おじさんが魔女裁判に連れてこられてしまったときの話   作:長雪 ぺちか

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夏目アンアンとの話①

[裁判所]

 

《ゴクチョー》

「処刑する人をきちんと決めてください。ルールですので」

 

《紫藤アリサ》

「何言ってんだよてめえ。おっさんは死んでなかった。誰も悪いことしてねえだろ
!」

 

《ゴクチョー》

「はあ。確かにそうですね。偽ミリアさんが生きていたということはそういうことなんでしょう」

 

《蓮見レイア》

「で、では……誰も処刑する必要なんて……」

 

《ゴクチョー》

「そもそも、この魔女裁判は別に犯人を処刑するためのものではありませんからね。“魔女”が処刑できれば、こちらとしては何でもいいんですよ」

 

《遠野ハンナ》

「な……何を……おっしゃってますの……」

 

《ゴクチョー》

「ですから、魔女裁判は“魔女”を処刑するためのシステムなんです。ほら、いるではありませんか。貴方たちの中には、すでに“魔女”が」

 

ゴクチョーさんはグルリと首を回して1人の少女へとを視線を向ける。

 

誰を指しているのかは一目瞭然だった。

 

《ゴクチョー》

「今回は不運でしたね。ノアさんを処刑してさっさとこんな裁判終わらせちゃいましょ。あまり仕事が長引くのも嫌なので」

 

《城ケ崎ノア》

「のあが……処刑される……?」

 

城ケ崎さんはその綺麗な瞳を大きく見開く。

突然の死刑宣告に、少女たちの空気がピンと張り詰める。

 

私は氷上さんに目配せをする。

 

《氷上メルル》

「ゴクチョーさんっ! こんなの……あんまりだと思います! ノアさんは確かに魔女化していますが……正気を保っているではありませんか!」

 

《ゴクチョー》

「そう言われましてもね。では他の人にします? みなさんが処刑する人を決めてくれれば、私はそれでいいのですけども」

 

どうなっている。

ゴクチョーは氷上さんの部下じゃないのか?

 

《氷上メルル》

「………………っ!」

 

まさか……ゴクチョーさんに引き継ぎができていない……!?

社会人として当然の“報連相”がこの牢屋敷では機能していない可能性がある!

 

上司の氷上さんが『大魔女の復活には13人の魔女が必要』という重要な情報を伝え忘れた結果、部下であるゴクチョーさんはこれまで通りの『とりあえず殺してみて大魔女が見つかればラッキー』のローラー作戦を継続しているということか!

 

これはかなりまずいことになった。

この場でゴクチョーさんを説得することはできる。

しかし、それは氷上さんが黒幕であることを少女たちにバラすことに他ならない。

 

どうにかこの場を乗り切る方法を見つけようと悩んでいたところ、夏目さんがポツリとつぶやく。

 

《夏目アンアン》

「……わがはいのせいだ…………」

 

《城ケ崎ノア》

「アンアンちゃん……」

 

《城ケ崎ノア》

「アンアンちゃんのせいじゃないよ。のあが魔女になっちゃったのは……のあの心が弱かったから……だから……」

 

《夏目アンアン》

「ノアは悪くない……!」

 

慣れない大きな声を出して、夏目さんは咳き込む。

 

2、3回の咳払いの後、彼女は続ける。

 

《夏目アンアン》

「わがはいがおじさんにあんなことをしなければ……事件を起こさなければ……誰かが死ぬ必要なんて……なかった!」

 

《夏目アンアン》

「そう、か…………。わがはいは満たされたくて……また、やってしまったのか……」

 

夏目さんはその場で膝をつく。

頬に涙が伝い、裁判所の床を濡らした。

 

そして少女は黒いオーラを纏いつつ、その様相を変貌させる。

 

《夏目アンアン》

「ごめんなさい…………幸せを願って、ごめんなさい──」

 

瞬間、少女の魔力が爆発する。

その風圧に、私たちは吹き飛ばされそうになりつつも、傍聴席に捕まり何とか持ち堪える。

 

顔を上げたとき、既に夏目さんは魔女になっていた。

羊のような巻き角をたずさえた彼女は、甘い言葉で人をそそのかす──まるで物語の中の“悪魔”そのもののようだった。

 

《夏目アンアン》

「ゴクチョー、処刑をするならわがはいを処刑しろ。魔女なら……ここにいる」

 

《ゴクチョー》

「これは驚きましたね。まさか魔女がもうひとり……」

 

《夏目アンアン》

「ノア、わがはいの友達になってくれてありがとう…………わがはいは……ノアのことが大好きだ」

 

《城ケ崎ノア》

「アンアンちゃん! だめだよ! アンアンちゃんが死んじゃったらのあは……」

 

《夏目アンアン》

「みなまで言わないでくれ…………わがはいは……もう十分だ……」

 

《夏目アンアン》

「……【全員裁判所から出ていけ】」

 

夏目さんの一言で、私たちの足がひとりでに動き出す。

自分の身体だというのに、自由が効かない。

 

強化された彼女の【洗脳】の魔法──それは同意を得ずとも発動する完全なる支配の魔法だった。

 

《沢渡ココ》

「うわああ! なにこれ足が勝手に動くんですけど!」

 

《遠野ハンナ》

「ふ、吹き飛ばされますわ〜!!!!」

 

《桜羽エマ》

「うわああああ! ヒロちゃん!」

 

《二階堂ヒロ》

「エマっ! 私に捕まれ!」

 

《ゴクチョー》

「私まで追い出さなくても……」

 

抵抗虚しく、少女たちは次々に裁判所を追い出される。

【怪力】の魔法を持つ橘さん、それに氷上さんとおじさんだけが何とか机にしがみ続けていた。

 

《おじさん》

「橘さん! 外に出て行ってくれ! ここはおじさんが何とかする!」

 

《橘シェリー》

「何でですか!? 一緒に戦いましょうよー!」

 

《おじさん》

「……君は強い! 君が洗脳されたら誰も君に勝てない!」

 

《橘シェリー》

「そんなー! でも、メルルさんには言わないんですね〜?」

 

《おじさん》

「……っ!」

 

《橘シェリー》

「仲間はずれなんて酷いです。えんえんえーん」

 

《おじさん》

「頼む……説明は後でするから……今は……」

 

《橘シェリー》

「ひとつ貸しですよ〜」

 

そう言って橘さんは意思に反して裁判所を後にする。

 

氷上さんと2人きりになったが、彼女ももう握力の限界らしい。

 

《氷上メルル》

「おじ様っ……すみません……私ももう……」

 

《おじさん》

「聞きたいことは山ほどあるがひとつだけ教えてくれ!」

 

《おじさん》

「氷上さんの魔法はどこまで信用できる!?」

 

《氷上メルル》

「バラバラ死体でも……機械だって……直せますっ!!!!」

 

そう言い残して氷上さんは机から手を離す。

まるで重力が横に働いているかのように彼女は裁判所から追い出された。

 

《おじさん》

「あははっ! 凄まじいな! 流石は本物!」

 

《おじさん》

「それなら心置きなく、おじさんもテーブルにつけそうだ!」

 

私は胸ポケットに入っていたペンを両耳に刺し、鼓膜を破った。甲高い金属音が永遠に流れ出す。

 

聴覚情報が失われたことで、“洗脳”の魔法から解放される。

 

夏目さんはあり得ないといった表情でこちらをみていた。

 

《夏目アンアン》

「な……何を……している」

 

《おじさん》

「始めようか夏目さん。おじさんとお話し合いだ」

 




次回更新遅くなりそうです。ご容赦を。
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