おじさんが魔女裁判に連れてこられてしまったときの話   作:長雪 ぺちか

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誕生日おめでとうメルルちゃん!何とかギリギリ間に合った!!!!!後で赤字の編集とかします!!!!!!!!!


氷上メルルとの話⑤

[図書室]

 

氷上さんを魔女化させることを決めてから、私は……私たちは図書館に半ば缶詰状態で作業に励んでいた。

目的は……氷上さんのトラウマ探し。

果たしてそんなものがあるのか確証はないが、3人の少女たちは力を貸してくれた。

 

黒部さんの【幻視】の魔法で本を見つけ、私が中身を確認し大体の仕分け。

城ケ崎さんの【液体操作】で本を別の机へ移動させ、夏目さんが最終仕分けをする……といった具合に作業は進んでいく。

 

水の入った清掃用の手袋を操って、城ケ崎さんは器用に本を持ち上げた。

 

《城ケ崎ノア》

「ねーねー、おじさん? この本はこっちでいいかなぁ?」

 

《おじさん》

「うん。そこでお願いするよ。あとこの本もお願い」

 

《夏目アンアン》

「わがはいはもう疲れた。休みたい」

 

《おじさん》

「あはは……そうだね。少し休憩にしようか。黒部さんも相当疲労しているだろうし」

 

《黒部ナノカ》

「…………助かるわ」

 

《おじさん》

「それはおじさんの台詞だよ。一番大変な役回りを任してしまってごめんね」

 

私は少女たちにお茶を出す。

朝淹れたため冷めてしまってはいるが、多めの砂糖が脳に染み渡った。

 

《黒部ナノカ》

「……そういえばクッキーを作って来たの。お口に合えばいいのだけど」

 

《おじさん》

「おお! それはすごくありがたいよ。黒部さん、お菓子作りができるなんてすごいね」

 

《黒部ナノカ》

「ふふっ……リクエストがあったら後で教えて」

 

《城ケ崎ノア》

「ナノカちゃんありがとー! お菓子なんてここに来て初めてだよぉ」

 

《夏目アンアン》

『ほめてつかわす!』

 

《黒部ナノカ》

「貴方たちの分はないわよ」

 

《城ケ崎ノア》

「えー! そんな〜! ナノカちゃんのケチ〜」

 

《夏目アンアン》

『わがはいは断固抗議する!』

 

《黒部ナノカ》

「冗談よ。2人の分もあるわ」

 

《城ケ崎ノア》

「わーい! ナノカちゃん大好きー」

 

《夏目アンアン》

「ナノカ大好きアモーレ!」

 

《おじさん》

「あはは……餌付けされてる……」

 

なんとも微笑ましい少女たちのやり取りを見ながら、私は黒部さんの作ったクッキーを口にする。材料は限られているというのにサクサクふわふわでまるでお店で売っているかの様な出来だった。すごく美味しい。

 

《おじさん》

「黒部さん、やはり大魔女の痕跡を辿るのは難しそうかな?」

 

《黒部ナノカ》

「ええ。あまり古すぎる記憶は辿れないのか、誰かが痕跡を消しているのか、はたまた大魔女にそれを拒む術があるのか……定かではないけれど」

 

《黒部ナノカ》

「とにかく、大魔女以外の情報なら私の魔法で辿れる。今の方法が最も効率的ね」

 

《おじさん》

「そうだね。それにこの方法だと危険な本も分別できる。思わぬ収穫だ」

 

私は一番遠くにある机に積まれた本に目をやる。

 

これまで気が付かなかったのだが、どうやら図書室には過去牢屋敷に送られて来た少女の魔法がかかった危険な本も存在していたらしい。

例えば、本を開くと大きな牙が生えていて私たちを襲って来る……という様なものだ。

本当に肝を冷やした。あのときは夏目さんの【洗脳】が効いたから良かったものの、場合によっては死傷者がでてもおかしくなかった。

 

これまで私はひとりで本を読み漁っていたわけだけど、実はかなり危険な行為だったのかもしれない。

佐伯さんの代わりに牢屋敷に連れてこられたことは不運だったが、ここに来てからの運はどうやら良好のようだ。

 

《夏目アンアン》

『ナノカのクッキー美味しい。毎日作って』

 

《城ケ崎ノア》

「のあもまた食べたいなぁ。お願いナノカちゃん」

 

《黒部ナノカ》

「……考えておくわ」

 

黒部さんはほのかに頬を赤くしてそっぽを向いた。

妹ではあるものの、この牢屋敷ではおじさんを除き最年長。

明らかに小学生にしか見えない2人と並べば、それはもう立派なお姉さんだった。

 

《城ケ崎ノア》

「なんだか今すごく馬鹿にされた気がするんだけど」

 

《夏目アンアン》

『奇遇だ。わがはいもだ』

 

《おじさん》

「…………ごめんなさい」

 

魔女化で勘まで鋭くなっているのか!?

2人は首を傾げると、黒部さんのクッキーを口に運ぶのだった。

 

 

*

 

 

[図書室]

 

作業を開始して数日、黒部さんの魔法の力もありこれまでと比べものにならない速度で書物の捜索は進んでいく。

いや、黒部さんだけじゃない。城ケ崎さんと夏目さんの2人がいてくれたことも非常に助けになった。

 

そして、私たちが探していた情報は意外なことに“手紙”と“実験記録”という形で残されていた。

手紙は元々この島にいた魔女たちが書いたものであり、実験記録はおそらく大魔女が書いたとされるものだった。

 

私は手紙と実験記録の内容を翻訳し3人に見せる。

 

少女たちは各々差はあれど、少し悲しそうだったという点では共通した反応を見せていた。

 

《城ケ崎ノア》

「メルルちゃん……可哀想かも」

 

《夏目アンアン》

『わがはいはメルルを責められない』

 

《黒部ナノカ》

「……………………」

 

黒部さんは何も言わない。

 

《おじさん》

「黒部さん。いいんだよ。氷上さんを許さなくても」

 

《黒部ナノカ》

「……………分からないの」

 

《黒部ナノカ》

「氷上メルル……私は彼女が憎い。だけど……」

 

《黒部ナノカ》

「彼女にこれを伝えていいのか、私には分からない」

 

《黒部ナノカ》

「だってこれが正しければ……彼女は…… 彼女の人生は誰にも肯定されない」

 

《おじさん》

「…………黒部さん、君は本当に思いやりのある子だね」

 

《おじさん》

「もしよければ、氷上さんのことを許してあげて欲しい。仲直りして、お話ぐらいはしてあげて欲しいよ」

 

《おじさん》

「たくさん迷って悩んで、それでもやっぱり許せなかったとしても……安心して。氷上さんのことは、おじさんが全部なんとかして見せるから」

 

《黒部ナノカ》

「……ずるいわ。私がそうやって誰かに庇われるのが嫌いだってことおじさんは知っているはずなのに」

 

《黒部ナノカ》

「どうしておじさんはそんなに優しいのよ。大人だから……何とかしなきゃって考えているの?」

 

《おじさん》

「それは……」

 

《城ケ崎ノア》

「“おじさんは正義の味方じゃない”んだよね? えへへ……のあ覚えてるよ」

 

《夏目アンアン》

「わがはいも知っている。おじさんが困った人に手を差し伸べてくれることを」

 

《おじさん》

「あはは……困っちゃうな……」

 

《おじさん》

「その通りだよ。おじさんは正義の味方じゃない。おじさんに助けを求める人の味方だ。それが悪人だろうと善人だろうと関係ない」

 

《おじさん》

「おじさんは誰かの力になりたいんだ。お節介だなんて気にしない。場違いで……お人好しなおじさんなんだよ」

 

黒部さんはため息をつくと、微かに頬を緩ませた。

 

《黒部ナノカ》

「ごめんなさい。貴方がどんな人間だったのか忘れていたわ。どうして私が貴方を信用したのかも」

 

《黒部ナノカ》

「……お姉ちゃんが戻ってきたら、私は氷上メルルを許すわ。だからお願い、おじさん。私に仲直りをさせてちょうだい」

 

《城ケ崎ノア》

「のあはメルルちゃんのこと恨んでないよ。のあはここに連れてこられたからおじさんにも会えたし、アンアンちゃんやヒロちゃんにも会えた。逆に感謝しないといけないかも」

 

《城ケ崎ノア》

「だからね、メルルちゃんのことも助けてあげてね」

 

《夏目アンアン》

「わがはいもメルルのことは嫌いではない。医務室で何度も優しくしてもらった。だからおじさん……メルルを……」

 

《夏目アンアン》

『助けてやってくれ』

 

《おじさん》

「……もちろんだ。全力を尽くすと約束するよ」

 

《おじさん》

「黒部さん、城ケ崎さん、夏目さん……氷上さんを呼んできてくれ」

 

最後の戦いだ。私は気を引き締め直すと資料の整理を始めた。

 

 

*

 

 

[図書室]

 

人払いを済まして、氷上さんを図書室へと呼び出した。

心臓の音が聞こえるほど静まり返った部屋に、足音が聞こえる。

 

《氷上メルル》

「おじ様……」

 

《おじさん》

「氷上さん。来てくれてありがとう。そこに座って」

 

氷上さんを私と向かいの席に座らせる。

少女の目は若干潤んでおり、表情はどこか儚げだった。

 

《おじさん》

「今日氷上さんを呼んだのは……」

 

《氷上メルル》

「私を魔女化させるため……ですよね?」

 

《おじさん》

「……ああ。知っていたのかい?」

 

《氷上メルル》

「分かっていました。逃げ出したあの日から……こうなることは」

 

《氷上メルル》

「おじ様が私を呼んだということは……私を魔女化するに足る情報が手に入った……ということですよね」

 

《おじさん》

「…………そうだね」

 

氷上さんは一度大きく深呼吸をする。

 

《氷上メルル》

「……おじ様。手を握ってもらっても良いですか?」

 

《おじさん》

「もちろんだよ」

 

彼女のひんやりとした手を握る。それは少し震えていた。

 

《氷上メルル》

「始めてください、おじ様……」

 

 

【審問開始】

《おじさん》

「まずはこれを見てほしい。これはこの島の住人──つまり【原初の魔女】と呼ばれる存在の残した手紙だ」

 

《おじさん》

「この手紙には大きく二つのことが書かれている。大魔女が人間の少女を拾って育てたという話……そして、島の魔女の最後に関する話だ」

 

《おじさん》

「他の書物でも確認が取れた通り、島の魔女は人間たちに捕まったり殺されたりした」

 

《おじさん》

「島の魔女がひとりまたひとりと消されていく中── 最後に残されたのは大魔女と人間の少女だった」

 

《おじさん》

「氷上さんは自分のことを【原初の魔女】と呼んでいたけど、この手紙を信じるなら君は魔女なんかではないことになる」

 

《おじさん》

「氷上さん…… 君はただの人間の少女だ」

【審問終了】

 

 

《おじさん》

「何か今の話に反論があるなら言ってほしい。おじさんが受け止めるよ」

 

《氷上メルル》

「…………………………」

 

《氷上メルル》

「…………………ありません」

 

《おじさん》

「えっ?」

 

《氷上メルル》

「私、覚えていますから。大魔女様に拾っていただいた日のことを」

 

《氷上メルル》

「おじ様の言う通り…… 私は“人間”です」

 

氷上さんの握る手がギュッと強まる。

彼女は自分が人間だということに気付いていた。それでも、口に出すのは抵抗があるんだろう。

 

今の反応で全て分かってしまった。

氷上さんは反論なんてしない。私の言葉を全て受け入れるつもりだ。

 

《おじさん》

「良いんだね、氷上さん」

 

《氷上メルル》

「はい。大丈夫です。その代わりおじ様、最後までちゃんと手を握っていてくださいね。でないと私……」

 

《氷上メルル》

「きっと泣いてしまいますから」

 

氷上さんは涙をこぼしながらそう言う。

こんなに辛い審問は初めてだ。反論する気のない人間を説き伏せるというのは……こんなにも苦しいのか。

 

《おじさん》

「ああ。約束するよ」

 

《おじさん》

「全て終わったら、存分に泣いて良いから。今はおじさんの話を聞いてね」

 

 

【審問開始】

《おじさん》

「次は大魔女様の残した資料だ。氷上さん、君は魔女語が読めないかもしれないけど、筆跡は分かるね」

 

《氷上メルル》

「……はい。これは確かに大魔女様のものです」

 

《おじさん》

「これは簡単に言えば実験記録だ。ここには大魔女様が行った実験の記録が書かれている」

 

《おじさん》

「大魔女様は仲間を皆殺しにされ、人間に対する復讐を誓った。そしてその復讐の方法は…… 【魔女因子】によって人間たちを化け物にすること」

 

《おじさん》

「“なれはて”が一番わかりやすいと思うが、【原初の魔女】はあのような異形ではない。見た目は私たち人間と何ら変わりない、魔法が使えるだけのただの人間だ」

 

《おじさん》

「だから、【原初の魔女】は心臓に杭を打てば死ぬし、火炙りにすれば死ぬ。生き埋めにすれば死ぬ……そうやって、魔女たちは人間に殺されてきた」

 

《おじさん》

「おじさんは勘違いをしていたよ。【魔女因子】は人間を魔女にすることで仲間を増やす目的で作られていたと思っていた。でもこれは逆だ」

 

《おじさん》

「【魔女因子】は人間を化け物にして滅ぼすために作られた……呪いだった」

 

《おじさん》

「最初にこれは実験記録だと言ったね。大魔女はこの【魔女因子】の呪いの効果を試すために、人間の少女を実験体にした。これはその記録なんだ」

 

《氷上メルル》

「……………………」

 

《おじさん》

「つまり氷上さん…… 君はその最初の実験体だったんだよ」

【審問終了】

 

 

《氷上メルル》

「…………反論はありません」

 

《氷上メルル》

「おじ様の想像通りです。私は……生まれながらの魔女ではありません。大魔女様に出会ってから魔法が使えるようになりました」

 

《氷上メルル》

「…………大魔女様は……私で実験をされていたのですね」

 

氷上さんの目から涙が溢れる。

こんな状態の少女に追い討ちをかけるのは心が痛む。

だけど、やらなければならない。それを……氷上さんも望んでいるのだから。

 

《おじさん》

「氷上さん、落ち着いて聞いてほしい」

 

《おじさん》

「実験と言ったことからわかるように、例の記録には魔女因子がどのように働いてどのように魔法が使えるようになったなどということが書かれていた」

 

《氷上メルル》

「…………はい」

 

《おじさん》

「おじさんの確認した限りでは…… 氷上さんに対する愛情のようなものは……見つけられなかった」

 

《氷上メルル》

「………………はい」

 

《おじさん》

「もちろん! これはおじさんの解読が甘いだけかもしれない! 他に重要な資料が残っていたのかもしれない!」

 

《氷上メルル》

「……………………はい」

 

《おじさん》

「大魔女様が恥ずかしがり屋で本当は氷上さんのことを愛していたけどそれを残さなかっただけかもしれない!」

 

《氷上メルル》

「…………………………はい」

 

《おじさん》

「だけど……少なくとも今ある証拠を元に考えるに……」

 

《おじさん》

「大魔女様は…… 氷上さんのことを実験動物としてしか見ていなかった可能性が……高いと言わざるを得ない」

 

《氷上メルル》

「………………ううう……」

 

氷上さんはその場で伏せ嗚咽を漏らす。

流れ落ちる体液が机に広がった。

 

《おじさん》

「ごめん氷上さん。おじさんもこんなこと言いたくない。だけど……」

 

《氷上メルル》

「おじ様……良いんです。これは……必要なことですから……」

 

氷上さんは顔を上げる。

ぐしゃぐしゃになった顔からは黒い涙が溢れており、おでこには3つめの目が現れていた。

 

《氷上メルル》

「酷い絶望です。気を抜いたらすぐにでも深い深い闇の底に落ちてしまいそう──」

 

《氷上メルル》

「だけど不思議ですね。一筋の光があるだけで──前を向ける」

 

氷上さんは一度大きく息を吸い込むとギュッと強く目をつぶる。

ゆっくりと、しかし確実に魔女化は抑えられていった。

 

《おじさん》

「……氷上さん」

 

《氷上メルル》

「はい、おじ様」

 

《おじさん》

「もし君が本当に大魔女様の実験動物だったとしても、大魔女様を愛すると誓うかい?」

 

《氷上メルル》

「……誓います」

 

《おじさん》

「彼女が本当に君のことなんて何とも思っていなくて、君のことを拒絶したとしても、大魔女様を愛すると誓うかい?」

 

《氷上メルル》

「…………誓います!」

 

氷上さんの顔に笑顔が戻る。天使のように微笑むいつもの氷上さんだ。

 

《氷上メルル》

「だって、私は……“人間”でしたから。残念なことに、幸運なことに……“人間”でしたから」

 

《氷上メルル》

「どのように生き、どの様に死ぬか」

 

《氷上メルル》

「明日を決める権利を…… 幸せになる権利を……“人間”は持っている。そうですよね、おじ様」

 

《おじさん》

「……ああ。その通りだよ。そしてその権利は、公共の福祉に反しない限り何者にも侵されない。氷上さんにいつそのことを話したっけ?」

 

《氷上メルル》

「えへへ……アンアンさんとの話を聞いていたんです。私だけじゃありません。牢屋敷の少女たち……全員がおじ様の話を聞いていましたよ」

 

《おじさん》

「……あはは……そうだったんだね」

 

まさか聞かれていたとは。こっぱずさで顔が熱くなる。

 

氷上さんは突然机をバシリと叩いて立ち上がる。その瞳には決意の炎が宿っていた。

 

《氷上メルル》

「大魔女様がどう思おうと、私には関係ありませんっ!」

 

《氷上メルル》

「私は大魔女様が大好きです。だいだいだいだい、大好きですっ!」

 

《氷上メルル》

「拒絶されても知りません! 絶対私は大魔女様と一緒に生きてやるんです〜〜〜〜〜っ!!!!!」

 

図書室に彼女の覚悟が響き渡る。その叫びはまるで産声のよう。

氷上さんは今のこの瞬間──生まれ変わった。今日が彼女の誕生日だ。

 

力一杯叫んだあと、再び氷上さんは席につく。そして、私の手を握った。

声のトーンを落とし、彼女は続ける。

 

《氷上メルル》

「でも……もし大魔女様に全然かまってもらえなくて、悲しい思いをしているときは」

 

《氷上メルル》

「おじ様が隣で……私のことを慰めてくれますか?」

 

《おじさん》

「………………」

 

《氷上メルル》

「返事は……してくださらないんですね」

 

《おじさん》

「…………ごめんね」

 

《氷上メルル》

「おじ様には他に好きな人がいるのですか?」

 

《氷上メルル》

「あはは……それはナイショだ。だけど少なくとも……おじさんには帰りを待っていてくれる人がいる」

 

《おじさん》

「だから氷上さん。私が生きているうちに何か悩みがあったら相談くらいは乗るよ」

 

《おじさん》

「……大切な友人としてね」

 

氷上さんは一度大きく目を見開き、涙を振り払って私の胸へと飛び込んだ。

表情は見えない。だけど、きっと悲しんではいないはずだ。

 

《氷上メルル》

「嬉しい……その言葉だけあれば……私は十分です」

 

《おじさん》

「行こう氷上さん。ハッピーエンドが君を待っている」

 

長く長く続いた物語の結末に向け、私たちは歩き出すのだった。

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