ハッピーエンド(悪役全滅)が確定してる世界に於ける敵キャラとの恋愛について 作:散髪どっこいしょ野郎
「…………」
眠れない。何度深呼吸を繰り返しても鼓動は高鳴り、頬は上気する。
俺をこんな状態にさせた元凶、そのメッセージがスマホの液晶画面に映し出されている。
『次の土曜日、一緒に遊園地行こ』
「はぁぁぁぁ……」
特大のため息をこぼす。今日は金曜日。つまり、明日がその日だ。
「……あー!ちくしょう!眠れん!」
夜更かしして肝心の明日楽しめないなんてナシだぞ、俺。笑い話にもなりゃしない。
▫▫▫▫▫
「はっ、はっ、はっ……」
というわけで、無理やり意識を閉ざすためランニングを開始した。現在時刻は00:00。流石に喫茶アーサもこの時間は閉めている。
「はっ、はっ、はっ……」
一つ心に決めていることがある。
明日、会ってから帰るまでにどうにかしてアイツの所属組織について探る。アイツは遊園地は初めてと言っていた。浮かれた思考につけ込む、なんて言ったら外道のようだが、生存エンドに入るためにも『調査』は必須。
「はぁぁぁぁ……」
一時間程度走って、ようやく夜闇に意識が溶け始める。が、寝る前にまずは汗を流さないとな。寮のシャワーがいつでも──防音的な意味で──使えるのはめちゃくちゃ便利だ。甘んじて使わせてもらおう。
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「ふあ~ぁ……朝か……」
フリーター時代からそうだが、早起きが体に染み込んでいるため前日にどれだけ疲弊しても規定の時間に起きられるようになった。橋墨が羨ましがっていたのが記憶に新しい。
シャワーを浴び、食事を済ませ寮を出る。まだ会ってもいないのに心臓がうるさい。ちなみに現地集合。アイツ電車乗れんのか?
「ん?」
携帯のバイブレーション音。点けてみると新たなメッセージが。
『駅から出られないー、助けて~』
「……ふはっ」
呆れと納得の合わさった笑みが口をこじ開けた。
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「いやー、駅の中って複雑だね~。ワタシ出口が分からなかったのに、萩凄いね!」
「なんで駅員に位置関係を聞かなかったんだ?」
「なんか仕事してるし悪いかな~って思って」
「……ふはっ」
「む、なんかバカにしてるでしょ」
「いや、納得した」
「?」
アヴィスはあくまで敵。将来しのぎを削り合うことになる。
しかしこの少女はどこまでも無邪気だった。どこでどうやって戦うことになるかも分からないが、この純粋さだけは唯一確信が持てる。だから前世の俺はコイツに惹かれたのかもしれない。
……いや、そうじゃない。そうじゃ、なくて。
……戦いたくねぇなぁ。
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「おぉぉお……」
「俺も初めて来たけどでっけーな」
目的の遊園地はバカみたいにデカかった。国内でも有数の規模に、ただただ圧倒されていた。
「よし、行っくよー萩!」
「っと」
手を引かれ歩き出す。……ん?手を……!?
「わ、わーっ、わーっ!」
「?どうしたの?顔真っ赤だよ」
お前の所為だよ、とは言えなかった。
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それからは、
『キャー!すっごいスリルー!』
『お前よくジェットコースターに何度も乗れるよな。付き合う俺も俺だが』
アヴィスの笑顔。
『ところでだけどお化けって何?……うわっ、アハハ、ビックリした~』
『お化け屋敷に入って開口一番がそれかよ』
アヴィスの笑顔。
『アッハハハ!水しぶき凄かったね~』
『(……前のオッサンが身代わりになってくれたお陰で助かった)』
アヴィスの笑顔。ただそれだけが心に色濃く深く残った。
「あ、アイスクリーム売ってる~、一緒に食べない?」
「いいな。じゃ、食うか」
落葉の会に入ってまだ間もないが、給料はかなりの額が振り込まれていた。預金通帳を見て目を剥いたのも最近のことだ。
しかし、アヴィスの資金源はどこから来ているのだろう。16歳っつってたしお小遣いでも貰ってるのか?
……お小遣い。そういえばアヴィスは父親の目的がどうのこうので日本に来ていた。……探るか?
「なあ、お前の親父はどんな人間なんだ?」
「知りたい?」
「────ッ!?」
なんだ、これ、喉笛に、噛みつかれているような、威圧感。
視線が、痛い。
「…………い、や、なんでも、ない」
「──あっ!風船配ってるよ!行こ行こ!」
……なんだ、今の、圧は。
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「そういえばだけど……えーっと、こういうのをデートって言うんだっけ?」
「ごふっ……」
帰宅間近にアヴィスが口走った台詞は容赦なく俺の脳を揺さぶった。
デート。意識しないようにしていたのに現実を突きつけられ、思わず嘆息する。前世の記憶はほとんど形を保っていないが、今世の俺は女性と関わってきた経験が乏しい。動揺も仕方のないことだった。
「萩ー?おーい、萩ってばー」
「……推しが、眩しい」
「萩って時々よく分かんないこと言うね。面白いからいいけど」
「……なあ、今日楽しかったか?」
調査の際に感じた圧は知らない振りをして問いかける。推しに喜んでもらいたい、楽しんでもらいたいという感情は人並みにあった。
「もっちろん!サイコーだったよ!」
……また、笑顔。俺がいずれ奪うことになるかもしれない表情。
って、何を考えてるんだ俺。そうさせないために立ち回るのが最優先事項だろ。
「それじゃ、バイバイ、萩!今日はありがとねー!」
「…………」
風船を片手に走り去っていく少女。手を振り返しながらもう一度だけ空を仰いだ。