願いの物語シリーズ【鈴木一】   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第8話『僕達と野球をしませんか?』

流石はプロという所だろうか。僕達の目の前に現れた東篠院さんは大して驚かず、周囲を見渡すと場所を理解した様だった。

 

「どうやらあの廃病院の様ですね。ここまで鈴木さん達を連れてくるとは、そこまで大きな力を持っている様には見えませんでしたが」

 

「東篠院さん。あの幽霊についてなのですが」

 

「……っ! お話は後で。何かが近づいて来ております」

 

「何か?」

 

何が来ているのかと問おうとした瞬間、崩落した天井から何かが僕達の前に降りてきた。

 

巨大で鍛え抜かれた肉体と、その体によく似合う金棒を持っているその存在は、テレビや本の中で何度もみた事がある存在と同一であった。

 

信じがたい事ではあるが。確かにそれは鬼と呼ばれる存在によく酷似していた。

 

「まさか……鬼神」

 

『何やら強大な気配が不躾に入ってきたかと思えば、かの一族の末裔か』

 

「……鈴木さん。私から離れないでください。この鬼神は危険です」

 

「は、はい」

 

『人の家に入り込んでコソコソと、煩わしいな』

 

「それについては謝罪します。ここからすぐに出てゆきますので、どうか見逃してはいただけませんか?」

 

『貴様の先祖はそう言って逃れようとした我が一族を尽く殺しつくしたが?』

 

「時代は変わったのです。今や天上に住まう神も消え、地上に住む者も力は失われつつあります。貴方だって」

 

『だから共存しろと言うつもりか!? 無理な相談だな。いずれ消えるとしても、我らは神としての矜持を捨てるつもりはない』

 

「無論神として崇めます。その上で共存を」

 

『出来ぬ相談だ。貴様の一族と話す事は無い!!』

 

一触即発の空気が、膨れ上がって今にも破裂しそうだった。

 

ここに居るだけで体調が悪くなる。

 

しかし、彼らの話に一つの光明を見出した僕は図々しくも口を挟む事にした。

 

どうせ何もしなくても失われるかもしれない命なら、やるだけやる。今できる事は今やる。それが僕の信条だっ。

 

「一つよろしいでしょうか。鬼神様」

 

「ちょっ、鈴木さん!?」

 

『なんだ。人間』

 

「貴方は東篠院さんを信じられぬと言った。しかし、友好という話にまったく乗り気じゃないという訳じゃない。そうですよね?」

 

『……何が言いたい』

 

「簡潔に言いましょう。僕達と野球をしませんか? 無論東篠院さんは抜きで」

 

『なに? 野球だと?』

 

「はい」

 

見上げるような巨大な鬼は僕の心を見透かす様に上からジッと睨みつけ、思わず吹き飛ばされてしまいそうな程大きな息を吐いた。

 

しかし、僕は何が起ころうとも決して鬼神から目を逸らさずに、見つめ続ける。

 

そんな僕の様子に鬼神はさらに目を細めると、そのまま目を閉じて僕の方に手を伸ばしてきた。

 

「何を!」

 

「東篠院さん! 動かないで。大丈夫ですから」

 

「……鈴木さん?」

 

予感があった。

 

彼は僕を傷つけようとは考えていないと。

 

そして、その証拠に僕の反応に微かな笑みを浮かべた後、彼はまるで壊れ物を触るかの様に僕の頭に手を乗せた。

 

『……そうか。これが、野球か』

 

「記憶を?」

 

『あぁ。見させて貰った。ついでにお前の考えもな。鈴木一。お前の提案だが、乗ってやろう。だが、我らを楽しませなければ、お前の魂は貰ってゆく』

 

「えぇ。構いませんよ」

 

「鈴木さん!!」

 

「ただ、そうですね。もし可能なら、どんな結果になっても僕以外の人は皆、外の世界に返してあげて下さい」

 

『良いだろう。お前の覚悟に免じて、今回だけは見逃してやる。少なくともお前にはそれだけの価値がありそうだ』

 

「高く見積もって貰えて助かりますよ」

 

僕はそう言いながら、場所を変えるという鬼神の背に付いて歩いて行った。

 

しかし東篠院さんは未だ納得出来ていない様で、横に並んで歩きながらも、何だか落ち着かない様子であった。

 

それでも逃げようとか私が倒すとか言わない辺りは、おそらく鬼神の方が東篠院さんよりもずっと強いのだろうなと何となく思った。

 

ならば、やはり僕の提案は正しかった事になる。

 

最悪でも一人残るだけで二人は助かるのだから。

 

 

 

そして、僕達は廃病院から外に出て、野球をやるには十分な広さの場所に出た。

 

「メンバーはどうします?」

 

『既に呼んである』

 

鬼神の合図で何もない場所からワラワラと僕の半分くらいの大きさの小鬼が出てきた。

 

なるほど、一族ってのはそういう事かと納得しながら、僕は鬼神に割り当てられた小鬼達と集まり、ルールの確認をする。

 

どうやら鬼神から既にルールは共有されているらしく、特に問題は無さそうだ。

 

ならば、次に大事なのは勝つために必要な事。

 

楽しませるというのは、相手を勝たせる事ではない。

 

全力で戦い、力を示す事だ。

 

ならば、僕がやる事は一つだと、バッティングのテクニックを急ピッチではあるが、仕込んでゆくのだった。

 

そして始まった試合。先攻はこちらである。

 

向こうのチームのピッチャーとして立つのは、当然というか鬼神だった。

 

『我が四番でピッチャーだ』

 

「それは憧れる話ですね」

 

『フン。精々我らを楽しませろ!!』

 

僕がバッターボックスに立つと、鬼神は人間サイズまで小さくなり、大きく振りかぶって、投げた。

 

早い。感覚だが、150は出ているだろう。

 

しかし、所詮はそれだけだ。

 

僕は容易くそれを打つと一塁に向かって走り、滑り込む。

 

小鬼の連携も上手かったが、僕の足には敵わないって事だな。

 

『待った!!』

 

「ん?」

 

『もう一度だ。今のはちょっと気が抜けていた』

 

「そうですか。ならバッターボックスに戻りますね」

 

僕は面白くなってきたなと思いながら再びバットを構える。

 

先ほどまでの気が抜けた様な空気とは違い、鬼神はまさに鬼気迫るという様な姿で構え、ボールを投げた。

 

なるほど、言うだけの事はある。

 

さっきよりも早い。

 

でも、まだ足りないな。

 

僕はそのボールを容易く打ち返すと、弾丸の様に二塁と三塁の間を飛ばしてゆく。

 

無論球の行方なんぞを追っている前に僕は走り出しており、先ほどよりも余裕を持って一塁に駆け込むのだった。

 

『ば、バカな』

 

「もう一度やりますか?」

 

『いや、もう止めだ。これ以上は意味がない』

 

「と言いますと?」

 

『ハジメ。お前が何を仕込もうと、小鬼たちは我の球を打てんだろう。そうなれば貴様は無理をしなくては点を取れん。それはもう試合ではない。残念だがな』

 

「残念だと思われているのですね」

 

『残念というよりは惜しいという心持だな。しかし、いや、心残りか』

 

「なら、その気持ち。解消させましょうか」

 

僕は東篠院さんから預かっていた札を取り出して、信頼の出来る人たちを呼び出した。

 

かつて共に戦い、共に全国を目指した仲間を。

 

「ん? なんだ? 鈴木が言ってた奴か」

 

「わ、わ、佐々木。なんか変な所に来ちゃった」

 

「ここは……って、鈴木君! 藤崎さんも!」

 

「呼ばれたから来てみたけど、なんだろうね、ここは。陽菜。俺から離れちゃ駄目だよ」

 

「はぁーい」

 

「加奈子。どうやら夢を見てるみたいだぞ」

 

「いや、どう見ても現実でしょ。ほら、鈴木君から貰ったお札の効果じゃない?」

 

野球をやるなら九人必要だからね。

 

そして、このメンバーなら僕は誰にだって負ける気はしないのだ。

 

例えその相手が神だとしても。

 

「じゃあ、改めて始めましょうか。鬼神様?」

 

僕は挑戦的に笑いながら、そう言った。

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