おじさんが魔女裁判に連れてこられてしまったときの話   作:長雪 ぺちか

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おじさん殺人事件⑥

[裁判所]

 

夏目さんの魔女化を食い止め、裁判所に静けさが戻る。

しばらく経って、裁判所に少女たちが戻ってきた。

城ケ崎さんが真っ先に駆け寄ってくる。

 

《城ケ崎ノア》

「アンアンちゃん!」

 

《夏目アンアン》

「ノア……心配をかけた」

 

《夏目アンアン》

「その…………ごめんなさい」

 

《城ケ崎ノア》

「えへへ……アンアンちゃんらしくないねぇ。謝るなんて」

 

《夏目アンアン》

『わがはいの信用は地の底のようだ』

 

微笑ましい2人の空間を眺めていると、氷上さんが私の元へやってくる。

 

《氷上メルル》

「おじ様っ、今直します……!」

 

《おじさん》

「………………?」

 

《おじさん》

「……ああ、“治す”ね。ありがとう。頼むよ」

 

氷上さんは私の耳に手を当てる。

彼女の【治療】の魔法で私の耳はすぐに元の機能を取り戻した。

 

《おじさん》

「あはは……本当に凄まじい力だね。氷上さんがいれば世の医療が根底から覆ってしまってもおかしくない」

 

《氷上メルル》

「えへへ……そうかもしれませんね。でも今はおじ様のお役に立てて嬉しいです」

 

確か牢屋敷の外にはゲストハウスがあったはずだ。もしかすると、島の外から重病の患者を連れてきて治療をしていたりするのかもしれない。無尽蔵に配布される食料などはそれの対価である可能性は十分あるだろう。

 

《氷上メルル》

「アンアンさんの方は……大丈夫のようですね」

 

《おじさん》

「ああ。無事に完全な魔女化は食い止めたよ。城ケ崎さんと同じ──半魔女化とでも形容できる状態になっているみたいだ」

 

少し離れたところから城ケ崎さんと夏目さんを眺める。

最初に少女たちを見たときに比べ幾分魔女らしくなってはいるが、人としての範囲から逸脱はしていない。

魔法自体は強化されているから、そこはもう人から外れているのかもしれないが。

 

《紫藤アリサ》

「マジかよ……おっさんあの状態の夏目を戻したのか?」

 

《遠野ハンナ》

「ノアさんの話は聞いていましたが……」

 

《橘シェリー》

「事実だったようですねー。もしかしたら私たちが魔女化したとしてもおじさんに直してもらえたして!」

 

《おじさん》

「あはは……そこまで期待しないでおいてほしいかな」

 

《ゴクチョー》

「はあ…………みなさん」

 

言葉を話すフクロウが裁判所の真ん中へと飛来する。

 

《ゴクチョー》

「そろそろ宜しいでしょうか? もう裁判の時間は十分にすぎているんですが……」

 

表情は変わらない。しかし面倒そうな声音でゴクチョーさんが悪態をつく。

ゴクチョーさんにはゴクチョーさんなりに仕事をまっとうしているだけなのだということは、運営側になった今ならばわかる。

少々申し訳ない気持ちがあるが、もう少し付き合ってもらうとしよう。

 

《おじさん》

「ゴクチョーさん、待ってくれないかい?」

 

《ゴクチョー》

「なんですか、偽ミリアさん? まさか自分に投票しろ……とか、そういう自己犠牲的な話ですか? そういうのはみなさんで勝手にしてほしいのですけども」

 

《おじさん》

「いや違うよ。交渉がしたいんだ」

 

《おじさん》

「折角みんなが揃っているところだから、全員に情報を共有しておこうか──“大魔女を降臨させる方法”を」

 

少女たちに緊張が走る。

そうして私はこれまでに調べた結果の全てを、牢屋敷の住人全員と共有するのだった。

 

 

 

 

《橘シェリー》

「なるほどー。だからヒロさんは“大魔女を降臨させる方法”を知っていれば、事件を起こすわけがないと言っていたんですね」

 

《二階堂ヒロ》

「ああ。私たちの頭数が減ることは、大魔女を見つけるという正攻法での脱出を困難にさせる」

 

《ゴクチョー》

「なるほど。そのようになっていたんですね。屋敷の運営にもろに関わってきそう……どうするんですかこれ」

 

《おじさん》

「そういうことなんだ。ゴクチョーさん、だから今回の裁判での処刑を免除してはくれないか? きっと運営側との利害は一致しているはずだ」

 

《ゴクチョー》

「はぁ……」

 

ゴクチョーさんが大きなため息をする。

面倒くさがりなところがあるが、彼は仕事に対して真摯だ。

きっと納得してくれるだろう──そう思っていた。

 

《ゴクチョー》

「それ、“今の回で”する必要があります?」

 

《おじさん》

「……な、何を言っているんだい?」

 

《ゴクチョー》

「いえ、ですから。今ここの13人……いえ、偽ミリアさんは魔女候補ではありませんから12人ですか?」

 

《ゴクチョー》

「この12人で大魔女様を降臨させる儀式を行う必要がありますか? みなさんが全員死んで、4月になれば新しい囚人が送られて来ますからね。またその時、挑戦すればいいんじゃないですかね?」

 

《ゴクチョー》

「わざわざ、ひとり欠けている今の回で大魔女様を呼ぶ必要性ないんですよ。ちゃんと13人揃って、いい感じにみなさんが魔女化できる回で挑戦してみます」

 

冷たくそう言い放つ。

どう……なっている。

ここまで融通が効かないことがあるのか?

氷上さんが情報共有を怠っていたにしても違和感がある。

 

《ゴクチョー》

「偽ミリアさん、情報提供ありがとうございました。あっ、偽ミリアさんは運営側になります? 貴方有能ですし、牢屋敷の仕事は人手が足りてないんですよ」

 

まさか、ゴクチョーさんは氷上さんとは別の派閥──

 

そこまで考えたところで、氷上さんが前に出る。

 

《氷上メルル》

「ゴクチョーさん……もういいです」

 

《ゴクチョー》

「おやメルルさん。どうかしましたか?」

 

《氷上メルル》

「今回の処刑を見送ってください。これは命令、です……」

 

氷上さんは力のこもった目で言う。

 

《ゴクチョー》

「あっ……それ、言っちゃうんですね」

 

《ゴクチョー》

「メルル様がそう言うのであれば仕方ありません。今回の処刑はなしにしましょう。とんだ無駄足でした。ぷりちーフクロウ的には無駄翼かもしれませんが」

 

妙な駄洒落を残してゴクチョーが飛び去る。

 

私たちの間には、呼吸する音すら聞こえるほどの静けさが残った。

 

《氷上メルル》

「みなさんごめんなさい。もう隠す意味がないと思うのでいいますね……」

 

《氷上メルル》

「私がみなさんを牢屋敷に連れてきたんです……いうなれば【黒幕】、です……」

 

<銃の発砲音>

 

パンッ、と短い破裂音が裁判所に響く。

音の出所へ目を向けると、黒部さんが鋭い目付きで銃を構えていた。

 

《黒部ナノカ》

「氷上メルル……貴方が……」

 

<銃の発砲音>

 

さらに追加の銃声。

 

《黒部ナノカ》

「貴方さえいなければ……貴方さえ……!」

 

《蓮見レイア》

「ナノカくん、やめたまえ!」

 

<銃の発砲音>

 

蓮見さんの静止を無視し、躊躇なく黒部さんの銃撃が続く。

六発の弾丸を射出したところで、銃声は止まった。

 

《氷上メルル》

「ナノカさんやめてください……。その……“痛いだけ”ですから」

 

《黒部ナノカ》

「…………っ!」

 

《紫藤アリサ》

「嘘だろ……氷上、てめえ本当に……バケモンだったのか」

 

《氷上メルル》

「アリサさん酷いです……私、バケモノなんかじゃありません……」

 

《氷上メルル》

「私は魔女──いえ、この島に大魔女様と共に残された【原初の魔女】。みなさんとは違う……“上の存在”なんです」

 

《桜羽エマ》

「……メルルちゃん……嘘だって言ってよ……!」

 

《橘シェリー》

「それはバケモノと呼称しても差し支えない存在なのではないでしょうか? 少なくとも銃で撃たれてピンピンしている人のことを、同じ人間とは思えません!」

 

《二階堂ヒロ》

「おじさん、貴方はこの事実を知っていたのか?」

 

《おじさん》

「そうだね。一週間前くらいかな。氷上さんに直接伝えられたよ」

 

《沢渡ココ》

「もしかしておっさんがあてぃしらの朝食を作り出したのって、メルっちの命令だったん?」

 

《おじさん》

「それはゴクチョーさんに頼まれたからだよ。どうやら人手不足みたいなんだ」

 

《遠野ハンナ》

「おじさんもその……黒幕ということなんですの?」

 

《おじさん》

「今はそうなっているね。氷上さんに真実を伝えられた際に、仲間になったよ」

 

《橘シェリー》

「なるほどー! おふたりが何やらコソコソしていたのはそういうことだったんですねー!」

 

《おじさん》

「あはは……橘さんは鋭いね。さっき話せなかったのはこういうことだったんだ」

 

《橘シェリー》

「納得はいきました。つまり、おじさんは最初は黒幕でもなんでもなくただのおじさんだった。でもその有能さを理由に仲間に誘われた、と」

 

《橘シェリー》

「なんだか悔しいですー! 私も黒幕側になりたーい!」

 

《遠野ハンナ》

「こんの怪力女! 空気ってものが読めないんですの!?」

 

《橘シェリー》

「えへへー、ごめんなさーい! でも、メルルさんが真実をバラしたということは、これからは私たちも実質黒幕側ということになりませんか?」

 

《遠野ハンナ》

「騙される側の人が一切いない状態の黒幕に意味はありますの……?」

 

《黒部ナノカ》

「……貴方たち、どうしてそんなに余裕なのかしら」

 

黒部さんが再び銃を構える。橘さんが和ませた空気が一気に引き締まった。

 

《黒部ナノカ》

「氷上メルル……貴方を殺せば私たちは助かる。そうでしょう」

 

《氷上メルル》

「えっ、あっ……いや……その……」

 

《沢渡ココ》

「そうじゃん! メルっちが黒幕ってことはさ、それを倒せばあてぃしらを閉じ込める意味なんて無くなるわけっしょ?」

 

《宝生マーゴ》

「うふふ……いくら本物の魔女といっても、ここには魔法を使える少女たちが11人もいるものね」

 

《黒部ナノカ》

「みんなも協力して。私たちは生きてここから脱出する」

 

黒部さんの言葉を皮切りに少女たちの意思が同じ方向を向く。

氷上さんは困った顔をしており、今にも少女たちの刃が彼女を捉えようとしていた。

 

《おじさん》

「おそらくだけど、それは無理だ。そうだよね、氷上さん」

 

《氷上メルル》

「おじ様っ……! はい、おじ様の言う通りです。私を殺しても、みなさんが生きて帰ることはできません。だってみなさんを連れてきたのは私ではないですから……」

 

《紫藤アリサ》

「その話を信じろって言うのかよ」

 

《宝生マーゴ》

「メルルちゃんが嘘をついている、という可能性の方が高く感じるわ」

 

《氷上メルル》

「本当なんです……信じてください……」

 

《おじさん》

「紫藤さん、宝生さん、君たちはさっきのゴクチョーさんのセリフを覚えているかい?」

 

2人は昂った感情を一度おさえて首を傾げた。

 

《おじさん》

「“4月になれば新しい囚人が送られて来ます”これは氷上さんの意思とは別のところで魔女候補がこの牢屋敷に送られてきていることを示唆しているとは考えられないかい?」

 

《おじさん》

「ではどうやって魔女候補を特定するのか。おじさんは詳しくは知らないから適当なことを言っちゃうけど、たとえば4月に行われる学校の“身体測定”で魔女因子を調査し、魔女になる恐れのある子を牢屋敷に連れてくるなんてことが考えられる」

 

《黒部ナノカ》

「…………!」

 

《おじさん》

「身体測定でないとしても、なんかしらの検査があって君たちはこの牢屋敷に連れてこられてしまったことは明らかだろう。そうなると、それはもう氷上さんひとりで行える範疇を超えている。そうは思わないかい?」

 

《蓮見レイア》

「確かに……流石はおじさんだ!」

 

《橘シェリー》

「そうかもしれませんね。メルルさんがものすっごい権力者、とかでもない限り難しい気がします」

 

《おじさん》

「蓮見さんと橘さんが理性的で助かったよ」

 

《おじさん》

「個人的には、魔法の使える少女そのものが危険な存在であり抹消の対象だった──つまり君たちは元々殺される立場にあったが、氷上さんが一時的に買い取って大魔女探しをしているという説の方が有力なのではないかと思う」

 

《遠野ハンナ》

「魔女せどらーですわ……」

 

《二階堂ヒロ》

「なるほど。皮肉なことに、黒幕であるメルルのおかげで私たちの命が伸ばされた……ということか」

 

《おじさん》

「そういうこと。実際、君たちの中にはかなり危険な魔法を持っている子もいるよね。たとえば橘さんの【怪力】はシンプルに人を殺められそうだし、紫藤さんの【発火】も簡単に火災を引き起こせる」

 

《おじさん》

「放火は殺人に次ぐ罪と考えられている。現住建造物等放火罪は……確か死刑または無期懲役もしくは5年以上の懲役だったかな。場合によっては殺人よりも刑量が重くなることも十分考えられる」

 

私の言葉に、橘さんと紫藤さんが表情を曇らせる。例え話とはいえ、名指しして危険人物だと言うのは配慮に欠けていたか。

 

《おじさん》

「もちろん君たちはそんなことをしないとおじさんは信じているけど、その可能性があるだけで排除の対象になってもおかしくない。とにかく、ここから出るためには皆で協力するのが一番だとおじさんは思うよ」

 

少女たちの顔を見ると、納得がいってはいないがどうしたらいいのか迷っている様子だった。

いきなり黒幕だなんて話をされても困るのはしょうがない。氷上さんはもう少し段階というものを踏んだほうが良かったのではないだろうか。

しばらくの無言が続いたのち、ひとりの少女が手を前に出す。

 

《桜羽エマ》

「ぼ、ボクはおじさんの意見に賛成だよ。みんなで力を合わせて大魔女を見つける……そうすればボクたちはこの牢屋敷から出れるんだから!」

 

《二階堂ヒロ》

「私もエマと同意見だ。もし仮に大きな権力が私たちの存在を忌み嫌っているのであれば、ここを脱出したところで生かされる保証はない。正攻法で切り抜ける方が正しい」

 

彼女たちの言葉を皮切りに、少女たちに流れる空気が変わる。

 

この牢屋敷に来てから、少女たちの中心にいたのはきっと彼女たちだったのだろう。

場違いなおじさんとでは説得力が違かった。

 

《遠野ハンナ》

「エマさんがそういうのでしたら、わたくしも協力してやりますわ〜!」

 

《橘シェリー》

「私ももちろん賛成です! 明日からの生活はなんだか楽しくなりそうですね!」

 

少女たちの表情が明るくなる中、黒部さんが無言で裁判所を後にする。少し心配だ。

 

夏目さんの魔女化などのアクシデントは起きたが、どうにか死人が出ることなくおじさん殺人事件は幕を閉じるのだった。

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