おじさんが魔女裁判に連れてこられてしまったときの話 作:長雪 ぺちか
【審問開始】
《城ケ崎ノア》
「もうバレちゃったからいうけど、のあはあの“バルーン”だよ。正体不明、謎のアーティスト。それがのあなの」
《城ケ崎ノア》
「でもね……のあは嘘つきだったんだ。みんなにすごいーって言われたイラストはね、全部のあの魔法で作ったものだったんだよ」
《城ケ崎ノア》
「このことが知られたら、ファンの人はがっかりしちゃうよね。だって、のあの作品は全部…… 偽物だったんだから」
【審問終了】
《おじさん》
「城ケ崎さんは魔法で作品を作り上げていたことに負い目を感じている。しかし、それは杞憂だ。日本の法律はそのようにできていない」
《おじさん》
「正しい知識で彼女の自信を取り戻してあげよう」
【審問開始】
《城ケ崎ノア》
「もうバレちゃったからいうけど、のあはあの“バルーン”だよ。正体不明、謎のアーティスト。それがのあなの」
《城ケ崎ノア》
「でもね……のあは嘘つきだったんだ。みんなにすごいーって言われたイラストはね、全部のあの魔法で作ったものだったんだよ」
《城ケ崎ノア》
「このことが知られたら、ファンの人はがっかりしちゃうよね。だって、のあの作品は全部…… 偽物だったんだから」
<反論>
《おじさん》
【反論】「城ケ崎さんの作品は偽物なんかじゃないよ」
《城ケ崎ノア》
「……ふぇ?」
《おじさん》
「ここで問題。この中で作品……いや、著作物として認められるものはどれだと思う?」
《おじさん》
「①“バルーン”の手書きのイラスト②ゴクチョーさんが描いたおじさんの似顔絵③おじさんが撮った牢屋敷の写真」
《城ケ崎ノア》
「ええっと……あっ、そんなの簡単かも。答えは①と②だよね。だってちゃんとその2つはちゃんと自分で描いてるんだもん」
《おじさん》
「ブブー、不正解」
《城ケ崎ノア》
「ええー!? 違うのー?」
《おじさん》
「答えは②は明確に著作物じゃない。①と③は場合による……だよ。ちょっと意地悪だったかな」
《城ケ崎ノア》
「ずるーい! おじさんやっぱり詐欺師かも!」
《おじさん》
「あはは……ごめんね。少し解説するよ。まず、ゴクチョーさんは人間じゃないから絶対に著作物にはならない。これは著作権というのが基本的に“人間”に与えられる権利であることが理由だね。“サルの自撮り”という有名な話があるから調べてみてね」
《城ケ崎ノア》
「あー、でもこのスマホ、ネットに繋がらないんだぁ……ココちゃんの配信しか見れないんだよ」
《おじさん》
「そ、そうだったんだ。おじさん、スマホすら用意されていないから知らなかったよ」
《城ケ崎ノア》
「でも、どうしてのあの手書きイラストが作品にならないかもしれないの? 写真と同じ扱いなんて、不服かも」
《おじさん》
「それはね、著作物は作り手に“創作的な意図”があるかが重要だからだよ」
《城ケ崎ノア》
「創作的な意図……?」
《おじさん》
「どういうものを表現したいとか、どういうものを作りたいとか、そういう意図のことだね。こういう構図にしたい、こういうメッセージを込めたい……そういう意図があれば写真だって本物の作品になるんだ」
《おじさん》
「簡単に言えば作品というのは、作り手の“心”によって作られるってこと。バルーンにはそれはあったのかな?」
《城ケ崎ノア》
「…………あるよ。のあ、作りたいものがたくさんあるの。のあはまだ魔法が上手に使えないけど……のあの思い通りにならなかった絵は捨ててるもん」
《おじさん》
「それを聞いて安心したよ。だったらやはり君はアーティストだ。それじゃあ、審問を再開しようか」
【審問開始】
《城ケ崎ノア》
「のあの作品が偽物じゃないってことはわかったよ。でも、それはのあがファンを裏切ったことの言い訳にはならない……よね」
《城ケ崎ノア》
「どれだけ上手な理屈でも…………のあはおじさんと同じ詐欺師なの! アーティスト失格だよ……」
《おじさん》
「おじさんは詐欺師じゃないけどね」
《城ケ崎ノア》
「ううう……ごめんなさい。きっと皆んなのあの絵をすごいって思ってくれたのに! うわあああん!」
《おじさん》
「わァ……泣いちゃった!」
【審問終了】
《おじさん》
「自己の評価と他者の評価は往々にして異なることがある。おそらく、城ケ崎さんよりにわかのおじさんの方が“バルーン”をよく知っている」
《おじさん》
「彼女の本当の魅力を教えてあげることが、心の助けになるかもしれない」
【審問開始】
《城ケ崎ノア》
「のあの作品が偽物じゃないってことはわかったよ。でも、それはのあがファンを裏切ったことの言い訳にはならない……よね」
<反論>
《おじさん》
【反論】「裏切った? 城ケ崎さんどうしてファンを裏切ったと思ったんだい?」
《城ケ崎ノア》
「それは……だって、のあは魔法で絵を描いていたから。自分で描かないのはズルしてると思う」
《おじさん》
「はあ……城ケ崎さんは“バルーン”のことを何も知らないみたいだね。もしかしてテレビとか見ないのかい? にわか知識で語られても困ってしまうな」
《城ケ崎ノア》
「“バルーン”はのあなんだけど! のあは“バルーン”なんだけど!」
《おじさん》
「バルーンが世界で評価されている理由は大きく二つある。一つは単純な表現力。そしてもう一つは……」
▶︎ 「顔が良い」 ◀︎
▶︎「正体不明」◀︎
▶︎「女子高生」◀︎
《おじさん》
「顔が良いってことだよ。全アーティストの中で君が一番可愛い」
《城ケ崎ノア》
「……? えへへー、のあそんなに可愛いかなぁ」
《城ケ崎ノア》
「でも、のあが可愛いことって関係あるの?」
《おじさん》
「うっ、間違えてしまった。城ケ崎さんの魅力に思考を乱された」
◇
《おじさん》
「バルーンが世界で評価されている理由は大きく二つある。一つは単純な表現力。そしてもう一つは……」
▶︎「顔が良い」◀︎
▶︎ 「正体不明」 ◀︎
▶︎「女子高生」◀︎
《おじさん》
「“正体不明”ってところだよ」
《城ケ崎ノア》
「……っ!」
《おじさん》
「城ケ崎さんも知っての通り、“バルーン”は正体不明のアーティスト。街中に突如現れるそのスプレーアートに人々は自由を感じ、そして誰が描いたのかわからないというそのミステリアスさに心を惹かれる」
《おじさん》
「さて……“バルーン”はいつ、その手法を他人に公開したんだい?」
《城ケ崎ノア》
「………………誰にも見せてない」
《おじさん》
「なら、城ケ崎さんがファンを裏切るというのはありえない話だよ。だって、“バルーン”は……一度たりとも手の内を明らかにしていないんだから」
《城ケ崎ノア》
「……………………」
《おじさん》
「それに、ここからは法律の話だ。もし仮に、城ケ崎さんがファンに嘘をついていたとして、果たしてそれを罪に問うことはできるのかな?」
《おじさん》
「嘘をつくことによる罪は色々とあるけど、城ケ崎さんにつく罪状はおそらく詐欺罪だ」
《城ケ崎ノア》
「偽証罪?とかじゃないの? ヒロちゃんよく“偽証”って言葉を使ってたからそういうのだと思ってた」
《おじさん》
「二階堂さんは普段どういう会話をしているんだ……偽証罪というのは裁判において事実と異なる証言をすることだよ。今がおじさんを裁く裁判だとするなら、ここで嘘をつくと偽証行為だし偽証罪になるね」
《おじさん》
「話を戻そう。とにかく、城ケ崎さんが抵触するとすればそれは詐欺罪だ。詐欺罪というのは“嘘をつくこと”によって相手に財産上の”損害を与える“ことによって成立する罪だよ」
《おじさん》
「もう一度言うよ。重要なのは“嘘をつくこと”と相手に“損害を与えること”」
《おじさん》
「城ケ崎さんのついた嘘によって、果たして誰かが損害を受けたのかな?」
《城ケ崎ノア》
「それは……ちょっとがっかりしたとか……」
《おじさん》
「そんなふわっとした感情では罪にはならない。そしてこれは仮定の話だ。そもそも問題、正体不明である城ケ崎さんは嘘をついていないのだから、前提からして罪に問われるわけがないんだよ」
《おじさん》
「城ケ崎さんは悪くない。それはおじさんと、おじさんたちの信じる法律が保証する」
《城ケ崎ノア》
「………………」
《城ケ崎ノア》
「……うん。おじさんの言う通りかもしれない」
城ケ崎さんの圧力が弱まる。
彼女の心は、着実に穏やかになりつつあった。
《城ケ崎ノア》
「のあは難しいことはわからないけど……おじさんは正しいんだと思うよ」
《おじさん》
「城ケ崎さん。それじゃあ……」
《城ケ崎ノア》
「でも……でもね……」
城ケ崎さんは震える声で、黒い涙をこぼしながら言葉を紡いだ。
《城ケ崎ノア》
「そ、それでものあは……」
《城ケ崎ノア》
「のあの絵を……好きになれないんだぁ」
《城ケ崎ノア》
「ごめんねおじさん。のあ、やっぱりおじさんのこと……消さなきゃ」
《おじさん》
「…………それが君の本心なんだね」
《おじさん》
「随分遠回りになってしまってごめんね」
《おじさん》
「城ケ崎さんが自分のことを好きになれるよう、もう一度おじさんのお話を聞いてほしい」
<最終戦の2人のドアップカットイン。あの演出好き>
【審問開始】
《おじさん》
「著作物とは物凄く簡単に言えば“創作的な意図”があって作られたもののこと。それを作る手段は問われていない」
《おじさん》
「城ケ崎さんが魔法で作品を作っても、それが偽物になることは決してない。作品とは“心”で作るものだからだ」
《城ケ崎ノア》
「それはさっき聞いたよ? でもそれは“バルーン”の作品の話だよ。のあの描いた絵じゃないよ……」
《おじさん》
「その通りだ。城ケ崎さんは“バルーン”だけれど、それは完全にイコールではない」
《おじさん》
「もし、君がその手でスプレーアートを描いていたなら“バルーン”は世界的に評価されるような存在にはならなかっただろう」
《おじさん》
「なぜなら、城ケ崎さんは絶望的に絵が下手だから」
《城ケ崎ノア》
「……っ! そうだよ。のあは…… お絵描きが苦手なの。好きで好きで仕方なくても……どれだけ練習しても……上手に描けないの!」
《城ケ崎ノア》
「だからのあの絵なんて、誰も認めてくれない! のあの絵には…… 価値がないんだ!」
《城ケ崎ノア》
「もう何も聞きたくない!おじさんのこと嫌いじゃないけど……死んでもらうしかないよ……」
《おじさん》
「いいや聞くんだ城ケ崎さん! 強情な君をおじさんの言葉で救ってみせる! 君が諦めようと、おじさんは決して君を諦めない!」
【審問終了】
《おじさん》
「法律的な話は城ケ崎さんも納得をしてくれた。しかし、彼女の悩みはそこにはない」
《おじさん》
「彼女は自分の絵が好きになれない。でもそれは考え方ひとつで変えられるはずだ」
《おじさん》
「城ケ崎さんの閉ざした心に終止符を打とう」
【審問開始】
《おじさん》
「著作物とは物凄く簡単に言えば“創作的な意図”があって作られたもののこと。それを作る手段は問われていない」
《おじさん》
「城ケ崎さんが魔法で作品を作っても、それが偽物になることは決してない。作品とは“心”で作るものだからだ」
《城ケ崎ノア》
「それはさっき聞いたよ? でもそれは“バルーン”の作品の話だよ。のあの描いた絵じゃないよ……」
《おじさん》
「その通りだ。城ケ崎さんは“バルーン”だけれど、それは完全にイコールではない」
《おじさん》
「もし、君がその手でスプレーアートを描いていたなら“バルーン”は世界的に評価されるような存在にはならなかっただろう」
《おじさん》
「なぜなら、城ケ崎さんは絶望的に絵が下手だから」
《城ケ崎ノア》
「……っ! そうだよ。のあは…… お絵描きが苦手なの。好きで好きで仕方なくても……どれだけ練習しても……上手に描けないの!」
《城ケ崎ノア》
「だからのあの絵なんて、誰も認めてくれない!のあの絵には…… 価値がないんだ!」
<ガラスの割れる効果音・おじさんの論破スチル>
《おじさん》
【反論】「価値がないなんて、そんなことは絶対にありえない!!!!」
《城ケ崎ノア》
「さっきおじさんものあの絵は下手だって言ってたの! おじさんの嘘つき!!!!」
《おじさん》
「嘘じゃない! 最初に言ったよね。作品は“心”によって作られるって」
《おじさん》
「それが手書きだろうと、“魔法”だろうと……上手だって下手だって関係ない!」
《おじさん》
「城ケ崎さんはまだ見つけていないだけなんだよ!」
《おじさん》
「その下手な手書きの絵に似合う…………“心”を!」
《城ケ崎ノア》
「のあの絵に似合う……“心”?」
《おじさん》
「そうだよ。漫画、小説、アニメ、音声、彫刻、ダンス、歌……他にも表現方法はたくさんある。そしてそれぞれ、得意とする分野があるんだ」
《おじさん》
「城ケ崎さんは魔法を使ったスプレーアートで、ギャグ作品を表現できる?」
《城ケ崎ノア》
「ぎゃ、ギャグ作品……? そ、そんなの……無理だよ。だって、スプレーアートってそういうのじゃ……」
《城ケ崎ノア》
「………………そういうことだったんだ」
城ケ崎さんはポツリとそう言い溢すと、両手を弛緩させる。
《城ケ崎ノア》
「のあね。のあの魔法がみんなに評価されて嬉しかったんだ。のあの絵はそれまで気味悪がられてたから……余計に嬉しかった」
《城ケ崎ノア》
「それで……絵の価値はこれだーって思い込んじゃってたみたい。バルーンの絵だけが……のあの価値なんだって」
《城ケ崎ノア》
「………………おじさん」
《おじさん》
「なんだい?」
《城ケ崎ノア》
「のあ、これからどうしたらいいかな。感情がぐちゃぐちゃーってして……わからないんだ」
《おじさん》
「それはおじさんにもわからない。おじさんがすぐに答えを出せるような問題なら、きっと城ケ崎さんもここまで思い詰めてなかったと思うよ」
《おじさん》
「だから一緒に考えよう。城ケ崎さんのイラストに似合うとっておきの“心”が見つかるように、おじさんも協力するよ」
《城ケ崎ノア》
「…………ううっ……おじさんは優しすぎるよ」
《城ケ崎ノア》
「どうして……どうして……おじさんはどうしてそんなにのあに優しくしてくれるの……のあおじさんにすっごく酷いことしちゃったのに……」
《おじさん》
「それは最初にいったじゃないか。おじさんは正義の味方じゃないんだよ」
《おじさん》
「おじさんはおじさんを頼ってくれる人の味方だ。城ケ崎さんが助けを求めていたように見えた……理由なんてそれだけで十分だよ」
《城ケ崎ノア》
「………………ううう……」
《城ケ崎ノア》
「……ううう……うわああああああん!!!!」
城ケ崎さんは図書室に響き渡るほどの音量で泣く。その瞳から透明の液体が流れていた。
気付けば黒く染まった彼女の白髪に七色が戻っていた。きっと、彼女はもう大丈夫だろう。
いつ死んでもおかしくなかった。私はなんとか繋がった命に感謝しつつ、大きくため息をつくのだった。
*
《おじさん》
「もう大丈夫? 落ち着いた?」
《城ケ崎ノア》
「うん。さっきまでは心がざわざわーってしてたけど、今はもう平気かも」
《城ケ崎ノア》
「でも、髪の毛がちょっと黒くなっちゃったんだけど。これ戻るのかなぁ」
《おじさん》
「あはは……どうだろう? おじさん、魔女には詳しくないからね。一応、方法がないか探してはみるね」
図書室には大量の書物がある。私が読めているのはごく一部だ。
もしかすると魔女になった身体を元に戻す方法がどこかに載っているかもしれない。
《おじさん》
「そういえば、城ケ崎さん」
《城ケ崎ノア》
「ん? どうしたの?」
《おじさん》
「最初、図書室に来た時に何か蝶々みたいなものを描いていたと思うけど、あれはなんだったのかな?」
《城ケ崎ノア》
「ええっと……あれはね」
《城ケ崎ノア》
「のあね、お部屋で絵を描いてたんだけど、アンアンちゃんがスプレーのにおいが嫌いみたいで、倒れちゃったんだー」
《城ケ崎ノア》
「だからその……アンアンちゃんと仲直りしたくて……」
頬を赤らめて少女は言った。
なんだ、最初から城ケ崎さんは答えを見つけていたのか。
これまでの議論が馬鹿馬鹿しくなり、私は思わず頬を緩めてしまう。
《おじさん》
「………………ははっ」
《城ケ崎ノア》
「もー、おじさんどうして笑うの。のあ、結構真剣だったんだけどー」
《おじさん》
「いやいや、バカになんてしてないよ。せっかく力になるとか大見得を切ったのに、これじゃあお笑いだなって」
私は城ケ崎さんの描いた手書きのイラストを指さして言う。
《おじさん》
「少なくともその“心”は、君の手で描くのが一番伝わる。センスがいいね」
《城ケ崎ノア》
「…………えへへー、そうかなぁ」
緩んだ頬で城ケ崎さんは笑う。
図書室に散らばったイラスト。幼さを残す少女の笑顔。
私の目にはそれが何よりも素敵な作品に映るのだった。
ノアちゃん編完結です!読んでくれてありがと〜
シリアス気味になっちゃいましたけど、次回は1話と同じくギャグ寄りになるかと思います。
あと、次回ちょっとえっちな感じあるので色々タグ調整します。