おじさんが魔女裁判に連れてこられてしまったときの話 作:長雪 ぺちか
ギャグ系の展開は書くのが楽しくて好き!
ここまで読んでくださりありがとうございました!皆さん良いお年を〜!
(一応、次の話がエピローグになる予定です。その後はこの世界線における短編という形で追加で話を書くかも)
[裁判所]
覚醒した氷上さん、そして黒部さん共に行動を開始する。
見回りの途中だった看守さんを見つけて私たちは駆け寄った。
《おじさん》
「氷上さん、いけそうかい?」
《氷上メルル》
「はいっ! 力がみなぎって……今なら何でもできてしまいそう」
氷上さんは笑顔を見せると、看守さんの前に立つ。
黒部さんどこか落ち着かないという様子で彼女を見守っていた。
《看守》
「……………………」
《氷上メルル》
「……戻しますね」
氷上さんが手をかざすと、強化された【治療】の魔法が看守さんを包み込む。
元より治療の域を超えた能力だった彼女の魔法は、魔女化によって人の心にまで作用する代物に変化していた。
強い光が裁判所全体に広がり、目を伏せる。
そして──
光が収束した後、私たちの目の前には異形は既におらず……透き通るような銀髪の少女が虚な目で佇んでいた。
《黒部ナノカ》
「……お姉ちゃん?」
《黒部 》
「………………………………」
《黒部 》
「…………ただいま、なのちゃん」
《黒部ナノカ》
「…………っ!」
黒部さんは銀髪の少女を抱きしめる。
ボロボロと涙を流す彼女をそのままに、私と氷上さんは裁判所を後にするのだった。
◆◆◆◆
[暗転]
13人の少女が揃ったことで、二階堂さんの計画がスタートした。
たった数日の準備期間だというのに、二階堂さんと桜羽さんは他の少女たちのトラウマを既に調べ上げていた。
きっと、彼女たちがこれまで牢屋敷で培ってきた信頼があってのことだろう。
少女たちの魔女化に私も一部協力はした。その話は機会があればするとしよう。
二階堂さんの言葉によって、少女たちが次々と心の闇を露わにしていく。
そしてついに……儀式の準備が整った。
◆◆◆◆
[裁判所]
全員の魔女化が済み、少女たちは裁判所へと集結する。
各々容姿が恐ろしくなってはいるものの、やはり冷静を保つことができていた。
二階堂さんのおかげか、はたまた少女たち自身の心の強さか……どちらにせよこれ以上ないコンディションで儀式に向かうことができそうだった。
《蓮見レイア》
「ついに始まるというのか! 私たちの苦難と絶望に塗れた物語の終幕が!」
《蓮見レイア》
「これまで何度も諦めかけたことだろう……いつ、どこで殺人が起きてもおかしくない状況だった! しかーし! 私たちは勝負に勝ったのだ! 私たちの絆は本物だ!」
《沢渡ココ》
「レイアっちテンション高すぎー。遠足前の小学生かよー」
《宝生マーゴ》
「あら、私も結構楽しみにしているわよ。大魔女がどんな可愛い姿をしているのか、ドキドキしちゃう」
《紫藤アリサ》
「つーかそこまで苦難も絶望もなくなかったか? 最初の一週間くらいじゃねえのか、主に飯関係で」
《遠野ハンナ》
「あれは最悪でしたわ……もう思い出したくありませんの」
《橘シェリー》
「早々に黒幕がバレて方針転換してしまったから仕方ありませんね。結局殺人事件も起きませんでしたし! シェリーちゃんは悲しいです。ハンナさんなら何かしでかしてくれると思ってたのにー」
《遠野ハンナ》
「ななな何をおっしゃってますの! わたくしが殺人なんてするわけねーですわよよよよよ!!!!」
《桜羽エマ》
「ハンナちゃん焦りすぎて逆に怪しくなってるよ!」
遠目で少女たちの談笑を眺めていると、不意にスーツの裾を引っ張られる。
《城ケ崎ノア》
「これで本当に終わりなのかなぁ? おじさんはどう思ってるの?」
《おじさん》
「完全に終わりというわけにはいかないんじゃないかな。今から大魔女が現れる。資料によると大魔女は人間に復讐心を持っているそうだから……もしかするとおじさんたちのせいで人類が滅びちゃう、なんてこともあるかもしれないね」
《夏目アンアン》
「それはまずいではないか」
《おじさん》
「まあでも、そこは割り切るしかないんじゃないかな。どちらにせよ、おじさんたちは大魔女を呼び出さないことには生きてこの島から出ることができない。人類が滅亡してしまったら、そのときはおじさんたちをここに閉じ込めた何者かのせいにしてしまおう」
《黒部ナノカ》
「……おじさんの言う通りね。どう転んでも私たちに責任はない。大きな運命に従って行動しているだけ」
《城ケ崎ノア》
「それなら仕方ないかも」
《城ケ崎ノア》
「ねえねえアンアンちゃんこれ見てー。すごいでしょー。のあ、湿らせたタオルで空飛べること発見しちゃった」
《夏目アンアン》
「わ、わがはいも乗りたい……!」
緊張感のない空気の中、裁判所の扉が開かれる。
《氷上メルル》
「ヒロさんっ、持ってきましたよ!」
氷上さんは儀式に必要だという儀礼剣──修学旅行先で売っていたらついつい買ってしまいそうなカッコいい剣を胸に抱えていた。
《二階堂ヒロ》
「ご苦労」
二階堂さんは儀礼剣を受け取ると、裁判所の中央にそれを刺す。
そしてその隣に……愛用していた万年筆を置いた。
《二階堂ヒロ》
「13人の魔女、儀礼剣……そして依代──儀式の準備は整った」
《二階堂ヒロ》
「さあ、姿を見せてもらうぞ! 大魔女!」
二階堂さんの言葉に呼応するように、裁判所の中央から赤黒い液体がグツグツと湧き出す。
あれは……“血”だろうか。
真っ先に沢渡さんが彼女に気付く。
《沢渡ココ》
「ちょっと待って……見られてる……あてぃしたち……もしかして最初から……」
血の噴水は徐々に勢いを増していき──輪郭を結び始める。
不意に、声がした。
???
「これは、かつての魔女たちが流した血──人類が背負うべき罪そのものです」
冷たくて、それでいてどこか聞き覚えのある声。
《氷上メルル》
「大魔女様……やっと……お会いできました……」
《桜羽エマ》
「ユキ……ちゃん……」
大魔女様の降臨に氷上さんは涙を流す。
反対に、桜羽さんは絶望した表情で大魔女を見つめていた。
《月代ユキ》
「久しぶりですね、エマ──」
《月代ユキ》
「私の復活はすなわち絶望──人類に良い結末などありません」
《月代ユキ》
「 ──さあ、共犯者になりましょう」
純白の大魔女──月代ユキさんがついに私たちの前に姿を現した。
◇
大魔女の顕現に伴い、少女たちの容姿は元に戻っていた。
先ほどまでの緩い雰囲気から一変、少しでも動けば死んでしまいそうなほどに張り詰めた空気が裁判所を包み、純白の少女から目が離せない。
《おじさん》
(それにしても、大魔女様の声にすごく聞き覚えがある。氷上さんに似ている……ということでもなさそう。単純に私の思い違いだろうか)
ふと、大魔女様と目が合う。
ほんの少し見つめ合ったあと、彼女は軽く会釈した。
《おじさん》
(えっ、本当にどこかで会ったことあるのか? 一体どこで……)
牢屋敷に来てからの出来事を注意深く思い出していく。そしてついに私は思い出した。
◆◆◆◆
《氷上メルル》
「わかりましたっ! 私……大魔女様とえっちしますっ! 大魔女様に会って……いっぱいいっぱい愛を確かめますっ!」
《おじさん》
「そ、その意気だよ氷上さん! 絶対に大魔女様を降臨させよう!」
???
『……よくできましたね』
◆
《氷上メルル》
「でも……その……赤ちゃんはできなくても、一緒に寝ても良いですか?」
《氷上メルル》
「おじ様と一緒に寝ていると、なんだか大魔女様のことを思い出すんです。大魔女様に膝枕してもらったときのこと……」
《おじさん》
「氷上さん……わかったよ」
《氷上メルル》
「ありがとうございますっ……おじ様は優しいですね」
???
『判決は──死刑』
???
『判決は──死刑』
???
『判決は──死刑』
◆◆◆◆
ああっ! 思い出した!
この声はおじさんの遵法精神! 遵法精神じゃないか!
あれは大魔女様の声だったのか!
そんなことを思い出していると、大きな地鳴りが起きる。
突然のことに、私たちは机に捕まりながら持ち堪えた。
《月代ユキ》
「島は今、飛び立ちました。この屋敷もまた、元あるべき場所へと戻る……」
《氷上メルル》
「大魔女様っ! 大魔女様っ!」
《月代ユキ》
「……………………」
《月代ユキ》
「メルル、キスは後にしてください。今はそれどころではありません」
《氷上メルル》
「す、すみません……大魔女様に会えたのが嬉しくて……えへへ……」
《月代ユキ》
「…………………………」
大魔女様は氷上さんの頭を撫でると続ける。
《月代ユキ》
「今からこの島は世界中を巡ります。そして全ての人間に死を振りまくのです」
《二階堂ヒロ》
「なん、だと……」
《月代ユキ》
「お話ししましょうか。人類がこの世界からいなくなるまでの少しの時間ですが」
そうして大魔女様は不敵な笑みを浮かべる。
人類に立ちはだかる絶対的な“敵”として少女は言葉を紡ぎ始めた。
【審問開始】
《月代ユキ》
「人間は魔女を虐殺したという大罪を背負っています」
《月代ユキ》
「よってこれより刑を執行します」
《月代ユキ》
「判決は──死刑」
《月代ユキ》
「人類への執行の猶予は十分に与えました。裁かれる時が来たのです」
【審問終了】
突然現れた大魔女に人類の滅亡宣言をされ一同動揺が隠せずにいた。
予期できたことと言え、直接言葉にされることで恐怖が勝る。
不安からか城ケ崎さんが私のズボンの端をギュッと握った。
《紫藤アリサ》
「何勝手なこと言ってんだ。そんなことできるわけ……」
《黒部ナノカ》
「……残念だけど大魔女ならそれができる」
《月代ユキ》
「物分かりが早くて助かりますよ、ナノカ。私は本気で人類を滅亡させると言っていますし、それが可能です」
《橘シェリー》
「島を軽く浮かせることができるほどの力です。人類の抹殺ぐらい容易かもしれませんねー」
《氷上メルル》
「その通りですっ! 大魔女様は本当に偉大な方なんですから」
少女たちは大魔女の圧倒的な力の前に挫けかける。
そんな反応を見て大魔女様は満足気に鼻を鳴らしていた。
絶望的な状況だというのに、私はどこか他人事のような冷静さを保っていた。
私はもう結構長いこと生きていることでそこまで自身の生に対する執着が薄い。
心残りがあるとすれば佐伯さんのことくらいだろうか。
まあ、彼女は強い子だから私がいなくても元気にやってくれるだろう。
まるで観客のような気分で大魔女様の動向を眺めていると、何やら彼女が不審な動きを見せていることに気がついた。
《月代ユキ》
「………………(チラチラ)」
何だろう。大魔女様がすごく見てくる。
《月代ユキ》
「………………(チラチラ)」
流石に意図的すぎる。何かを伝えようとしているのは間違いない。
《月代ユキ》
「………………(チラチラ)」
これはもしかして……自分の計画を止めてほしいのか?
いやいや、そんなことはありえないだろう。
彼女の受けた同胞を皆殺しにされたという被害は、十分人類を滅ぼす動機としては十分だ。
何百年も復讐のために復活の時を待っていたのだから今更それをやめるなんて……
……ちょっと待つんだ。
私自身、高々50年くらいで生への執着が薄れてるくらいだ。
もしかすると……大魔女様でも500年以上復讐心を持ち続けるのは中々至難の業だったということなのではないか!?
完全に忘れることはないとしても、彼女の復讐心は間違いなく薄れている!
そして、その復讐心が薄れてきたところに人間である氷上さんの巨大な感情が追撃をかける!
特に、医務室で氷上さんが“大魔女様が復活したらイチャイチャする(婉曲表現)”と宣言したときに私を褒め、私が氷上さんと同衾した際にあからさまなイラつきを見せていたことから察するに……
大魔女様の脳内は、色欲にまみれている可能性がある。
拾った人間(とても可愛い)が何百年も自分のことを慕い続けていて、しかも相手が自身との行為を望んでいる……仮に私が大魔女様の立場だったとしたら、確かに復讐を中止してしまうかもしれない。
となればこの裁判は、それ自体が盛大な前戯!この後に行われるであろう氷上さんとの再会慰めせっくすをより楽しむためのスパイスなんだ!
つまり大魔女様は、体裁上氷上さんの前では偉大な大魔女様を保ちつつ、情けなくない感じに計画を止めてほしい……と私に訴えかけているということか。
要求はわかった。そうとわかれば話は早い。
中年のおじさんとバチバチに口論して復讐やめます!はあまりにも格好がつかなすぎる。
したがってこの場における私の役割は……単に話し合いのきっかけを作ることだ。
そして少女たちに説得されて計画を断念する……これが一番大魔女様の威厳を保てて、氷上さんにヨシヨシされるストーリーだろう。
私は大魔女様をしっかりと見据えると、コクリと頷いた。
それに呼応するように大魔女様は言葉を続ける。
《月代ユキ》
「こほん。もう一度言いますね」
【審問開始】
《月代ユキ》
「人間は魔女を虐殺したという大罪を背負っています」
《月代ユキ》
「よってこれより刑を執行します」
《月代ユキ》
「判決は──死刑」
《月代ユキ》
「人類への執行の猶予は十分に与えました。裁かれる時が来たのです」
<ガラスの割れる音・おじさんの論破スチル>
《おじさん》
【反論】「えー、大魔女様。いや、月代さんと呼んだ方が良いのかな?」
《月代ユキ》
「どちらでも構いませんよ。メルルはどちらの方が良いですか?」
《氷上メルル》
「大魔女様とお呼びしましょう、おじ様っ!」
《月代ユキ》
「ではそれで」
《おじさん》
「……大魔女様。あなたは今“執行の猶予が与えられた”と言ったね」
《おじさん》
「執行猶予が与えられたということは、何らかの判決が下された……もっと言えば“裁判が執り行われた”ことを意味している」
《おじさん》
「裁判には再審制度がある。これは第三審……つまり罪が完全に確定した場合にも、その判決に重大な誤りがある場合に裁判をやり直すことができる制度だよ」
《おじさん》
「だから人類は大魔女様に再審を要求する。裁判という形式を取ったのは大魔女様なんだ。そこは理屈をを通してもらわねばこま……」
《月代ユキ》
「いいですよ」
めちゃくちゃ食い気味だ!氷上さんとえっちしたすぎて前のめりになってる!
《月代ユキ》
(よくできましたね!よくできましたね!よくできましたね!よくできましたね!)
あああっ!直接脳内に大魔女様の声が!スタ爆されてる!現代に侵されすぎてる!
《月代ユキ》
「それでどのようにして裁判を行いましょうか?」
《二階堂ヒロ》
「魔女裁判だ……魔女裁判の開廷を要求する。人間が処刑されるべき【魔女】であるかどうかを、この島のルールに則って決めるんだ……!」
《月代ユキ》
「いいでしょう。人類が滅ぶまでの間、貴女たちのお遊びに付き合ってあげます」
大魔女様は不敵に笑う。勝敗の決まった人類と魔女の最終決戦が始まるのだった。
◇
(原作通り話が進み、ついに大魔女様は復讐を諦める──)
◇
二階堂さんと桜羽さんの言弾が大魔女様を打ち抜く。
敗北を喫した彼女はどこか安堵しているようにも見えた。
《月代ユキ》
「処刑されるべきは人間ではなく、長い年月を復讐心に囚われバケモノと化した──悪い魔女の方だったのかもしれませんね」
その言葉に合わせて儀礼剣は槍の形態へと変化する。
真っ赤な槍が今まさに大魔女様を襲おうとしていた。
《月代ユキ》
「………………(チラチラ)」
再び大魔女様からの目配せ。そろそろ出番のようだ。
《月代ユキ》
「だから、さようなら──」
《おじさん》
「少し待ってくれないかな、大魔女様」
《月代ユキ》
「場違いなおじさん、まだ何かあるのですか?」
《おじさん》
「人類を脅かすだけ脅かして、それはないんじゃないかな」
《おじさん》
「それに、大魔女様は今まで裁判という形で──言うならば人間のルールに乗っ取って勝負をしたわけだ。だとするなら、最後の判決も人間のルールに従うべきなんじゃないかな」
《月代ユキ》
「私の死以上に相応しい罰があるというのですか?」
《おじさん》
「もちろんあるとも。大魔女様──いや、月代さん。君がこれまでしてきたことについてもう一度話してほしい」
《月代ユキ》
「いいでしょう」
ひとつ咳払いをして、彼女は自身の罪について語り始めた。
【審問開始】
《月代ユキ》
「私はかつて同胞たちを人間に皆殺しにされました。そこで私は人類に対する復讐をすると心に決めたのです」
《月代ユキ》
「計画は二段階で行うつもりでした。まず一段階目として、人類に【魔女因子】を感染させることを目指しました」
《月代ユキ》
「もちろん、単に【魔女因子】を植え付けるだけでは人類は破滅しません。精神の魔女化により多少は混乱は起きるでしょうが」
《月代ユキ》
「そして計画の二段階目──それは魔女を殺す魔法の行使です。人類に【魔女因子】が行き渡った状態でこの魔法を使うことで、計画が完成するはずでした」
《月代ユキ》
「結局、私は自分で人類を滅ぼす勇気が持てず、魔女を殺す魔法をエマに託してしまいました。情けない魔女ですね、私は」
《氷上メルル》
「そんなことはありませんっ!大魔女様は偉大なお方です……っ!」
《月代ユキ》
「ありがとう、メルル。そういってくれるのは貴女だけですよ」
《月代ユキ》
「わかりましたか?私は“人類への【魔女因子】の散布”、“魔女を殺す魔法による人類抹殺“ を企てたのです。情状酌量の余地はありません」
《月代ユキ》
「私に相応しい罰……それは死のみです。目には目を、歯には歯を── 滅亡には死で償うのが妥当でしょう」
<ガラスの割れる音・おじさんの論破スチル>
《おじさん》
【反論】「月代さん、君は間違いなく罪を犯した。人類の抹殺という背筋も凍える恐ろしい計画を企て、その実行を桜羽さんにさせようとした」
《おじさん》
「でもね月代さん、君のやったことはどれだけ悪質でも有期懲役の域を出ないんだよ」
《おじさん》
「まずはひとつ、月代さんの勘違いを正そう。君は“人類への【魔女因子】の散布”を罪だと捉えているようだが、それが誤りだ」
《月代ユキ》
「……それはどういうことですか? その行いが罪にならないなんて、やはり人類は残虐な存在だということでしょうか?」
《おじさん》
「そうじゃない。単純に【魔女因子】は人類を魔女にするためのものであり、それそのもので人を殺すものではないからだよ。まあ、多少は感染した少女たちの性格を変えてしまう──“洗脳”を含んだものではあるようだけど」
《夏目アンアン》
「……っ!?」
《おじさん》
「夏目さんはもう気付いたようだ。月代さんに言ってあげてよ」
《夏目アンアン》
「洗脳は……それそのものを禁止することはできない。なぜなら、それを禁じては教育などが行えなくなるからだ」
《夏目アンアン》
「ゆえに、【魔女因子】の散布自体は罪に問うことができない。そうだろう、おじさん」
《おじさん》
「その通り。よく覚えていてくれたね」
夏目さんはむふーと鼻を鳴らす。その可愛い反応に思わず頬が緩んでしまう。
《月代ユキ》
「私は人間として学校に通いました。仮に私の行いが断罪されるのならば、その学校すら違法な施設になってしまう。そういうことですか?」
《おじさん》
「そういうことだね。もっというと、日本国憲法では国民の三大義務として“保護する子女に普通教育を受けさせる義務”が課せられている。教育を禁じるような法律はまず通らないし、例えその法律案が衆参で通ったとしても違憲立法審査によって弾かれるだろう」
《おじさん》
「とにかく人間の作るルールは用心深く作られている。人のルールで裁かれるなら、そこは弁えていてほしい」
《月代ユキ》
「それでは私の犯した罪は“魔女を殺す魔法による人類抹殺” ……その一点になるということですね。しかし、やはりこれは死刑が相応しいように思えますが?」
《おじさん》
「月代さん、それはクオテーションマークをつける場所を間違っているね。正確には“魔女を殺す魔法による人類抹殺を企てた” だよ。氷上さんたちと一緒にね」
《氷上メルル》
「私ですか……?」
《二階堂ヒロ》
「なるほど……わかったぞ! そういうことか!」
二階堂さんはポンと手を打つ。法律に詳しくなくとも、ニュースを普段から見ている子であれば月代さんの犯した罪の名前を知っているはずだ。
《おじさん》
「二階堂さん、君が今思い浮かべている罪状は何かな? 合っていると思うから言ってみてよ」
《二階堂ヒロ》
「ユキ……! 君の犯した罪、それは…… テロ等準備罪だ!」
《桜羽エマ》
「あっ、それボクも聞いたことがあるよ! テレビでやっていたかも」
《おじさん》
「ご名答。テロ等準備罪は2人以上の組織的犯罪集団が犯罪行為の実行準備行為を行うことによって成立する罪だ」
《おじさん》
「本件の場合、月代さんが首謀者、氷上さんが協力者、そして桜羽さんが実行者と、君たちは見ようによっては組織的犯罪集団と捉えられる」
《桜羽エマ》
「ボクもその中に入ってるの!?」
《二階堂ヒロ》
「桜羽エマ……やはり君は魔女だ……私が正してやる……(怒)(怒)」
《桜羽エマ》
「ひゃん!」
《おじさん》
「それだけじゃない。月代さんの行動が組織的なテロ行為だと考えられる理由、それは──」
▶︎『3人は同じ中学』◀︎
▶︎ 『共犯者になろう』 ◀︎
▶︎『エマの記憶改竄』◀︎
《おじさん》
「それに月代さんは最初にこうも言ったね── “共犯者になりましょう” と。これは組織的なテロ行為の自覚があったから出てきた言葉なんじゃないかな?」
《月代ユキ》
「なっ……」
《遠野ハンナ》
「こ、言葉狩りですわ!」
遠野さんの反応はごもっともだ。
しかし、使えるものは何でも使ってしまおう。
カッコつけて口を滑らせた大魔女様が悪いのだ。
《おじさん》
「テロ等準備罪は、どのような犯罪を計画したかによって決定刑……つまり条文に定められた原則としての罪の重さが変わってくる」
《おじさん》
「“人類の抹殺”は規模が少々大きすぎる気もするが、“殺人罪”や“内乱罪”が当てはまりそうだ。後者に関して詳しい説明は省くが国家転覆の実行に対する罪だと思ってほしい。当然ながら死刑または無期懲役だ」
《おじさん》
「そしてこれらの犯罪を企てた場合、テロ等準備罪においては“5年以下の懲役・禁錮” が定められている」
《おじさん》
「おじさんは最初に、月代さんのやったことは有期懲役の域を出ないと言ったね。それはこういうことだったんだよ。計画を立てただけで人間は死刑になったりしない」
あまりの罪の軽さに、月代さんは驚きを隠せずにいた。
人間基準で言えば5年の禁錮は中々キツイようにも思うが、相手は何百年も生きている魔女──それも大魔女様だ。
彼女にとってみれば昼寝をしている間に終わる程度のものかもしれない。
《月代ユキ》
「たった5年……本当にそんなもので良いのですか?」
《おじさん》
「いいや、今の話はあくまで条文上での刑の重さだよ。実際に下される刑の重さは異なる。情状酌量の余地があれば軽くなるし、悪質度が高ければ重くなる」
《おじさん》
「月代さんの場合、全人類の抹殺という普通に考えれば荒唐無稽で前代未聞の計画だった。しかし、君にはそれが可能だったし、実際その準備を行っていた。だから、有期懲役の範囲内で限界まで求刑が吊り上げられることになる。有期懲役の加重限界は──30年。したがって」
そして私は一呼吸置く。私は弁護士だ。
今から行う仕事は検察官の仕事……本当はこんなことしてはいけないから緊張してしまう。
少女たちの視線が私に集中したところで、ごくりと唾を飲み込んで私は求刑する。
《おじさん》
「被告人月代ユキさん、君に30年の禁固刑を求める。これより30年この島より出てはいけない。それがおじさんが思う、君に相応しい罰の量だよ」
《月代ユキ》
「30年…………」
人間基準で考えれば間違いなく今世を諦めるほどの長期の求刑。
ここまでの長さとなると、流石の大魔女様も罰の大きさを実感できるはず。
月代さんはゆっくりと目を閉じて、その重みを噛み締めていた。
《月代ユキ》
「それは……良いかもしれません」
彼女は微笑む。罪が重くなることで、かえって喜ばれることもあるのか。
それほど、彼女は心のどこかで罪の意識を背負っていたのだろう。
大魔女様が満足いく罰を与えることができ、私はホッと胸を撫で下ろした。
安心していると、月代さんから再び視線を感じた。
《月代ユキ》
「………………(チラチラ)」
あっ、そういえば目的を忘れていた。
大魔女様のイチャイチャ生活のために、氷上さんも一緒に投獄させた方がいいか。
《おじさん》
「そうだ、氷上さん。君も一応このテロ行為に関わっていたわけだから、少しは罰を受けるべきだと思うよ。条文の上限通り、5年間島からの外出禁止くらいがちょうどいいんじゃないかな」
《氷上メルル》
「おじ様、少し適当になっていませんか……?」
《おじさん》
「そそそ、そんなことはないよ!? 十分に考えた結果さ!」
《月代ユキ》
「メルル、一緒に罪を償いましょう。しばらくはまた一緒に生活ができますね」
《氷上メルル》
「そ、そうですねっ! 私罰を受けますっ! ああ、どうしましょう! 悪いことをしたのにこんなに幸せで良いのでしょうか!」
そうして2人はピンク色の空間に包まれる。
まあ何はともあれ仲が良くていいことだと思う。
既にキスを始めて行為一歩手前の2人を見て、桜羽さんは顔を赤くして手を上げる。
《桜羽エマ》
「あのー、ちょっと待って! ボクも罰を受けた方がいいと思うんだ。一応、実行犯の予定だったし」
《おじさん》
「いや、別に桜羽さんは罰を受けなくてもいいんじゃないかな。おじさんその場のノリでああ言ってしまったけど、君は単なる被害者……」
《二階堂ヒロ》
「騙されてはならない。エマは昔から計算高い女だ。全て分かって行動していた可能性が高い」
《桜羽エマ》
「そ、そう! そうです! そうなんです!」
《おじさん》
「そ、そうなの? じゃあ……桜羽エマさんにテロ等準備罪で1ヶ月の外出禁止を求刑します」
《二階堂ヒロ》
「エマ、君は性根が腐っている。罪を償う間、24時間私が監視しよう。覚悟するんだ」
《桜羽エマ》
「ヒロちゃん……お手柔らかにね」
《二階堂ヒロ》
「桜羽……エマ……(怒)(怒)」
《桜羽エマ》
「ヒロちゃん……!」
そうしてイチャつくカップルが2組に増えた。
何だろう。牢屋敷をそういう行為をする館として見ている少女が多すぎる。
どうなってるんだ今時の若い子たちは。
裁判どころの空気ではなくなってきたので、そろそろ幕を閉じるとしよう。
《おじさん》
「それでは判決を下してこの話は終わりにしようか。二階堂さんお願いできるかい?」
《二階堂ヒロ》
「構わない。しかし、おじさんがするべきではないのだろうか」
《おじさん》
「被告人に判決を下す裁判官はその良心にしたがって仕事を行うものだ。そして、その良心をもっとも備えている“正しい”存在──それは君だよ、二階堂さん」
《おじさん》
「だから君が相応しい。異論はないね」
二階堂さんはふふっと鼻を鳴らす。
《二階堂ヒロ》
「その仕事、私が請け負おう。それでは判決を下す──」
こうして13人の少女たちの短くて長い戦いは幕を閉じるのだった。