VOICEROIDのウェポンサイド//双天の鶴翼円舞 作:EMM@苗床星人
琴葉家のリビングは、もともと姉妹と兄の三人暮らしには十分すぎるほどの広さがあったが、今やその空間さえも手狭に感じるほど、幸福な喧騒に満ちていた。
ソファの前では、テレビ画面の激しいエフェクトに合わせてコントローラーを握る手がめまぐるしく動いている。
「そこや! いけー! みゅかりんミサイル!」
『みゅみゅー!』
茜と、その膝の上に乗ったみゅかりが、息の合ったコンビネーションで格闘ゲームのコンボを叩き込む。画面の中のキャラクターが派手な必殺技を決めるたびに、一人と一匹は「やったー!」と無邪気にハイタッチを交わしていた。
そんな二人を見下ろすように、リビングの高い天井の梁からは、ゆかりがハンモックに身を預けルように重力を無視して中空に寝転がり、まるで揺りかごの中の猫のように気怠げに手足を伸ばし、ふぁあ、と小さくあくびをかいた。
異世界での過酷な戦いも、次元を渡る孤独な旅も、今は遠い夢のようだ。
キッチンからは、とんとん、と軽快な包丁の音と、食欲をそそる出汁の香りが漂ってくる。
夕食の支度を進めるのは、弦巻マキと琴葉葵。エプロン姿のマキが慣れた手つきで野菜を切る横で、葵は小鉢を並べていく。
その時、ふと葵はマキの耳元で明滅する光に気づいた。彼女が常に身につけているヘッドホンの、メタリックなアーム部分が青く、リズミカルに点滅している。
『主将。副菜として、ホウレンソウの胡麻和えを提案します。
冷蔵庫の在庫と、本日の摂取目標栄養素の観点から、最適な選択です』
凛々しく、それでいてどこか女性的な優しさを感じさせる機械音声。
小神ハナの声だった。ヘッドホン越しに直接脳に語り掛けるのではなく、スピーカーから聞こえるその声は、葵にもはっきりと届いた。
「すごい……便利ですね、それ」
思わず感嘆の声を漏らす葵に、マキは少し照れたように微笑んだ。
「熒惑は頼りきりってわけじゃないけど、こんな感じで小神(こがみ)と共生してきた世界だからね。って言っても、弓鶴が来てからほとんど献立決めるのは弓鶴に任せちゃってたんだけど」
『弓鶴の料理技能と引き出しの多さは、私のライブラリを大きく更新しました。あれは有能すぎる人間の小姓による、小神(AI)の権利の侵害です』
少し恥ずかしそうに頬をかくマキの言葉に、ハナが心なしか不服そうな声で抗議する。そのやり取りに、葵はくすりと笑った。
「普通、逆だろうに……」
「この世界が、私たちにとっての逆かなぁ」
マキは葵の呟きに、さも当たり前のように頷いてみせる。
「映画や小説もいくつか見てみたけど、この世界の機械と人間がここまで断絶してるの……ちょっと意外だったな。
弓鶴はそういうとこ全然無くて、むしろうちの環境にすぐ適応してくれてたし」
その言葉に、リビングでゆったりと茶をすすっていた弓鶴が、懐かしむように目を細めた。
「最初に出会ったのが、あの神様達だったからねぇ」
神と人が、友のように語らい、共に食卓を囲む世界。彼にとって、人と機械が共生する光景は、驚くほど自然に受け入れられるものだったのだ。
やがて、テーブルには彩り豊かな料理が並び、賑やかな夕食が始まった。
和やかな会話が弾む中、今日の戦いを振り返っていた弓鶴が、ふと箸を止めて驚きの声をあげた。
「ええ!? 俺の力って、この世界であっても異質なの!?」
彼の素っ頓狂な声に、茜と葵は揃ってこくこくと大きく頷く。
「いや、そこまで成長する例もあるにはあるんだよ」
葵が、自身の持つ知識を整理しながら補足する。
「六団町の朱星堕とし(シリウスブレイカー)チームも、『捕食』のBLESS能力で神に近い力を持ったキングクラスを何体か食べて、『キングスレイヤー』と呼ばれるほどの実力をつけたって有名な報告があるもの」
その言葉を聞いた瞬間、弓鶴の背筋にぞくりと悪寒が走った。『捕食によって世界を左右する力を手にした存在』――その言葉が呼び覚ますのは、圧倒的な絶望と死の記憶。それは、隣に座るゆかりとマキも同じだった。三人が熒惑の渓谷で相まみえる直前、最後に共闘してようやく退けた敵もまた、同種の規格外の存在だったからだ。息を呑む三人の脳裏に、あの禍々しい姿が蘇る。
弓鶴は、己の掌をじっと見つめた。この手に宿る、世界さえも書き換える不可思議な力。それは、仲間を守るための祝福(BLESS)のはずだった。だが、その本質は、世界にとってイレギュラーな、危険なものなのかもしれない。
「俺も、そういうものなのかな……」
ぽつりと漏れた呟きは、食卓の喧騒の中に、静かに溶けていった。彼の心に落ちた小さな影に、まだ誰も気づいてはいなかった。
深夜。月の光も届かない琴葉家の廊下を、ぎしり、と重みを伴った床板の軋む音が二つ、静寂を破った。
抜き足差し足、獲物を狙う猫のように進むのは、琴葉茜と葵。目的はただ一つ、兄・伊織弓鶴の寝室だ。
少しでも兄との距離を――三年という絶望的な時間を――埋めるために。
初めこそ、どちらが先に兄の隣を勝ち取るか、と互いをライバル視する火花が姉妹の間で見え隠れしていた。
だが、階段を目前にしたところで、二人はぴたりと足を止める。言葉はなく、視線だけが交わされる。
それは一瞬の攻防の末に結ばれた、共同戦線への合意だった。
あの異世界の美女二人に追いつくために、姉妹で争っている暇などない。チーム琴葉としての、固い連帯感である。
そうして決意を新たに歩調を合わせ、階段を登り切った二人は、しかし、揃って渋い顔で固まることになった。
目的の部屋の前、壁に寄りかかるようにして、二つの人影が佇んでいたからだ。
結月ゆかりと、弦巻マキである。
先に気づいたマキが、唇に人差し指をそっと当てて「しー」と静寂を促す。その隣で、ゆかりもまた目を閉じ、全神経を聴覚に集中させていた。何事かと、琴葉姉妹も壁に耳を澄ませる。
微かに灯りが漏れるドアの隙間から、弓鶴の声が聞こえてきた。
部屋の中では、小さな相棒が彼の足元から心配そうに見上げている。
「みゅみゅみゅ」『寝ないのか?』
みゅかりが携えてきたマキのヘッドホンから、小神ハナによる翻訳音声が響く。
弓鶴は、煌々と灯りをつけた部屋の中央で、異世界から持ち帰った木刀をただ黙々と振るっていた。
汗が首筋を伝う。それは鍛錬というよりも、何かを振り払うための、祈りに近い行為に見えた。
「ごめんね……やっぱり、怖くってさ」
か細い、弱々しい声だった。
「みゅー、みゅかぁ?」
『怖い? お前ほどの英雄が、何を言ってるのさ』
あはは、と力なく笑いながら、弓鶴は再び木刀を虚空に振るう。
「寝たら、また異世界に飛ぶんじゃないかって。……今度は茜と葵だけじゃなく、マキさんとゆかりさんまで、置いていってしまうんじゃないかって」
ブン!と風を切る音が、一層鋭さを増す。
「そうして俺は、また誰かを救ってしまったら、また新しい何かに目覚めてしまったら……俺は、『虚音(ウロネ)』の二の舞になるんじゃないかって」
虚音、それこそが弓鶴が異世界にて、熒惑の全ての仲間達とともに力を合わせ漸く打ち取った『世界の敵』の銘だった。
暴走した能力に飲まれ、知性さえも失い、そしてまた得た知性さえも邪悪な本能に支配された哀れな存在。
弓鶴の脳裏に、あの歪みきった終末装置の末路が、今も焼き付いている。
「それだけじゃない。やっぱり茜と葵も、変わってしまった今の俺でさえ……やっぱり、距離を感じさせてしまってる気がするんだ。だから、俺は……寝るのが、怖くなって」
英雄の、あまりにもか弱い独白。
みゅかりは、ふぅ、と小さく息をつくと、木刀を振り切って呆然と立ち尽くす弓鶴の胸元へと、その小さな身体で飛び込んだ。
「みゅかりさん?」
「みゅっみゅーみゅかぁ」
『勘違いして発情するなよヒューマン。私は雷撃次元戦艦だぞ? またうっかり転移したら、速攻で元の世界座標に連れ帰るから。……まぁ、お守りのぬいぐるみとでも思っときなさい』
そのぶっきらぼうな優しさに、弓鶴の強張っていた表情がふっと和らぐ。
腕の中に収まる温かい毛玉を抱きしめ、彼はゆっくりとベッドに横になった。
「……ありがとう、みゅかりさん」
「みゅみゅーみゅ」
『お姉様以外にこれをやるのはマジで特別だからね。感謝して、とっとと寝ろ』
部屋の外。その心温まるやり取りに、四人の少女は顔を見合わせ、幸せそうに微笑みあった。
そして――示し合わせたように頷き合うと、一斉に部屋のドアへと手を伸ばす。
ガラッ、と。今こそ、四人分の想いをぶつける時。
「ーーみゅみゅーみゅみゅみゅ、みゅかぁ。」
『――だけど、ヒューマンタイプ同士の不純な夜這いはNGだ。お姉様といえど。』
みゅかりさんがべぇと小さい舌を出した、その瞬間。
どぼん。
と、奇妙な浮遊感と共に、四人の身体は冷たい感触に包まれた。
「ブハッ! なんっ、なんやこれ!?」
一番に水面から顔を出した茜が、驚愕に目を見開く。そこは、見慣れた琴葉家の、やけに広い浴槽の中だった。ごぼごぼと、他の三人も湯の中から頭を出す。
「……結界術。フーちゃんめ、抜かりない」
びしょ濡れの髪をかき上げ、ゆかりが冷静に状況を分析する。
「感じからして、ハナも手を貸してるね、こりゃ。……みんな、今日は夜這いは諦めよ?」
マキが苦笑しながら、早々に白旗を上げた。その言葉に、葵だけが打ちひしがれる。
「ほんっっと何なのあんた達ってさぁ……!」
葵の悲痛な絶叫が、湯気の立ち上る浴室に虚しく響き渡るのであった。
ゴウン、ゴウン、と洗濯機が回るリズミカルな音が、湯気の立ち上るバスルームにまで微かに響いていた。
せっかくなので、と放り込んだ全員分の洗濯物が、平和な日常の営みを告げている。
その穏やかな音に包まれながら、広めの湯船では四人の少女が肩まで湯に浸かり、火照った頬を夜の涼気にさらしていた。
肌を撫でる湯の温かさが、張り詰めていた心さえも優しく解きほぐしていく。
静寂を破ったのは、葵だった。彼女は、兄の部屋から聞こえてきたあの弱々しい独白を、ずっと胸の内で反芻していた。
「それで、弓鶴お兄ちゃんの戦った相手……ってことで、間違い無いんですよね。その、『虚音』って」
その名が告げられた瞬間、マキはすっと目を伏せ、その長い睫毛が悲しげな影を落とす。
そして、ゆかりは答えず、ゆっくりと姉妹に背を向けた。天井を仰ぎ見た彼女の、しなやかな背中。その肩甲骨の間に刻まれた、蛇の尾を持つ鳥の紋章が、お湯の揺らぎに合わせて妖しく蠢いた。
「……ええ。敵というだけではありません」
静かで、けれど芯のある声が、湯気に溶けるように響く。
「奴は私たちと、熒惑(けいこく)という世界、そして、伊織弓鶴という少年が戦士として完成するまでの……その全てを決定づけた、『運命』そのものでした」
ゆかりが語る「運命」という言葉の、あまりの重さ。
茜と葵は、思わず息を呑んだ。それはただの強敵を指す言葉ではなかった。もっと根源的な、抗うことのできない奔流のような、途方もない存在を前にした時のような畏怖が、姉妹の肌を粟立たせる。
重くなった空気を、茜の快活な声が優しくかき混ぜた。
「確か、前の話もお風呂までやったっけ。……聞かせてくれへんか、あの話の続き」
その言葉に、伏せていた顔を上げたマキが、小さく頷く。彼女の瞳には、遠い日の光景が映っていた。
「あれからすぐに、弓鶴が神様達のお茶会に誘われたんだよにぇ……」
平和な世界の、優しい温かさに包まれながら。
異界の思い出の続きが、ゆっくりと、湯けむりの中に語られていく。
◆
その宮殿は、生命という概念そのものを建材としていた。
其れその物が螢惑の桜色の雲海を貫く大陸そのもの、天を衝く巨木――『大飛震塔梅(おおとびぶるとうむ)』。
その幹を削り出して築かれた絢爛たる熒惑の宮殿、その最上階を目指し、伊織弓鶴を乗せた木製の円座(えんざ)は、まるで碁石が弾かれるかの如き神速で上昇していた。
ガラス張りの外には、梅色の空と桜色の雲海が織りなす絶景が広がる。
神代の技術と自然が融合した優美な木造都市の群れが、瞬きの間に眼下へと遠ざかっていく。
これほどの急加速にもかかわらず、弓鶴の身体には一切の慣性が働かない。
結界か、あるいは神域の理そのものか。
足が地に着いていないような浮遊感だけが、この光景の非現実感をいや増していた。
やがて速度がゆるりと殺され、円座は音もなく頂点へとたどり着く。
周囲を覆っていた淡い光の膜――結界が陽炎の如く揺らぎ、霧散する。
弓鶴は促されるように一歩を踏み出した。
そこは、宮殿の最上階とは思えぬ場所だった。
天蓋も壁もなく、あるのは見渡す限りの花畑。熒惑の空の下、色とりどりの花々が風にそよぎ、甘い香りを漂わせている。
その中心に、まるでこの後の茶会のために誂えられたかのように、白いテーブルと椅子が一組だけ置かれていた。
そして、そこに二人の影があった。
既に顕現を済ませていたのだろう、熒惑の創造主たる双子の女神、ミコトとヒメが、彼を待っていた。
穏やかな微笑みを浮かべるミコトの隣で、ヒメが「おーい」と気安く片手を振る。
その姿を認めた瞬間、弓鶴の身体は反射的に動いていた。
彼はその場に片膝をつき、深く頭を垂れる。
ここは、熒惑の将軍たる弦巻マキでさえ、決して立ち入ることのできない絶対の神域。
許しなくば、その御前にあることすら叶わぬ場所だ。
しかし、そんな彼の緊張を解すかのように、ヒメがことりと歩み寄ってきた。
「いいよいいよ、此処はマキさえも来れない神域だ。私たちと弓鶴以外誰もいないし、監視もできないから」
そう言って悪戯っぽく笑うヒメの瞳の奥に、弓鶴は底知れぬ神性の煌めきを見た。
誰もいない。誰も、視ることも叶わない。
その言葉が意味する絶対的な隔絶に、背筋を薄ら寒いものが駆け上る。恐怖にも似たその感情を悟られぬよう、弓鶴は必死に言葉を絞り出した。
「は、はいっ……今日は、よろしくお願いします……」
そう答えるのが、彼にできる精一杯だった。
それまで静かに茶会を見守っていたミコトが、ぴょこんと軽やかに椅子から立ち上がった。
ヒメが気安く近寄ってくることはあっても、ミコト自らが動くのは極めて珍しい。
誰の視線もない、この閉ざされた神域がそうさせるのだろうか、と弓鶴が思考した、その刹那。
「あ、正解!ミコトはね、私なのに恥ずかしがり屋さんなんだよ」
「余計な事を言わないのヒメ、混乱するでしょ?」
ヒメの茶々を、ミコトがぴしゃりと制する。
彼女は弓鶴の目の前まで歩み寄ると、その顔をまじまじと、魂の芯まで見透かすような真摯な眼差しで見つめた。
「あぁ、僕がヒメっていうのはね、僕とヒメが同じ神の側面の一つって意味だから。あんまり気にしなくていいよ、要はどっちもこの大飛震塔梅の神(アバター)ってコトなだけだから」
真面目な口調で解説してくれるミコトに、弓鶴は心の内で何となく納得する。
そして、その心をいとも容易く読まれたことに、改めて神という存在への畏怖を覚えた。
しかし、それ以上に気になるのは、全身を嘗め回すように注がれるミコトの視線である。
「あの、何か……分かったんでしょうか?」
恐る恐る問いかけると、ミコトは静かに、しかし確信を込めて告げた。
「分からない、ということが分かった。これは重篤だ。私たちでさえわからないものなんだよ、君は」
その言葉の真意を、今度はヒメが珍しく翻訳するように引き継ぐ。
「全能たる私たちでも……それはあらゆる物の『魂が読める』ってことに過ぎないんだよね。あまりに遠すぎる法則や、根源に近すぎる知識はすぐに参照できないようになってるのさ。ただ、魂魄言語は芦原(地球)を中心にした近似宇宙に近い構成をしている。
弓鶴が覚醒したトリガーもこの魂の影響だろうね。人間に近く育てられたが故の力……つまりは弓鶴、これは君の魂で操る力ということだ」
顔をぐいと近づけるヒメに若干引きながらも、弓鶴はなんとか理解できた部分をかいつまんで咀嚼する。
「よくわかりませんけど、俺個人の、気持ちの問題ってことぉ……ですか?」
「然り、その解釈で問題ないよ」
ミコトは肯定すると、すっと庭を彩る梅の枝に手を伸ばし、その一輪を手折った。
近くにあった花瓶にそれを挿し、弓鶴の前のテーブルにことりと置く。
「さ、弓鶴。この花に、君の力を注いでみてくれ」
「えー、直に私たちに繋がってるやつでやんないのぉ?」
ヒメが唇を尖らせて不満を漏らすが、ミコトはピシャリと一喝した。
「直に繋がっててこの前みたいなことになったら、観測も何もできないでしょうが!」
その言葉と共に、ミコトの頬が恥じらいで朱に染まる。弓鶴が不思議そうに首を傾げると、彼女は両手で顔を隠し、思い出し悶えるように身をよじった。
「あんなあられもない姿……ミチザネ様にも見せたことなかったのに……っ」
(一体、俺は何をやってしまったんだ……?)
内心で冷や汗をだらだらと流しつつも、弓鶴は目の前の花瓶へと意識を集中させる。
神々の前で、己が魂の力が、今、試されようとしていた。
「それじゃあ、まずは花と向き合ってみようか」
ミコトは一歩下がり、舞台を主役へと譲る。入れ替わるように、ヒメが弓鶴の隣にすっと寄り添った。
「魂からの力は即ち、君がこの花をどう読み取るか、から始まる。君がこの一輪の花を綺麗と思うか、恐ろしいと思うか、悲しいと思うか……そこから魂は文章を築き上げる」
ヒメの、抽象的で謎かけじみた言葉。弓鶴は促されるまま、テーブルに置かれた一輪の梅を見つめた。
華奢なガラスの花瓶に水はなく、手折られたばかりのその花は、与えられた僅かな時間の中で懸命に咲いている。このままでは、やがてその生命は尽き、枯れてしまうだろう。
そんな彼の思考を読んだかのように、ヒメが悪魔のようにその耳元で囁きを続ける。
「魂とは即ち、生まれた時から現在まで続く記憶の一文だ。そしてこの花は今、その魂を途切れさせようとしている。一度途切れれば、その先にはもう何もない……死だ」
「……っ」
死、という言葉が、弓鶴の胸を鋭く刺した。
彼の手に、応えるようにふわりと金色の光が灯る。それはまるで、彼の鼻から吸い込まれるようにして体内へと消えていき、そして……何も起こらない。
ただ、シンとした静寂が、花畑に帰ってくるのみである。
「……ありゃ、邪魔しすぎちゃったか?」
ヒメが、てへ、と舌を出し、迂闊にもその指先で花の弁に触れた、その瞬間だった。
「あひゅいっ!?」
奇妙な悲鳴がヒメの口から漏れた。
彼女の指先から、花の持つ全生命力が、奔流となって一瞬にして直結する感覚が全身を駆け巡る。それは吸い取られるのではない。全てが一体化し、増幅し、魂の根源で繋がり合う、あまりにも濃密な交感。その感覚は、同じ神の側面であるミコトまでもを、タイムラグなく襲った。
「あ、ぁあっ!? ヒメ、お、前っ!」
「あっはっは、やっちゃった! ごめーん!」
バチバチッ!
と、激しい火花を立てながら、ガラスの花瓶が内側からの圧力に耐えきれず砕け散る。解放された梅の花は、まるで世界の理を無視するように、際限なく巨大化していく。
咄嗟にミコトが弓鶴の身体を抱え、神域である最上階から躊躇なく飛び降りた。 眼下から主神の危機を察して集まってきた小型の飛行機械たちが、二人を優しく受け止めようとするが、凄まじいエネルギーの余波に触れた途端、バチバチとショートして火花を散らし、次々と落下していく。
「うわあああああ!?」
「りゃめえええ、ヒメの馬鹿あああああ!」
純粋に落下の恐怖に絶叫する弓鶴と、未体験の感覚に身悶えしながら別の意味で悲鳴をあげるミコト。
二人の叫びは、重力に従って落ちていく中で一つになる。
幸いにも、巨木『大飛震塔梅』の分厚い枝葉がクッションとなり、二人は衝撃を吸収され、一命を取り留めた。
一方、全ての元凶たるヒメは、ただ一人、歓喜に満ちていた。
もはや最上階を埋め尽くすまでに巨大化した梅の花。
彼女はその花弁の上を、まるで自身の庭を散策するように軽やかに歩いて登り、中心で蜜を湛える花芯にたどり着く。
躊躇なくその神々しい蜜を手で掬い、こくりと喉を鳴らして呑み干した。
「っ、ぷはあ」
その顔に浮かぶのは、初めての美酒に出会ったかのような、恍惚の表情。
「あの子、最高かも」
巨大かつ荘厳な神殿の麓で、一同は天を衝くその頂を、ただ呆然と見上げていた。
本来ならば、目に見えないほど遠くの神域であったその場所は、今や一輪の、しかし星のように巨大な梅の花に完全に乗っ取られているのが、最下層からでも容易に見て取れるスケールの『異変』。
花弁の一枚一枚が雲を枕にし、その中心からは神々しいまでの生命力が溢れ出ていた。
「でぇ……神殿の最上階が、あんなんなっちゃったってわけ?」
呆れ半分、そのあまりの壮絶さに畏怖半分といった表情で、熒惑の将軍たる立場から引き攣った顔をするマキが呟く。
隣で、元凶の弓鶴が、その場で土下座せんばかりの勢いで深々と頭を下げた。
「ご、御免なさいっ!」
「まぁまぁ、あれは全部ヒメが悪いから」
そんな弓鶴の肩を、神たるミコトが優しく宥める。
「あのお馬鹿、感覚が癖になっちゃってるからって、あんな不用意に未知の力の塊に触るなんて……」
「あぁ、あのすっごい感覚の」
ミコトのぼやきに、ふいに、ゆかりが相槌を打った。
その言葉は、先の裁判で命を救われた際に彼女が何を感じ取ったのかを雄弁に物語っている。
途端に、ミコトはぶわっと顔を朱に染め上げ、うぐぐ……と言葉を詰まらせて黙りこくってしまった。
そのあまりに倒錯的とも言える反応に、マキはゴクリと息を呑む。
彼女は、興味と畏怖が混じった視線をゆかりに向けた。
「にぇ、弓鶴の能力って、そんなにスゴイの?」
「まぁ……中毒性がすごそう、という点では、そうかもしれませんね?」
さすがのゆかりも、少しだけ視線を逸らし、言葉を濁す。
しかし、その肯定にも似たニュアンスは、マキに十分すぎるほど伝わった。
彼女は思わず口元を手で覆い、その瞳を驚きに見開く。
そして、そのやり取りを全て聞いてしまった弓鶴は、顔面からすぅっと血の気が引いていくのを感じていた。
「とーにかく、三日後までには片付けるからまた来るように! まだまだ練習するよ!」
声のした方を見上げると、巨大化した花の茎を滑り台のようにして、ヒメが降りてくるところだった。
その肌は先ほどよりもツヤツヤとしており、全身から「ご機嫌」というオーラを放っている。
そのあまりにもノリノリな様子に、弓鶴は心の底から「勘弁してください」と叫びたかった。
だが、隣には興味深そうにこちらを見ているゆかりがいる。彼女の手前、弱音を吐くわけにはいかない。
「が、頑張り、ます……」
絞り出した承諾の言葉は、情けなく震えていた。
なんだか、力の正体に近づくにつれて、人として失ってはいけないものを、急速に失っていっている気がする。
弓鶴は、天を覆う巨大な花を見上げながら、一人静かに蒼白になるのだった。
神殿最上階を巨大な梅の花が埋め尽くした、あの素っ頓狂な事件。
弓鶴の心に生まれた一抹の不安も、しかし、日々の喧騒と時の流れが少しずつ癒していく。
三ヶ月も経てば、神々の気まぐれと規格外の現象はすっかり日常の一部となり、彼の心配は良い意味での「慣れ」へと変わっていった。
むしろ、この刺激的な生活は、弓鶴が神という超越的な存在へ抱いていた畏怖を、親しみへと変える触媒として機能したのかもしれない。
日々は、鍛錬に明け暮れた。
弦巻マキとの剣の稽古では、初めは赤子扱いだったのが、今や互角に打ち合えるまでになった。
次元海賊ゆかりも、何だかんだと言いながら、実戦を想定した容赦のない稽古をつけてくれた。
二人の頼れる師と、二柱の気まぐれな神に見守られながら、弓鶴の武と力は、着実に、しかし急速に育まれていった。
そんなある日の昼下がりだった。
「街、ですか?」
弓鶴が稽古の汗を拭っていると、不意に声をかけられた。
振り返ると、そこに立っていたのはマキだったが、その姿はいつもと大きく異なっていた。
熒惑の将軍たる威厳を示す豪奢な私服や、戦場を駆ける白銀の鎧ではない。
染め抜きの布を使った、動きやすそうな町人風の簡素な服に身を包んでいた。
「うん、二人とも神殿と私の屋敷だけじゃ気が滅入るでしょ? 見回りも兼ねてるからさ、ちょっとお出かけしようよ、にぇ?」
いたずらが成功した子供のように、彼女はこてんと首を傾げる。
その様子から察するに、マキはこうして時折、公務から離れて市井に紛れ、羽を伸ばしているのだろう。
「私は構いませんけど。……私、お尋ね者になっちゃったりしてません?」
ゆかりが、少しだけ心配そうに眉を寄せる。
「ほとんど目立ってたのは、みゅかりさんだし、今はあの戦闘時の姿じゃないじゃん? 顔を知ってる人たちには、私からちゃんと説明するからさ」
マキの心強い言葉に、ゆかりは「それなら」と頷いた。
弓鶴は、二人のやり取りを聞きながら、胸が小さく高鳴るのを感じていた。
故郷とは違うだろう。
だが、神殿と屋敷、そして訓練場という、何もかもが違う今の生活の景色とは、また違ったものが見られるかもしれない。
ホームシックというほどではないが、目まぐるしい日々の、良い息抜きになりそうだ。
「町かぁ……行ってみたいです!」
弓鶴が弾んだ声で答えると、マキは「よしきた!」とばかりに快活に笑った。
「おっけぇ! ハナ、飛行機械の予約して。津施街(シンセハイヴ)行きで」
『了。』
屋敷の情報端末から響くハナの短い返事から数分後。
簡単な支度を終えた三人を迎えに来たのは、滑らかな曲線を描く車型の飛行機械だった。
音もなく開いたドアから乗り込むと、一行はふわりと浮上し、天を衝く巨木『大飛震塔梅』に、異なる蟻塚のように林立する別の都市へと飛び立っていった。
一行が降り立った都市は、これまでの荘厳な神殿や武家屋敷とは全く異なる空気を纏っていた。
塚都(ハイヴ)――『大飛震塔梅』の幹や枝に築かれた巨大な集合都市は、それぞれが異なる機能と生活を擁しているという。
そして、この津施街は、幾多の塚都の中でも特に産業と交易を司る、商人の街だった。
活気のある声、未知の香辛料の匂い、そして様々な意匠の建築物が混然一体となって、弓鶴の五感を刺激する。
道行く人々の服装も、熒惑の伝統的なものだけではない。
御神木一本に寄り添って生きるこの世界内での交易のみならず、明らかに異なる文明圏から来たであろう人々が、ごく自然に雑踏に溶け込んでいた。
透き通るような青い肌を持つ、いかにも宇宙人然とした種族。歯車と蒸気機関が複雑に絡み合った、スチームパンクのような金属混じりの洋装を纏った一団。
彼らは当たり前のように露店を冷やかし、地元の商人と軽快なやり取りを交わしている。
「マキさん、あれ……」
弓鶴が、目を丸くして不思議そうに指さしかけると、マキは悪戯っぽく微笑み、小声で教えてくれた。
「異次元文明圏の異界人だよ。鳴花の双子神様……この場合は『大飛震塔梅』そのもの、かな。これが宇宙規模でも結構有名な神様でね? その御神徳を求めて、別の次元や宇宙から客人や商人が、ああやって渡航してくるんだ」
「道理で……俺みたいな異世界人も、普通に受け入れられるわけだ」
その言葉は、弓鶴の中でずっと燻っていた小さな疑問の、完璧な答えだった。
ヒメやミコトのような全能の神々が、自分の存在を知っているのは理解できる。
だが、マキや他の兵士たち、熒惑の一般の人々までもが、なぜ自分という「異物」をかくも当たり前に受け入れているのか。
とどのつまり、それは江戸時代の出島にいた異人のような、稀有で隔絶された存在ではなかったのだ。
いや、それどころか、もっとオープンに、日常的に関わってきた交流相手――それが、この世界にとっての「異世界人」だったのだ。
目の前に広がる多様な文化の奔流を眺めながら、弓鶴はようやく、この世界の懐の深さを肌で理解した気がした。
津施街の活気は、歩を進めるほどに濃密になっていく。
異国情緒漂う街並み、行き交う多様な人々、未知の食べ物の香り。
その全てが新鮮な刺激となって弓鶴を包む中、彼の耳は、雑踏の中から一つの声を正確に拾い上げた。
「いーらっしゃいらっしゃーい! 天神様のお膝元、琴葉屋の梅ヶ枝餅やでぇ!」
その、太陽のように明るく、嫌というほど聞き覚えのある元気な声。
はっとして、弓鶴は反射的に振り返っていた。
声の主は、湯気の立つ屋台の前で、小さな体をめいっぱい使って客を呼び込む少女だった。
その隣には、少しはにかみながらも懸命に餅を包む、瓜二つの少女がいる。
燃えるような赤い髪と、理知的な青い髪。
記憶の中の姿よりも幾分か幼いが、その顔立ちは、脳裏に焼き付いて離れない双子の妹達――茜と葵に、間違いなく瓜二つだった。
「ぁ……っ」
時が止まる。
呼吸を忘れ、金縛りにあったかのように固まった弓鶴の身体は、やがて、見えざる糸に引かれるように、ふらふらと少女たちの元へと歩みを進めていた。
一歩、また一歩と距離が縮まり、そして、屋台の前にたどり着くと同時に、彼は衝動のままにその小さな身体を二つまとめて、覆いかぶさるように抱きしめていた。
「……なぁっ!? なんやなんや、お兄さん何のようや!?」 「お、おおお餅はにげませんよ!?」
突然の出来事に、双子は一瞬呆けた後、わたわたと腕の中で暴れ出す。
だが、弓鶴は壊れ物を扱うように、それでいて決して離さぬとばかりに強く、二人をぎゅう、と抱きしめる。
そして、まるで譫言のように呟いた。
「茜ぇ……葵ぃ……っ。なんで、何でこんなところに……っ」
彼の両目からは、ぼたぼたと大粒の涙がとめどなく溢れ、少女たちの肩を濡らしていく。
そのただならぬ様子に、背後で見守っていたマキはハッとする。
すぐさま状況を察し、何事かと不可解な視線を向ける周囲の民衆に対し、さりげなく間に立って注意を逸らし始めた。
ゆかりもまた、多くを語らずとも弓鶴の心中を悟り、その誘導を黙って手伝う。
腕の中の男が、ただの不審者ではないことを感じ取ったのだろう。茜らしき少女は、やがて抵抗するのをやめ、困ったように、けれど優しく、弓鶴の頭をぽんぽんと撫でた。
「何があったんかは知らへんけれども……大変やったんやね。寂しかったん?」
「ぁぁ……ああああっ」
その温かい言葉と手のひらの感触に、堰を切ったように、弓鶴はただただ年甲斐もなく泣き続けることしかできなかった。
数分後。
ようやく嗚咽の波から正気を取り戻した弓鶴は、弾かれたように少女たちから身を離し、真っ赤になった顔で深く頭を下げた。
「本当に、ごめんなさい。商売の邪魔をしちゃったね」
「ええんやでぇ、困った時はお互い様や。なぁ、葵?」
「う、うん。お姉ちゃん」
茜らしき少女に呼ばれ、その影に隠れていた青い髪の妹――弓鶴の妹と全く同じ『葵』という名の少女は、少し怯えながらもこくりと頷いた。
「うちはここで梅ヶ枝餅を売っとる茜言います。なんや、兄ちゃんが会いたがってる人たちと同じ名前みたいで、運命感じちゃいますなぁ」
その言葉に、弓鶴はまた涙が溢れそうになるのを、拳を強く握り、歯を食いしばって必死に堪えた。
知っている。この現象を。
特異点――世界を跨いで共有される『役割』。
つまりは彼女たちは、『この世界の琴葉姉妹』なのだ。
それは、どうしようもない郷愁と、同時に、一つの痛みを伴う理解だった。
亡き婚約者の面影を自分に重ねてしまう、マキのあの眼差し。
その意味を、その切なさを、弓鶴は今、この思わぬ場所で、自身の身をもって知ることになったのだった。
琴葉屋の屋号が染め抜かれた素朴な包みを手に、弓鶴はマキとゆかりの元へと戻ってきた。
まだ温かい梅ヶ枝餅の、甘く香ばしい匂いがふわりと漂う。
「ごめん、せっかくの外出なのに」
申し訳なさそうに俯く弓鶴に、ゆかりは肩をすくめてみせる。
「いいですよ。世界渡りには、よくある現象です」
「私なんか、人のこと言えた義理じゃないしにぇ……」
たはは、と気まずそうに笑うマキに、弓鶴はハッとして、思わずその手を握っていた。
「そう思えるだけでも、すごい事だと思います……俺は、まだ帰れる可能性があるのに」
その言葉に、マキの表情が引き締まる。彼女は、握られたのとは逆の手で、パン、と彼の肩を力強く叩いた。
「ほら、しゃんとする!」 「――はいっ!」
マキは、怒っているわけではない。
それは師匠として、この世界での彼の導き手としての、責任と激励だった。
その真っ直ぐな想いを受け、弓鶴は背筋を正す。
少し気恥ずかしそうにしながらも、彼は心からの感謝を口にした。
「ありがとうございます、マキさん」
そんな二人の会話を、ゆかりは少し離れた場所から、何も言わずに聞いていた。 師弟の間に流れる、温かく、そして少しだけ切ない空気。
それは、彼女がこれまで経験したことのない、不思議な光景だった。
ふと、その時。
ゆかりの視界の端に、陽炎のような黒いモヤが映り込み、彼女はぴたりと足を止めた。
『魔力』――いや、そう呼ぶにはあまりにも歪で、濁っている。
まるで空間のシミのように、ほんの一瞬だけ揺らいだ黒い霧。
見間違いかと思えるほど小さなその影は、しかし、ゆかりの魂に警鐘を鳴らすには十分すぎるほど、不吉な気配を纏っていた。
彼女は誰にも気づかれぬよう、鋭く、その残滓が消えた空間を睨みつける。 胸の内に、冷たい予感が芽生えるのを、ゆかりは感じていた。
「すいません、ちょっと気になるものがあるので、先行ってて下さい」
ゆかりは引き返し、先の歪みを追うように飛んでいく。
マキは振り返り言った。
「え?私たちは、この先の蛇夢盤堂って長屋にいるからにぇー!」
マキの言葉に、ゆかりは背後手に手を振って答え、つぶやいた。
「仮にも元海賊に、警戒心のかけらもないですね……まったく」
その呟きに悪意はなく、彼女は微かに微笑んでいた。
神域。 そこは、人の子が思い描くような、金雲棚引く天上の楼閣だけではない。
伊織弓鶴が垣間見た物理法則の支配する聖域とも、また理を異にする。
遍く熒惑の理を統べる御神木『大飛震塔梅』。
その内奥に存在する、霊子のみで編まれた仮想の神殿。
万象が情報として収束し、再編される演算の海である。
その中心に、二柱の神は在った。
ヒメとミコトーー熒惑という星の、親神にして管理者。 彼女たちの眼前には、彼女達の身長を合わせたほどにまで縮小した精緻な熒惑のミニチュアが、静かに自転を続けている。星を巡る雲の動き、塚都を生きる人々の息遣い、その全てが光の粒子となって流れ込み、この神苑に世界の『今』を映し出す。
熒惑の文明を支える木製機械。その一つ一つに、神の分け御霊たる『小神』が宿る。
魂持つ子らは、視たもの、聴いたもの、感じたもの全てを、片時も途切れることなく親機たるヒメとミコトへと送り続ける。
神の全能の眼(まなこ)の前には、人の子の営みに秘め事など存在し得ない。
故にこそ、この世界は神の恩寵を隅々まで享受し、揺るぎない平穏を保てるのだ。
「弓鶴くんがこの世界の琴葉姉妹に接触したか。よく話してたもんね……大切な子たちなんだろう」
ミニチュア世界を流れる情報を愛おしむように指でなぞりながら、ヒメが呟く。その声色は、神というよりは、恋する少女のそれだ。
「むー、双子の代わりならヒメたちがやってあげるのにぃ」
思わず零れた素の一人称。神としての威厳などかなぐり捨てた、あからさまな嫉妬。
それほどまでに、かの異界の青年は、神々の心を捉えていた。 そんな相棒の姿に、ミコトは涼やかな笑みを返す。
「ハハハ、あんまり弓鶴を困らせるんじゃないよ、ヒメ。僕たちは僕たちとして、弓鶴くんにアプローチしていこうじゃないか」
神々の時間が、穏やかに流れる。
だが、その静寂は、乾いた木材を激しく打ち鳴らすような不協和音によって、無慈悲に引き裂かれた。
神苑に響き渡る甲高い警報。ミニチュアの熒惑、その各地に、空間が歪む凶兆の痣が、赤黒く明滅を始めた。
「魔力反応? 皿符(クラブスーツ)か輝石符(ダイヤスーツ)の異界人の仕掛け?」
ヒメの貌から、先程までのあどけなさが消え失せる。神速。
彼女の霊子体は、さながら水を泳ぐ魚のように、異常発生地点へと接近し、該当塚都を管轄する小神と、人の耳にはノイズとしか認識できぬ圧縮言語の奔流を交わし始めた。
「◆◆◆◆……違う。一世界の可能性を消費するような、純粋なエネルギーじゃない。何だ、この『混ぜ物』は……きもちわるっ」
常には冷静さを失わぬヒメの神体が、初めて見せた心からの嫌悪。
その貌は、聖なるものに触れた不浄を断罪するかの如く、氷のように冷え切っていた。
「こっちでも確認した。複数の端末を用いた多角的ハッキングだ。座標を偽装しているが、間違いなく、此処を目指している」
ミコトの声が、冷徹に事実を告げる。
「……舐められたもんだ」
ヒメの唇から、絶対零度の呟きが漏れる。
次の瞬間、その声は神勅となって、霊子の海を震わせた。
「各塚都へ通達! 仮称『混ぜ物』の発信源を特定、速やかに処理せよ!」
神の厳命。それに応えたのは、熒惑全土の小神たちによる、感情なき機械音声の斉唱だった。
それは、世界の理を揺るがす侵入者に対する、無慈悲な迎撃宣言に他ならなかった。
白昼、津施街は、御神木の恩寵たる陽光を浴び、活気に満ちていた。
空には木製の飛空船がのどかに浮かび、道行く人々の顔には穏やかな笑みが咲いている。
誰も気付かない。誰も、気付けるはずがない。
この世界に、一点、あってはならぬ染みが落ちたことを。
街で最も天に近い場所、大聖堂の尖塔。
その頂に、『ソレ』は腰掛けていた。
人の形を、かろうじて模してはいる。だが、断じて人ではない。
それは、古ぼけた写真から抜け出して、無理やり三次元に実体を得た亡霊のようであった。
大正という異界の時代を思わせる外套は、陽光を吸い込んで色褪せている。
病魔を祓う祈祷師が纏うたという、鳥の嘴にも似た仮面。その隙間から覗く顎と首は、この世の生物とは思えぬほどに細く、脆く、まるで枯れ枝のようだ。
そして、あって然るべき両腕の代わりに、そこから伸びていたのは、鳥の羽根を束ねた箒のごとき、およそ不気味な義手。
『ソレ』は、その羽箒の穂先を虚空に滑らせていた。人の目には見えぬ霊子のコンソールを、まるで弦楽器でも奏でるかのように、愉しげに、しかし冒涜的に操作している。
やがて、その動きが止まる。遥か天上の神域から、己の存在を訝しむ視線を感じ取ったのだ。
「おんや、もうお気づきになられましたか」
声が、漏れた。落ち着き払った、老練な学者のごとき口調。
「流石は、かの太宰府の飛梅。このような肥大化を成して尚、その本質たる雷神の走狗らしさは健在という訳ですな……結構、結構。健勝で何よりに御座います」
く、と仮面の嘴が歪む。
そこに現れたのは、笑みの形をした亀裂。
その紳士的な振る舞いの奥に、獲物を見つけた古の獣が如き、飢えたる性が爛々と覗いていた。
「では、先ずは小手調べと、参りましょうや」
言葉が終わると同時、異変が起こる。 『ソレ』の足元から、闇が滲み出したのではない。
『ソレ』自身の影が、ぬらりと実体を持って立ち上がり、その身を喰らい始めたのだ。
それは、あらゆる光を、存在そのものを否定する、絶対的な虚無の色。生命の理を嘲笑うかのような反物質の瘴気が、『ソレ』の輪郭を内側から蝕んでいく。
「何も知らぬ、我が愛しき照準器(マーカー)。最近は妙な乗り物を得、一時凌ぎの安寧をも獲得したようですが……こちらの機能も代わりなく。結構、結構……いや、僥倖
これで彼女も、ついに『ワタクシ』の到着を目撃できるというもの……」
ふ、ふ、ふ、ふ、ふ。 乾いた風のような、それでいて地の底から響くような不気味な笑い声だけを残し、瘴気は『ソレ』を完全に喰らい尽くした。
そして、その冒涜的な黒もまた、自らを喰らう形で、陽光の下から跡形もなく消え失せた。
――同時刻。
津施街の薄暗い路地裏。
異常魔力を最も近くで検知した、丸太のような姿の木製掃除ロボットが、突如、甲高い異音を上げた。
神の分け御霊たる『小神』を宿した、聖なる機械の断末魔であった。
『ーーッ! ーーーーッ!!』
抵抗を示すように、機体から激しく火花が散る。
だが、その内なる神性は、見る見るうちに虚無の瘴気に喰い荒らされていく。
聖域であったはずの機体の中で、魂が汚され、凌辱され、変質していく。 やがて、全ての抵抗が止んだ。
そして、掃除ロボットのアイカメラが、ゆっくりと開かれる。
そこに宿っていたのは、もはや神の恩寵の光ではない。 世界への憎悪を煮詰めたかのような、禍々しい紅蓮の邪眼であった。
津施街の一角。周囲の木造建築の中でも一際大きく、自警団の詰め所を兼ねた大長屋が、どっしりと根を張るように建っている。
その入り口に掲げられた『蛇夢盤堂(じゃむばんど)』という大看板の下から、なんとも陽気で、しかし人間離れした大笑いが朗々と響き渡っていた。
「アッハッハッハ! 中央神殿の大馬鹿騒ぎはあんたさんが原因か! こりゃあ愉快、あの飛梅の青いのが慌てふためく様が目に浮かぶわ! ……と、炉釦(ろぼた)は言ってます」
からからと、どこか煤けた機械仕掛けの音声。
その奇妙な言葉を、流暢に訳してみせるのは、桃色の髪を翡翠の髪留めで愛らしく結わえた一人の少女だ。
彼女の傍らでは、丸太に炊飯器、洗濯機といった生活家電が寄せ集まって人の形を成したかのような、異形の存在が腹を抱えて(いるように見えた)笑い転げている。
彼こそがこの蛇夢長屋の生活を管理する小神、炉釦。そして少女は、その神の言葉を人に伝える巫女、鼓りずむであった。
「紹介するね、この人たちが『蛇夢盤堂』。この辺りで荒御魂――つまり、暴走しちゃった小神が出た時に、対処してくれる自警団の人たち。中には軍に所属してる子もいて艦隊の指揮を執ったりもする、とっても優秀な人たちだよ」
マキの紹介に、りずむをはじめとした少女たちと炉釦が誇らしげに胸を張る。
「昔、先代の将軍様がご健在だった頃、マキは此処に預けられていてな。よく皆で祭りの囃子(はやし)を奏でたもんさ……と、炉釦は言っております。この『盤堂』っていうのは、異人の言う音楽活動の『バンド』に、無理やり漢字を当てたものなんです」
りずむが、炉釦の追憶を補足する。 『蛇夢盤堂』。
それはただの自警団ではない。かつてこの場所で、身分も種族も越えて、共に音を奏でた仲間たちの絆そのもの。
その響きには、戦いだけではない、温かな記憶が染みついている。
その事情を知ってか知らずか、蛇夢盤堂の面々は、異界からの来訪者である伊織弓鶴を、まるで昔からの仲間を迎えるかのように、何のてらいもなく、ただただ暖かく迎え入れるのだった。
弓鶴が『蛇夢盤堂』の面々と打ち解け、温かな笑い声が長屋に満ちる。
その喧騒を背に、二つの影がいそいそと席を外し、建物の奥、資材が積まれた薄暗い一角へと身を寄せた。
一人は、熒惑を統べる若き将軍、弦巻マキ。
もう一人は、老成した魂を家電の塊に宿す小神、炉釦。
『将軍になったってぇのに、たまにこんな辺鄙(へんぴ)なとこに帰って来るのは、まぁ前からだったけどよ……どうした、いきなり来てよ』
炉釦の機械音声には、無骨ながらも親身な響きがあった。
彼は、マキが何者でもなかった幼い頃から、その成長を見守り続けてきた親代わりのような存在。
彼女の纏う将軍という鎧の下にある、僅かな心の揺らぎさえ、鋭敏に感じ取ってしまう。
「あはは……気づいちゃった?」
マキは、努めて明るく笑って見せる。だが、その声は微かに震えていた。
『弓鶴翅尊の面影を重ねてたって事に関しちゃあ、決着はしたんだろ? 今のお前さんの悩みは、根がもっと深い』
「……弓鶴の故郷について、なんだ」
観念したように、マキはゆっくりと語り始めた。
その声は、将軍としてのものだけではなく、一人の少女の不安に満ちている。
「現状、弓鶴の故郷はある程度当たりがつき始めていて、その候補の世界から使節団が来るはずだった。
でも……途中で何者かの襲撃を受けたというSOSサインだけを残して、今、連絡が取れない状態なんだ」
『そいつぁ、穏やかじゃねえな』
次元の狭間での遭難。それは、ただの死を意味しない。
いずれ溺れ死ぬ海での遭難とは訳が違う。
死ぬことさえ許されず、意識を保ったまま無限の時空に攪拌(かくはん)され、存在の『意味』そのものを消失させられる。
死よりもなお過酷な、魂の完全消滅。
「それだけじゃない。この一件で、こちらの世界の評価が『危険』と判断される可能性すらある」
『あぁ……葦原系統の近似世界にありがちな、異次元への認識不足か』
「そうなったら、弓鶴の帰還は絶望的になる。だから……公益都市である此処の情報網を使って、少しでも状況をよくしてほしいんだ。できる? 炉釦」
マキの切なる願いに、炉釦は己の洗濯機の腹を、ぽん、と力強く叩いて応えた。
『まかせろ。この辺りの小神のネットワークにも知らせを広げて、連中が馬鹿な判断をしねえよう、世論を誘導してやんよ』
頼もしい言葉。だが、炉釦の機械音声は、次の瞬間、重く曇った。
『で、襲撃の下手人の方は、どうなんだ?』
「今はまだ、不明。でも……通信映像らしきものの一部は、傍受できた」
マキは腰の鞘から霊子端末を抜き、その信号から復元した映像を、薄暗い空中に投影した。
ノイズの奔流の中に、一瞬だけ映し出された紋様。
それは、蛇の尾を持つ、忌まわしき鳥の姿。
『……こいつぁ……『鵺(ぬえ)』か?』
「鵺?」
炉釦の呟きに、マキは聞き返す。どんな些細な情報でも欲しかった。
『儂も情報でしか知らんが、あの双子神……飛梅様がまだ葦原(あちら)にいた頃の話だ。
葦原の帝の住まう平安なる京を襲い、退治されたっつう異界存在がいた。
その本質は旧支配者。要するに、飛梅様のご同輩だった、って話だ』
神話の時代の物語。
その言葉が、マキの思考を凍らせた。
神々の、同輩。ただの次元海賊ではない。国家レベルのテロリストでもない。神と、同格の脅威の示唆。
その、あまりにも巨大な符合に、マキの背筋を冷たい汗が伝った。
いずれ、伊織弓鶴の前に、神話そのものが牙を剥いて立ち塞がるのではないか。
そんな、名状し難い予感が、彼女の心を暗く覆っていくのだった。
琴葉屋の厨房は、梅ヶ枝餅の甘く香ばしい匂いと、姉妹の穏やかな会話で満たされていた。
「葵、ちょお材料たりひんから、ふりも屋に注文出してえな」 「はーい」
茜の言葉に、妹の葵は店の裏手にある情報端末へと向かう。
馴染みの材料屋へ発注するのは、いつもの日課。その、あまりにもありふれた日常に、異音が混じったのは、その時だった。
ゴツ、ゴツ。
裏口の戸を、無遠慮に叩く音。
配達の予定はない、葵は小首をかしげた。
「……どなた?」
店の端からひょっこりと顔を出すと、そこに人の姿はなかった。
ただ、足元に、小さな木製の清掃ロボットがぽつんと佇んでいるだけ。
その丸い機体は小刻みに震え、どこか弱っているように見える。
熒惑の暮らしに溶け込んだ、ありふれた機械。
その健気な姿に、葵の優しい心が動いた。
「どうしたの? 壊れたの?」
思わず裏口から身を乗り出し、その小さな機体にそっと手を伸ばした、その瞬間だった。
「――触るな!」
鋭い声と共に、紫電が迸った。 光の弾丸が、ロボットと葵の小さな手の間に割り込み、炸裂する。
それは破壊を目的としたものではなく、ただ、二人を引き離すためだけの、純粋な衝撃波だった。
「きゃっ……!」
爆風に煽られ、路地裏の壁へと叩きつけられそうになる葵の身体を、ふわりと、しかし力強い腕が抱きとめる。
いつの間にか背後に現れていた、結月ゆかりだった。 ゆかりは、葵を庇いながら、そのアメジスト色の瞳で、眼下のロボットを鋭く睨み据える。
ギ、ギギギ……。
まるで獲物を逃して惜しむかのように、ロボットが甲高い異音を立てる。
次の瞬間、その木製の機体が、バギリ、と音を立てて縦に裂けた。
露出したのは、内部機構などではない。 およそ植物由来の文明には似つかわしくない、あまりにも生物的で、グロテスクな代物。
ぬらぬらと粘液に濡れた、肉の歯茎。そこからびっしりと生え揃う、鮫の如き鋭い歯。
それは、紛れもない『口』であった。
『口』は、周囲の壁に無差別に齧りつき、バキバキと音を立てて木造の文明を喰い荒らし始める。
もし、あれに触れていたら……。
「ひっ……」
想像を絶する光景に、葵は顔を真っ青にして、ゆかりの腕の中で小さく縮こまった。
「得体が知れませんね……逃げますよ!」
ゆかりは葵を抱え直し、上空へと飛翔しようとする。だが――。
「ま、待って! お姉ちゃんが……!」
葵の悲痛な叫びが響くや、ロボットは更なる変貌を遂げた。
『ーーーーーーッ!!!』
大木が軋むような、冒涜的な咆哮。
歯茎の如き器官は、見る見るうちに際限なく膨張し、巨大な肉腫と化す。
それは、ぶすぶすと醜悪な音を立てながら、裏路地の壁から建物内部へと血管のような触手を突き刺し、侵食していく。
あっという間に、裏口は肉の壁で完全に塞がれた。
「表口は!?」 「あっちです!」
ゆかりの問いに、葵が必死に店の正面を指差す。
ゆかりは葵を強く抱きしめると、急成長する肉腫の塊を飛び越え、そのまま店の壁へと突っ込んだ!
「わ、わぁぁっ!」
悲鳴を上げる葵。
だが、衝撃はない。ゆかりと葵の身体は、物理法則を無視して、ぬるりと壁を透過し、店の表通りへと躍り出た。
眼下。そこには、まだ何も知らずに、店先で梅ヶ枝餅を売る姉、茜の姿があった。
「お姉ちゃん!」
葵の叫びが届くことはなかった。
それよりも早く、轟音と共に、悪夢が現実を喰い破ったのだ。
爆発的に増殖した肉の塊が、琴葉屋だけでなく、周囲の建物をまとめて粉砕しながら、白日の下へとその醜悪な姿を現した。
茜は、ただ、驚いた表情のまま、天を舞う瓦礫の奔流の中に、その姿を隠された。
カン、カン、カン、カンカンッ!
けたたましく、しかしどこか不規則に木材を打ち鳴らす警報音。
その響きは、伊織弓鶴の鼓膜を通り越し、魂そのものを鷲掴みにした。
聞き覚えがある。以前の襲撃で日常が引き裂かれた時の、あの不吉な音だ。
「これは……マキさん!」
弓鶴の叫びと同時、弦巻マキの貌から、先程までの柔和な空気が削ぎ落とされていた。
将軍の貌。友との語らいに緩んでいた瞳は、戦場の理を見通す指揮官のそれへと鋭く切り替わる。
彼女の耳には、ただの警報ではない、その不規則なリズムに込められた符号が、明確な意味を持って届いていた。
「暴走した荒御魂の警報符号じゃない……侵食型の侵略……!? 蛇夢盤堂の皆、とりあえず私たちが行く! ハナ!」
勅命は、稲妻の如く。
マキが長屋を飛び出すや、その脳内に直接、涼やかな合成音声が響く。
『既に。一秒前に射出位置情報を送信完了。三十秒後に現着予定』
呼応するように、神殿の一部であるマキの屋敷が、地鳴りのような音を立てて変形を開始した。
外壁がスライドし、道場の奥に隠されていた射出機構が姿を現す。
木製のレールが空へと迫り出し、バチチッ、と青白い霊子の火花を散らす。
次の瞬間、格納されていたマキの専用鎧が、バーニアから蒼き炎を噴き上げ、天高く射出された。硬木の流星は、一直線に津施街を目指す。
マキは、走る。弓鶴も、無言でその隣を駆ける。
頭の中で、冷徹に秒数を刻みながら。
二十八、二十九――
到着予告秒数に達する、その刹那。
マキは、路傍に置かれた荷台を足場に、天へと跳躍した。
地を離れた、その瞬間。
飛来した鎧が、まるで意思を持つ木材の飛蝗の群れのように、マキの身体へと殺到する。
小神の精密な誘導を受け、各部パーツは寸分の狂いなく吸い付くように、ガチャガチャと小気味よい音を立てて装着されていく。
人の動きと機械の機構が、一瞬にして完全なる同期を果たす。
着地の前に、飛行ユニットが霊子の光を放ち、マキの身体を宙に留めた。
「マキさん!」
地上から、弓鶴が叫ぶ。その声に含まれた想いを、マキは一瞬で理解した。
「……はは、わかったよ! 掴まって!」
将軍の顔のマキが一瞬の信頼を閃かせ、手を伸ばす。
弓鶴はその手を、力強く握り返した。
すると、マキの肩を守っていたシールドユニットが分離し、瞬時に簡易的なボード型の飛行ユニットへと変形。
弓鶴の足元に滑り込み、その身体を確と支える。
二つの影は、連なって、悪夢の顕現した現場へと飛んでいった。
その姿を、蛇夢盤堂の少女たちと炉釦は、ただ、天を仰ぎ見送る。
『……頼もしいねぇ』
炉釦の、ノイズが混じる機械音声に、深い感嘆の響きが乗る。
「ええ、全く」
その言葉に、巫女のりずむは、全ての誇りと信頼を込めた笑みを、力強く返すのだった。
「ハナ、自閉モードに切り替えて! 侵食されちゃ元も子もない!」
マキの鋭い命令が、思考を直接伝達する回線に響く。
鎧に宿る知性からの返答は、無機質でありながら、最悪の事実を告げていた。
『了。――直前に主神より伝令を傍受。敵性魔力塊は、周囲の小神や神木機械を取り込み、爆発的に急速成長中。爆心地は……琴葉屋、裏口地点』
「そんな……!」
その名に、弓鶴は腰に下げた霊子端末を強く握りしめた。
脳裏をよぎる、あの姉妹の屈託のない笑顔。焦燥が、心臓を直接握り潰すかのように彼を苛む。
そして、眼下に広がる光景に、弓鶴は息を呑んだ。
そこは、もはや街並みなどではなかった。
数棟の建物を飲み込み、今なお脈動しながら肥大化を続ける、冒涜的な肉の塊。 生命の理を嘲笑うかのような悪夢の中心で、紫の閃光が幾度となく炸裂していた。
ゆかりが、その背に葵を庇いながら、孤軍奮闘している。
だが、弓鶴の視線は、その肉塊の中心へと釘付けになった。
無数の触手が、鞭のように蠢き、ゆかりを捉えんと虚空を掻く。
その、おぞましい触手の根元。全ての元凶たる肉腫の心臓部に、見知った姿があった。
琴葉茜。
彼女は、四肢を肉に埋め込まれ、まるでグロテスクなオブジェのように、そこに『生かされて』いた。
右の胸元には、血管とも触手ともつかぬおぞましい管が幾重にも集い、肉塊の脈動と同期して、その華奢な身体を痙攣させている。
「……っ、あっ……っあ……」
幸いと言うべきか、その意識はない。
だが、苦痛に歪められた表情と、か細く漏れる喘ぎは、彼女の生命が、その精気が、刻一刻と喰い荒らされていることを雄弁に物語っていた。
「茜ちゃんッ!」
弓鶴の喉から、悲痛な絶叫が迸る。ゆかりの背中で、妹の葵もまた、涙ながらに叫んでいた。
「お姉ちゃんが……! お姉ちゃんの心臓には、治療用の小神(ペースメーカー)が埋め込まれてて……! 助けて、誰か助けて!」
その情報が、最後の希望を打ち砕く絶望の楔となった。マキが、己の歯が砕けんばかりに食いしばる。
「十中八九、その小神ごと侵食されてる……! 弓鶴、どうする!?」
問いではない。覚悟を問う、最後の確認だった。
「俺が……俺が、救います!」
その声に、迷いは一片たりとも存在しなかった。
そんな弓鶴の瞳を、マキは真っ直ぐに見据える。
「出来るの?」
「やるしか、ないでしょうがッ!!」
咆哮。
弓鶴は、ためらいなく飛行ユニットから身を躍らせた。
落下するその身の手の中で、霊子端末が黄金の光を放ち、刀身を形成する。
彼は、肉塊の中心、苦悶に喘ぐ茜のすぐ傍らに着地すると、その黄金の刃を、大地に突き立てた。
まるで、ここが聖域であると宣言するかのように。
黄金の刃を突き立てた瞬間、弓鶴にそれは逆流した。
それは物理的な衝撃ではない。弓鶴の魂そのものを汚染し、喰い破らんとする、冒涜的な精神汚染。
「っ、ぐぇっ……!」
吐き気を、意志の力で喉の奥に押しとどめる。
これは、ただの悪意の塊ではない。取り込まれ、混ぜ合わされ、原型さえ失った者たちの、終わりなき苦痛と怨嗟の渦。
そして、その混沌の底で、ただひたすらに、無限に、貪り続けんとする『飢え』。
まるで、ひだる神の腹の中にいるかのようだ。
だが、弓鶴の瞳から光は消えない。
突き立てた霊子端末を杖代わりに、ふらつく身体を叱咤して立ち上がる。
そして、その震える手で、茜の胸を蝕む血管の如き触手を、ためらいなく鷲掴みにした。
賭けだった。もし、心臓に埋め込まれた小神が完全に侵食され尽くしていれば、茜はとうに生命活動を停止しているはず。
今、この瞬間も彼女の心臓が動いているのは、命を繋ぐためだけの小さな神性が、最後の抵抗を続けているからに他ならない。
その、か細い希望の光に、弓鶴は全てを懸けた。
「『目覚め』ろぉぉぉぉおおおおおッ!」
咆哮。 魂の叫びが、黄金の光となって弓鶴の手から迸り、茜の心臓に宿る小さな木造機械へと注ぎ込まれる。
単純で、声なき神性。消えかかっていたその命の炎に、再び聖なる油が注がれた。
――異物を、感知した。 肉塊から、無数の触手が弓鶴を排除せんと殺到する。
だが、それが彼の身体に到達するよりも早く、桜色の斬撃と赤の閃光が、おぞましき腕を寸断した。
「邪魔はさせないにぇ!」 「弓鶴ッ!」
マキとゆかりの援護。
その一瞬の隙を突き、ゆかりが動いた。
彼女は、あろうことか、その元へと滑り込んで、茜の胸へとその華奢な手を躊躇なく突き立てる。
一瞬の凶行。弓鶴と、その背に庇われていた葵が、息を呑んだ。
だが、葵は気付く。ゆかりの手は、姉の肉体を傷つけてはいない。まるで陽炎を掴むかのように、その実体を透過していることに。
「弓鶴、力を茜ちゃんに集中して!」
「わかっ、たぁ……っ!」
ゆかりに従い、弓鶴は力の奔流を制御し、純粋な生命力を茜へと流し込む。
瞬間、茜の全身が、びくん、と大きく跳ねた。
「……っ、ああっ!」
茜が声をあげる、その感触。
ゆかりは確信する。 一息に、彼女は茜の心臓から、侵食された小神を引き抜いた!
その手に握られていたのは、もはや汚染された機械ではない。弓鶴の『祝福』を受け、神々しい黄金の光を放つ、聖遺物と化した小型装置。
呼応するように、茜の身体が、力強く呼吸を取り戻した。
他ならぬ、己の生命の鼓動を、『覚醒』によってその手に取り戻したのだ。
その奇跡を見届け、マキが静かに祝詞(のりと)を唱え始める。
「善(い)なる哉、威(い)なる哉。我、天神の雷に希(こいねが)う――」
厳かな神楽の如き詠唱に合わせ、マキの鎧が音を立てて分離していく。
町人の衣装の上に、将軍の紅袴が揺れるその姿は、まさしく戦場の巫女。
彼女の全霊力が、舞い踊る分離装甲の中心で、一つの霊子端末へと収束していく。
「今から一撃でこいつを焼き尽くす! ゆかり、その小神を私に! 弓鶴はその子を連れて全力撤退!」
「はいっ!」
マキの号令は、雷鳴そのもの。
その身から迸る霊子の雷が、醜悪な肉塊の動きを痺れさせ、一瞬の弛緩を生む。
その隙に、弓鶴は茜を肉塊から引き剥がし、その背に抱えて走り出した。
よろりと立ち上がる触手が道を阻むが、それを片手の光剣で薙ぎ払いながら。
ゆかりから投げ渡された小神を、マキは受け取る。
今なお黄金に輝き続けるその小さな装置を、自らの額に当て、祈りを捧げた。
「――弓鶴の力、ちょっと借りるよ」
その祈りに、鎧の知性が応える。
『了。未知の魂魄因子に適応。その祝福を、詩に乗せましょう。汝ーー熒惑の、蛇夢盤堂の大雷炎将なれば』
天を舞う、分離した鎧の甲。
それは、もはや人の身を守るための武具ではなかった。
マキを中心とした神楽の舞手のように旋回し、その軌跡は一つの点へと収束する。
彼女が掲げた霊子端末の先端。
そこに集い、組み上がり、世界が異なれば『エレキギター』とでも呼ばれたであろう、異形の祭器を成す。
人の手は、介さない。
マキの神威そのものが弦となり、爪弾かれる囃子は、電雷の音色であった。天を擘く稲妻の咆哮が、戦場に響き渡る。
その冒涜的なる音色は、聖なる霊子の奔流となって核たる小神の機械へと注ぎ込まれ、その黄金の輝きを、浄化の劫火へと変えていく。
マキの祝詞が、天に轟く。
「天津熒惑(あまつけいこく)八百万(やおよろず)の神々よ! 祓い清め、救い潔めたまえと、大いなる雷の神威を、天廻り荒れる炎の人祇を以て、畏み畏みも、申し白すぅッ!!」
その名を、唱えよ。
『大雷炎将(グレイト・エレキ・ファイア)』
それこそが、天廻(あまめぐ)りの姫たる弦巻マキの、戦神としての異称。
その身に宿すは、天災と見紛うほどの破壊と浄化の力。
遥かなる始祖より受け継いだ、雷神の系譜そのもの。
神威は、眼下の穢れへと、無慈悲な照準を合わせた。
ギュン! ギュギュンッ!
祭器が、神が、泣き叫ぶ。
奔流と化した雷は、マキの霊子端末を介して、天を覆うほどの巨大な雷電の戦斧を形成した。
そして、一息に、振り下ろされる。
それは、マキという神の憲人――その存在意義の、絶対的なる体現。
雷の刃は、衝撃波と灼熱の突風を伴い、地を穿つ。
しかし、その神罰は、ただ邪悪なる肉腫のみを選び、焼き、祓い、浄め、この事象世界から完全に消滅させた。
後に残されたのは、静寂。
そして、あの肉の災厄がもたらした、生々しい破壊の爪痕だけであった。
神威が過ぎ去った後の、静寂。
破壊の爪痕が生々しい津施街に、ただ風が吹き抜けていく。
その瓦礫の中心で、弓鶴の腕に抱かれた茜が、ふ、と小さく息を漏らし、ゆっくりと瞼を開いた。
「んぁ……あぇ? 葵、ちゃん……?」
掠れた声。だが、それは紛れもなく、妹の名を呼ぶ、姉の声だった。
「……っ、お姉ちゃああんっ!」
堰を切ったように、葵が泣き崩れた。
姉の無事な姿に、その温もりにしがみつき、嗚咽を漏らす。
そして、顔を上げると、弓鶴と、何よりゆかりに向かって、心の底からの感謝を捧げた。
「ありがとうございます……ありがとうございますっ!」
深々と頭を下げる葵の姿に、ゆかりは戸惑い、居心地悪そうに視線を彷徨わせる。
この力は、今まで脅迫や略奪、あるいは人を驚かす悪戯にしか使ってこなかった。
力を振るうことは、常に他者からの怨嗟や恐怖を伴うものだった。
しかし、今、この力は、人の役に立ち、涙ながらに感謝されている。
その事実が、彼女の心の、今まで凍てついていた部分を、じんわりと溶かしていく。
ゆかりもまた、頬を伝った小さな一筋の涙を、そっと指で拭い、応えた。
「……礼なら、弓鶴に行ってください」
そう、全ては弓鶴がいたから。
彼が、このどうしようもない自分を変えてくれたのだと、ゆかりは心からそう思っていた。
その弓鶴もまた、未だ痺れの残る己の手のひらを見つめ、力の確信を得ていた。
その起源も、正しい使い方も、まだ何もわからない『覚醒』の力。
だが、こうして、この世界の琴葉姉妹を救うことができた。
(これからも、こうして、大切なものを救うために使うんだ……!)
その決意と共に、弓鶴は強く、拳を握りしめた。
一方、その喧騒から離れた場所で――。
弦巻マキは、人気のない路地裏へと着地するなり、糸が切れたように、その場に膝をついた。
鎧に宿る小神のハナも、機械音声の中に喘ぐような吐息を残し、地に着いた時点で自ら強制的に機能を停止し、沈黙してしまう。
「あっ……ぶなっ……」
ガクガクと、膝が笑って言うことを聞かない。
まるで、限界を超えて全力疾走をした後のような、凄まじい倦怠感。
だが、そこに不快感はない。
むしろ、言い知れぬ高揚感と、心臓の激しい動悸に合わせた胸の高鳴りが、どうにかなりそうだった。
これが、弓鶴の力の影響。
あの、激しく、どこか官能的でさえある力の残滓。
もし、あの奔流を、直接その身に浴びてしまったら……。
ゾクリ
と、 期待感を伴った、甘美な寒気が背筋を駆け巡る。
「……こんな姿、誰にも見せられないなぁ」
困ったように、乾いた笑いを浮かべながら、マキはただ、この身を焦がすような力の余韻が、早く過ぎ去ってくれることを祈るのみだった。
仮想神域、万象が情報として収斂(しゅうれん)する霊子の海で、 ヒメとミコトは、その中央に静かに浮かぶ熒惑のミニチュアを見つめていた。
先程まで津施街の表面を醜く蝕んでいた赤黒い染みが、完全に消失している。
「マキが、討伐したね」
ミコトの安堵を含んだ声が、静寂な空間に響く。
それに応え、ヒメはふう、と息を吐くと、腕を組んだまま、無重力の神苑にごろりと仰向けになった。
「まったく。周囲の小神を片っ端から食らうとは……質の悪い。
警報だけで侵食型と察して、即座に自閉モードへ切り替えたマキの判断は、さすが天性と言うべきか。此度の『混ぜ物』の対策、全小神へ周知させておこう」
言葉と同時に、ヒメが片手を虚空に滑らせる。
それだけで神勅は情報となり、熒惑全土のネットワークへと瞬時に送信されていった。
一息つき、ミコトが顎に手を当てて思案する。
「……どう見る、ヒメ?」
「鵺だろ、絶対」
即答だった。ヒメの言葉に、ミコトは静かに頷く。
「この可能性宇宙(ユニヴァース)において、『死んだはずだ』なんて台詞は、冗談にしかならない。だが……これは、あの理知的な老怪にしては、あまりにも歪で、醜悪すぎた。そうとは、考えたくなかったが……」
ミコトの声には、既知の脅威とは異なる、未知なる冒涜への嫌悪が滲む。
その感傷を断ち切るように、ヒメの冷徹な声が響いた。
「最近は特に多い。特異点性を持った存在の、悪性神腫化。
――『基底現実』に巣食う、享楽なる源夢神(げんむしん)共の活動が活発化した影響が、観測者のいない『放置世界』を大量に産んだ結果と見て、間違いないね」
歯に衣着せぬ、あまりにも巨大なスケールの分析。
その言葉に、ミコトは辛そうに、あるいは、知りたくもなかった真実から逃れるように、そっと目を逸らした。
「……あるいは、この熒惑も、その一つ、なのか……」
人の想像しうる可能性。
その数だけ無限に広がる、物語という名の宇宙全体に広がり始めた、異変の余波。
全能であるはずの神々は、その、まだ見ぬ大いなる厄災の予感に、密やかに魂を震わせるのだった。
闇。
ただ、真黒に塗り潰された、暖かな闇。
母の胎内にも似たその安らぎの中で、しかし、星をも砕くほどに強大な心音が、どごん、どごん、と鳴り響いている。
その中心に、『ソレ』は鎮座していた。
満足げに腕を組み、例の羽箒の如き手を虚空に翻す。
その動きに合わせ、無数の視界が『ソレ』の意識へと流れ込んでくる。
先程、熒惑で滅せられた哀れな化身たちの、断末魔の記憶だ。
「ええ、ええ、そうでしょうとも。ワタクシとて、このような物に成り果てるなど、想像もできましょうか?」
己が身を恥じるように、羽箒の手で病医の面を覆う。
だが、その隙間から、くっ、くっ、と抑えきれぬ笑みが、粘液のように溢れ出した。
やがて、完全に開き直ったかのように、滔々と語り始める。
「ですが、『成って仕舞った』物は如何ともし難く。なれば、この塵塚の怪王たる我が身は、ただ、その飢えを癒し、生き続けるしか在らず。我が身は業、我が運びは宿命、我が存在は、界喰みの災厄となれば」
『ソレ』が、すい、と腕を翻す。
すると、周囲の闇が意味を変えた。
そこは、塵の山。
否、塵のみで構成された、一つの世界そのもの。
その無数の瓦礫の中には、見覚えのある残骸があった。
狐の面を模した、近未来的な宇宙船。
弓鶴の故郷より遣わされた使節団の、哀れな成れの果てだ。
「この化け物に、再び知性が宿るとは、なんたる悲劇か……ですが、是(これ)もまた運命なれば。名乗りを上げる程度の理性という事で、ございましょう」
その声は、深淵の底から響き渡る。
「我こそは、虚音大権現(ウロネダイゴンゲン)。万象集怪王(バンショウアツムルカイノオウ)、イフ(畏怖)
飛梅よ。平安の同胞が可能性よ。本体の到着まで、まだまだ、かかります故。このささやかなる欠片は、まだまだ、贈らせて貰いやしょう……くっ、くっ、くっ」
その不気味な笑い声と共に、視界が、ぐんぐんと後方へと引き離されていく。
やがて、あの暖かな闇の、その全貌が明らかになる。
それは、惑星と見紛うほどの、巨大な黒い塵の塊。
あの闇は、胎内などではない。塵塚の主、そのものだったのだ。
其は、ゆっくりと、しかし威風堂々と、次元と次元の狭間を渡り歩む。
そして、その巨体から、小さな、小さな闇の染みを、ぽつり、ぽつりと、目的の世界へと放ち続ける。
歩みの遅いこの宇宙的災厄が、熒惑という世界の座標へと到達するまで、あと2年と少し。
そう、ピッタリと付合するように、是こそが。この災厄こそが、弓鶴が熒惑で相対した宿縁だった。
伊織弓鶴の『熒惑で過ごした3年間』とは、この『虚音という自己の鏡とも言えるキングクラスの災禍と対峙し、討ち取るまでの旅路』であったのだ。