おじさんが魔女裁判に連れてこられてしまったときの話   作:長雪 ぺちか

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詳しい描写はありませんが、少々性的なシーンがあります。本当に注意してください。


おじさん殺人事件⑤

[裁判所]

 

私の顔を見るなり氷上さんが猛スピードで駆け寄ってくる。

 

飛び込んできた彼女を優しく受け止める。瞳に涙を溜めていた。

 

《氷上メルル》

「おじ様っ! 生きていたんですね! 私……おじ様が死んでしまったと思って頭が真っ白になって……」

 

《おじさん》

「あはは……心配してくれてありがとう、氷上さん。みなさんにも迷惑をかけたね」

 

《遠野ハンナ》

「まさか幽霊……ではありませんわよね?」

 

《橘シェリー》

「それだったら面白いんですけどね。ヒロさんにいいところを全部持って行かれて悔しいですー!」

 

《二階堂ヒロ》

「ツッコミどころはそこなのか。ともあれおじさんが生きていたようで安心している。おじさんはここで失うにはあまりに惜しい人材だからな」

 

《城ケ崎ノア》

「えへへ……のあもおじさんが生きてて嬉しいよ。お帰りなさい」

 

《おじさん》

「ありがとう、2人とも。ところでおじさん、まだ状況がよく飲み込めていないんだけど……一体何があったんだい?」

 

《蓮見レイア》

「死の淵から舞い戻った不死鳥の如き御仁よ! これまでの経緯は私が説明しよう!」

 

《おじさん》

「あ、ああ。助かるよ、蓮見さん」

 

そうして蓮見さんから、これまでの話の説明を受けるのだった。

 

 

 

 

《おじさん》

「なるほど、つまりおじさんは何者かに性的な暴行を受けたのち図書室で眠らされていたところ、それを発見した氷上さんが死体だと勘違いして魔女裁判が執り行われてしまったと」

 

《蓮見レイア》

「そういうことになるだろう! つい今しがたヒロくんがおじさんの謎を解いたところさ」

 

《橘シェリー》

「これが当時の現場の様子です。私が撮っておいたんです!」

 

《おじさん》

「その状態を目の前にして写真まで撮ってくれていたんだ……橘さんは随分肝が据わっているね。ありがとう」

 

《橘シェリー》

「シェリーちゃんは名探偵ですから! 白濁液まみれの中年男性の死体にも動じません、えっへん!」

 

橘さん、人として大事なものが抜け落ちている気がする……!

 

当時の現場を確認してみる。

話に聞いた通り、下半身を露出して大量の白濁液を撒き散らした私が図書室の机の上に横たわっていた。想像以上に酷い絵面だ。

 

何にせよ、この写真一枚で犯人が誰なのかは大方予想がついた。襲われた時の記憶はないが、こんなことできる人は1人しかいない。

 

《橘シェリー》

「そういえばおじさんは犯人が誰なのか覚えているんですか?覚えていても絶対言わないでくださいね。当てたいので!」

 

《おじさん》

「あはは……言わないよ。そもそも覚えていないしね」

 

《氷上メルル》

「すみません……私のせいでこんな大事に……」

 

《おじさん》

「氷上さんは悪くないよ。それと……そうだね」

 

《おじさん》

「この件に関して悪い人は誰もいない。強制性交等罪は親告罪*だからね。被害者が被害届を出さないと言っているのだから、これでもう終わりにしよう」

(*2017年の改正より非親告罪となっています。また、2023年より不同意性交等罪へと改正されました)

 

《二階堂ヒロ》

「た、正しすぎる……!」

 

《桜羽エマ》

「ヒロちゃん……?」

 

《橘シェリー》

「えー! それじゃあつまらないですー!やりましょうよ、犯人探し! やーりーまーしょー!」

 

《遠野ハンナ》

「なんでシェリーさんはそんなに強情なんですの! 誰も死んでいなかったのならそれでよかったではありませんか」

 

《蓮見レイア》

「果たしてそうであろうか!確かにおじさんの言う通り、法に則るのであれば今回の事件に罪を犯した人はいないのであろう!」

 

《蓮見レイア》

「しかし! 共同生活を行う上では“信頼”というものも大切になるのではないだろうか! 犯人はきちんとおじさんに謝って、円満に終わらせるのが良いと思う!」

 

《橘シェリー》

「レイアさんの言う通りですね。このままではみなさんわだかまりを残したまま明日からの日々を過ごすことになってしまいますよー」

 

橘さんと蓮見さんの説得に、少女たちは互いの顔色を伺っていた。

 

あまり少女たちの生活に口を出すのは良くないのかもしれない。ただ、今回に限っては私自身が被害者だから少しくらいはいいだろうか。

 

《おじさん》

「蓮見さん、橘さん、確かにこの閉鎖的に共同生活においては法律よりも信頼が優先される。それは正しいと思う」

 

《おじさん》

「だけど、今からやろうとしている“犯人探し”は犯人の心を傷つけるだけになってしまうかもしれない。それは理解しているかな」

 

《蓮見レイア》

「そ、それは……」

 

《橘シェリー》

「そうなんですか?謎は解いた方が良くないですか?」

 

《おじさん》

「それもまた正しい。犯人が誰だかわからない状態でこの後共同生活をするのは橘さんの言う通りわだかまりが残るだろう。おじさんが言っているのは“過程”の話だよ」

 

《橘シェリー》

「過程?」

 

《おじさん》

「きっと、橘さんたちは嬉々として犯人を追い詰めるだろう。確かにそれは楽しい。だけど、犯人からすればどうかな」

 

《おじさん》

「最終的にはバレてしまうことが確定した上で、抵抗しないといけない──これはあまりに可哀想ではないかと、おじさんは思うよ」

 

《橘シェリー》

「そう言われてみれば……そうかもしれませんね」

 

橘さんは眉間に拳を当てて、考えるそぶりをして見せる。

きっと、橘さんは人の気持ちを考えるのが苦手なんだと思う。どこかで大切な何かを失ってしまっているようにすら感じる。

親友の遠野さん相手であれば“気持ち”というものを考えるのもやぶさかではないのかもしれないが。

 

私の言葉で、少なくとも彼女以外の少女たちはおおよそ納得してくれたように思えた。

 

《おじさん》

「とにかく、最初に言った通りこの件には悪人はいない。被害者であるおじさんが許しているんだから」

 

《おじさん》

「だけど、おじさんを襲った人が誰なのかが分からなければ、きっと君たちの間にしこりが残るし犯人探しを始めてしまうかもしれない」

 

《おじさん》

「だから、今回はおじさんが犯人を発表する。それで良いかな」

 

《橘シェリー》

「仕方ありませんね。悲しむ人がいるというなら、それで良しとしましょう!」

 

《遠野ハンナ》

「あなた何様ですの……」

 

《橘シェリー》

「天才美少女名探偵のシェリーちゃんです♪」

 

橘さんはペロッと舌を出すチャーミングなポーズを決める。

いつも変わらずハイテンションな子だ。

 

おかげで場も少し和んで丁度良い。彼女なりの気遣いだったのかもしれない。

 

私は犯人に向かって手を差し出す。

 

《おじさん》

夏目さん、君が犯人だね

 

《夏目アンアン》

「………………」

 

その言葉に少女たちは目を見開き驚きを隠せずにいた。

遠野さんなんて顎が外れそうになっている。

 

《夏目アンアン》

「………………どうして」

 

《夏目アンアン》

「…………どうしてわかった。……わがはいの 【洗脳】は……効いていなかった……?」

 

《おじさん》

「違うよ。君の【洗脳】の魔法は確かにおじさんに効いた。だから、実際おじさんは夏目さんとそういう行為をした記憶が一切残っていないよ」

 

《夏目アンアン》

「ではなぜ……」

 

《おじさん》

「すごくシンプルな話だよ。夏目さんたちはもちろん知らないと思うけど…… 男性の一回の射精量はね──12mlくらいしかないんだ

 

《夏目アンアン》

「…………えっ」

 

《沢渡ココ》

「はああああ!? おっさん変な知識植えつけんなし!キッショ!おっさんキッショ!名探偵みたいなタメ作って言うことキモすぎなんですけど!」

 

《桜羽エマ》

「ヒロちゃん?どうしてボクの耳を塞ぐの?」

 

《二階堂ヒロ》

「君はこれを聞くべきではない」

 

沢渡さんを皮切りに少女たちからのブーイングが始まる。

少々心苦しいが、今ので夏目さんへのヘイトがすべて私に移ったのであればありがたい。

 

《おじさん》

「橘さんの撮った写真には、大量の白濁液がおじさんの周りに残っていたよね。普通の男性はそんな量の精液を出すことができないんだ。おじさんの身体に作用するような“魔法”がない限りね」

 

《夏目アンアン》

「……そう……だったのか」

 

夏目さんは伏し目がちにポツリとつぶやいた。

 

今回の事件は、男性やそういう経験のある女性ならばすぐに気付いてしまうようなものだった。

逆説的に、少女たちの貞操が守られていることを知り私は安心した。

 

おそらくこの手の知識を持ってしまっている子はいただろうが、その子にそういう知識を披露させるのを避けるためにもここで私が結論を言ってしまうのは間違いではなかった。そう信じたい。

 

《おじさん》

「夏目さん、どうしてこんなことをしてしまったんだい? もし、おじさんに不満があるなら言ってほしい」

 

《夏目アンアン》

「ちがっ…………違う…………おじさんは悪くない」

 

そうして夏目さんは犯行に至るまでの経緯を説明し始めた。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

わがはいはここに来てから夜の時間は娯楽室で過ごしていた。

 

ノアのスプレーの臭いがどうしても身体に合わなかった。だからゴクチョーはそれを許してくれた。

 

夜の時間はわがはいにとって自由な時間だった。

 

誰もいない牢屋敷を探索するのに楽しさすら覚えていた。

 

そんなときだ。ノアが魔女になってしまった。

 

わがはいの心はざわついた。ゴクチョーは魔女がいると言っていたが、本当にいるだなんて思わなかったのだ。

 

だけど、わがはいの心配を他所にノアの体調は問題がなかった。

 

『……ノア、大丈夫なのか? 魔女になったと聞いた』

 

「うん。大丈夫だよ、アンアンちゃん。おじさんがね、のあのことを助けてくれたんだぁ」

 

それからノアはおじさんのことをよく話すようになった。

 

話を聞いているうちに、わがはいはあのおじさんという“異物”に興味が湧いていきた。

 

夜の時間はわがはいの時間だ。

 

おじさんがどんなやつなのか、この目で見てやろうと思った。

 

そんな中、わがはいは見てしまったのだ──医務室でおじさんと眠るメルルのことを。

 

メルルはすごく幸せそうな顔をしていた。

 

『そんなに良いものなのか……男と一緒に寝るのは』

 

最初は単なる興味だった。

 

だが、ノアのおじさんへの信頼と、メルルの幸せそうな表情……それがわがはいの興味にどんどんと薪を焚べていく。

 

そして昨日、ノアがおじさんに会いに行った後に言ったのだ。

 

「エマちゃんが風邪を引いちゃったみたいでね、メルルちゃんはつきっきりで看病してるんだって。えらいよねぇ」

 

わがはいはチャンスだと思った。わがはいも……幸せになりたかった。

 

慣れない早起きをして、朝食を済ます。

メルルがエマの看病をしているのを確認して、わがはいは図書室へ向かった。

 

「おや、夏目さん。おはよう。何か読みたい本でもあるのかな?」

 

『お願いがある。聞いてくれるか』

 

「ん? いいよ。おじさんにできることなら何でもするよ」

 

「……【机の上で眠りにつけ】」

 

そこから先はわがはいの言いなりだった。

 

眠ったおじさんにたくさんのお願いをして、わがはいはおじさんの身体を好き放題した。

 

初めてではあったが、問題なく行為は進んだ。

 

「お、おじさん…………イキそうなのか……」

 

駄目だ。わがはいの【中に出せ】

 

「【出せ】……【出せ】…………【出せ】!」

 

何度もおじさんをイカせていたところ、図書室の扉が開かれメルルが入ってきた。

 

「おじ様……いらっしゃいますか……?」

 

わがはいは咄嗟に本を足場に降りて、机の下に隠れた。

 

「おじ様……おじ様!? いやああああああ!!!!!」

 

メルルの叫びが響く中、わがはいは必死に息を殺していた。

 

そして彼女が図書室を出て行ったのを見計らって、わがはいは娯楽室へと逃げたのだった。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

《夏目アンアン》

『これが事件の真相だ』

 

《おじさん》

「そうだったんだね。話しにくいだろうに、話してくれてありがとう」

 

《夏目アンアン》

『どうしておじさんが感謝するんだ』

 

《夏目アンアン》

「……その……ごめんなさい。勝手におじさんの身体を……」

 

《おじさん》

「謝罪を受け入れるよ。だから、もう謝らなくて大丈夫。みんなもそういうわけでこの話はここで終わりでいいよね」

 

少女たちは気まずそうにしながらもコクコクと頷いていた。

 

すぐに完全に元の生活と同じようにというのは難しいかもしれないが、しばらくすればわだかまりもなくなるだろう。

 

謎が解け、議論が終わり、裁判所には解散の雰囲気が流れ出す。

 

《橘シェリー》

「あー、楽しかったですねー! 私、この牢屋敷に来て初めてこんな推理しましたよ。また定期的に被害者になってくれませんか?」

 

《おじさん》

「物騒なことを言わないでおくれ……今回はたまたまおじさんが生きてたけど次はどうなるかわからないんだから」

 

《二階堂ヒロ》

「今後はこんなことが起きないよう皆で気を引き締めるべきだろう。事件が起きるのは正しくない」

 

これからの生活のルールをどうするかなどを二階堂さんが話しながら、私たちが裁判所を後にしようとする。

 

そのときだ。高い位置で私たちを見守っていたゴクチョーがヒラリヒラリと裁判席中央に舞い降りた。

 

出口にはなれはてとなった看守が鎌を構える。

 

《ゴクチョー》

「みなさま、どこへ行こうとしているんですか?裁判はまだ終わっていませんよ

 

《ゴクチョー》

「事件が起きたのですから、処刑する人をきちんと決めてください。ルールですので」

 

異形の梟の言葉に、私たちに緊張が走るのだった。




今回の話は例のネットミームが言いたいがために考えたものとなっていました。もしかすると事件の最初の段階で気がついてしまった人もいるかもしれません。アンアンちゃんファンの方、本当に申し訳ありませんでした。

当初、アンアンちゃんを推理で追い詰めるような展開を想定していたのですが、本文中であった通りその犯人探しはただ犯人を苦しめるだけのものだと思いましたので路線変更して答えを即明らかにするタイプにしました。
白濁液が10分ほどで色が薄くなる*性質をもつことを利用して、シェリーの写真の白濁液の色とヒロ、ナノカが見た時の白濁液の色が違うことから犯行が極直近に行われた→そのとき近くにいたのはアンアンしかいないというところから犯人を絞る想定でした。(*Wikipediaの精液を参照。画像閲覧注意)

以下が事件中の動きです。
◯自由時間開始
・すぐ
ハンナシェリーアリサレイアの順で食堂へ
・20分後
メルルがエマの朝食を取りに行く。
アンアンが食堂へ
・30分後
マーゴココが食堂へ(アリサは2人のパンを炙る)
ハンナシェリーは花畑へ
レイアはエマの看病の手伝いへ
パンを炙り終わったらアリサは湖へ散歩
・40分後
アンアンは食事を終えて図書室へ。
おじさんを発見し魔法をかけてセックス開始。
・50分後
マーゴとココは食堂からラウンジへ
アンアンはおじさんとセックス中
エマが寝る。
ヒロが医務室へ。レイアは牢に戻る。
・55分後
メルルが図書室へ。
アンアンはメルルが来たので机の下へ。
メルルがおじさんを発見。治療の魔法を使うが効かない。
・60分後
メルルが諦めて図書室を出てゴクチョーの元へ。
アンアンは見計らって娯楽室へ。
死体発見のアナウンス。
すぐにシェリーは図書室へ(この時点では射精後5分程度なので白濁液はちゃんと色付いている)
・70分後
ナノカが現場の確認。白濁液の色はかなり薄くなっていた。
・90分後
ヒロが現場の確認。白濁液の色はほぼ透明だった。
・120分後
魔女裁判の開始。
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