転移先がカロス地方だった件について   作:ゾネサー

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このヤレユータンの目をもってしても

 プリズムタワーに赴いたものの封鎖によって入れず、日が沈んできたこともあってハクダンジムへと戻ってきていた。

 

「プリズムタワーね。ありえない話じゃないわね。長いこと工事中で中のことが分からない状態なのよ」

 

 ホログラム越しにパンジーさんへと暴走メガシンカの報告を終え、プリズムタワーがメガエネルギーの発信地か議論を進めていく。

 

「工事の担当はクエーサー社になっているんですよね」

 

「さすがにきな臭くなってきたわね」

 

「私も彼ら中心に調べてみたんだけど、何も知らないとは考えづらいのよ。そうだ。セレナ、あなたAZと知り合いだったわよね」

 

「ええ! それがどうしたの?」

 

「実はね。工事が始まるのと同時期に、彼が技術提供を始めてクエーサー社がメガリングの量産化に成功していたことが分かったの」

 

「そうなの? AZさんが何かを企んでることはないと思うんだけど」

 

 俺もそう信じたい。フラエッテとの再会を果たせた今の彼ならば、二度と過ちを犯そうとはしないだろう。しかし今回の一件が過去と繋がっていることをセレナさんに仄めかしたりと、何かを知っているのは明確だ。

 

「もしかしたら、良い企みということもあるかもしれませんね」

 

「具体的に説明できる?」

 

「暴走メガシンカと戦った際、もしメガリングがあればあそこまでセレナさんに負担をかけさせずにすんだかもしれないなと」

 

「そんな! 私こそ任せてって言ったのに、色々背負わせちゃって」

 

「いいんですよ。俺も覚悟は決まりました」

 

 あの時こちらにほとんど攻撃は飛んで来なかった。それなのに決定打に欠けたのは事実だ。俺はもっと強くなりたい。セレナさんを支えられるように。

 

「もし彼らの目的が本当にポケモンとの共生なら、暴走メガシンカの対策としてメガリングの量産を急ぐのは理に適っています」

 

「あっ! そうよ。きっとそう!」

 

「なるほどね。どちらにせよ話を聞く必要はあるか」

 

「姉さーん。そろそろご飯にするから切り良いところで終わらせて」

 

「しょうがないわね。明日セレナ達はまずAZが経営しているホテルZに向かって欲しいの」

 

「そうね。お話聞いておかないと」

 

「その次はクエーサー社ですか?」

 

「ええ。私もその時までには仕事を終わらせておくから、出版社で合流しましょう。暴走メガシンカにメガリング量産、メガエネルギーとプリズムタワー……ふぅ。ざっとあげてもこれだけあるとジャーナリスト冥利に尽きすぎるわね」

 

「燃えるわね!」

 

 本職のノルマとは別に仕事を請け負っていて、ある意味燃え尽きそうではありますけども。

 

「分かりました。もしホワイト団と協力関係を結べそうなら、メガリングを提供してもらえないか打診してみます」

 

「ホワイト団! そんな名前にしてたわね」

 

「名付け親でしたよね!?」

 

 明日の行動を決め通信が切られると、ビオラさんが夕食を持ってきてくれた。

 

「召し上がれ! クロワッサンカレーよ!」

 

 山盛りのターメリックライスを覆うようにタワー状にカレーがかけられた料理が出てきた。クロワッサンはどこにいるかというと最下層だ。美味しそうな色合いではあるけど、珍妙さと量に圧倒されてしまう。

 

「これは……すごいですね」

 

「ガラル帰りの私にカレーを渡したら評価しちゃうわよ?」

 

「望むところ! カレー飽きてたら明日は別のにするから」

 

「それはお願いするかも。ユウリったら滞在中ずっとカレー一本なんだもの。もちろん美味しかったけどね。お菓子として甘い新鮮クリームを使ったホイップクリームカレーを出してきた時にはさすがにビックリしちゃったわ」

 

 そんな! まるでユウリがカレー狂みたいじゃないか!

 

「うん! いいわね。おいしさリザードン級!」

 

「クロワッサンとも合いますね! ご飯が進みます」

 

 できればクロワッサンとご飯は別々がいいけど、そこまで面の皮が厚いわけでもなく。美味しいご飯を頂ける時点でありがたいし。

 

「実はね。ホテルZの宣伝動画を見て作ってみたの。エムゼット団の旗は再現できなかったけどね」

 

「えっ。エムゼット団の拠点はホテルZなんですか?」

 

「みたいよ。明日会うことになるかもね」

 

 となるとAZさんは暴走メガシンカの対策をしているチームに宿を貸し出しているのか。今回の一件に随分精力的に動いている。やはり深い事情を知っているのだろう。

 こうして一夜を過ごした俺達は早速ホテルZへと向かっていた。

 

「ととっ……!」

 

 不慮の暴走メガシンカがいつ現れてもいいよう、広いミアレをローラースケートで駆けながら練習を重ねていく。スピードこそ出るがバランスを取るのが難しい。範囲の限られる屋上で恐れもなく走り回っていたセレナさんの凄さがよく分かってくる。

 

「ほら、しっかり!」

 

 バランスを崩したところを引っ張り上げられ、彼女に食らいついていく。やがて俺達はホテルZの近くへと辿り着いていた。

 

「この先ですよね?」

 

「そうみたいね」

 

 おいおい。ホテルへの通路が岩に閉ざされてるって。客を招くつもりがあるのか甚だ疑問だな。

 

「もしかして『いわくだき』必須ですか?」

 

「格闘わざなら大丈夫よ。お願い、ハリぼん!」

 

 XYは秘伝技がまだ必須だったなと思いつつ問いかけると、セレナさんはブリガロンを繰り出し、「アームハンマー」で壊していった。

 

「そのブリガロンは! もしかしてサナ……さんの?」

 

「え、ええ。そうよ。今更だけどそこまで知られてるとちょっと怖いわね」

 

「そ、そうですよね。自重します」

 

 すいません。繋がりを匂わせられるとつい嬉しくなっちゃうんです。許してくださいなんでもしますから。

 

「そうだ。ちょっといい?」

 

「なんですか?」

 

「あなた元の世界には帰りたくても帰れないのよね」

 

「ええ。どうして来れたかも分かってないですからね」

 

「そこよ。その原因を探るのも私達の目的に追加ね」

 

「それは嬉しいですが、今回の件と関わりがあるとも限りませんし」

 

 正直探してもらいたい。だけど今回の件が五年前の事件と繋がっているなら、緊急で対応すべきはこちらの方だろう。

 

「なのにあなたは協力してくれてる。お互い様だと思わない?」

 

 彼女は何でもないことのようにあっけらかんと笑った。敵わないな、この人には。

 

「分かりました。俺もやれることはやります」

 

「素直なのは良いことよ! それでAZさんならもしかしたら原因が分かるかもしれないわ。あなたが異なる世界から来たことは伏せて、相談してみるわね。私も気になるし」

 

「はい。お願いします」

 

 ポケモンの仕業であるならば、3000年を生きた彼が何かを知っている可能性は十分にあるだろう。そんな会話を挟みつつホテルZに辿り着いた俺達は中へとお邪魔した。

 

「このホテルにお客とは。霰でも降るのでしょうか」

 

 広い内装とは裏腹にロビーに青年が一人いるだけか。閑古鳥が鳴くとはこのことなんだろう。

 

「初めまして! 悪いけどお泊まりじゃないの。AZさんはいる?」

 

「残念ながら出掛けています。今いるのは自分……ピュールと——」

 

「あーっ!」

 

 唐突に聞こえて来た声はエレベーターから降りてきた女性のものだった。

 

「セレナさん! お久しぶりです」

 

「えーと……あっ!? もしかしてデウロちゃん?」

 

「そうです!」

 

「すっかり大きくなったわね。見違えちゃった!」

 

 知らないキャラクターだ。やっぱりゲームでは見えない部分の交流もあるんだな。

 

「セレナ? えっ。ええっ!? チャンピオンじゃないですか!」

 

「セレナ"さん"!」

 

「わ、分かりましたから。そちらの方は?」

 

「カイトって言います。セレナさんの……パートナーです」

 

「……! ついに認めてくれたのね!」

 

「そんな! 大きくなったらあたしを一番弟子にしてくれるって約束したのに!」

 

 パパのお嫁さんになるって言ってた子に彼氏ができた時の反応じゃん。

 

「あははっ。そんな約束もしたわね」

 

「ぐぬぬ。こうなったら一番弟子の座をかけて勝負しよ!」

 

 そうはならんでしょ。

 

「面白くなってきたわね!」

 

 何故か二人ともノリノリだ。まったく、この世界ずっと面白い方向に転ぶから本当に楽しいよ。

 

「望むところだ!」

 

「……え。展開についていけてないのボクだけですか?」

 

 トントン拍子で話が進み、ホテルの前に出てお互い一体ずつのバトルが始まろうとしていた。しかしデウロの手にしているボールを見て悪寒が走った。ダイブボール……水のあるところに棲むポケモンを捕まえやすくなるボールだ。ホルード・ヘルガー双方の弱点を突ける水タイプが出てくる可能性がだいぶ高い! ダイブボールだけに!

 

「ラッサンブレ・サリューエ!」

 

「ヘルガー! 頼んだぞ!」

 

「ゴー! ヒトデマン!」

 

 石のタイルが敷き詰められた地面にヘルガーが降り立つと、星型のポケモンが離れた場所に出てきた。ヒトデマンか。スターミーに進化してないだけに弱点は突けないけど、さすがにすばやさはこっちの方が上のはず。この勝負、勝つには短期決戦に活路を見出すしかない!

 

「突っ込みながら『バークアウト』!」

 

「格好の的よ! 『バブルこうせん』!」

 

 俺達が走りながら仕掛けるとデウロは立ち止まって迎え撃ち、お互い技の撃ち合いになった。衝撃波と泡が交差して互いのポケモンに直撃する。想定よりダメージは多いが……!

 

「『しんぴのしずく』を持たせてるのに持っていけないの!?」

 

「『バークアウト』は相手のとくこうを下げるのよ!」

 

「未知の相手のポケモンを瞬時にとくしゅ寄りだと判断したのですか……?」

 

「そのまま突っ込め!」

 

「ならもう一発よ!」

 

 大きなダメージを負ったが後手に回れば終わりだ。指示を送るとヘルガーも応じて突っ込んでくれる。ただ身体が濡れて踏ん張りが弱くなっていた。

 

「『バブルこうせん』を食らってすばやさが下がっています。間に合いませんね」

 

「そうね。けどまだ分からないわ」

 

 二撃目が繰り出される前に「オボンのみ」を食べて回復したけど、それでも際どいところだな。それでも!

 

「『まるころ』を食らっても耐えたお前のタフさを見せつけてやれ!」

 

 ヘルガーは弾ける泡に顔を歪めながらも、歯を食いしばって駆け抜ける。そしてとうとうヒトデマンのもとに辿り着いた。

 

「うそ!? えっと……」

 

「『ほうふく』でやり返してやれ!」

 

 食いしばった分を解放するように口が大きく開かれると、勢いを乗せた牙はまるで刃物のようにヒトデマンを切り裂いた。

 

「そこまで!」

 

「ふぅ……」

 

 なんとかなったか。「ほうふく」は図鑑によると受けたダメージの1.5倍のダメージを返す技だ。実は知らなかったんだけど、緊急事態に備えて技調整しといて良かったな。危うく有効打無しで挑むところだった。

 

「負けちゃったあ」

 

 元気一杯だったデウロだが、途端に力が抜けたようになってしまう。目の前の一瞬に全力なタイプなのかな。

 

「折角だし一つアドバイス! 対面は水と炎でヒトデマン有利だったわよね。なのにカイトは突っ込んできた。どうしてだと思う?」

 

「最後の技を当てるため、だったのかな。今だから言える感じだけど」

 

「そういうことね。でもね。もっと言えば接近しないと使えなかったのよ。好んで弱点は貰わないもんね」

 

 セレナさんは俺が仕掛けた段階で分かっていたんだろうな。

 

「はい。単純な撃ち合いだと相性で厳しいので、どうにかするにはこれしかなくて」

 

「始まっていきなりだからそこまで頭が回らないよ〜」

 

「ふふっ。それなら身体を動かせばいいわ。デウロの得意なダンスでね」

 

 ダンス? XYでダンスと言えば、まさかダンシングデ……ティエルノ? よく見れば髪型が同じだ。年齢を考えれば兄妹ってところか。妹がいたのか。色々意外だなあ。

 

「確かに。珍しく足を止めて受け身になっていましたね」

 

「あっ! 本当だ!」

 

「『ほうふく』は接触技なので距離を取られると厳しくて。それに事前に大きなダメージを受けてないといけないから、抜群技を撃つことだけに意識を向けて欲しかったんです」

 

「そっかあ。あたしとしたことがリズムを崩してたんだ。ごめんねヒトデマン」

 

 デウロが労うように背中を撫でると、ヒトデマンが声を振り絞って鳴き、穏やかな表情を浮かべてボールに戻っていった。

 

「楽しかったよ。一番弟子の座は譲るね」

 

「ありがたく受け取るよ。俺も楽しかった!」

 

 勝っても負けてもなんて事のないバトルだったけど、だからこそ何かに縛られてなくて、最高だよな。

 

「あたしも二番弟子として頑張るから!」

 

「弟子になることは確定なんだ?」

 

「私にとってはどっちも大事な一番弟子よ!」

 

「本当ですか!? やった!」

 

「何のためのバトルを見せられたんですか……」

 

「団同士の交流ってことで!」

 

 やれやれと言わんばかりに首を振っていたピュールだったが、セレナさんの発言に眉をピクッと動かした。

 

「団同士とは?」

 

「俺達もホワイト団として活動してるんです。原因の調査優先ですが、必要があれば暴走ポケモンの対応もしてます。こいつも昨日暴走してたんですよ」

 

「ガルルァ」

 

「昨日ガイが言ってたね! 対応する前に鎮まったポケモンがいたって!」

 

「そうでしたね。最近はセイカに頼りすぎなくらい活発化してきましたし、何かあればお願いしましょうか」

 

「構わないわ。よろしくね!」

 

 こうして交流を深めた俺達はパンジーさんと合流して、メディオプラザへと向かった。

 

「あっ、いたわ。AZさーん!」

 

 結局AZさんもクエーサー社に話があったらしく、俺達はプリズムタワーの手前で邂逅した。

 

「おお……。セレナか。こうして会うのは久しいな」

 

 で、でかっ! ゲームでもインパクトは強かったけど、三メートルあろうかという巨体は腰を曲げてなお俺達を見下ろしていた。

 

「君がセレナと共に暴走メガシンカを鎮めた子かな?」

 

「は、はい。カイトと言います」

 

 それが少し威圧的でもあったが、こちらに向けた顔は意外なほど柔和だった。こんな表情ができるくらい心に余裕が生まれたんだな……。

 

「あら。どうしてそのことを?」

 

 するとAZさんとクエーサー社の社長であるジェットさんが顔を見合わせて頷いた。

 

「我々は暴走メガシンカを感知し、通達を送ってエムゼット団に対応をお願いしております。そのため昨日の感知の際、貴女達が対応したことを知ったのです」

 

「私もその件で来たのだが、記者の方が君達を連れて来ると聞いてね。こうして待たせてもらったよ」

 

 スムーズに話を進められるようアポイントを入れてくれてたのか。多少すれ違う形にはなったけど、話を聞く場をセッティングしてくれたんだ。パンジーさんの手際に感謝だな。

 

「プリズムタワーを指定されましたが、つまり我々の推測通りと考えてよろしいのでしょうか?」

 

「AZさんが信頼する人物であれば、情報を公開してよいと考えております。ただ公にすることで混乱を招いてしまう内容なのです」

 

 昨日メガ結晶を破壊した時に聞こえてきた範囲でもクエーサー社への不穏な噂が多数あった。『ミアレを守る会』なんて反発組織があったくらいだし、慎重になるのも分かるな。

 

「人は情報が不足している時に、最悪の想像を重ねることで、パニックを起こします。私は一人のジャーナリストとして、伝えられることは正しく伝えたいと考えています」

 

 パニックになる条件か。そんなこと考えたこともなかったな。それだけ情報に真摯に向き合っていることが伝わってきた。きっとジェットさんも同様のことを感じたんじゃないだろうか。閉じていた口をおもむろに開いてくれた。

 

「分かりました。まず私達もメガエネルギーが何故ミアレで観測されるのか掴めておりません。二年前、AZさんの忠告を受けて調査を行なったところ、プリズムタワーの異変とメガエネルギーの存在を確認しました。それ以降協力をお願いしております」

 

 今のところ不明ではあるが、ほぼ関係していると見て良さそうだな。

 

「また彼の進言に基づき、最強のメガシンカ使いが事態の解決に必要であるため、ZAロワイヤルを開催しました」

 

「ならAZさんにお話を聞くのが早そうね」

 

「ああ、構わないよ。ただその前にカイト。君とセレナのバトルを見せて欲しい」

 

「えっ。俺がセレナさんと?」

 

「頼めるだろうか。示して欲しいのだ。バトルを通して君の強さ、そして信念を。それと……セレナのバトルを記憶に収めておきたいのでな」

 

 なんだろう。表情は変わらず柔らかいけど、どこか寂しげな目をしているように見えた。

 

「そう、いいわよ。私は構わないわ。減るもんでもないし!」

 

 正直動揺していた。もしかしたらエムゼット団と同じくバトルすることはあるかもしれないとは思っていた。ただ、まさかセレナさんを相手として指定されるとはな。果たしてどれほど通用する……?

 

「カイト、考えすぎよ」

 

「え……」

 

「それが君の良いところでもあるし、悪いところ。考えるのは悪じゃない。でも考えすぎは体を縛り付けてしまう。やってみればいいじゃない。答えはいつだってその先にあるわ!」

 

 俺が返答に困ったのとは対照的に大して時間をかけずに言葉が投げかけられた。暴走メガシンカの対応もそうだった。考えるより先にこの人は体を動かしていた。デウロへのアドバイスもそうだった。何かを成すにはまず動かなくては始まらないのだと、ずっと行動で示していたんだ。

 

「……やります! 俺の全力を受け止めてください!」

 

「その意気よ。私も負けないわ。受け止めてみせてね!」

 

 プリズムタワーの影が俺達を隔てた。長く太い影が彼女への距離を遠く感じさせる。俺はそんな彼女に向かって一歩踏み出してみた。

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