ハッピーエンド(悪役全滅)が確定してる世界に於ける敵キャラとの恋愛について   作:散髪どっこいしょ野郎

2 / 4
竜vs拳

「それでは、ご武運を」

 

「あざっす。行ってきます」

 

 

 矢原さんに見送られながら迎えの車両に乗り込む。目的地までは車で数時間かかる。桜さん用に何か話題のタネでも持っておくべきかと思っていたのだが……。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 気まずい。何か共通の話題があるわけでもないし同性でもない。完全に空気が死んでいる。

 

 

「さ、桜さんの異能はなんなんすか?」

 

「私の異能は『起源』です。モノのルーツを辿る……と言えば分かりやすいでしょうか」

 

「ルーツ?」

 

「例えば──」

 

 

 桜さんが車両内に落ちていた毛をつまむと、突然意思を持ったかのようにこちらへ動き始めた。

 

 

「この毛髪が誰からどのようにして抜け落ちたのか、それを遡って知ることができます。今回は貴方でしたね」

 

「……すっげぇ」

 

 

 ん?ってことは……犯行現場に容疑者の体組織が落ちていれば簡単に解決できるってことじゃないのか?

 

 

「既に県警には異能犯のものと思われる髪の毛が押収されています。ですので、場合によっては貴方に戦ってもらうことになります」

 

「朝に行けばいいんじゃないすか?そしたら相手も異能使えないのに」

 

「……忌々しい話ですが、上の者は犯人が異能を使ったという証拠と結果が欲しいのです。我々落葉の会は異能を使うことを公に許されていますから、『実績』を生まないとこの組織は存続する意味が無いと見做される恐れもあるのです」

 

「は~……」

 

 

 面倒な訳は大体分かった。といっても、俺にできるのは目の前の敵を打ち砕くのみ。難しい話はこの人たちに任せよう。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「着いたぁ~……」

 

「まず警察本部に行きましょうか。話は通してありますから」

 

 

 ここが士棟(しとう)県、紬我屋(つむぎがや)市か。ぱっと見のどかな都市だ。殺人事件なんて到底起こらなそうだが……。

 

 

「断っておきますが、観光に来たわけではありませんよ。生半可な意思では喰われるのみです」

 

「……大丈夫っす。腹はもう括ってあります」

 

 

 俺には生きる目的がある。アヴィスの生存ルートを探す。それまでは死ねない。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「それでは行きましょうか。護衛をよろしくお願いします」

 

「はい」

 

 

 警察本部には恐ろしいほどすんなりと通された。落葉の会である証明を済ませるとあれよあれよという間に目的のブツまで案内され、桜さんは犯人の物と思われる髪の毛に触れた。

 

 

「でもどこで抜けたのかを知るだけじゃ犯人の捜索には役立たないんじゃないんすか?」

 

 

 浮遊する毛髪に従い歩いていく俺たち。ふと湧いた疑問をぶつけると、桜さんは律儀に答えてくれた。

 

 

「私の異能はある程度応用が利くようになるまで鍛えました。何処で抜けたのかだけではなく、元の人物まで自動的に案内することも可能です」

 

「すっげぇ!それじゃどんな犯罪も丸わかりじゃないっすか!」

 

「犯人の痕跡が無い場合は使えません。今回はたまたま運がよかっただけですよ」

 

 

 しかしそれを踏まえても強力な異能だ。そこまで使いこなすまでどれくらいかかったのだろう。

 

 

「そういや、応用ってどうやったらできるんすか?」

 

「貴方の異能も使い方次第で思わぬ力になります。クリエイティブな思考を持つことです」

 

「思考っつっても……」

 

 

 バーストと言い殴るだけ。そんな異能にどんな応用の仕方が……いや、思考を止めるな。考えろ。考えるのは人間の特権だ。

 

 

「想像力を働かせることです。自分の持つ力を如何にして発展させるか、それこそが異能の醍醐味……と私は思っています」

 

「想像力……」

 

 

 矢原さんとの特訓は主に異能を交えた近接戦闘。あそこから更に力を伸ばすとなると……やはり瞬撃の応用だろう。

 

 …………あ。

 

 

「着きました。念のため戦闘準備をお願いします」

 

「……あ、はい」

 

 

 到着した先は一件の民家。辺りは普通の住宅地だが……ここに異能犯がいるのか?

 

 

「俺がインターホンを押します。下がっててください」

 

「はい」

 

 

 鼓動が早まる。汗が滲む。震える手でインターホンを押した。

 

 

『はーい』

 

 

 返ってきた言葉は女性のそれだった。周囲には複数の武装した警官がいる。戦力の差は圧倒的に有利だが、油断はできない。

 

 

「少し、おたずねしたいことがあるのですが……直接話をお伺いできませんか?」

 

『あ~……ひょっとして、最近の殺人事件のことですかぁ?』

 

「……ッ!」

 

 

 落ち着け。取り乱すとペースを握られる。

 

 

「……す」

 

 

 言葉は最後まで続かなかった。次の瞬間、玄関のドアはひしゃげ、まさしく竜の口が俺たちを襲った。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「あれぇ?ケーサツだけじゃないんだぁ。君たち誰ぇ?」

 

「……出やがったか……!」

 

 

 咄嗟に桜さんを抱きかかえ後方に飛んだことで事なきを得た。しかし印象的なのは、(推定)犯人の両腕。

 

 右腕を上に、左腕を下に構えているだけなのに強烈な死の匂いが漂っている。それどころか、その容貌に竜の口を幻視した。

 

 咄嗟に警官の一人が銃を構えるも、桜さんが叫ぶ。

 

 

「殺してはダメ!生きたまま捕らえてください!」

 

「へー?案外優しいんだねぇ。そんなことしてるとぉ、一人死ぬよぉ?」

 

「死なせるかよ……!そのために俺がいる……!」

 

 

 警官の一人が狙われるも、

 

 

「バースト!」

 

 

 横っ面を殴り飛ばしヘイトを俺に集中させる。……全力で殴った。手応えもあった。それなのにピンピンしてやがる。

 

 

「いったぁ~……いたいけな女の子殴るなんて酷いなぁ~」

 

「一応聞く。なんで人を殺した」

 

「せっかくこんな能力に目覚めたんだもん、使わなきゃ損じゃない?」

 

「……よく分かったよ。イカレ野郎」

 

「……ふふふ、なんだか楽しめそうじゃぁ~ん。自己紹介でもする?」

 

「勝手にしてろ」

 

 

 拳を握り、躍りかかる。あの両腕に挟まれたら死ぬ。それだけは確かだ。

 

 竜の口(仮称)は恐らく右腕と左腕で挟み込むことで発動する。つまりその軌道のみに集中すれば……

 

 

「オラァ!」

 

「いててて……むー、ちょっとムカつくー」

 

 

 警官と桜さんは後方に待機。即ち、俺と目の前のコイツの一騎打ちだ。

 

 

「じゃあ勝手に自己紹介するよぉ~、あたしは倍神(ばいがみ) 流瑠留(るるる)。18歳で~す」

 

「シッ!」

 

「ちなみにこの力は……えーっと確か……あ、思い出した。『竜ノ顎』で~す」

 

「バースト!」

 

「いった……それ食らうとヤバそうだねぇ……」

 

 

 突破口は見つけた。攻略法はある。思い出せ、あの特訓の日々を……!

 

 

「セイッ!オラァ!」

 

 

 竜ノ顎を交わし連撃を浴びせる。今のところ順調だが、一つでも判断を誤れば終わりという緊張感が俺を急き立てる。

 

 

「つぅう~……」

 

「!バースト!」

 

 

 蹲ったところを更に攻め……いや、違うこれはワナ……!

 

 

「あっはぁ、綺麗に取れたねぇ~」

 

「……!」

 

 

 直前で腕を引いたが左手の小指と薬指を持っていかれた。アドレナリンのお陰で気を失ってはいないが、激しい痛みに襲われる。

 

 だが……それ以上にコイツの耐久力が不可解だ。一体どんなカラクリが……

 

 

「不思議?不思議だよねぇ。なんであたしをぶっ倒せないのかぁ。……ふふふ……あたしねぇ、この竜ノ顎で人を噛み殺す度にその人たちの……なんだろ……生きるパワー?みたいなのを貰ってきたんだよねぇ。最初はあたしをいじめてきた奴らだけ『食べて』きたけどぉ、気持ちよくなってやめらんなくなっちゃってぇ……」

 

「話は獄中でしてろ」

 

 

 コイツの事情なぞ知ったことか。『食って』きた分ストックがあると言うなら、尽きるまで殴り続けるのみ──!

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「ハァ……ハァ……」

 

「……ゲホッ、ふふ、ふふふふ……!」

 

 

 動きは素人。指持ってかれたのは反省点だな。しかし死の緊張感が疲労感を増幅させる。

 

 奴の体力も底が見えてきた。後は限界まで殴るだけ。

 

 

「ウオオオッ──!」

 

「アハァ──!」

 

 

 噛みつきを躱し、人中、眉間、鳩尾に連打。そして最後はとっておきの──

 

 

「──バーストッ!」

 

「ぁ……たのし、かったなぁ……」

 

 

 ……終わった。左手の止血……いやそれよりもコイツを……

 

 

「お疲れさまでした、連歌さん。後は警察に任せましょう」

 

「……コイツは、どうなるんすか?」

 

「東京に異能犯用の刑務所があります。罪状を含めて考えると一生牢の中でしょう」

 

「……そっすか」

 

 

 左手の薬指と小指。失ったモノは大きいが、それ以上に……なんだこの昂揚感……。

 

 ……()()()()()、のか?

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 あれから。食われた指は回収できたがくっつかなかった。切断面は綺麗だったが、倍神の異能の副次的効果なのか、全く受け付けてくれなかった。

 

 ……もしかしたら俺の異能は、そこまで強くないのかもしれない。ただ殴る力が少し強いだけで、決定打に欠ける。

 

 それでも考えることを放棄しない。ないものねだりするのではなく、今ある材料で如何に立ち振る舞うか。

 

 

「すぅぅ……ふぅぅ……」

 

 

 昔からの癖だが、落ち着きたい時は決まって深呼吸をする。寮住まいになってもこのルーティンは変わらなかった。

 

 座禅を組み、深呼吸。左手が少し痛むが、許容範囲内。……よし、冷静になってきた。

 

 矢原さんとの手合わせは暇ができたらお願いしている。今日も分裂体の矢原さんと組み手をして、寮母さんが作ってくれた夕飯を食べて部屋で熟考している。

 

 指を失った生活に慣れるため、ということで暫く休暇を貰った。しかしフリーターやってた頃からそうだが部屋でじっとしているとなんかまだるっこしさを感じる。動いてないと安心できなかった。マグロか俺は。

 

 故に深呼吸。故に座禅。臍下丹田(せいかたんでん)に力を込め瞑目する。──すると、ふとあの言葉が蘇った。

 

 

『また会おうよ。キミとなら、もっと仲良くなれそうだし』

 

 

 俺は部屋から飛び出した。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 階段を駆け下り、寮を後にする。

 

 目的地はあの公園。確かあの豆腐屋の角を曲がったところに──

 

 

「…………アヴィス」

 

「やっほー、また会えたね」

 

「……この時間に一人だと危ないぞ」

 

「アハハ、会っていきなりそれ~?」

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「あれ、その左手どうしたの?」

 

「仕事でちょっとヘマしちまってな」

 

「……痛い?」

 

「そりゃまあ、そこそこに」

 

「やっぱりキミはがんばり屋だね」

 

「……」

 

「アハッ、照れてる~」

 

「……うっせえ」

 

 

 推しと会話ができる。それだけで、全国のヲタク垂涎ものだろう。生きててよかった。

 

 桜さんを初めとした女性には普通に接することができるのに、アヴィスを前にすると語彙も語調も貧弱に成り下がる。こりゃもう魂レベルでダメだな。

 

 ……っと、そういえばこんな無駄話をしている暇はなかった。

 

 コイツは敵キャラだ。いずれ拳を向けることになる。それを回避するためにも、情報を集めなければいけないのだが……。

 

 

「はー、やっぱり寒いね~。ねえねえ、どこか暖かい所行こうよ」

 

「……本当に寒がりなんだな、お前。つっても暖まれる場所なんてどっかあったっけかな……」

 

「はいはい!ワタシ居酒屋(イザカヤ)行ってみたい!」

 

「……お前何歳だよ」

 

「16だけど、それがどうかしたの?」

 

「ダメに決まってんだろ!?」

 

「えーケチー」

 

 

 ……情報収集がままならない。思わず向こうのペースに吞まれてしまう。

 

 

「お前メシは食ったのか」

 

「うん。今日はオムライスだったよ」

 

 

 それにしても、警察に見つかったらヤバいな。成人男性が未成年を夜に連れ回そうとしてるなんて。

 

 

「……しゃーねぇ。ちょっと付き合え」

 

「いいよ!何処行く?」

 

「近くに知り合いが深夜までやってるカフェがあんだよ。そこなら多少融通が利く」

 

「カフェ!いいね~、ワタシカフェ行くの初めてだよ!」

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「来たぜ、橋墨」

 

「……萩?萩か!?どうした突然やってきて!?つーかその女の子はどうした!?」

 

「あーはいはい後で答えるから。とりあえずココア頼む」

 

「……お前とうとう犯罪に手を染めたのか」

 

「殴るぞ」

 

「へー、ここがカフェ……なんだか落ち着くね!」

 

 

 『橋墨(はしずみ) 楽蛇(らくだ)』。俺の腐れ縁であり、ここ、喫茶アーサの店主である。20歳にして早々に起業している、なんやかんやで凄い奴だ。

 

 

「流石にこの時間帯は空いてるな」

 

「まあ深夜だしな……ほい、ココアどうぞ」

 

「ありがとう!えーっと……店主さん!」

 

「……萩、お前ちょっとこっち来い」

 

「なんだよ」

 

 

 店の隅に寄ると橋墨は露骨に声量を下げ囁いた。

 

 

「あの子はお前の何だ」

 

「……ただの顔なじみだ。今のところは」

 

「……分かった。追及はしない。とりあえずゆっくりしていってくれ」

 

「話が早くて助かる」

 

 

 昔からそうだった。コイツは俺が何をやらかしても一応友人でいてくれた。俺の知り合いでこんな関係の輩は橋墨のみ。小っ恥ずかしくて口には出せないがありがたいと思う。

 

 

「あ、おかえり。何話してたの?」

 

「何でもいいだろ」

 

「むー、ケチー」

 

 

 それからは本職が作るホットココアをゆっくり飲みながら談笑した。その途中で、こんな提案を受けた。

 

 

「ねえ萩、連絡先交換しない?暇な時にどっか行こーよ」

 

「……いいのか?」

 

 

 心臓が早鐘を打つ。いいのか?推しと話せるだけじゃなく外出もできるだと?

 

 

「もちろん!それに、なんでワタシを知ってたかまだ聞けてないからね~」

 

「勘弁してくれ……」

 

 

 口は災いの元。なんで初対面の俺は冷静に話せなかったのだろう。いや、推しとの邂逅で動揺しない方がおかしいな、うん。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。