?」
「手取り早く証明する方法があります。貴女の魔法を私に使ってください。それで私に恋心が芽生えたなら、貴女は本当のことを言っている。殺人犯は貴女ではなく、別の人物になります」
レイアの顔が僅かに歪む。割と博打だったが、どうやら図星のようだ。何に惑わされているのかも、これではっきりとするだろう。彼女の顔を見据えながら、覚悟を決めた。
その美しさにも醜さにも、全ての視線が集中する。