おじさんが魔女裁判に連れてこられてしまったときの話   作:長雪 ぺちか

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氷上メルルとの話③

 

[図書室]

 

いつものように本を読み漁る。

解読にかかる時間は以前より格段に短くなってはいるが、やはり書籍の質が問題になってきていた。

魔女が生きていた当時の社会状況などの記述は確かにためになる部分はあるが、大魔女の降臨方法に直接つながるものではない。

図書室は見た目以上に書物の量があり、全て調べようとすればそれこそ何十年とかかってしまう可能性すらあった。

 

《おじさん》

「そういえば、黒部さんの魔法があれば少しは効率がよくなるかもしれない。今度会った時にお願いしてみようか」

 

とりあえず手当たり次第に本を読んでいると、図書室の扉が開く音がした。

そろそろ時間だったか。

 

《二階堂ヒロ》

「おじさん、私に何か用だろうか?」

 

《おじさん》

「こんにちは、二階堂さん。わざわざ来てくれてありがとうね」

 

《二階堂ヒロ》

「構わない。いまだにおじさんのことを警戒している少女は多い。図書室で話をするのは合理的だ」

 

カレールーのことで夏目さんを叱った後、彼女に伝言を頼み二階堂さんを呼んでもらった。

彼女は定刻に数分も違わず私の元を訪れた。しっかりとしていて律儀な子だと思う。

 

二階堂さんは私の対面の椅子に腰掛ける。

 

《おじさん》

「あはは……やっぱり警戒はされちゃうよね。それはさておき二階堂さん。今日君を呼んだのはお願いがあるからなんだ」

 

《二階堂ヒロ》

「おじさんから改まって、となると大魔女に関することだろうか?」

 

《おじさん》

「その通り。察しが良くて助かるよ」

 

《おじさん》

「現在、城ケ崎さん、夏目さんが魔女化していて……それとついさっき黒部さんが魔女化した」

 

《二階堂ヒロ》

「っ!? ナノカも魔女化したのか。いつの間に……いや、そもそも何故」

 

《おじさん》

「それは……おじさんにもよく分からないんだ。勝手に納得して勝手に魔女化してしまったというか……」

 

《二階堂ヒロ》

「私もナノカについては詳しくはない。全く、謎が多い子だ。それで、彼女たちの魔女化がどうしたのだろうか?」

 

《おじさん》

「単刀直入に言うね。二階堂さん、さっきの3人と氷上さんを除いた、残り8人の少女の魔女化について協力してほしいんだ」

 

《二階堂ヒロ》

「なるほど」

 

二階堂さんは随分と冷静な様子でそう返した。少しは驚いたりするものだと思っていたから、肩透かしをくらった気分だ。

 

《二階堂ヒロ》

「つまり、“準備が整った”と言うことだろうか?」

 

《おじさん》

「準備というと?」

 

二階堂さんはポケットから万年筆を取り出す。

私は普段使っているメモ用紙を彼女に渡した。

 

12人の棒人間を彼女は描いた。

 

《二階堂ヒロ》

「おじさんが調べた大魔女の降臨方法では13人の魔女が必要となる。しかし現状、12人の少女しか牢屋敷にいないことから儀式が行えない」

 

《二階堂ヒロ》

「おじさんが全員の魔女化に関する話を持ち出したということは、この13人目の少女の目処がたったのだろう?その意味で、準備が整ったと言った」

 

《おじさん》

「あはは……二階堂さんは本当にすごいね。まさにその通りだよ」

 

想像以上に二階堂さんの勘が鋭い。おじさんが牢屋敷にいなくても、きっと二階堂さんが全ての謎を解いて少女たちを解放していた可能性が高い。

こうなるといよいよおじさんはお荷物だ。

 

《おじさん》

「もちろん、まだ確実ではない。だが、13人目が確保できる可能性が見えてきた。だから、二階堂さんには少女たちのトラウマについて探って、いつでも魔女化できる状態にしておいてほしいんだ」

 

《二階堂ヒロ》

「理解した。だが、その作業は私にできるものなのだろうか? できる限りのことをすると約束はする。しかし、私はおじさんのように少女のトラウマを克服させるところまでできるか分からない」

 

《おじさん》

「いいや、これは二階堂さんにしかできない仕事だよ。二階堂さんはここに来たとき言ったよね。“おじさんのことを警戒している少女は多い”って」

 

《おじさん》

「本来トラウマというのは本当に信用できる人間に打ち明けるものなんだよ。だから、心から信頼できる友人を作ることは非常に大切なことだし、カウンセラーなんて仕事もある」

 

《二階堂ヒロ》

「カウンセラーというのは話を聴き、相手の心の問題を解決する職業だと記憶している。それはおじさんでは務まらないのか?」

 

《おじさん》

「これまで城ケ崎さん、夏目さんに行ってきたことは一見カウンセリングらしい仕事のように見えると思う。でも、実際には違うんだよ」

 

《おじさん》

「おじさんは彼女たちのトラウマを、彼女たちの口から相談されたわけじゃない。突発的な事故によってトラウマが明らかになり、それを場当たり的に解決したにすぎない」

 

《二階堂ヒロ》

「つまり、おじさんでは少女たちのトラウマを露出させるそのきっかけが作れない……ということか」

 

《おじさん》

「その通り。ちなみにカウンセラーは公認心理司法に基付き守秘義務があり、それが信用になっているね。残念なことにおじさんには口約束くらいしかできないんだ。口約束は元々信用のある相手にしか通用しないよね」

 

《二階堂ヒロ》

「合点がいった。おじさんには申し訳ないが、確かにこれは私が適任の仕事だろう」

 

得意げに二階堂さんは鼻を鳴らす。

他の少女たちの魔女化は二階堂さんに任せておけば大丈夫だろう。

 

《おじさん》

「そうだ、おじさんが言うまでもないと思うけど、トラウマ探しの際には桜羽さんと協力した方がいい。側から見ても、二階堂さんと桜羽さんが少女たちの中心にいるように見えたから」

 

《二階堂ヒロ》

「それはいい大義名分だ。エマと初めての共同作業と行かせてもらうとしよう」

 

《おじさん》

「初めての共同作業……? まあ、仲良くすることはいいことだね」

 

そうして、私は二階堂さんから万年筆を借りる。12人の少女のうち、4人に三角のマークをつけ、私の分と13人目の棒人間を追加した。

 

《おじさん》

「話をまとめよう。ここからの作戦は言うならば、二階堂さんがオフェンス、おじさんがディフェンスのようなものだと思ってほしい」

 

《おじさん》

「二階堂さんが積極的に少女のトラウマ──つまり魔女化の手がかりを探る。もし、その過程で完全な魔女化をしてしまった場合、おじさんも協力して半魔女化まで押し留める」

 

《おじさん》

「その間、おじさんは13人目の回収を試みる。そうして、13人目が用意でき、少女たち全員の魔女化の目処がたったとき──」

 

《二階堂ヒロ》

「それが……大魔女を降臨させる儀式を行うとき……ということか」

 

《おじさん》

「ああ。二階堂さん、全員で生きて帰ろう」

 

二階堂さんは手を差し伸べる。私はその手を硬く握った。

細く柔らかな手。しかし、その手は何よりも心強く感じた。

 

二階堂さんは席を立つ。数歩進んだところで、少女は振り返った。

 

《二階堂ヒロ》

「そういえばおじさん。作戦についてひとつ訂正がある」

 

《おじさん》

「ん? どこか変なところがあったかな?」

 

《二階堂ヒロ》

「おじさんはこちらに気にせず13人目のことに集中してほしい。少女たちの魔女化に関して、おじさんの手を煩わせることはないだろう」

 

《二階堂ヒロ》

「伝え忘れていたな。私の魔法は──【死に戻り】。例え少女が魔女化してしまっても、私はその未来を変えられる」

 

《おじさん》

「あはは……それは心強すぎる魔法だ。その魔法で、正しい道を選び取ってほしい」

 

《二階堂ヒロ》

「承知した。それでは失礼する」

 

そうして二階堂さんは図書室を後にする。

まさか、未来を変えることのできる魔法が存在するとは。

しかしながら、そこまで強力な魔法が何度使用できるかは分からない。

なるべく二階堂さんの負担が少なくなるように、私も自分のすべきことを迅速に行うとしよう。

 

《おじさん》

「あっ、万年筆忘れていってる」

 

少し隙があるのも彼女の魅力だろうか。

彼女の頑張りに報いるためにも、私は再び書物へと視線を落とすのだった。

 

 

*

 

 

[医務室]

 

書物と向き合う時間が終わり、就寝時間になった。

シャワーを済ませ、支給された寝巻きに身を包む。

ここ数日大変な日々を送ったこともあって、寝巻きを来た瞬間に眠気がドッと襲ってきた。

さて寝ようとベッドに横になったところで、医務室の扉が開かれた。

 

《氷上メルル》

「おじ様、まだ起きていますか?」

 

《おじさん》

「ああ、氷上さん。今から寝ようとしていたところだよ。今日も一緒に寝るのかい?」

 

《氷上メルル》

「…………その件について、お話があります……」

 

氷上さんは何やら真剣な様子だ。それに少し……怒っている?

 

怒られを察知し、私は身体を起こしてベッドの上に正座した。

 

《氷上メルル》

「おじ様……私のこと騙していましたね……一緒に寝るだけでは赤ちゃんができないって……皆さんに教えてもらいました」

 

《おじさん》

「ええ!? な、何のことかな!?」

 

《氷上メルル》

「赤ちゃんを作るには、“せいえき”が必要なんですよね? どうして嘘をついたのでしょう……私、悲しいです……」

 

《おじさん》

「そ、それは……」

 

ま、まずい。いずれバレてしまうとは思っていたが想像以上に早い。まだ一週間くらいしか経っていないのに!

そういえば、おじさんの殺人事件が起きた際に、私の遺体は精液まみれになっていた。あのときか……あのときに氷上さんは知ってしまったのか。

 

知られてしまったなら仕方がない。正直に話すしかないか。

 

《おじさん》

「……ごめんね、氷上さん。おじさんは君に嘘をついていた。確かに一緒に寝るだけでは赤ちゃんはできない。タイミング良く性行為というものを行わなければできないんだ」

 

《氷上メルル》

「“せいこうい”……?」

 

氷上さんは首を傾げる。

あまり声を大きくして話すのは憚られるので、私は彼女の耳元で詳細について話した──

 

◇

 

《氷上メルル》

「それは……すごくいやらしい……気がします。キスよりすごいと言いますか……」

 

《おじさん》

「本当にごめんね。本当は氷上さんにこういう話をするつもりはなかったんだ。おじさんはどうにか君を騙して、一緒に寝るだけで済まそうとしていた」

 

《氷上メルル》

「そういうことだったんですね……」

 

《氷上メルル》

「嘘を吐かれたのは悲しいです。でも……私、嬉しくもありますっ。おじ様が私のことを本当に心配してくださっていたって分かりました……から」

 

《おじさん》

「氷上さん……」

 

氷上さんは瞳にたまった小さな涙粒を拭って微笑みかける。

仕方ないとはこんな純粋な子を騙してしまったことに心が痛んだ。

 

《氷上メルル》

「やっぱり、私の大魔女様復活計画はダメだったのでしょうか……」

 

《おじさん》

「いや、そうじゃないよ。氷上さんの作戦は正しかった。13人の魔女が必要なのだから、人数を確実に増やせる氷上さんの案は間違っていない」

 

《おじさん》

「でもね、氷上さん。人間の決めたルールでは、氷上さんくらいの年齢の子とおじさんが性行為をするのは禁止されているんだ。夏目さんのときの裁判のときにも話題に出したと思うけど、不同意性交等罪というものだね」

 

《おじさん》

「その法律によって、おじさんが16歳未満の少女と性交するのは同意の有無によらず犯罪になる。だから、本当にごめんね。氷上さんの計画は実行不可能なんだ」

 

《氷上メルル》

「……? それなら何も問題ないのではありませんか?」

 

氷上さんは私の隣に腰掛けると、手を重ねてきた。

 

《おじさん》

「えっ、氷上さんそれは……」

 

《氷上メルル》

「私、おじ様よりずっと歳上ですっ。もう何百歳にもなるんですよ?」

 

《おじさん》

「えっ、えええ!!!!? そんなに生きてるの!?」

 

《氷上メルル》

「えへへ……私のことを少女扱いしてくれるのはすごく嬉しいです……最近だとゴクチョーさんにはおばあちゃん扱いされたりしていたので……」

 

《おじさん》

「えええ……そんなことされてたのかい」

 

ゴクチョーさん、上司に向かってその口ぶりは命知らずすぎる……

 

《氷上メルル》

「ですからおじ様っ! その……私とえっちしてくださいっ! 少し怖いですけど……おじ様になら……されても良いですっ!」

 

《おじさん》

「うっ……」

 

氷上さんはそういうと私の胸に飛び込んで、押し倒してくる。

思ったより彼女の力が強く抵抗できなかった。

 

私を縛っていた法律という鎖が解き放たれる。

まずい……このままでは本当に一線を超えてしまう。

いや、氷上さんが100歳を超えているのであれば別に一線を超えたところで何も問題ではないのだけど……見た目は明らかに15歳かそこらにしか見えないし……犯罪っぽさは拭えないのだ。

 

千切れそうな理性をどうにか繋ぎ止め、彼女の身体を引き剥がした。

 

《おじさん》

「氷上さん、ちょっと待って!」

 

《氷上メルル》

「どうしたんですか?」

 

《おじさん》

「氷上さんはひとつ重要なことが抜け落ちている!」

 

《氷上メルル》

「…………?」

 

《おじさん》

「性行為はね、赤ちゃんを作るためという側面ももちろんある。だけど、人間にとってそれは“愛を確かめる”ための行為でもあるんだ」

 

《おじさん》

「だから氷上さん、性行為というのはね、本当に好きな人としかしてはいけないんだよ」

 

《氷上メルル》

「私……おじ様のこと好きですよ?」

 

《おじさん》

「でも一番ではない、そうだよね?」

 

《氷上メルル》

「はいっ、もちろんです! 一番は大魔女様ですから!」

 

《おじさん》

「だったら、初めての行為は大魔女様としないとダメだよ。女の子にとって初めては本当に特別なものなんだ。そんな特別なものを、おじさんが奪うわけにはいかないよ」

 

《氷上メルル》

「そう……だったんですね」

 

氷上さんの腕から力が抜けていく。

身体を起こすと、私たちは再びベッドに腰掛ける形になる。

 

しばらく悩んだ様子をみせた後、氷上さんは私の手を両手でギュッと包み込んだ。

 

《氷上メルル》

「わかりましたっ! 私……大魔女様とえっちしますっ! 大魔女様に会って……いっぱいいっぱい愛を確かめますっ!」

 

《おじさん》

「そ、その意気だよ氷上さん! 絶対に大魔女様を降臨させよう!」

 

そして私たちは硬く手を握り合い決意を露わにする。何とか最悪の事態は回避できたようだ。

 

???

『……よくできましたね』

 

《おじさん》

「ん? 氷上さん何か言った?」

 

《氷上メルル》

「何も言っていませんよ? おじ様……お疲れでしょうか?」

 

《おじさん》

「確かに昨日は夏目さんとの戦いもあったし、疲れが溜まっているのかもしれないね」

 

13人目の確保方法について、氷上さんに相談したいことがあったが明日にしよう。

今話したところでどうこうできる内容じゃない。

 

《おじさん》

「それじゃあ氷上さん、おじさんはもう寝るね。おやすみなさい」

 

《氷上メルル》

「はいっ、おやすみなさい。では、私もベッドに入りますね」

 

氷上さんはそういうと、私の布団に潜り込む。

 

《おじさん》

「え?」

 

《氷上メルル》

「……? 何かおかしいでしょうか……?」

 

《おじさん》

「例の計画はやめたから、もうおじさんと一緒に寝る必要はないんだよ」

 

《氷上メルル》

「あっ……そうでしたね。えへへ……私いつもの癖で……」

 

《氷上メルル》

「でも……その……赤ちゃんはできなくても、一緒に寝ても良いですか?」

 

《おじさん》

「それは……ダメなんじゃないかな……」

 

《氷上メルル》

「おじ様と一緒に寝ていると、なんだか大魔女様のことを思い出すんです。大魔女様に膝枕してもらったときのこと……」

 

《氷上メルル》

「とても暖かくて……ポカポカした気持ちになれました。きっと……私、人恋しいんだと思います。大魔女様がいなくなってから……ずっとひとりだったので」

 

氷上さんの瞳が湿度を帯びる。

そうか、彼女はこれまで私が生きている時間以上に孤独な時間を過ごしてきたのか。

それを耐え抜くのは並の精神力じゃない。

 

《おじさん》

「氷上さん……わかったよ」

 

《氷上メルル》

「ありがとうございますっ……おじ様は優しいですね」

 

氷上さんは私の胸に寄りかかると、すぐに寝息を立て始めた。

この可愛らしい表情を見ていると、彼女が本当に恐ろしい魔女であるのかと疑わしくなる。ただの人間の少女の様だ。

 

???

『判決は──死刑』

 

再び、頭に言葉がよぎる。

どうやら自分が思う以上に疲れが溜まっている様だ。

幻聴まで聞こえてきた。

 

???

『判決は──死刑』

 

《おじさん》

「あはは……おじさんの中の遵法精神が語りかけているのかな」

 

???

『判決は──死刑』

 

そうして私は羊を数えるように求刑の回数を数えて眠りにつくのだった。

 




おじさん→ミリアちゃんの呼び方って公式的に明らかにされていましたっけ?知っている方いたら教えてもらえると嬉しいです……!
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