ハッピーエンド(悪役全滅)が確定してる世界に於ける敵キャラとの恋愛について 作:散髪どっこいしょ野郎
原作主人公との邂逅
「指を失った生活には慣れましたか?」
「まぁ、はい」
矢原さんに呼び出されたかと思うと、そんな話から始まった。相変わらずこの人は読めない。
「それはよかったです。傷が癒えたのであれば新たな任務に就いていただきたいのですが……その前に
「はあ……誰なんすか?」
「連歌さんが居住する寮より北西200mに位置する『
「……手相?」
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「ここが虚字魔荘……」
ボロボロのアパートだ。しかし……なんだろう、空気が非常に澄んでいる。
「やあやあ、君が連歌萩くんだね。匁から話は聞いてるよ」
「……どもっす」
二階から俺を手招きしているのが矢原さんが言っていた『
「さて、早速だが手相を見せてもらうよ。ほら、手だして。あっ、それより先にお茶でも飲む?」
「い、いや大丈夫っす。どうぞ」
部屋に招かれたのだが……こりゃまた変わった内装だ。片付いているのに散らかっている。壁に貼り付けられている絵画はテーマがバラバラだし、テーブルやキッチンには儀式道具のような何かがいたるところにセッティングされていた。
「そだそだ、先に説明しておくとあたしの異能は『手相』。文字通り相手の手相を消したり付け加えたりすることで運命を確定させるんだ。例えば──32歳で結婚するとか」
「……それすげぇぶっ壊れ異能じゃないすか?」
「それがそうでもないんだよね~。ささ、見せてもらうよ、連歌萩くん」
俺があっけにとられている内に銅鑼島さんは俺の手を取る。そうして10分程経過した辺りで部屋の中に声が響いた。
「……わあ、驚いた。修正する要素が見当たらないよ。君みたいな子は久しぶりに見る」
「寿命とか増やせないんすか?」
「本来未確定なものを決めちゃったら逆効果になっちゃうかもしれないからね。あたしそれで一回やらかしちゃったことあるし」
そこから流れるように世間話に入った。俺も奇抜な雰囲気に慣れたのか、どこか穏やかな空気に包まれていた。というかこのアパート、酷く落ち着く。つい叔父さんを思い出す。
「ね、君は匁の年齢知ってる?」
「年齢っすか?……22歳くらい?」
「ふっふっふ……やっぱりみんなあいつが若く見えるみたいだね。正解は45歳」
「……マジっすか?」
「マジだよ」
……あれで45歳?下手したら俺より年下に見えるくらいだぞ?
「そういや、32歳で結婚するとかって実際に決めたことあるんすか?」
「あるよ。……とても忘れられない、あたしの過ちがね」
……この話題は踏み込まない方がよさそうだ。いつの間にか用意されていたお茶を飲み干す。
▫▫▫▫▫
「それじゃあね。機会があったらまた会おう」
「はい。ありがとうございました」
悪くない時間だった。それどころか名残惜しさまで感じていたが、アパートを出る。
「……あ」
そういえば俺はいつ死ぬのか聞いてなかった。踵を返して戻ろうとしたのだが──
「──え?」
虚字魔荘は、忽然と消えていた。さっきまで建っていたボロアパートがただの更地になっていた。
帰ってから矢原さんに問いただしてみたのだが、虚字魔荘は本当に必要とする人間にしか現れないだとか。
俺の手相には何も手を加えられなかったが、必要な事項は果たしたということなのだろうか。困惑が残ったままその日は眠った。
▫▫▫▫▫
「
「今回はバディいないんすか?」
「現在届いている報告では単独犯による事件ということと現在も異能犯が暴れまわっているということが明らかになっています。要は『至急解決していただきたい、人員を確保する余裕はない』ということです」
「……分かりました」
▫▫▫▫▫
犯行現場に着くまでそう時間はかからなかった。
辺り一面火の海。対応に当たる消防士や避難を続ける警察官などが入り乱れ、事態はかなり深刻だった。
「落葉の会の者っす!犯人はどこに!」
警察官に問うとすぐに理解したのか、返答まで時間はかからなかった。
「あそこの高校の屋上に!」
「分かったっす!よーし……!」
走りながら桜さんの言葉を思い出す。クリエイティブな思考を持つ、ということ。
あれから何度も考えていた。瞬撃の利点は高速で重い一撃を繰り出せるということ。それを地面に、つまり移動するために足で瞬撃を出す。すると──
「バースト、バースト、バースト!」
ぶっつけ本番だったが成功した。一歩で10m、二歩で50m、三歩目になれば学校の屋上まで一気に跳躍することが可能となった。これは戦闘でも使えるな。
「オオラァ!」
「なっ!?ぐあっ!」
勢いを利用して屋上にいた犯人に蹴りかかる。予測していなかった意識外からの攻撃だったのか、かなり吹っ飛んだ。
屋上も辺り一面火の海だった。察するに、敵の異能は『炎』だろう。
「……あ、アンタ、誰だ……?」
「!生存者か!?」
声をかけられた方向に目を向けると、一人の高校生らしき男が座っていた。体はあちこちが焼け焦げ、誰がどう見ても重体だ。しかし──なんだこの違和感。
「すぐに病院に連れて行く!息をすることだけ考えろ!」
「待って……くれ。あいつはまだ……終わってない」
「!」
振り返ると、異能犯は苛立ちながら地面を蹴っている。全力で蹴ったんだが、やっぱ俺の異能って決定打に欠けるのか?
「あああああ!どいつも、こいつも!俺を苛立たせやがってえぇええ!!」
「チッ!」
迫り来る火炎を躱す。悪いが手負いの高校生のことは気にかけてやれない。そう思っていたのだが──
「いつになったら死ぬんだよ、テメェはああぁ!」
「ハァ……ハァ……」
「!?」
さっきまで立てない程の重傷だったというのに、もう治りかけている。まさか……コイツも異能持ちか?
「頼む。オレが盾になるから協力してくれ」
「……分かった!」
「死ねええええ!!」
咄嗟の判断で高校生を盾にし、炎をやり過ごす。十分近づけたら──俺の異能の出番だ。
「バースト。からの──」
地を蹴る。十分な加速を叩き出し、位置取りを確保。繰り出すは本命の、
「バースト!」
顎を撃ち抜くと、炎野郎は今度こそ意識を失い倒れ伏した。すると同時に屋上や周りの建物に燃えさかっていた火が消失。これはいい意味で予想外だった。
「大丈夫……じゃねえよな」
盾にした高校生に駆け寄ると、体中が丸焦げだった……のにも関わらず生きている。
「あいつは……どうなった?」
「俺が気絶させた。死んでねぇよ」
「そうか……ありがとう……」
注目するべきはその再生速度。火傷はすぐに痕に変わり、ケロイドも真新しい肌へ変わっていく。
「お前……なんで生きてんだ?」
「ゲホッ、ゲホッ……あー、多分異能。『不屈』って脳内に出てる」
……不屈?コイツ、まさか……
「お前、主人公か!」
「……アンタ……何言ってんだ……?」
▫▫▫▫▫
原作主人公という大きな手土産を引っ提げ帰った俺。そして現在15:00、初めて矢原さんと出会った時のように、原作主人公は矢原さんと面談を行っている。なら後は任せる──つもりだったのだが、何故か部屋の外で待機していてほしいと言われた。俺が介入してどうこうなる話ではないと思うのだが。
「連歌さん、入ってください」
部屋の中から届いた声に従い入室する。そこにはいつものように温和な笑みを浮かべる矢原さんと、原作主人公がいた。
「今日から連歌さんには彼──『
「……え?」
なんでわざわざ俺が?矢原さんの増殖で済ませれば他に人員も割けるだろうに。
「なんで俺なんすか?矢原さんの方が向いてると思うんすけど」
「もちろん僕からも助力させていただきますが、蜷見さんは貴方の後輩という立ち位置になります。上下関係をしっかり培うことと、貴方の育成能力を高めるためでもあります」
「……分かったっす」
……中々の厄ネタを掴まされたような気がする。
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というわけで迎えた17:00。落葉の会お抱えの広大な空き地にて、俺と蜷見は相対していた。
「んじゃあよろしく……痛っ!なにすんだよ!」
「まずは蜷見、お前をそこそこ使えるレベルまで鍛えにゃならん。死ぬ気で食らいつけ。殺す気でやるから」
キツいしごきになるが許してくれ原作主人公。アヴィスの生存ルートを模索するためにも手は抜けないのだ。
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それからは
「バースト」
「が……ッ」
幾度も
「バースト、バースト」
「ごふっ、げ、ごぉっ」
幾度も
「バースト、バースト、バースト」
「…………」
幾度も、致命傷を与えた。辺りは血だらけ。
やりながら分かったことが一つある。多分矢原さんは俺を人殺しに慣れさせたかったのだろう。
骨を砕き、絞め落とし、内臓を潰し、出来上がった光景は中々にグロテスク。少し吐きそうになるくらいだ。
殺しても死なない人間。俺の中にある殺人への忌避感を取っ払うにはおあつらえ向きの相手だった。
「ただ再生するだけじゃダメだ。お前の異能にもある程度応用できる部分があるはずだ。俺に殴られっぱなしなのも腹立つだろ?そら立て蜷見。一発入れねぇと帰れないぞ」
「が……ぐ、ふっ……」
……体は無事でも精神にガタが来たか。瞳が恐怖に揺れている。それも仕方ないか。コイツは以前まで普通の高校生だったのだから。
「……ちょっと休憩するか。なんか飲みたいモンあるか?」
「……水……」
安上がりなのは助かる。空き地脇に備えられている自販機に向かっていこうとすると──
「!っ、せいッ!」
「ぐあっ!」
「今の奇襲は中々良かったぞ。相手を油断させるのも一つの手だ。よく学んだな」
背後から襲われるもすぐさま反撃に移る。ここまでボコボコにされながらよくやれるな、コイツは。俺だったらもう限界だ。
それから朝がやってくるまで訓練は続いた。50回程殺したが、蜷見は根気強く俺に立ち向かっていた。コイツ、俺よりメンタルが強えな。下手すりゃ誰よりもこの仕事に向いているかもしれない。
▫▫▫▫▫
「今日までよく耐え忍んだ。修行の成果を見せてみろ」
「応……ッ!」
そんなこんなで稽古をつけて数ヶ月が経過。
蜷見はよく戦った。精神崩壊が起こりかねない訓練を前にしても気丈に前を向き、俺に数発ぶちこめるぐらいには強くなった。
「バースト」
「ぐ……っ!」
!上手い。俺の瞬撃を受けながら背後に威力を流し、逆に関節技をしかけてきた。
「……どーだ。一本取ったぞ」
「よし。合格だ。蜷見彰」
「……はー……キツかったぁ……」
「最後にいつものアレを復唱するぞ。戦う時になったら覚悟をU字溝にしろ。そして撃鉄を起こせ」
「……アンタのそれ、いまいち理解できないんだよな……」
死なない兵士ともなれば俺より酷使されるかもしれないが、この鮮血の時間を耐え抜いたお前ならどんな舞台でも戦えるだろう。それだけのことは教えてきたつもりだ。
そして俺も教わった。人を殴る快感と、人を殺す恐怖の制御方法を。俺は蜷見と一緒に、綺麗だった俺を殺していた。
蜷見が任務を任させるということは、原作ルートに突入するということだ。俺も改めて腹を括らなければ。
▫▫▫▫▫
「行きつけの喫茶店があんだ。そこでなんか奢ってやるよ」
「いいのか?」
訓練終わりの夜、俺たちは喫茶アーサに足を運んだ。英気を養うなら牛丼屋の方がいいのかもしれないが、橋墨の作るメシはかなり美味い。是非とも教えておきたかった。
「来たぞ、橋墨」
「おお、いらっしゃい。ん、その連れは……?」
「後輩だ」
「蜷見彰だ。よろしく」
今日は蜷見に少し聞きたいことがあったため、人がいない時間帯を選択した。
「何にする。今日はなんでも奢ってやるよ」
「……じゃあ、ナポリタンが食いてぇ」
「そうか。おーい、橋墨。ナポリタン二人前」
「へいへいかしこまりましたーっと」
俺が聞きたいこと。それは蜷見の理由についてだ。
「単刀直入に聞くが、お前はどうして落葉の会に入ったんだ?」
「……オレ、高校出たら働くつもりだったんだよ。家の兄弟たちはいつも腹空かせてて、お袋も病気がちで。ちょっとでもいいから楽させたかったんだ」
「なら、もしお前の家族が消えたらお前は戦えるか?」
「!……なんで急に、そんなこと」
「はぐらかすな。他人に戦う理由を任せると危ういぞ」
今、俺は自分のことを棚に上げている。アヴィスの存在を理由にして戦っているのに他人には偉そうに説教を垂れている。
……或いは、自戒のつもりでもあったのだろうか。
「そういうアンタは何のために戦ってるんだよ」
「俺もお前と同じだ。他人のためにしか抗えない」
「はーい、ナポリタン二人前お待ち~」
フォークを渡し、視線を合わせる。
「だから、俺たちは何のために戦うのか、忘れるな。例えそれが奪われたとしても」
これまでは無力化だけで済んでいたが、将来誰かを手にかけることもあるかもしれない。アヴィスという生き甲斐を失うこともあるかもしれない。
それでも、俺は戦う。蜷見の訓練に付き合いながら、その意思が萌芽したのを感じ取った。
「……美味いな、ここのナポリタン」
「だろ?」