おじさんが魔女裁判に連れてこられてしまったときの話   作:長雪 ぺちか

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夏目アンアンとの話②

《夏目アンアン》

「どうして耳を……痛くないのか」

 

《おじさん》

「あはは……ごめんね。なんとなく言っていることはわかるけど、聞こえないからここからはスケッチブックで会話してくれるかな?」

 

《夏目アンアン》

「………………」

 

《夏目アンアン》

『どうしてそこまでするんだ』

 

《おじさん》

「……それは夏目さんとお話するためだよ。君の魔法はとても強力だ。だけど、こうしてしまえば君は普通の女の子と変わらない」

 

《おじさん》

「おじさんの耳は後で氷上さんに治して貰えばいい。でも、夏目さんの心の傷はそうはいかない。何も闇雲に鼓膜を破いたわけじゃないからそこは安心してほしい」

 

《夏目アンアン》

『それでも、普通できるものではない』

 

夏目さんはバツが悪そうに俯く。

 

《おじさん》

「夏目さん、君は今ものすごく危険な状態なのは理解しているかな」

 

《夏目アンアン》

『ああ。このままではわがはいは処刑されてしまう』

 

《おじさん》

「そうじゃない。処刑の方は最悪おじさんに投票でもしてくれれば何とでもなる。でもこのまま時が進めば、夏目さん君は人間でいられなくなるんだよ」

 

《夏目アンアン》

「……っ!」

 

《おじさん》

「城ケ崎さんは魔女化はしているが人間のままでいられている。自分のトラウマと向き合うことができれば、きっと君も彼女の様になれるはずだ」

 

《おじさん》

「だから夏目さん。君の話を聞かせてほしい。君を魔女にしてしまったのは一体何なのか」

 

まっすぐと彼女の目をみてそう伝える。

夏目さんはしばらく考えた後、ぎこちなさそうに筆を走らせた。

 

《夏目アンアン》

『わかった』

 

 

【審問開始】

《夏目アンアン》

『わがはいは昔からわがままだった。今日の様に、欲しいものがあるとどうしても手に入れたくなってしまう』

 

《夏目アンアン》

『お父さんとお母さんにもたくさんおねだりをして、その結果わがはいは取り返しのないことをしてしまった

 

《夏目アンアン》

『今日だってそうだ。わがはいがおじさんにあんなことをしなければ、こんなことにならなかった』

 

《夏目アンアン》

『わがはいのせいで誰かが壊れるのはもういやなんだ。やはりわがはいが処刑されるべきなんだ』

【審問終了】

 

 

《おじさん》

「夏目さんは過去にも問題を起こしたことがあるようだ。もしかすると過去と重ねて今回の事件を必要以上に悔いているのかもしれない」

 

《おじさん》

「過去はさておき、この事件に関しての肩の荷をおろしてあげるべきか」

 

 

【審問開始】

《夏目アンアン》

『わがはいは昔からわがままだった。今日の様に、欲しいものがあるとどうしても手に入れたくなってしまう』

 

《夏目アンアン》

『お父さんとお母さんにもたくさんおねだりをして、その結果わがはいは取り返しのないことをしてしまった

 

《夏目アンアン》

『今日だってそうだ。わがはいがおじさんにあんなことをしなければ、こんなことにならなかった』

 

 

<反論>

 

《おじさん》

【反論】「あはは……夏目さん。この事件を起こしたのは本当に君だと思っているのかい?」

 

《夏目アンアン》

『どういうことだ?』

 

《おじさん》

「実は夏目さんの強制性交事件はね、おじさんが全て仕組んだことなんだよ」

 

《夏目アンアン》

「……っ!?」

 

《おじさん》

「おじさんはね、城ケ崎さんや夏目さんのような……小さな女の子が大好きなんだ」

 

《おじさん》

「この牢屋敷にきてからね、君たちのことをずっと狙っていたんだよ。おじさん好みの可愛い子たちだなって。目論見通り、城ケ崎さんには十分に懐かれたし、夏目さんとは一線を越えることができた」

 

《おじさん》

「当時の記憶が残っていないのが残念でならないよ、とほほ……」

 

《夏目アンアン》

「……………………」

 

《夏目アンアン》

『あまりわがはいをバカにしないでいただきたい』

 

《夏目アンアン》

『おじさんがそんなことを企てるはずがない。ノアの信じたおじさんをわがはいは信じている』

 

《おじさん》

「あはは……流石に嘘だとわかってしまうか。ごめんね。夏目さんを説得するために、少し急ぎ足になってしまったようだ」

 

 

《おじさん》

「嘘が見抜かれてしまった。おじさんへの信用の高さが仇になったか。これでは逆狼少年だ……おじさんだけど」

 

《おじさん》

「あまり嘘をつくのは得策ではないのかもしれない。ここは正直に話をしてみよう」

 

 

【審問開始】

《夏目アンアン》

『わがはいは昔からわがままだった。今日の様に、欲しいものがあるとどうしても手に入れたくなってしまう』

 

《夏目アンアン》

『お父さんとお母さんにもたくさんおねだりをして、その結果わがはいは取り返しのないことをしてしまった

 

《夏目アンアン》

『今日だってそうだ。わがはいがおじさんにあんなことをしなければ、こんなことにならなかった』

 

《夏目アンアン》

『わがはいのせいで誰かが壊れるのはもういやなんだ。やはりわがはいが処刑されるべきなんだ』

 

 

<ガラスの割れる音・おじさんの論破スチル>

 

《おじさん》

【反論】「いや、夏目さんは絶対に処刑されるべきではないよ」

 

《夏目アンアン》

『何故だ?わがはいは、必ずこの後も問題を起こす』

 

《夏目アンアン》

『わがはいは、秩序を乱す魔女なのだから』

 

《おじさん》

「これから先のことは一旦置いておいて、とにかくここで夏目さんを失うことは絶対できない」

 

《おじさん》

「夏目さんは大魔女を降臨させる方法について、城ケ崎さんから聞いているかな?」

 

夏目さんは首を横に振った。

 

《おじさん》

「ならばここは正直に教えておこう。大魔女の降臨には“13人の魔女が必要”なんだよ」

 

《夏目アンアン》

「…………っ!?」

 

《おじさん》

「気付いた様だね。夏目さんを……いや、魔女候補の少女たちが失われることがどれほどに重大事態なのかを」

 

《夏目アンアン》

『そういうことだったのか』

 

夏目さんは深く頷いた。そして、思いついたように続ける。

 

《夏目アンアン》

『ちょっと待ってくれ』

 

《おじさん》

「どうしたんだい?」

 

《夏目アンアン》

『わがはいたちの中に少女は12人しかいないではないか。これでは絶対にこの島から脱出ができないということにはならないだろうか?』

 

《おじさん》

「……確かにその通りだ。そして13人目の確保の方法の目処は……立っていない。だけど、これ以上少女の数が減るのはどう考えてもリスクが高い。夏目さんもそう思うよね?」

 

《夏目アンアン》

『それは同意する』

 

《おじさん》

「おじさんがさっき“処刑の方は最悪おじさんに投票でもしてくれれば何とでもなる”と言ったのはそういうことだったんだ。とにかく、この場で魔女候補を失うのは12人の命を失うことに等しい」

 

《おじさん》

「夏目さん、君はここで処刑されるべきではない」

 

《夏目アンアン》

「………………」

 

《夏目アンアン》

『理解した。わがはいの命は、すでにわがはいだけのものではなかったようだ』

 

夏目さんは伏せ目がちにスケッチブックを掲げる。

しばらくの思考ののち、彼女は再び筆を取る。

 

《夏目アンアン》

『だが、罪を犯したのは事実だ。それに、わがはいが生きていればいずれ同じ過ちを犯す。きっと次に何かをしでかせば、この島からの脱出は不可能になる』

 

《夏目アンアン》

『どうにか14人目の少女を見つけて欲しい。おじさんならば、きっとできる』

 

《おじさん》

「夏目さん……それはあまりに無責任じゃないのかな?」

 

夏目さんの顔が険しくなる。

 

《おじさん》

「今回君は事件を起こし、結果として誰かひとりの命を処刑にて奪うことになった」

 

《おじさん》

「罪を犯したならば償わなければならない。だが君の場合、それは絶対に死刑であってはならないんだよ。何故なら、夏目さんの死刑自体がこの牢屋敷においてもっとも犯してはならない重罪だから」

 

《夏目アンアン》

「………………」

 

夏目さんの筆が止まる。

 

どうやら今回の処刑で夏目さんが犠牲になるべきではないということは納得してくれたようだった。

 

 

 

 

未だ容姿は変わらない。しかし、魔女化したときよりも随分と冷静さを取り戻してくれている様に見えた。

 

畳み掛けるように私は続ける。

 

《おじさん》

「さっき夏目さんは過去にも過ちを犯したと言っていたね。今度はそれについて話をしてくれないかい?」

 

《夏目アンアン》

「………………」

 

《夏目アンアン》

『わかった』

 

スケッチブックを使い回し返答を省略すると、彼女は再び筆を走らせた。

 

 

【審問開始】

《夏目アンアン》

『これはわがはいが自分の魔法に気付かなかった頃の話だ』

 

《夏目アンアン》

『病弱で引っ込み思案のわがはいを両親はかいがいしく接してくれた』

 

《夏目アンアン》

『わがはいはそんなお父さんとお母さんの優しさにあまえてたくさんのおねだりをしたのだ』

 

《夏目アンアン》

『おもちゃを買って、おうちを買って、絶対にしからないで、眠らないでそばにいて、お姫様のようにあつかって、もっと、もっと、もっと──』

 

《夏目アンアン》

『両親はわがはいの魔法に気がついた。自分たちが”洗脳“されていると。そして、お父さんとお母さんはお互いにお互いをかばった』

 

《夏目アンアン》

『わがはいは最後まで自分の魔法に気が付かなかった。気付いたときには、もう手遅れだった』

 

《夏目アンアン》

『お父さんもお母さんも、中身のない抜け殻になってしまったのだ。わがはいは、自分の幸せの代償に両親を壊してしまった』

 

《おじさん》

「夏目さん……そんな過去があったんだね」

 

《夏目アンアン》

『これがわがはいの犯しただ。仮に今回の事件が死刑にならずとも、わがはいは死刑になるべき存在なんだ』

【審問終了】

 

 

《おじさん》

「夏目さんは魔法で自分の家庭を崩壊させたみたいだ。確かに、夏目さんの魔法であればそれが可能だろう」

 

《おじさん》

「しかし、果たして彼女がしたことは本当に悪いことなのだろうか。根底を疑ってみるのも良いかもしれない」

 

 

【審問開始】

《夏目アンアン》

『これはわがはいが自分の魔法に気付かなかった頃の話だ』

 

《夏目アンアン》

『病弱で引っ込み思案のわがはいを両親はかいがいしく接してくれた』

 

《夏目アンアン》

『わがはいはそんなお父さんとお母さんの優しさにあまえてたくさんのおねだりをしたのだ』

 

《夏目アンアン》

『おもちゃを買って、おうちを買って、絶対にしからないで、眠らないでそばにいて、お姫様のようにあつかって、もっと、もっと、もっと──』

 

《夏目アンアン》

『両親はわがはいの魔法に気がついた。自分たちが”洗脳“されていると。そして、お父さんとお母さんはお互いにお互いをかばった』

 

 

<ガラスの割れる音・おじさんの論破スチル>

 

《おじさん》

【反論】「夏目さんはご両親を洗脳したというが、それは果たして本当に悪いことなのかな?」

 

《夏目アンアン》

『それ以外の何でもない。疑う余地などないだろう』

 

《おじさん》

「それは違うよ。疑う余地は十分ある」

 

《おじさん》

「まずは法律の話をしよう。大前提として、“洗脳”そのものは罪となっていない」

 

《夏目アンアン》

「…………っ!?」

 

《おじさん》

「例えば“洗脳”と“教育”は紙一重だ。もし洗脳そのものを規制するとなると、教育まで行うことができなくなるかもしれないよね。だから、洗脳それ自体を罪にするのは難しいんだ」

 

《夏目アンアン》

『宗教団体が洗脳によって取り締まられるようなニュースを見たことがある。あれはどう説明するのだ?』

 

《おじさん》

「簡単だよ。特定の宗教団体への言及は避けるけど、その手の解散命令は窃盗や詐欺などの何らかの法令に違反したことを理由に公共の福祉を害すると認められた結果解散されるんだ」

 

夏目さんは私の言葉に渋い顔を見せる。少々言い回しが説明くさすぎたか。

 

《おじさん》

「例えば、夏目さんが宗教法人の教祖だとするよ』

 

《夏目アンアン》

『わかった』

 

《おじさん》

「ある日、夏目さんは信者に“ケーキが食べたい!”と洗脳の魔法を使う。すると信者のみんなが夏目さんにケーキを用意してくれる」

 

《おじさん》

「しかし、実はそのケーキは信者がお店から盗んできてしまったものだった!」

 

《おじさん》

「一度や二度なら見逃されるかもしれないが、夏目さんがお願いをして、その結果信者が犯罪行為を繰り返す。そんなことが続いてしまった……」

 

《おじさん》

「さて、この場合、罪を犯したのは誰かな?」

 

《夏目アンアン》

『それはわがはいだ。わがはいが洗脳したのだから』

 

《おじさん》

「不正解だよ。この場合、単に信者の窃盗事件となる」

 

《夏目アンアン》

『なん……だと……』

 

《おじさん》

「そして、“窃盗”によってみんなの幸福を害したことを理由に夏目さん──宗教団体に解散命令が下る。こういう仕組みなんだ」

 

《おじさん》

「本音では“この集団洗脳とかしてて危ないから解散させなきゃ”なのかもしれないけど、それが正当な理由にならないから“犯罪を行う集団なので解散してね”ということになるということだね」

 

《夏目アンアン》

『ちょっとズルい』

 

夏目さんはジト目でスケッチブックを構えた。

 

《おじさん》

「あはは……おじさんもそう思うよ。それでも、おじさんたちの自由な生活を守るためには必要なことなんだ」

 

《おじさん》

「とにかく、法律的には夏目さんは悪いことはしていない。それは理解してほしい」

 

夏目さんは特に何もいうことなく、その場で固まっていた。

法律はあくまで法律だ。肯定しないのをみるに、彼女の内心では自分のした行動は悪いことであるという認識は変わっていないんだろう。

 

《夏目アンアン》

『それでも、わがはいがお父さんとお母さんを壊したことには変わりはない。わがはいは悪者だ』

 

《おじさん》

「次はそのことについて話そう」

 

《おじさん》

「夏目さんはご両親を洗脳したことを負い目に感じている。実際、君の“洗脳”によって家庭が崩壊したのは事実なのだろう」

 

《おじさん》

「だが、それは夏目さんだけの所為なのかな?」

 

《夏目アンアン》

『言っている意味がわからない』

 

《おじさん》

「ご両親にも問題があったんじゃないのか、と言っているんだよ」

 

《夏目アンアン》

「……っ!?」

 

わかりやすく夏目さんの圧が高まる。

怒りを露わにして、スケッチブックに書き殴る。

 

《夏目アンアン》

『いくらおじさんでも看過できない。お父さんたちは悪くない!絶対、絶対に悪くない!』

 

《おじさん》

「ごめんよ、夏目さん。おじさんの言い方が悪かった。ご両親にも要因があったくらいが正確だろうか」

 

《夏目アンアン》

『変わらない』

 

《おじさん》

「いいや、変わるよ。原因は確かに夏目さんだった。ただ、夏目さんだけの力で家族を崩壊させることはできないんだ。何故なら君の魔法は」

 

▶︎「大人に効かない」◀︎

▶︎「記憶が残らない」◀︎

▶︎ 「強制ではない」 ◀︎

 

《おじさん》

「強制ではないから」

 

夏目さんは目を見開く。

 

《おじさん》

「君の魔法は“洗脳”。しかし、条件がある。それは相手が“君のお願いを了承すること”だ」

 

《おじさん》

「もちろん、今の君は魔女化が進み“洗脳”の力が強まっている。だからさっきの様に了承なしに皆を裁判所から追い出すことができたんだろう」

 

《おじさん》

「夏目さんがご両親を“洗脳”していた頃、君にはそこまでのストレスがかかっていなかったはずだ。そう考えると、当時君の魔法は──」

 

《夏目アンアン》

『かなり弱かった』

 

《おじさん》

「その通りだ。そしてそれは、ご両親が“夏目さんのわがままを叶えてあげたいという意思があった”ことを証明するだろう」

 

《おじさん》

「だから、夏目さんの家庭が崩壊してしまったのは、ご両親にも要因があったと考えるのが妥当だとおじさんは思う」

 

《おじさん》

「夏目さん、ご両親はきっと君のことを本当に大切に思っていたんだよ。だから、君のお願いを正面から受け止めて、不運にも崩壊してしまったんだ」

 

《夏目アンアン》

「…………………………」

 

《夏目アンアン》

「お父さんとお母さんは……私のことを……思ってくれていた……」

 

《夏目アンアン》

「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……!」

 

夏目さんはその場でうずくまる。

何を言っているのかわからない。改心してくれているのならありがたいのだが……

 

しばらく動かなくなったあと、彼女は立ち上がり潤んだ目でスケッチブックを書き始めた。

 

夏目さんは瞳にたまった涙を拭い、決意のこもった目で私を見る。

 

《夏目アンアン》

『お父さんとお母さんはわがはいのことを愛していた!それなのにその思いにつけ込んで……わがはいは家族を滅茶苦茶にした!』

 

《夏目アンアン》

『ただの悪者だったらよかった!大切な人たちの気持ちを踏みにじって!わがはいだけが幸せになるなんて……!』

 

《夏目アンアン》

『わがはいは、わがはいのことが許せない!』

 

《夏目アンアン》

『すまない。わがはいはおじさんの思いに応えられない。わがはいはここで処刑されなければならない。絶対にだ』

 

《おじさん》

「夏目さん……」

 

濁流のように夏目さんの暗い気持ちが溢れ出る。

 

彼女は酷く傷つき悲しみを負っている。精神の磨耗が進み、少女の姿はさらに異形へと近付いていった。

 

《おじさん》

「……それでも、おじさんは君を説得するよ」

 

《おじさん》

「おじさんに手伝いをさせてほしい。夏目さんが過去に向き合うための手伝いを」

 

風圧にシャツが揺れる。私はネクタイを直すと、少女へ向き合うのだった。

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