おじさんが魔女裁判に連れてこられてしまったときの話   作:長雪 ぺちか

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氷上メルルとの話④

[医務室]

 

朝の日差しで目が覚める。

大きく伸びをして身体を起こすと、華やかな香りが鼻を撫でた。

 

《氷上メルル》

「おはようございます、おじ様っ。紅茶はいかがですか?」

 

《おじさん》

「氷上さんおはよう。紅茶いただくよ。ありがとうね」

 

氷上さんは普段ハーブティーを入れてくれることが多かった。紅茶とは珍しい。

芳醇な香りに眠気が一気に吹き飛んだ。

 

《おじさん》

「うん。すごく美味しいね。これも氷上さんが作っているのかい?」

 

《氷上メルル》

「これは支給品です。えへへ……これも自作していると思いましたか?」

 

《おじさん》

「ああ、そうだったんだ。そういえば昨日倉庫に行ったけど色々と物資が揃っていたね」

 

《氷上メルル》

「もう私が黒幕だってバレてしまいましたから……出し惜しみする必要は無くなってしまいました」

 

そういえば、氷上さんはあえて不味い料理を出すことでストレスをかけて魔女化を進めていたと言っていたっけ。

今は逆にストレスを与えないで魔女化を遅らせ、全員の魔女化タイミングを合わせる算段になっている。カレールー然り、ここから先の生活は一気に豪華になりそうだ。

 

頭がクリアになったところで、昨日伝え忘れていたことを思い出す。

 

《おじさん》

「そうだ氷上さん、ひとつ思いついたことがあったんだ」

 

《氷上メルル》

「思いついたこと……? もしかして、13人目についてですかっ!?」

 

《おじさん》

「その通りだよ。先日の夏目さんの裁判のときの氷上さんの魔法……そして昨日色々あって思いついたんだ」

 

氷上さんは首を傾げる。

 

《おじさん》

「確認なんだけど、氷上さんの魔法は“バラバラ死体も機械ですら直すことができる”──これは間違いないんだよね?」

 

《氷上メルル》

「はいっ。おじ様には嘘はつきません!」

 

そう言って、氷上さんは紅茶のカップを地面に落とし割る。

彼女が手をかざすと、カップはみるみるうちに元の状態に戻った。

 

《おじさん》

「あはは……話で聞くのと実際に見るのでは迫力が違うね。まるで時間を巻き戻すかのような魔法だ」

 

《氷上メルル》

「えへへ……それで、私の魔法がどうしたんですか?」

 

《おじさん》

「ああ。氷上さんの魔法はすごく強力だ。人の傷どころか、無機物すら修復できる」

 

《おじさん》

「もしかすると、君の魔法は“心の傷”まで直すことができたりするんじゃないかな?」

 

《氷上メルル》

「“心の傷”……試したことはありません。でも、それが13人目となんの関係があるのでしょう?」

 

《おじさん》

「以前、城ケ崎さんが一旦魔女化したにも関わらずその姿を元に戻せた理屈について話をしたね?」

 

《氷上メルル》

「はい。確か、トラウマを克服することで魔女化を食い止めたと仰っていたような……?」

 

《おじさん》

「その通り。魔女化は魔女因子が少女の精神を消耗することによって起きる現象だ。だから、魔法を行使したり、トラウマが刺激されたりすることで精神が擦り減って魔女化が起きる」

 

《おじさん》

「トラウマの克服というのは、ざっくりと言ってしまえば“精神を回復させる行為”だ。おじさんはそれを言葉で行なっていたわけだが……もしかすると、氷上さんは魔法でそれを行えるんじゃないかと、おじさんは思っているんだ」

 

《氷上メルル》

「……っ!?」

 

氷上さんは大きく目を見開く。まさか何百年探していた答えを氷上さん自身が持っていたとなればその驚きもひとしおだろう。

 

《氷上メルル》

「私が……魔女化を食い止められる……」

 

《おじさん》

「もっと言えば、おじさんの言葉は対処療法的にしか使えない。だけど、氷上さんの【治療】の魔法は状況を選ばないはずだ。これが何を意味するかわかるかい?」

 

《氷上メルル》

「それは……みなさんの魔女化を予防できるということでしょうか?」

 

《おじさん》

「もちろんそれもある。でもそれ以上に、積極的な回復が可能となると……」

 

《おじさん》

「氷上さんの魔法なら“なれはて”を“魔女”に戻せるんじゃないかな?」

 

昨日黒部さんと話をしてこの屋敷の看守が元魔女の“なれはて”であることを知った。彼女を人間に戻すことができれば、13人目が確保できる。

 

《おじさん》

「“なれはて”とは魔女因子に精神を消耗された先にある存在のはず。氷上さんの魔法で精神を直接回復させることができれば……きっと“魔女”に戻せる」

 

《氷上メルル》

「なるほど……おじ様の作戦は理解しました。ですが……多分それは無理かと思います」

 

氷上さんは少し諦めた様子でそう言った。

 

《おじさん》

「えっ、そうなのかい?」

 

《氷上メルル》

「では説明いたしますね。魔女化と魔女因子について」

 

 

【審問開始】

《氷上メルル》

「魔女化とは少女たちの中に眠る魔女因子が覚醒することです」

 

《氷上メルル》

「魔女因子が覚醒するには少女たちの精神が魔女化する必要があります……おじ様の考えるとおり、これは簡単に言えば精神の消耗です」

 

《氷上メルル》

「少女たちは魔女化が進むほどに段々と魔法が強力になり完全な魔女へと近付きます……」

 

《氷上メルル》

「そして、その行き着く先が……“なれはて”です」

 

《氷上メルル》

「“なれはて”とは魔女因子が魂を完全に喰らい尽くした抜け殻のようなもの」

 

《氷上メルル》

「私の魔法は強力ですが…… 死んだ人を生き返らせることはできません。それはなれはて相手でも同じなんです」

 

《氷上メルル》

「ですからすみません……おじ様の作戦は上手くいかないと思います……」

【審問終了】

 

 

《おじさん》

「流石の氷上さんでも死んだ人を生き返らせることはできないか。50を100にすることはできるが、0を1にはできないということだろう」

 

《おじさん》

「氷上さんの言うとおりなら“なれはて”とは後者である0の存在。何か、解決の糸口はないだろうか」

 

 

【審問開始】

《氷上メルル》

「魔女化とは少女たちの中に眠る魔女因子が覚醒することです」

 

《氷上メルル》

「魔女因子が覚醒するには少女たちの精神が魔女化する必要があります……おじ様の考えるとおり、これは簡単に言えば精神の消耗です」

 

《氷上メルル》

「少女たちは魔女化が進むほどに段々と魔法が強力になり完全な魔女へと近付きます……」

 

《氷上メルル》

「そして、その行き着く先が……“なれはて”です」

 

《氷上メルル》

「“なれはて”とは魔女因子が魂を完全に喰らい尽くした抜け殻のようなもの」

 

 

<ガラスの割れる音・おじさんの論破スチル>

 

《おじさん》

【反論】「魂を完全に喰らい尽くした……それは本当かな?」

 

《氷上メルル》

「えっ? ほ、本当ですよ? 屋敷の看守は“なれはて”ですが……彼女たちに魂はありません。ですから【洗脳】して、看守として働かせることができているんです」

 

《おじさん》

「一般的にはそうなんだと思う。だけど、おじさんはひとりだけ例外を知っているんだ」

 

《おじさん》

「それは現在のメインで屋敷の見回りを行なっている鎌を持った看守── 黒部さんのお姉さんの“なれはて” だよ」

 

《氷上メルル》

「そんなのありえません! 彼女は非常に従順にお仕事をしてくれていますっ。心が残っていたら……反逆を起こされているはずです!」

 

《おじさん》

「なぜ反逆を起こさないのかはわからない。だけど、黒部さんに確認したところ、看守さんは黒部さんに敵対行動を取らないし、話を聞いてもらえたりもするみたいだよ」

 

《氷上メルル》

「…………っ! それは本当なのですか……?」

 

私はゆっくりと頷いた。あまりに予想外のことだったのだろう。疑念や不安の混じった表情で、少女は数秒静止した。

 

《おじさん》

「黒部さんのお姉さんがなれはてになったのはいつ頃なのかな?」

 

《氷上メルル》

「ええっと……確か、2年前……だった気がします……すみません。記憶が曖昧で……」

 

《おじさん》

「氷上さんは随分長く生きているんだろう? だったら無理もないよ。氷上さんにとっての一年と、おじさんたちの一年ではかなりのズレがあるはずだから」

 

《おじさん》

「もしかすると比較的最近“なれはて”になったこともあって、心が残っていたということかもしれないね」

 

《氷上メルル》

「なるほど……それは納得がいくかもしれません」

 

《おじさん》

「とにかく、完全に精神が磨耗し切っていなければ、氷上さんの魔法でなんとかできる余地があるんじゃないかな」

 

《氷上メルル》

「……そう……かもしれません」

 

肯定はするものの、氷上さんは少し不安気な様子だった。

 

《氷上メルル》

「ですがおじ様……この作戦にはひとつ大きな穴があります……」

 

《氷上メルル》

「先ほどの説明の続きをさせてくださいっ!」

 

 

【審問開始】

《氷上メルル》

「魔女化の仕組みについては先ほど話しました。ここからは“なれはて”になったあとの話ですっ」

 

《氷上メルル》

「魔女因子は少女の魂を喰らい尽くした後、一部の因子を残してその肉体を離れます」

 

《氷上メルル》

「そうして肉体を離れた魔女因子は別の少女の元へと転移して、世界中の人に感染するんです」

 

《氷上メルル》

「おじ様の作戦は私が看守さんナノカさんのお姉さんの心を治療して“なれはて”から戻すものだと思います……でも、治療した看守さんにはもう魔女因子が残っていませんっ!」

 

《氷上メルル》

「ですから、たとえ“なれはて”から戻せても……看守さんはただの人間に戻ってしまうはずです。魔女に戻ってくれなければ…… 治療する意味がありませんっ!」

【審問終了】

 

 

《おじさん》

「人間に戻れるなら治療する意味がないわけではないだろうに……氷上さんも必死だから倫理観が怪しくなりつつある」

 

《おじさん》

「しかしながらこれは困った。氷上さんの言うとおり、なれはてた後に魔女因子を失うとなると、魔女に戻すことができないのかもしれない」

 

《おじさん》

「何かなかっただろうか。これを解決する糸口は……!」

 

 

【審問開始】

《氷上メルル》

「魔女化の仕組みについては先ほど話しました。ここからは“なれはて”になったあとの話ですっ」

 

《氷上メルル》

「魔女因子は少女の魂を喰らい尽くした後、一部の因子を残してその肉体を離れます」

 

 

<反論>

 

《おじさん》

【反論】「一部の因子を残してと言ったね。ということは少なからず黒部さんのお姉さんは魔女因子を持っていることになる。その因子を元に魔女に戻れるんじゃないかな?」

 

《氷上メルル》

「残念ですが……不可能かと思います……。そんな少量の因子で魔女化ができるとは思えません」

 

《氷上メルル》

「それに…… もし魔女になれたとしてもそれはものすごく弱い魔女になってしまうはず。それは……ただの魔法の使える少女と大差がないのかも……」

 

《おじさん》

「なるほど。つまり、力の弱い“魔女もどき”になってしまうということだね。それでは、儀式を行えない……と」

 

《氷上メルル》

「は、はい……あくまで私の想像……ですけど…………すみません」

 

《おじさん》

「氷上さんが謝ることはないよ。知っていることを教えてくれてありがとうね」

 

 

《おじさん》

「氷上さんは自信がなさそうだけど彼女の予想は正しいと思う。儀式には“魔女”が必要だが、ただ魔法が使える少女であればなんでもいいわけではないはず。仮にものすごく魔力の弱い魔女でもいいのであれば、魔女化などさせずとも今すぐにでも儀式が行えるはずだ」

 

《おじさん》

「おそらくは、“魔女”という種族がその地位を復興するに足る力を持ったときに“大魔女”を顕現させる──それが儀式の本質なのだろう」

 

《おじさん》

「このままでは正解に辿り着けそうにない。ときには疑問を投げかけてみるのもいいだろう」

 

 

【審問開始】

《氷上メルル》

「魔女化の仕組みについては先ほど話しました。ここからは“なれはて”になったあとの話ですっ」

 

《氷上メルル》

「魔女因子は少女の魂を喰らい尽くした後、一部の因子を残してその肉体を離れます」

 

《氷上メルル》

「そうして肉体を離れた魔女因子は別の少女の元へと転移して、世界中の人に感染するんです」

 

 

<疑問>

 

《おじさん》

【疑問】「どうして世界中の人に感染させる必要があるんだい? おじさんには大魔女様の目的がわからないよ」

 

《氷上メルル》

「それは……確かに何故でしょう。大魔女様はしばらく人間界に潜むと言って私の元を去っていきました。そうして人間に魔女因子をばら撒くと……」

 

《氷上メルル》

「そうですっ! きっと魔女を増やすために魔女因子を感染させる必要があったんだと思いますっ! そうに違いありません!」

 

《おじさん》

「なるほど。魔女を増やすという目的があるのであれば非常に合理的だ。儀式の条件とも整合性が取れているように思える」

 

《おじさん》

「ありがとう氷上さん。おかげで状況が掴めてきたよ」

 

《氷上メルル》

「えへへ……よかったです」

 

 

《おじさん》

「魔女因子を世界に広める理由が“魔女を増やすため”ということなら勝機がある。大魔女が愚かでなければ……きっと作戦はうまくいくはずだ」

 

《おじさん》

「次の言葉で氷上さんを説得してみせる!」

 

 

【審問開始】

《氷上メルル》

「魔女化の仕組みについては先ほど話しました。ここからは“なれはて”になったあとの話ですっ」

 

《氷上メルル》

「魔女因子は少女の魂を喰らい尽くした後、一部の因子を残してその肉体を離れます」

 

《氷上メルル》

「そうして肉体を離れた魔女因子は別の少女の元へと転移して、世界中の人に感染するんです」

 

 

<ガラスの割れる音・おじさんの論破スチル>

 

《おじさん》

【反論】「別の少女に転移するなら、黒部さんのお姉さんの元に戻ってくる可能性もないかな?」

 

《氷上メルル》

「戻ってくる……?」

 

《おじさん》

「魔女因子が少女たちに感染していくのは“魔女を増やすため”だ。氷上さんに確認したいんだけど、魔女因子を手にした少女は全てが魔女になるわけではないよね?」

 

《氷上メルル》

「は、はいっ! 魔女因子を手に入れた後、適性があれば魔法が発現しますし……最終的に魔女になれる可能性が出てきます」

 

《おじさん》

「だとするなら、魔女因子は完全なるランダムではなく、魔女になりそうな少女の元へやってくる可能性が高いのではないかな? そうでないと大魔女様は随分と非効率的な仕事をしていることになる」

 

《おじさん》

「大魔女様を信用するなら、“魔女因子は適性のありそうな少女に優先的に感染する”……そう考えるのが妥当な気がするよ」

 

《氷上メルル》

「そうですね……大魔女様はとっても聡明なお方です。きっと、効率的に人類の魔女化をなさるに違いありませんっ!」

 

《おじさん》

「黒部さんのお姉さんの精神を回復させることができたなら……きっと彼女はこの世で最も魔女に近い存在になるはずだ。そんな少女を大魔女様が見過ごすはずがない」

 

《氷上メルル》

「そ、そのとおりだと思いますっ!」

 

氷上さんは私の手を握る。その目には闘志が宿っていた。

 

《氷上メルル》

「わかりました。私……看守さんに魔法を使ってみますっ! 私の魔法が通じれば……きっと13人目の魔女になりますから!」

 

作戦は決まった。そうして私たちは早速看守さんの元へと向かった。

 

 

 

 

[倉庫]

 

当てもなく歩いていると、倉庫の前で看守さんがたたずんでいるのを発見する。

 

相変わらず感情があるようには思えない。私……というより氷上さんを発見すると看守さんはこちらを向いた。

 

《看守》

「………………………………」

 

《氷上メルル》

「お仕事ご苦労様です。看守さん、少しお時間いいですか?」

 

律儀にそう言うと、看守さんはゆっくりとこちらへ近付く。

 

そして看守さんがこちらに着くより前に、倉庫の扉が開いた。

黒部さんはこちらに気がつくと、警戒心を強めて言う。

 

《黒部ナノカ》

「…………氷上メルル。何か用かしら」

 

《氷上メルル》

「ナノカさん。こんなところにいたんですね……ちゃんと牢に戻ってください……」

 

《黒部ナノカ》

「質問に答えなさい。看守に何をしようとしているの」

 

黒部さんは銃を構える。氷上さんにそれは効かないが、敵対行動をとっていることは明らかだった。

一触即発の空気だ。私は黒部さんに駆け寄ると事情を説明した。

 

 

《黒部ナノカ》

「お姉ちゃんを……人間に戻す……?」

 

《おじさん》

「ああ。おじさんの予想が正しければ、氷上さんの魔法でなれはてから元に戻せるかもしれない」

 

《黒部ナノカ》

「……………………わかった」

 

黒部さんは銃を下ろす。私はホッと胸を撫で下ろした。

 

《おじさん》

「それじゃあ氷上さん、よろしく頼むよ」

 

《氷上メルル》

「わ、わかりましたっ……いきます……!」

 

氷上さんは一度大きく深呼吸をする。そして、看守さんに手をかざし魔法を行使した。

 

《看守》

「………………………………」

 

《氷上メルル》

「……どうですか?」

 

《看守》

「………………………………」

 

《おじさん》

「頑張れ氷上さん!君ならきっとできるよ!」

 

《氷上メルル》

「ううううう! 直ってください〜!!!」

 

そうして氷上さんは魔法を行使するほど約1分──結局看守さんが人間に戻ることはなかった。

 

《氷上メルル》

「はあ……はあ…………はあ…………! もうこれ以上は……無理ですぅ……」

 

《黒部ナノカ》

「氷上メルル、まさか手を抜いているなんてことはないでしょうね」

 

《氷上メルル》

「そ、そんなことはありません! 私だって……看守さんが魔女に戻って欲しいって本気で思っているんですっ!」

 

《おじさん》

「氷上さんは嘘を言っていないはずだよ、黒部さん。そもそも彼女にはわざと失敗するメリットがない」

 

《黒部ナノカ》

「………………」

 

《おじさん》

「2人ともごめん。おじさんの早とちりで変に期待をもたせてしまった。別の方法を考えるしかなさそうだ」

 

《氷上メルル》

「お、おじ様は悪くありませんっ……! 私にもっと力があれば……うまくいっていたかもしれませんし……」

 

《おじさん》

「氷上さんの力は十分強力だよ。そもそもこれ以上の力なんて……」

 

私は一旦そこで言葉を切る。

魔女因子を持つ少女たちは、魔女化することで魔法が強力になる。城ケ崎さんも夏目さんも黒部さんもそうだった。

 

《おじさん》

「氷上さん、君は本物の魔女……そうだったね」

 

《氷上メルル》

「え、ええ……そうですが……それがどうしましたか?」

 

《おじさん》

「他の魔女因子を持つ少女は魔女化することで魔法が強力になる。もしかしたら、本物の魔女である氷上さんにも、何か魔法を強くする方法があるんじゃないかな」

 

《氷上メルル》

「ど、どうでしょう…………?」

 

《おじさん》

「本物の魔女は魔女因子によって魔法を行使している少女たちとは別の方法で魔法を使っているはずだ。なぜなら魔女因子は大魔女が作り出して人類にばら撒いたものであり、魔女より後に生まれたものだから」

 

《氷上メルル》

「それは……そのとおり……ですね」

 

《おじさん》

「真の魔女である氷上さんは生まれながらにして魔法が使えていたのかな? それとも身体や精神の成長の伴って魔法が使えるようになった? きっとそこにヒントがあると思うんだ」

 

《氷上メルル》

「そ、それは………………」

 

私が詰め寄ると、氷上さんはジリジリと後退りする。

 

《氷上メルル》

「……………………っ!」

 

そして、彼女は私の胸を突き放す。

 

《氷上メルル》

「分かりません……私には……分かりませんっ!」

 

氷上さんはそう残して早足でその場を去って行ってしまう。

 

今の反応……にわかには信じがたいがもしかすると……

 

《おじさん》

「氷上さん……君は……」

 

── “人間”なんじゃないのか

 

残念なことに、幸運なことに……計画を成功させる確信ができてしまった。

彼女の愛の大きさを知り怖気付きそうになる。しかし……

 

《おじさん》

「……黒部さん、力を貸してほしい。氷上さんを……魔女化させる」

 

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