願いの物語シリーズ【鈴木一】   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第3話『……待てよ? 大人の女性。大人の女性か!』

ある休日の朝、僕は近所にある図書館へ足を運んでいた。

 

目的は当然本を借りる事なのだが、今回僕が借りようとしている本は、今まで借りた本とは別のジャンルな為、探すのに苦労しており、館内をウロウロと歩き回っていたのだった。

 

「何かお探しですか?」

 

「あぁ。実は……って、東篠院さん。お久しぶりですね」

 

「はい。お久しぶりです。鈴木さん。何かお探しならお手伝いしますよ」

 

「あー。それは助かるんですが、仕事の邪魔をするのは……」

 

「ふふ。大丈夫ですよ。本のご案内も私の仕事ですから」

 

胸を張りながら、自信満々にそう話す東篠院さんは僕よりもいくつか年上だというのに、とても可愛らしく見えた。

 

まぁ、大人の女性に可愛いなんて言うのは失礼だろうし、感想は胸の奥に秘めておくが。

 

……待てよ? 大人の女性。大人の女性か!

 

東篠院さんなら僕が選んだ本よりも、もっと参考になる本を知っているかもしれないな。

 

「そういう事なら、少しお願いをしても良いでしょうか? 実は探しているのは具体的な本とかじゃなくて、ジャンルなんですが」

 

「えぇ。お任せください。幸い、この図書館はそこまで多くの人が来る場所ではありませんから」

 

「助かります」

 

「それで、ジャンルというのは」

 

「恋愛指南書を探しています。種類があれば何冊か確認したいですね」

 

「れ、恋愛……指南書、ですか」

 

「どうかしましたか?」

 

「あっ、いえっ! 私は問題ありませんよ! えぇ、本当に! ただ、そうですね。そういう類の書籍はありますが、具体的な内容を確認しても良いでしょうか……?」

 

「具体的、と言いますと」

 

「その、年上とか。働いている女性とか、物静かな人とか」

 

「あぁ、そういう事ですか」

 

僕は藤崎さんの特徴を思い出しながら、情報を並べてゆく。

 

「えっと、まず同年代ですね。中学時代からの友人で、元気で明るくて、よく笑う子。でしょうか」

 

「……」

 

「東篠院さん?」

 

「あ、え、はい。そ、そういう書籍でしたら、ご案内します……ね」

 

なんだろう。急に元気がなくなった。

 

恋愛の話がタブーだったんだろうか。指南書の話を出した瞬間から落ち込んでたし。

 

なんだか申し訳ない事をしてしまったな……。

 

それから東篠院さんには何冊か参考になる本を見繕って貰い、それをレンタルして僕は帰路につくのだった。

 

 

 

家に帰ってから僕はすぐに何冊かの本に目を通し、とりあえずデートに誘うのが良さそうだと判断して、藤崎さんに電話してみる事にした。

 

今の時間はちょうど古谷の家に居る時間だ。

 

古谷にもデートの話が伝わればいい刺激になるだろう。

 

まぁ、僕の行動に焦りを覚えてさっさと藤崎さんに告白でもなんでもすれば良いのだが、古谷はデカい体の割に臆病だから、決定的に追い詰められるまでは告白なんて難しいだろう。

 

しかし、だからこそだ。

 

僕の行動に焦り、積極的になれば良い。幸せにすると胸を張れ。

 

僕は見えない友に向かって、聞こえないエールを送りながら携帯電話で藤崎さんの番号を鳴らす。

 

『はい。もしもしー?』

 

「あぁ。俺だよ俺」

 

『生憎ですけど。私に俺っていう知り合いはいませーん。で? 何か用ですか? オレキ君』

 

「あぁ。それがさ、ちょうど映画のチケットが手に入ってさ。藤崎さんが好きそうな映画だったからどうかなって」

 

『えー? 二枚くれるのー!? ありがとー。紗理奈ちゃんと見に行くねー?』

 

「おいコラ」

 

『冗談。冗談だよ。お付き合いさせていただきます。それで? いつ頃?』

 

「そうだなぁ。今週末とかは予定空いてるけど」

 

『ふむふむふむ。うん。良いよ。今週末だね。って、なぁに? 古谷君。私、今電話中なんだけど』

 

やはり古谷も近くに居たか。

 

いっそ鈴木なんて関係ない。俺と映画に行こうくらい言え! 古谷!!

 

「大丈夫か?」

 

『あー。ごめんごめん。今週末開けておくから、映画行こう』

 

「ありがとさん。あ、ついでにさ服とか見たいから、映画よりも結構前に待ち合わせでも良いか?」

 

『問題なし! でも良いのー? 私、買い物長いよー?』

 

「あぁ。良い買い物するなら長くなるのは当然だろ。構わないよ」

 

『あらやだ! 鈴木君ってば格好いいねー! オッケー。じゃあ一日中連れまわしたる!』

 

「おーおー。楽しみにしてるよ」

 

『じゃ、まったねー!』

 

藤崎さんはいつもの元気が良い返事をしながら通話を切り、その直後に古谷からメッセージが飛んできた。

 

僕はそれに返さず、古谷に直接電話する。

 

『どういうこと!?』

 

「どういうも何も。藤崎さんをデートに誘っただけだが」

 

『いやっ、ちょっと待って。待ってよ。そんな、急すぎる!』

 

「なんで僕が君のペースに合わせなくちゃいけないんだ? 君はモタモタやってれば良い。その間に僕が藤崎さんを……いや、綾乃を口説き落とすからさ」

 

『っ!』

 

「じゃ。デートの準備があるから」

 

『ちょっ、待っ……』

 

僕は電話を切り、すぐに掛かってきた電話も切って電源を落とした。

 

素直に交渉の席に着くつもりなんて僕にはない。

 

僕の目的はあくまでも古谷を煽り、先に進ませることだ。

 

僕との直接交渉なんて認めないぞ……! 古谷!!

 

正々堂々と藤崎さんを口説き落とせ!

 

僕は余裕たっぷりの笑みを浮かべながら携帯を布団の上に投げ、カーペットの上に寝ころびながら指南書に目を通した。

 

古谷にとって最強のライバルとなる為に。

 

恋愛マスターになるのだ。僕は。

 

 

 

そして、そんなこんなで日々は過ぎ、週末となった。

 

僕はと言えば、藤崎さんとのデートの為に待ち合わせ場所へと向かっていたのだが。

 

「や、やぁ偶然だね」

 

「偶然、ね」

 

「あぁ、偶然だよ」

 

「そうか。じゃあここでお別れだな。僕には行くところがあるんだ」

 

「まぁまぁ、俺もさ。偶然駅前に行く用事があるんだ」

 

「……」

 

実に情けない男だな。君は!!

 

君が行うべきは僕への牽制でも、デート現場に偶然を装って様子を見に来る事でもなく!

 

藤崎さんに男を見せる事だろう!!

 

まったく。

 

しかし、こうなった以上は仕方ない。

 

どうせ古谷も何だかんだと理由を付けて付いてくるだろうし、それなら一緒に行動した方がまだマシだ。

 

そう考え、僕は駅前に到着したのだが、そこには信じられない光景が広がっていた。

 

「あ。鈴木くーん! って、あれ!? 古谷君も来たの?」

 

「鈴木。遅い」

 

「紗理奈。鈴木は時間通りだよ」

 

「でもあやのんはずっと待ってた」

 

「まぁまぁ。デートは待つのが楽しい所もあるからね」

 

何故か待ち合わせの場所には、着飾った藤崎さんだけでなく、佐々木や紗理奈ちゃんも待っていたのである。

 

デートとはいったい何だったのか。

 

これじゃ普段の外出と何も変わらないぞ!

 

古谷も露骨に安堵した顔してるし!

 

安心してるなよ! 君は!! もっと危機感を持て!!

 

なんて僕がどれだけ心の中で考えていても意味はない。

 

見たところによれば、紗理奈ちゃんは付いてくる気満々という空気であるし、佐々木もそのつもりだろう。

 

そしてこうなってしまえば、古谷だけ帰るのもそれはそれで不自然だ。

 

つまり、いつものメンバー!

 

僕の行動はほぼほぼ意味のない物だったが、ここで諦める訳にはいかない。

 

一応は僕が誘ったデートという体なのだ。

 

少しでもそれらしくして、古谷を煽る……!

 

「じゃ、鈴木も来たし。いこっ、あやのん」

 

「ちょっと待って。早い。早いよ紗理奈ちゃん」

 

だが、しかし。

 

僕は千歳紗理奈という女を甘く見ていた。

 

彼女は颯爽と藤崎さんの手を取って、佐々木の手も引きながら我先に歩き始めたのだ。

 

信じられん。

 

飛び入りの行動とはとても思えなかった。

 

しかし、あの女は昔からそうだ。

 

変な所で思い込みが良いというか。我儘というか。

 

世界が狭いというのが一番正しいのだろうけど、それを良しとしてしまった僕達にも原因はあるだろうから強くは言えない。

 

悲しい所だ。

 

こうなってしまった以上はデートとはならないだろうが、それでも古谷の勇気を少しでも出させる為に行動する。

 

そう決めて、僕は修羅場の様な戦場へと足を踏み入れるのだった。

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