転移先がカロス地方だった件について   作:ゾネサー

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マイ・フレンド・カラマネロ

 マチエールさんの奇行にあんぐりと口を開けていると、不意にシャッター音が響いた。

 

「セ、セレナさん? 今撮りましたよね!?」

 

「ち、違うのよ。これは……そう! スマホロトムが勝手に!」

 

「ロトっ!?」

 

 目の焦点が合っておらず、明らかに普通じゃないマチエールさんがハートマークを作るポーズを容赦なく撮る所業に、主人公らしい勇者行為を見た気がした。

 

「君たちもカラマネロのおトモダチにしてあげるよ♪ 『サイコカッター』!」

 

「ヘラクロス! 下に避難だ!」

 

 敵対の意思があるのか距離を取っていたところ、やはりというべきか攻撃してきた。ヘラクロスに乗ったまま屋上から飛び降りた俺たちが着地すると、頭上をピンク色の衝撃波が通過していく。

 

「お願いカメックス! メガシンカよ」

 

「ヘラクロスもいくぞ!」

 

 俺たちがメガリングを掲げ迎撃準備を整えると、すかさず向こうも飛び降りてくる。

 

「『ミサイルばり+』を……!? す、ストップ!」

 

 着地の隙を突いて悪・エスパータイプのままなら四倍弱点の虫技を叩き込もうとした時だった。カラマネロがマチエールさんを中心に抱えて降りてきた。盾にするつもりなのか……?

 

「着地際に真っ直ぐ『みずのはどう+』!」

 

「え……」

 

 するとカメックスが砲塔から放った水が全てを弾き飛ばすような勢いの輪になって突き進み、マチエールさんを台風の目にするようにカラマネロだけに当たった。さすがの判断力だな。

 

「……! 『メガランチャー』が発揮できてないわ」

 

 特性「メガランチャー」は波動系の技威力を上げられる。特別、条件があるわけじゃない。つまり……

 

「カラマネロが暴走メガシンカを?」

 

「と、見るのが良さそうね」

 

 報告にあったメタグロスの代わりにカラマネロが暴走した経緯こそ分からないが、俺たちはそう仮定して距離を取った。マチエールさんを巻き添えにする危険がある以上、迂闊には手を出せない。あちらもタイミングを見計らうようにじりじりと距離を詰めてくる。

 

「確かにメガカラマネロはサイコパワーを直接送り込んで、パートナーを駒にして扱うリスクがあるらしいわ」

 

「ものすごく危険な生態じゃないですか!?」

 

「忘れたかしら? 元々メガシンカはトレーナーとのキズナが無ければ成立しないのよ」

 

「そうか。本来起こり得ないこと、なんですね」

 

「一気に詰めて『つじぎり』!」

 

 しびれを切らして向こうから仕掛けてきた。俺たちも頷き合うと、それぞれの指示を送る。

 

「こっちも前よ。『てっぺき』で受け止めて!」

 

「ヘラクロスは後ろに避難だ!」

 

 きっとセレナさんもグリさんたちとのバトルが過ったんだろう。黒いオーラを纏いながらムチのように振られた触手を、カメックスが甲羅の中に手足を引っ込めて受け止めていた。反撃のチャンスだ!

 

「『ボディプレス』で頭を狙って!」

 

「低空飛行で『とびかかる』んだ!」

 

 カメックスが飛び上がるのと同時にヘラクロスが発進する。上下からの挟撃だ。どちらかはマチエールさんを盾にされて中断せざるを得ないが、逆に言えばもう一方は防ぎきれないはずだ。しかしマチエールさんも素早く切り返してきた。

 

「させないよ。カメックスに『ひっくりかえす』!」

 

「し、しまった……!」

 

 カラマネロが触手をカメックスに向けてぐるぐる回すと、セレナさんが珍しく狼狽を見せる。「てっぺき」で上がったぼうぎょを反転させられた……。「ボディプレス」はぼうぎょを参照する技だ。肥大化した頭部へのプレスは大したダメージにならなかった。セレナさんもそうだが、マチエールさんの判断も早く、それでいて的確……!

 

「回り込め!」

 

 一連の行動で分かったのはマチエールさんは盾というよりはブレーンとして戦況を判断してるんだ。こちらの攻撃に対しても動かす素振りさえ見せない。だからこそ相手が攻撃したばかりで隙があるカメックスを狙おうものなら、無防備な背中を狙い返すつもりだった。

 

「ヘラクロスから目を離しちゃダメだよ。『リフレクター』を張り巡らせて!」

 

「『かわらわり』で壁を壊すんだ!」

 

 相手も警戒して体を回しながら、障壁を展開してくる。すかさずヘラクロスがツノで叩き割ると、マチエールさんの眼光が鋭さを帯びた。

 

「今だよ。『サイコカッター+』!」

 

 攻撃後の躱しづらいタイミングでの大技だった。あちらと同様にタイプ一致のエスパー技が格闘タイプの弱点。それは分かっていたことだ!

 

「『みきり』で凌げ!」

 

「……! 誘われた?」

 

 数的不利を覆すにはどうにかして片方のメガシンカを落とすことだ。俺だったら弱点を突ける方を狙いたくなる。それを防がれるのが一番嫌なはずだ。どうやらワザプラスは「みきり」のバリアでも、ダイマックス技みたいに全てはカットしきれないみたいだ。とはいえかなり削いだようで、大ダメージとまではいかなかった。

 

「『みず』と『あくのはどう』!」

 

 すると体勢を立て直したカメックスが肩に担いだ双塔から、それぞれ水と黒いオーラを放ち、ねじり鉢巻のように結ばれた輪となってカラマネロに直撃した。やはり「メガランチャー」なしでは決定打に欠ける。それでもワザプラスにしなかった理由は……。

 

「ネロッ!?」

 

 するとカラマネロが触手を通じてマチエールさんの頭から直接脳に刷り込むように念じると、彼女はゆっくりとスーツに手を伸ばした。そう——イクスパンションスーツに向かって。

 

「あ……。だ、ダメだマチエール! それだけは……!」

 

 思わずゲームキャラに呼びかけるように呼び捨ててしまう。それだけの悪寒が走っていた。あのスーツはクセロシキさんの科学力を結集した代物。運動能力強化・ボールジャック・光学迷彩……そして彼が最後に無効化したリモート制御。今マチエールさんはカラマネロに制御されているんだ。そんな状態で使えばかつて彼女が知らぬまま背負った罪——「エスプリ」の姿になってしまう。

 

「お願いマチエール……! 思い出して! 見ることも存在することもできないけど、それでも確かに私たちの中にあるものを……!」

 

「マイフレンドカラマネロ……。マイフレンド……セレナ?」

 

 スーツに伸ばされた手が止まったかと思うと、体が痙攣でも起こしているかのように震え出した。それはまるで何かが彼女の中で戦っているように見えた。

 

「スーツは……いざという時まで使わない。それがおじさんたちとのキズナ……」

 

「マチエール!?」

 

「……! セレナさん。来ます!」

 

 すると彼女は突如糸が切れたマリオネットのようにうなだれてしまう。セレナさんが思わず手を伸ばすが、動揺したカラマネロが暴れるように「つじぎり+」を放った。狙いはカメックス。ぼうぎょが下がっていて一見狙い目だが……。

 

「『てっぺき』よ!」

 

「後ろに回って受け止めろ!」

 

 体勢が整ってさえいればリカバリーは可能だ。力強い触手の振りにカメックスが吹き飛ばされると、ヘラクロスが飛んでキャッチに向かう。すかさずカラマネロは大きく触手を振るって「サイコカッター+」を放つ。

 

「躱せ!」

 

 普通なら巨体のカメックスを受け止めれば多少なりとも足は止まるだろう。だがあいにくオヤブン個体だったことで躱すまでの余裕を備えていた。明らかにマチエールさんの指示がなくなり攻撃が単調になった。大技の連発で隙だらけ……ここしかない!

 

「『みずのはどう』よ!」

 

「横から『ミサイルばり』を巻き込め!」

 

 水の輪と並行して飛びながらヘラクロスがツノから針を連射すると、勢いが抑えられた水に内包されてカラマネロだけを捉えた。するとエネルギーが抜けていき、周囲にメガ結晶ができていった。

 

「大丈夫!?」

 

「んぅ……? あれー、セレナだ。おはよー」

 

「大丈夫……そうですね」

 

 良かった……。暴走メガカラマネロを倒したことで、洗脳も解けたみたいだな。力が入らない様子の彼女と、先程のメタグロスをハンサムハウスに運ぶ。治療を終えたところで落ち着いた彼女が頭を下げてきた。

 

「ごめん! 二人には迷惑かけちゃったね」

 

「いいのよ。困った時はお互い様でしょ」

 

「同じくです。ただどうしてまたマチエールさんのカラマネロが?」

 

「実はこの子を鎮めた時のメガエネルギーに巻き込まれちゃって……」

 

 マチエールさんはメタグロスの頭を目を細めて撫でた。暴走から解放してくれた恩義からか、メタグロスは懐いた様子で頬擦りする。

 

「今まではこんなことなかったんだけどね。最近暴走メガシンカの頻度が高くなってるし、エネルギーの濃度が高くなってきているのかも」

 

「ピュールも言ってましたが、時間がない……ということですか」

 

 アンジュの限界は同時にパキラの企みを阻止するまでのタイムリミットでもある。俺たちは彼女の居場所を突き止めるための協力をお願いし、これまでの情報を共有した。

 

「XYZの軸が交わらない場所……!?」

 

 その中でも一際反応が大きかったのが、パキラが残した言葉だった。

 

「まさか……。知っているんですか?」

 

「驚くべきことだね。つい最近依頼された捜索で見つけたばかりだよ。私のところに来たのは大正解だったね」

 

「でもその時にパキラは見つからなかったということよね?」

 

「謎かけの答えは一点を示すものじゃないんだ。交わらない場所、だからね。彼女がいたのは地下。それも、シャンデラによって存在しない壁で外から空間を遮断していたんだよ」

 

「なるほど……。誰からも認識されない場所ってことですか」

 

 縦軸と横軸はどこかで交わるポイントがある。しかし奥行きがなければ、同じ時間や場所にいても出会うとは限らない……ということか。

 

「あり得るわね。シャンデラといえば……」

 

「そうか! パキラの手持ちにもシャンデラがいましたね」

 

「ふふっ。息ぴったり! お互いにとってバディなんだね!」

 

 マチエールさんに返事をしたタイミングが被り、目を見合わせた。そのことがなんだか照れくさく、それでいて心地良かった。

 

「ただあの時はブロスター噴水という手掛かりがあったからね……」

 

「モミジさんの情報と合わせて絞り込んでいきましょう。時間はかかるかもしれませんが」

 

 モミジさんにも情報を共有し対象が地下だと伝えると、候補が絞れたため分析もそこまで時間は掛からないからと連絡を待つように指示が入った。

 

「もこおの調子が万全ならテレパシーをキャッチすることもできたんだけどね」

 

「ふんにゃ」

 

「無理しなくて大丈夫よもこお。この子に協力してもらうわ」

 

「くわんぬ!!」

 

 セレナさんがニャスパーのもこおの顎を慣れたように撫でる。するともう一方の手から放ったモンスターボールから出てきたのはルカリオだった。特徴的な鳴き声で、コルニさんから継承して初めてのメガシンカをしたあの子なんだと分かり、思わず顔がニヤけてしまう。

 

「パキラに教えてやるわ。人と人との交わりは容易く切り離せるものじゃない。たとえか細くても生きている限りどこかで繋がっているって! ……ねえ、マチエール。もう一つ教えて欲しいことがあるの」

 

「うん?」

 

 僅かな逡巡は不安や怖さを受け止めるための覚悟が必要だったんだろう。もはや彼女が何を聞こうとしているのか、想像に難くなかった。パキラとセレナさんを繋げた交わり……フレア団の根幹である人物について、知ろうとしているんだ。

 

「ジガルデと共に動いているのは……フラダリさん、なのかしら?」

 

「……! 知っていたんだね。うん……セレナには知る権利があるよね。そうだよ。間違いない」

 

「生きて……いたのね」

 

「セレナさん……」

 

 いろいろ思うことはあるだろう。それでも彼女が最初に零したのは安堵の涙だった。

 

「しかしどうやって……? 最終兵器を起動した際、巻き込まれたはず」

 

「どうやらジガルデが助けたらしいね。今回の一件に関わってると思って追ってたけど、シロだった。むしろ逆。彼は明らかにミアレを守るために動いている。警戒されちゃってね……。これしか知ってることはないよ」

 

「ううん。ありがとう。それだけ……聞ければ十分よ」

 

 彼が五年前の一件を経てどういった心変わりがあったのかは分からない。それでもジガルデの導きを経て選んだ道が守ることであるなら、理想を歪みのない正義で実現しようとしているんじゃないか……。そう信じたくなった。

 するとしんみりした空気を切り替えるようにマチエールさんが手を叩いた。

 

「早速行動しよっか! と、その前に依頼料のお話ね」

 

「この流れでお金の話することあります?」

 

「あははっ。二人には助けてもらったしお金は取らないよー。その代わり一つだけお願いがあるの。セレナにね」

 

「え? 何言ってるのよマチエール。友達じゃない。代わりじゃなくたって聞くわよ!」

 

「じゃ、さっき撮った写真は消してね」

 

「えっ」

 

 操られていた時の記憶はなかっただけに、驚くまで至らずきょとんとしてしまった。

 

「な……なんのことかしら」

 

 目を逸らすセレナさんに対して、マチエールさんはニコニコしたまま至近距離まで近づいて覗き込んだ。

 

「長い付き合いだからね。それくらい分かるよ。ね、カイト君。セレナのことだから撮ってたよね」

 

「ええと……はい。撮ってました」

 

「カイト!? 裏切ったわね!」

 

「罪はきっと償えますよ……」

 

 後退りするセレナさんだったが、ついには壁際に追い詰められた。俺は目を閉じて合掌する。

 

「セレナ。私たち友達だよね」

 

「あはは……もちろんよ。その、えーと。マイフレンドマチエール……」

 

 こうしてモミジさんからの連絡が来るまで、セレナさんはたっぷり絞られる羽目になったのだった。

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