願いの物語シリーズ【鈴木一】   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第9話『見逃すと、後百年は後悔しますよ。鬼神様』

僕は呼び出したメンバーにザっとこれまでの話とこれからの話をした。

 

しかし流石というべきか納得の異常に早いメンバーのお陰で僕達は鬼神一族に対して野球の試合をする事になる。

 

「こういうのって神前試合とかって言うのかな」

 

「どうなんだろう。むしろ相手が神だしなぁ」

 

「なんであれ、大事な所はそこじゃない。そうだな? 佐々木」

 

「あぁ。そうだね。大野先輩」

 

突然二人で睨み合いながら、バチバチと火花を飛ばし合う大野先輩と佐々木を横目で見ながら、どうせくだらない話だろうなと僕はそこから外れた。

 

背中から聞こえてくる声はやっぱりくだらない話だった。

 

「じゃんけんで勝った方が先発だ。良いな?」

 

「望むところだよ」

 

「まったくもう。状況分かってるの? 晄弘君」

 

「がんばれー佐々木―」

 

もはやお祭り気分である。

 

いや、神様と遊ぶのだからお祭りで正しいのかもしれないけれど。

 

そして危機感のない人たちは放っておいて、僕は最後の一人を連れてくる事にした。

 

「これで、八人。という訳で最後の一人は東篠院さんにお願いできますか?」

 

「私がこのドリームチームに!? しょ、しょうがないですねぇ」

 

『待て。ハジメ。ソイツは駄目だ。その女の先祖はかつて騙し討ちで我が一族を狙った。信用できん。どうせまた卑怯な事をするに決まっている』

 

「なっ! 私はそんな事をしません!!」

 

『どうだか』

 

「でも、そうなると一人足りなくなるんですよね? 小鬼さんをお借りできるならそれでも良いですけど。どうせならこちらは全て人間の方が鬼神様に捧げる試合としては形が良いかと思いますけど」

 

『それならば、そこで寝ている小娘を起こしてやる。その小娘でも良いのだろう?』

 

「藤崎さんですか? まぁ問題は無いですけど」

 

『よし。では力を分けてやろう。それで試合を行う。良いな?』

 

鬼神はそう言うと、藤崎さんに手を当てて、すぐに離れた。

 

何が行われたのか分からないが、藤崎さんはまるで朝目覚める時の様に、ゆっくりと起き上がり、良く寝たと伸びをするのだった。

 

何でもありだな。

 

しかし、なんであれこれで九人そろった訳だし、試合が出来る。

 

僕は古谷を呼び寄せて、藤崎さんに説明をお願いしてから鬼神に向き直った。

 

「ありがとうございます。これで九人集まりましたし、神前試合が出来そうですね」

 

『あぁ。こちらも選りすぐりの小鬼たちでお前たちに挑むとしよう』

 

どこか不満そうな東篠院さんを置き去りにして、僕達は試合を始める。

 

先ほどの試合では僕が先攻であったが、今度は向こうから攻めたいらしい。

 

無論これは神様に楽しんでもらう為の試合である為、二つ返事で了承した。

 

そして始まった試合。

 

最初にバッターボックスに立ったのは小鬼よりも大きく僕達より僅かに小さいくらいのスマートな鬼だった。

 

構えは……なるほど、僕の構えを参考にしているらしい。

 

おそらくは僕のチームに居た小鬼に関係している鬼かな。なんて思いながら笑う。

 

まぁ、大分自信はあるんだろうけど、それで容易く打てるほど、佐々木は甘い投手じゃないのだ。

 

「じゃ、行くかー。古谷君ー! 準備は良いー?」

 

「いつでも大丈夫だよー!」

 

「オッケー。じゃあ、紗理奈! 僕の投球見ててくれ!!」

 

「うーん! がんばってー!」

 

「よーし!! 一気に百人アウトにしてやる!!」

 

気合も十分。佐々木はボールを構えて、それを投げた。

 

相変わらずというか、なんと言うか。人間の投げる物とは思えない程に変化する。

 

そして当然というか、相手は触れる事すら出来ずにアウトとなった。

 

「いよーし!! 無敵! 佐々木!!」

 

「うるさい奴だな」

 

「聞こえてるぞー!! 大野ー!!」

 

「はいはい。分かってるからさっさと打たれろ。そして交代しろ」

 

「お前ー! それでもチームメイトかー!? まったく。僕がそう簡単に打たれる訳、無いだろ!!」

 

佐々木はまるで見せつける様に様々な変化球を投げ、相手を翻弄してゆく。

 

その結果、相手はスリーアウトとなり、交代となった。

 

そしてこちらの攻撃となり、ピッチャーとして立ったのは、鬼神……ではなく、何だか佐々木によく似た風貌の鬼であった。

 

見るからに煩そうな顔をしているが、どうやら佐々木とは違い物静かな様だった。

 

しかし、その球は佐々木を見て学習したのか、小賢しい変化球が多く、一番の僕が出塁するのもまぁまぁ大変であった。

 

そして僕は一塁に立ち、続くバッターである紗理奈ちゃんを見る。

 

あくまで儀式的な試合になる為、あんまり一方的な物にしない様にしようと話した結果、打順は適当だ。

 

でもまぁ、それでもそこまで不安には感じていない。

 

『ふむ。流石だな。あのような球も打てるとは』

 

「小学校の時からずっと練習してますからね」

 

『努力が自信の源か。ハジメは真っすぐな男だな』

 

「まぁ、それが僕の取り得ですからね」

 

『我らの様な存在は陽炎と同じだ。人の信仰が、想像が、願いが無ければ存在も出来ぬ。我が一族が弱く小さくなってしまったのもそれが原因だ』

 

「……」

 

『しかし、お前たちが世界中の人間と繋がっている野球というものを通じて、我らはそこにある願いを集める事が出来た。こうして試合をする事で多くの想いを汲み取る事ができる。神として存在する事が出来る様になった。感謝しているよ。鈴木一』

 

「鬼神様。感謝をするには、まだ早いですよ?」

 

『なに?』

 

「鬼神様は鬼の神でしょう。でもね。居るんですよ。人間の中にも、神様の様に多くの願いや想いを集めて、奇跡を起こす人が。彼を見なくては、何も始まらない。僕達の夢は全て、あの人から始まっているのですから」

 

僕は紗理奈ちゃんに続き、三振でアウトになった藤崎さんを見送る。

 

そして、立つ。

 

その背に幾万の希望を背負い、野球界から去ってなお、未だ伝説として語られている男……立花光佑先輩を、僕は見た。

 

『あれが、ただの人間か?』

 

「さぁ、どうなんでしょうか。でも、あの人が出てきた以上、僕が走る必要は無くなりましたね」

 

『ほう』

 

「見逃すと、後百年は後悔しますよ。鬼神様」

 

いつの間にか。試合をしている僕らだけじゃなく、多くの気配がこの場所に集まってきているのを感じた。

 

視線が立花先輩に集中する。

 

でも、立花先輩は何も変わらないいつも通りだという顔でバッターボックスに立ち、構えた。

 

世界は時が止まった様に静かになり、そして、その静寂をうち破って、佐々木似の鬼がこれまでよりもずっとキレのある、まるで佐々木の様なボールを投げた。

 

本来はここで走り出す所だが、今回に限ってそんな必要は無い。

 

何故なら、あそこに居るのは立花光佑だからだ。

 

立花先輩は当たり前の様にバットを振るい、そしておそらくはボールを真芯で捉えた。

 

胸がすく様な爽やかな音とともに、打球は遥か遠くの空へと消えてゆく。

 

何の文句もない。本塁打だろう。

 

僕は共に戦った中学時代。そして敵として戦った高校時代の事を思い出し空を仰いだ。

 

こんなにも懐かしくて心に刺す様な打球を見せられればこうもなる。

 

もうこんな楽しい気持ちで野球をする事がもう出来ないのだと、苦しい気持ちにもなるさ。

 

「やぁ。ハジメ。どうだったかな。久しぶりだから上手く出来たか不安だったけれど。後で感想を聞かせて欲しいな。それに鬼神様でしたか。おそくなりましたが、本日はよろしくお願いいたします」

 

『あぁ。そんなにかしこまらなくても良い。人のまま神となった者よ』

 

「……?」

 

『お前の運命に絡みついていた呪いが失われている事を嬉しく思う。やはり天上の神等と謳っていても、大切な事を何も知らんのだな。奇跡とはただ純粋な願いの結果が導き出す答えでしか無いというのに』

 

鬼神は今までにない程穏やかに笑うと、立花先輩の頭に手を乗せた。

 

そして、その瞬間世界に光が満ちてゆく。

 

『お前たちがここに来るのはまだ早い。いずれ人の命が終わった時、また楽しませてもらおう』

 

微かに消えていく鬼神の声を聴きながら、僕は白に染まっていく世界の中で立ち尽くしていた。

 

そして気が付いた時、僕は図書館の真ん中に立っていて、近くには藤崎さんが椅子に座って眠っていたのだった。

 

同じ様に呆然としたまま立ち尽くしていた東篠院さんに僕は話しかけた。

 

「東篠院さん」

 

「どうやら帰ってくる事が出来た様ですね」

 

「ちょっと立花先輩たちにも電話してみます」

 

僕はそう断って、図書館の外に出てから携帯で呼び出した人達に連絡をした。

 

どうやらみんなちゃんと元の場所に戻っていたらしい。

 

大野先輩は一球も投げてないぞと不満そうだったが、あの人は本当に……。

 

まぁ良いか。

 

とにかくこれで、事件は解決した。

 

今はそれを喜ぶべきだと思う。

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