ハッピーエンド(悪役全滅)が確定してる世界に於ける敵キャラとの恋愛について 作:散髪どっこいしょ野郎
目覚めるレンガ
脳みそをほじくられているみたいだ。
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人は一度死んだらそれで終わり。なのだが、どういうわけか俺には二度目が用意されていた。
前世も今世も現代日本に生を受けた。非常に幸運なことだなあと思っていたが、ただ一つの違和感。
……
一応前世の日本も先進国だったが、今回に限っては話が別だ。まず人口が多い。出生率が高い。
ただでさえ多かった訪日旅行者も群を抜いて世界一位。もちろんそれには理由がある。飯が美味いことやどこもかしこも栄えている故に観光奨励も盛んといった訳がある。そしてなにより、
日本のど真ん中、東京には──バカみたいにデカい塔がそびえ立っていた。スカイツリーなんか目じゃないくらいの。
その時点で確信した。この世界は俺が前世で見ていたフィクション作品の舞台なのだと。
現代社会に異能が発現したという何千億回とこねくり回された設定の作品に転生していた。ラノベだかマンガだかアニメだか忘れてしまったがとにかく創作物であることは間違いない。
作品名は確か『
疎らな記憶を辿る。確かこの世界はハッピーエンドが確定している筈だ。敵勢力に比べて味方側の層が厚すぎる……と記憶している。
主人公に憑依転生したわけでもないからのらりくらりと原作外で生きればいい……のだが、この世界には俺の推しがいることに気づいた。彼女は最終的に死亡する。どういう経路でそうなるのかは覚えていないが、前世の俺はその結末に憤慨していた。──ならば、いっちょカマすか?原作改変を。
つっても俺は一般人。異能にでも目覚めない限り介入する機会は無い、のだが……
「……嘘だろ」
使えてしまった。異能を。
場所は空き地、空は夕暮れ、目の前には砕けたコンクリート。その威力をこれ以上ないくらい雄弁に物語っている。
今こうして空き地のコンクリート土管を殴っていた理由は自分でもよく分からない。ただ、『できる』という確信があった。
『瞬撃』。それが俺の異能だった。
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異能持ちは十万人に一人。割と結構いる。
例えば『電気』の異能を持つ者は相応の機関に囲われるが、癖の強い異能故にドロップアウトする者もいる。
で、
「戦闘に関する異能はこちらの窓口からご相談ください」
「へーい……」
俺はそこかしこをたらい回しにされていた。異能を使える者は行政へ報告しなければならない。法律でそう義務づけられている。
とはいえ、世の中馬鹿正直に申請してくれる者ばかりではない。異能を行使して裏社会に暗躍する者や一度も使わず死んでいく者などまちまちだ。
「えーっと、ここかぁ……?」
市役所から貰った地図を頼りに辿り着いたのは田舎町の外れにある小さな建物。職員の指示に従い、ある一室に足を運ぶ。
部屋で俺を待っていたのは一人の男。あくまで勘だが、俺は重要な決断を迫られるという予感があった。
「初めまして。あれこれ建前を言うのも面倒なのでハッキリ問います。貴方は、僕たちと共に戦えますか?」
弱冠20歳の俺。定職に就かずフリーターとして日々を過ごしていたが、これは一つの転機なのかもしれない。
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大体どうして人間に異能が発現するようになったのかだとか、東京の超巨大タワーは誰がどうやってどういう目的で建てたのかだとか、謎は多いがそこは原作の更にブラックな領域に突っ込んでいるため追及はしない。確かに言えるのは塔が世界を安定させていることと、塔によって異能が芽生えるようになったということだけ。
「戦うって……なんすか?どういう意味っすか」
「世界には多くの異能持ちがいます。人類に仇なす者、多くの徒衆を引き連れる者、気の向くままに行使する者。それらから人々を護るために存在するのが我々『落葉の会』です」
んー……ん……?あ、そうだ落葉の会。思い出した。主人公陣営の組織だ。ってなると否が応でも原作に巻き込まれることとなる。
「『瞬撃』。実にシンプルな戦闘用異能だ。僕たちにお力添えいただければ、多くの人を助けられるでしょう。どうです?共に大義を抱けますか?」
「……断ったら、どうなるんすか」
「少し記憶を操作させていただきますがご安心を。貴方の命や地位が脅かされることはありませんよ。……しかし、貴重な異能です。できることなら僕たち組織の一員になっていただきたい。もちろんそれなりの給金は約束しますよ」
「…………俺は」
いきなり異能に目覚めて、いきなり戦えるかと聞かれてやれますと言えるほど純情な人間じゃない。放っておいてもこの世界はハッピーエンドを迎える。
……だけど、俺の推しは死ぬ。これもまた約束された結末だ。
喧嘩したことは数あれど、命のやりとりは未経験。そんな俺が、人類のために戦えるのか?
「……申し訳ありません。少し高圧的でしたね。
『
「……名前、教えてくれないっすか」
「?僕の名前は『
「これから呼ぶんすから、名前は知っておきたいんすよ」
「……!ということは……」
「はい。よろしくお願いします」
原作に足を踏み入れるんだ。きっと死にかけることもあるだろう。それでも、これが俺の決断だ。
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「というわけでまずは訓練ですね」
「話が早い」
落葉の会本部は東京にある。生まれて初めての上京、俺は寮の部屋に叩き込まれることになった。
寮には様々な設備があった。会議室はもちろんのこと、ジム施設やなにかしらの複雑な機械がある部屋もあった。
その内の一つ、訓練室にて。俺と矢原匁は向かい合っていた。
「貴方の異能は近接戦闘時に効果を発揮する。それでよろしいですね?」
「まあそんなところっすね。コンクリート土管を砕くくらいの威力はあったっす」
「では、まず僕と立ち会っていただきます」
「……矢原さんと?」
矢原匁は俺より小柄でとても戦えるようには見えない。勢い余って殺しちまったらどうしよう。
そんな俺の思惑を見透かしたように矢原さんは微笑む。
「これでもおおよその格闘術は身につけてあります。遠慮なく来てください」
「……じゃあ。バースト!」
俺の異能は『バースト』と呟くことで発動する。コンクリート土管を砕く一撃。さしもの矢原さんとて無事では済まない……と思っていたが。
「いい攻撃ですね。ではこちらからも」
「え?……ぐわっ!」
いとも容易く受け流され、返しの一発を食らう。……コイツ、やるな。
「……っしゃあ!気合い入れていくっすよ!」
「その意気です」
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「ゼエッ、ゼエッ……」
「ふむ……筋がいいですね」
フェイントを混ぜたり投げようとしてみたり素人なりに工夫はしたが、俺は簡単にあしらわれていた。……男としての敗北感が凄い。
「暫くは僕と戦闘訓練をしましょう。最低限動けるようになったら任務をお願いします」
「へーい……。って、矢原さんは大丈夫なんすか?俺に付きっきりで」
「そこは僕の異能でなんとかします。……ダメージを受けたら少し困りますが」
「?」
次の瞬間、矢原さんが
「……え?」
「これが僕の異能、『増殖』です。ダメージは共有してあるため分裂体が死んだら本体も死んでしまいますが、基本的に安全な任務に就いているので暫くは大丈夫です」
「……すげえ」
……ん?でもそういや……
「朝とか昼の間はどうするんすか?」
異能は17:00~5:00までしか使えない。故に原作名は『昕の檻』。
「分裂体には一日で終わる規模の任務を当てられています。やむを得ず時間切れになった場合は後任の者がいるので、その方に一任します」
「へ~……」
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それからは数ヶ月かけて矢原さんと訓練に集中した。
したのだが……本当に……
『はい、一本』
『ぐあっ!』
本当に……
『せいっ』
『あぐっ!』
……本当に。
『一対一にも慣れてきましたね。では集団戦も学んでおきましょうか』
『……まさか、増えた分ともやるんすか?』
『大丈夫です。じきに慣れますから』
本当に、キツかった。殴られ転ばされの繰り返し。特に複数人に増えた矢原さんとバトるのは地獄だった。これまでの人生で培ってきた喧嘩殺法がまるで通用しない。
しかし、動きが洗練されていく実感を持てたことは嬉しかった。ここまで何かに熱中したことはそうそうない。闘争という刺激は実に強烈だった。
「……さて、動きもよくなってきたのでそろそろ任務をお願いしましょうか」
「……とうとうっすか」
記念すべき初任務。他の異能持ちとの戦いになると思うと少し萎縮する部分もある。
だが、それ以上にワクワクしている自分がいた。俺には案外この仕事がうってつけなのかもしれない。
「
「恐竜……?」
「連歌さんの任務は同行する桜さんの護衛、及び異能犯の制圧です」
「桜さん……って誰っすか」
思い出せそうで思い出せない。桜……桜かぁ……
「すぐそこにおりますよ」
「え?……おわっ!?いつの間に隣に!?」
「
「は、はい。よろしくお願いします……」
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「はぁ……明日から任務かぁ……」
今日の東京は晴れの予報だったが、公園のベンチで黄昏れていると細雪が降ってきた。
初の仕事。命の危険も伴う任務。前世の知識はアテにならない。
「はぁ……」
この数ヶ月でそこそこ動けるようにはなったと自負している。それでもいざ命を自覚すると恐怖が這い寄る。
ちなみに桜さんは女性だった。原作だと主人公のヒロインだったっけ?記憶があやふやだ。
空を見上げる。街灯に照らされた雪の結晶が闇を彩っていた。
「……ん?」
電子音で我に返る。そういえばこの公園脇には自販機があった。誰かが買ったのだろう。
足音が近づく。そのまま通り過ぎるだろうと考えていたが俺の近くで止まった。
「ねえ、そこのキミ。当たりでもう一缶出ちゃったからあげるよ」
声の主は一人の少女。俺にホットココアの缶を差し出している。
直感で分かった。朧気な記憶の中で唯一形を持って残っていた存在。かつて小学生だった頃にガチ恋した相手。
その推しの名前は──
「──アヴィス……」
「?なんでワタシの名前を知ってるの?どっかで会ったっけ?」
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「ねえねえ、なんでワタシの名前を知ってたの?」
「…………」
マズい。非常にマズい。推しに出会えた昂揚感で思考が回らない。おまけに距離感が近い。
「……こ」
「こ?」
「……子供がこんな時間に歩いてたら危ないぞ」
「あー、話逸らした~」
俺の原作知識はこの少女、アヴィスの名前と顛末だけ。人となりも所属組織も何も知らない。
できるだけ情報を集めなければと思いながらも茹だった頭は仕事を放棄している。はてさて、どうしたものか……。
「俺は……その……占いでお前の名前を知った。今日ここにお前が現れるって」
我ながら苦しすぎる言い訳だ。彼女も納得していないような訝しげな視線を投げかけていた。
「占いかぁ……じゃあ、ワタシが今考えてること分かる?」
「……雪が綺麗、とかか?」
「残念、正解は『寒いな~』でしたー」
言い訳……何か言い訳を考えないと……
「まあいいや。そのかわり、キミの名前も教えてよ」
「……連歌、萩」
「じゃあ萩って呼ぶね!」
思わず空を仰ぐ。
「どうしたの?雪が気になる?」
「推しに認知された喜びを噛み締めてる……」
「アハハ、よく分からないけど、キミ面白いね」
改めて彼女を眺めると何故かマフラーが目に入った。何か思い出せそうな気がするのだが……
「ううっ、やっぱり寒いな~。キミは平気なの?」
ホットココアをちびちび飲みながらアヴィスは問う。その様に思わず息を吞んだ。
「そんだけ着込んでるのに寒いのか?」
「ワタシ寒がりなんだよ~。
「?日本に旅行にでも来たのか?」
「旅行っていうか、二年くらい前からここに住んでるんだ。お父さんの目的の関係でね」
「そう、なのか……」
「ニホンはいいね~。夏はあったかいし、ご飯も美味しいし」
どこか夢心地の時間だった。手に持つココアが冷めていくのを感じながらも、脳内は熱を滾らせる。
「……もっかい言うが、こんな時間に歩いてて大丈夫なのか?治安が悪いってわけじゃないけど夜一人だと危ねぇぞ?」
「大丈夫大丈夫!ワタシ、結構強いから」
「……ッ!」
威圧感を肌、というか脳が察知した。
──コイツは、生半可な覚悟じゃ倒せない。
「ねえねえ、キミの話聞かせてよ」
「……なんだよ急に」
「せっかく会えたんだもん。仲良くしたいんだ。……ダメ?」
「く、ぉおおっ」
「?」
そんな上目遣いで言われたら──到底断れない。
「……あんま面白い話は持ってねえぞ」
「大丈夫だよ。ワタシ人の話聞くの好きだし」
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両親の顔はよく覚えていない。愛情を注がれていたのかさえ分からない。
というのも、唯一の親戚だった叔父さん曰く俺の両親は俺を産んだ後二人してガンに罹り死んだから。まだこれからって時に亡くなってしまったことを辛そうに語っていた叔父さんの顔が印象深かった。
叔父さんは辛抱強く俺を育ててくれた。学校内外で喧嘩に明け暮れる俺を見放さずに見守ってくれた。
高校生になって俺はようやく恩を返したいと思い始めた。低偏差値の高校だったが奮起して内申点を上げ、さあ就職か或いは進学かとなった矢先、叔父さんは亡くなった。俺には何も残らなかった。思い出さえ、今は遠い。
だからフリーターになって死んだように生きていた。生きる希望を持てなかった。
「とまあ、こんな感じだ」
初対面、しかも推定年下の女の子に話す内容じゃねえなこれ。しかし……何故だろう。彼女には俺の内情を知ってほしかった。知ってくれるという確信があった。
「……キミは偉いね」
褒められる。突然の言葉なのにも関わらず動揺はなかった。驚く余裕がなかった。そこまで考えてようやく俺は思い知った。
「……俺、引きずってたんだな」
「キミはよくがんばっているよ。偉い偉い」
……改めてだが、決断する。
俺は運命を変える。アヴィスが生きられる道を探す。そんな希望を持っていないと、生きていけない。
「それじゃ、ワタシもう行くね。話してくれてありがとう」
「ああ。気をつけて帰れよ」
「うん。バイバイ……あ、そうだ」
「?忘れ物でもあったか?」
「また会おうよ。キミとなら、もっと仲良くなれそうだし」
「……」
「だから、
「……ああ。またな」
手元のココアはすっかりぬるくなっていた。