転移先がカロス地方だった件について   作:ゾネサー

10 / 13
DLCが来るのが思ったより早い(もちろん嬉しい)。ただもうプロットができているので、この作品内ではDLCの設定は反映されないと考えていただいて大丈夫です。


オドリドリLV100まで踊り忘れず

「うん。大丈夫……ありがとう」

 

 地下三階に辿り着くと、そこには今もなお赤と青のボタンが残されていた。思わず呑んだ息をゆっくり吐き出したセレナさんは手を離して、前に進んだ。すると電子的な音声が響いた。

 

「セキュリティチェック。カードキー未所持。人物データ参照中……。カロスチャンピオンセレナ、確認。システムの一部を再起動します。……再起動完了。一件の音声ファイルが閲覧可能です」

 

 どうやら俺達に反応して電源が入ったようだ。眼前が青く輝く。かつて最終兵器の起動を突きつけたモニターに映し出されたのは思いがけない人物だった。

 

「クセロシキさん!?」

 

 かつて最終兵器の起動を後押しした者。そんな彼にさん付けなのは、マチエールのことがあったからだろう。

 

「オマエが再びここを訪れた。イコール非常事態ということだゾ。(ワタシ)はオマエに協力するゾ!」

 

 あくまで録画されたデータであるため一方的な会話だった。彼は包み隠さず語ってくれた。イクスパンションスーツを悪用されないためにデータが残っている隠しフロアを封鎖したこと。最終兵器に関する情報が残されたこのエリアは、後世に伝えるため残す決断をしたこと。そして……

 

「私を処分するように言ったのがパキラなのは分かっていた。とはいえ彼女を恨んではいないゾ。かつてマチエールにやらせたことは研究のためとはいえ、やりすぎてしまった」

 

「確かにあれは倫理観に欠けていましたが、反省の色が見られますね。だからこそ最終兵器の起動もフレア団の罪として背負おうとしている」

 

「逆にパキラはフレア団の理念に反する彼の行いを裏切りとした。今もなお彼女なりの正義……世界を変えるための美学を持っている。もっともそれは選ばれた人だけが残る世界だけれど」

 

 トラウマになった最終兵器に立ち会ったクセロシキさんとは対照的にパキラは呼び捨てなのが皮肉に思えた。マッドサイエンティストだった彼は過ちを認めて向き合った。しかしパキラはフレア団の行いを正義と肯定し、その夢を果たす力が無かっただけとした。その違いなんだろうな……。

 

「ただパキラには伝えてしまったゾ。私が計画し、断念した研究を。これが求めている情報なのかは分からないゾ。それでもオマエには知っていて欲しいゾ。私の道を正してくれたセレナには」

 

「クセロシキさん……」

 

 本編での彼は自分の研究の成果に無邪気に喜んでいた。しかし今は後悔し苦しんでいる様が表情や言葉から伝わってくる。そんな彼の心情を慮るようにセレナさんも痛みを感じていた。

 

「いいか。最終兵器は元々『命を与えるキカイ』だゾ。3000年前の最終兵器によってメガストーンが生まれたように力を与えることができる。要するに装置の基本構造はエネルギーを高純度化し放射するものだゾ。つまりポケモンに与えれば強制的な進化を促すはずだゾ」

 

「それが今回の暴走メガシンカに繋がってしまったのか……」

 

「早い話ゼルネアスやイベルタルに放射できれば世界を滅ぼすような力を手に入れられるゾ。実現しなかったのは、最終兵器には既にエネルギーが無かったからだゾ。伝説ポケモンのエネルギーを取り込む必要があったんだゾ。ただ、フラダリがAZから聞き出したプリズムタワーの装置には内部にエネルギーが確認できた。もしそれらをパキラが悪用しようとすれば……彼女にはそれだけの力と執念があるゾ」

 

「イベルタルをパキラが持っていれば、漏れ出るアンジュのエネルギーを利用して……!?」

 

「いや……メガ結晶の位置からプリズムタワーを割り出したように、エネルギーの範囲は限られるはず。目撃情報がないなら、もしかしたら考えすぎということも」

 

「ううん。嫌な……胸騒ぎがするの」

 

 そんなセレナさんの予感を後押しするようにクセロシキの話には続きがあった。

 

「その証拠に最終兵器が失敗に終わってすぐ、ポケモンからエネルギーを奪い取るために使ったセキタイタウン近くの列石……あれを利用すれば人目につかずに計画を進められると言ってきたゾ。私はフラエッテを奪う余力がフラダリなきフレア団にないとし、イクスパンションスーツの開発を優先したが……」

 

「……! まさか。パキラが裏切りと評した本当の理由って……!」

 

「だとしたら……ひどいですね」

 

 これは予測に過ぎないことで、ある意味考えても仕方ないことだ。それでもセレナさんは震えていた。怖さではなく、怒りで……。

 

「彼女は最後に『XYZの軸さえ交わらない場所さえあれば』と言っていたゾ。この部屋で見れる列石と最終兵器の関係図からその位置を割り出すことができたなら……あるいは。彼女は科学者ではないから相当な時間がかかる上、結局プリズムタワーが平常なら意味もないし平気だと思いたいゾ」

 

 あくまで今回のアンジュの異変はフラエッテ無しでの起動というイレギュラーだ。ここも封鎖する必要があったとは言えないだろう。それよりパキラの言葉はどういう意味だ?

 

「人目につかない場所なんでしょうが……列石を持ち込むなら、ずっと見られない場所じゃないといけないですし」

 

「X軸は横、Y軸は縦、Z軸は奥行き……。場所はプリズムタワーから遠くないだろうから、ミアレ内。前も言ったようにXとYには交わるポイントがある。だから前後にずらす……? うーん。意味が分からないわね」

 

 考え込んでいるとクセロシキさんからの最後のメッセージが届いた。

 

「ただ繰り返すようだがオマエが見ている、イコール非常事態だゾ。私は、自分の研究だけを考えてとんでもないことに加担してしまったゾ。すまない……。それでもお願いしたい。この街を……マチエールを、どうか守って欲しいゾ」

 

「……ふふっ。当たり前じゃない。任せて!」

 

 ここを訪れてから、ずっと激情に動かされて震えていたセレナさんの揺れが収まった。かつてのトラウマを生んだ部屋と立会人の前で、気持ちに決着をつけたんだ。きっとこれはクセロシキさんにしかできなかったことなんだろう。

 

「カイト。明日から忙しくなるわよ!」

 

「ははっ。ずっと忙しいような気もしますけどね。付き合いますよ!」

 

 エムゼット団との交流に、AZさんとの再会とセレナさんとのバトル。彼の告白を受け止めてから、グリさん・グリーズさんと分かり合い、最後はクセロシキさんの告白とパキラの動向と来たもんだ。長く、それでいて充実した一日だった。フラダリカフェから出た俺達はまたそんな日々に向かうように、夕暮れへとローラースケートを走らせていった。

 翌日、セレナさんの提案で俺達はプラターヌ博士の研究所を訪れていた。

 

「くっそ!」

 

「……!?」

 

 エレベータで三階に上がった途端、仕切り越しに女性の怒号が響いた。怖いので引き返そうとしたらセレナさんに首根っこを掴まれた。

 

「あら。お二人?」

 

「え、ええ。そうです」

 

「ふふっ」

 

「あらあら。ポケモンのこと忘れちゃってー。このー」

 

「あっ!?」

 

 聞き覚えのあるセリフだった。ゲーム内でフラダリラボに侵入した時、四人の科学者のうちエレベータのキーを持っている一人にかけられる言葉……! ということはこの人は……。……えーと、アケビさん?

 

「どうもー。あたしは出張中のプラターヌの代わりに、所長代理を務めているモミジです」

 

「あ、はい。よろしくお願いします」

 

 いや、違くて。聞き覚えはあるんだけど、科学者達って揃ってバイザーで目が見えないから顔が一致しなくて……! 一人でゲーム知識を間違えた言い訳を重ねていると、モミジさんが溜め息を吐いてからセレナさんの方を見た。

 

「それでセレナ……あなたが来たってことは、面倒なお願いごとだったり?」

 

「まあね。協力して欲しいことがあるの」

 

 するとセレナさんは彼女にエレベータのキーを返し、パキラが潜伏している可能性のある場所の候補を出して欲しいと伝えた。

 

「……はぁ。真面目に働いていても、フレア団との因縁はこうして返ってくるってわけね」

 

 話を聞くとモミジさんもパキラ同様に司法取引をしていた。ただしその内容は正反対のもので、監視も兼ねて半永久的にミアレで働く他、今では急増した野生ポケモンの調査や市長からの無理難題を抱えている始末だとか。よく見れば目の下にひどいクマができている……背負わせすぎなきらいもあるな。

 

「——ということで、協力する代わりにアンタ達にも手伝ってもらうから!」

 

 ……断れないよな、そんな話聞かされたら。強かというかなんというか。彼女にラボでの特定を任せ、俺達は13番ワイルドゾーンへと向かった。

 

「かえんほうしゃだ!」

 

 頼まれた依頼はオヤブンポケモンの調査だった。目が赤く染まり体も通常より遥かに大きいヘラクロスの突撃に最初は押されたものの、暴走メガシンカに比べれば力強さはそこまでのものではなく、シンプルに相性の有利を活かしてゲットに成功した。するとセレナさんも終わったようで、モミジさんに連絡を取っていた。

 

「頼まれたタスクは終わったわ!」

 

「いやー、まじで助かったわ。こっちも進めとくから、ミアレの探偵さんに話を通しておいてね」

 

「任せて!」

 

 あくまでラボにあるのは最終兵器と列石の関係図であり、これだけでは位置の特定は難しい。そのためミアレの地理に詳しいマチエールさんに助力してもらおうという算段だった。すると道中のクエーサー社でメガ結晶のカケラとヘラクロスナイトを交換してもらった時だった。

 

「セレナさん! 助けてえ」

 

「デウロ!? どうしたの?」

 

「落ち着いてください。まだそこまでの事態ではないでしょう」

 

「だってえ……」

 

 一拍おき、電話先でデウロのことを落ち着かせたピュールがこちらに話しかけてくる。昨日に引き続き暴走メガシンカの予兆があるポケモンが三体出現したとのことだった。しかし彼らの実力では力を合わせても一体しか対処できそうにないらしい。

 

「他のメンバーは?」

 

「二人ともユカリさんに捕らえられてホテルシュールリッシュに……」

 

「ただガイはトーナメントで既に負けているのもあって、セイカに押しつけて出れたようです」

 

「彼は一人でも大丈夫なの?」

 

「ガイなら心配いらないでしょう。セイカも呼ぶことは考えましたが、二日続けて離脱になってしまうのは……」

 

「ユカリさんって人が許さない感じか?」

 

「それも大いにあります。ただこれだけ短い頻度で起こるようになってきたということは、あまり時間が残されていないのかもしれません。彼女にはユカリさんとのランクアップ戦を優先してもらわなくては」

 

「なるほどね。分かったわ」

 

「どこに向かえばいい?」

 

「ハンサムハウスの屋上にメタグロスがいるの! お願いねえ」

 

「任された!」

 

 通話しながら外に出た俺達はヘラクロスに乗ってハンサムハウスへと向かった。オヤブンサイズだけあり、二人乗っても余裕がある。

 

「ハンサムハウスってことはもしかしたらマチエールさんも先に?」

 

「かもね! 案外着くより早く倒してたりして」

 

 そんなにまで頼もしくなっているのか。そんな姿が見れるかと思うと途端にワクワクした気持ちが湧き上がってきた。

 

「ここよ!」

 

 屋上へと飛び上がり、現場に到着した。素早く着いたもののエムゼット団の連絡を介しているだけに、既に暴走メガシンカ済みでもおかしくない。そう思って警戒していると、横たわっているメタグロスの先にマチエールさんの姿があった。

 

「やっぱり。さすがマチエールね!」

 

 なんと彼女は既に鎮圧に成功していた。ハンサムさんのものと思われるトレンチコートと、イクスパンションスーツで覆われた長い手足が見え、大人になったのだなと感慨深くなる。何より容姿だけじゃない成長した姿に胸が熱くなった。おまけにクセロシキさんから託されたカラマネロをメガシンカさせている。これをエモいと言わず、なんと言おうか。

 

「……ネロ?」

 

「え?」

 

 声を掛けられたマチエールさんがこちらに気付いた。すると振り返った彼女の目は異様に開いていて、胸の前で両手を——ハートの形に結んでいた。

 

「マイフレンドカラマネロッ!」

 

「はい?」

 

 エモいと言わず、なんだと言わねばならないようだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。