転移先がカロス地方だった件について   作:ゾネサー

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(スカイバトルに思い出は)ないです。


思い出のスカイバトル

 フラダリカフェの前で俺達は佇んでいた。店内はかつての盛況が嘘のように閑散としている。ただその割には内装が整っているような印象も受けた。

 

「フラダリカフェ……五年経っても残っているんですね」

 

「フラダリさんやフレア団の名前を嫌う人は今でも多いから、引き取り手が見つからないみたいね」

 

「まったく……失礼な話さ」

 

「……!」

 

 話していると、先程の二人が姿を現した。そして少し距離があるところで立ち止まると、男性の方がメガネを押し上げた。

 

「おや? 一人で来るように指定したはずですが」

 

「いいじゃない。そっちも二人なんだし」

 

 張り詰めていく緊張感に身構えていると、セレナさんは意に介してないかのように普段通りだった。フレア団の基地に乗り込んだ時もこんな感じだったんだろうか。

 

「まあいいでしょう。ヌーヴォカフェのマスター改め、フレア団ヌーヴォのボス。それがこの俺、グリです」

 

 やはりというべきかフレア団絡みか。そんな彼らが、団を壊滅させたセレナさんに絡んできたんだ。俺は警戒を強めた。

 

「残党ってわけですか」

 

「勘違いすんじゃねえ! 残党は残党でも、暴走したフラダリとは違う!」

 

「え……」

 

「落ち着いてください。グリーズはフレア団の悪評で荒んでましてね。まあフラダリの理念はともかく、行いが行いですからね。やむを得ないことではあります」

 

 何も知らず読み取るには難しい複雑な表情だった。それだけ嫌われたフレア団を名乗る以上、分かりやすく悪なのだと構えていただけに意外な部分もあった。だが認めようにもセレナさんへの眼差しがあまりに敵意に満ちていた。

 

「なるほどね。それじゃあ要件を聞きましょうか」

 

「単刀直入に言いましょう。最強のメガシンカ使いの座を辞退し、即刻この街を去っていただきたい」

 

「その理由は?」

 

「あなたは既にカロスエンブレムを手にしている。これ以上は必要ないでしょう」

 

 セレナさんがカロスエンブレム——カロス地方で素晴らしい活躍をした人物に贈られる貴重なシンボル——を取り出した。赤と青を背景にタワーを模した金属製のアクセサリーがセレナさんに影を作る。

 

「ムカつくよなあ。テメェで最終兵器を起動しておいて、解決したら英雄扱いとはね」

 

 主張を聞き届けようかと思ったが、こればかりは我慢ならなかった。

 

「何言ってんだ。あの場にはクセロシキもいたんだぞ。どちらにせよ起動されていただろ!」

 

「笑わせんな。セレナはクセロシキに勝った。なら自分も押さず、クセロシキにも押させない。そういう選択だってあっただろうが!」

 

「ぐっ……!?」

 

 思わぬ反論だった。ゲームの進行上は赤と青のボタンの二択でしかない。しかしここは現実だ。他に選択肢が無かった、というのは通らないか……。さすがにセレナさんも狼狽が見える。ただ思ったほど崩れてはいなかった。

 

「代わりに誰が最強のメガシンカ使いの座を手にするのかしら」

 

「俺がなりますよ。五年前のあなたのように今回の事態を収め、フレア団の汚名を払拭する、と同時に我々が本来抱いていた正義を証明するのです。今度こそ!」

 

「そこまでしてフレア団の名を……?」

 

「捨てることも考えたさ。だが捨てられなかった! ミアレの街も! 私らに他の道はねえんだよ……!」

 

 この人達は……確かな正義を持っている。フレア団、いやフラダリさんはかつては貧しい人々に救いの手を伸ばして、助けていた。あれだけの凶行に及んだ彼を否定しきれないのは、彼が掲げた正義を今でも信じているのかもしれない。

 

「なるほどね。あなた達の主張は分かったわ。でも答えはノーよ」

 

「セレナさん……?」

 

「カイト。私、あなたやAZさんと先に話せて良かったわ。もしかしたら彼らにこそ背負うべき覚悟があるとして、譲っていたかもしれない」

 

 まさに俺の脳裏にも浮かんでいたことだ。このまま彼らに委ねても、それはそれでいいんじゃないかって。

 

「交渉決裂、ですか。やむを得ませんね」

 

「力づくでも首を縦に振らせるだけだよ!」

 

「来るわカイト!」

 

 セレナさんの意図は読みきれない。ただ彼らと戦う意味を感じたんだろう。なら信じて戦うまでだ!

 こうしてお互い一体ずつ出し合い、味方のポケモンが一体でも倒れた時点で負けとなるタッグバトルが始められた。すると冷えたアスファルトの路地が一瞬にして熱気で満たされた。

 

「全員炎タイプ……!」

 

 こちらがヘルガーとマフォクシー。グリはリザードン、グリーズはカエンジシを繰り出していた。しかし驚くのはまだ早かった。全員がそれぞれのリングを掲げ、同時にメガシンカを行った。熱気はさらに膨張し、大量の汗が背中を伝う。メガエネルギーを制御しながら、俺達は目を合わせて頷いた。

 

「『ほのおのうず』でマフォクシーを捕えるのです」

 

「こっちは『ハイパーボイス+』でヘルガーを狙え!」

 

「走って箒に飛び乗れ!」

 

「乗せたら『こうそくいどう』で上に!」

 

 すかさず飛んできた同時攻撃。カエンジシが咆哮と共に空気砲を放つと、ヘルガーは一目散に走って躱し切った。マフォクシーは炎に炙られ顔を顰めたものの、ヘルガーが飛び乗った瞬間に箒の後ろをジェットエンジンのように点火して渦から逃げ切った。

 

「今度はこっちの番だ。『かえんほうしゃ』をカエンジシに!」

 

「効くかそんなもの。『ハイパーボイス+』で迎え撃て!」

 

「カエンジシを乗せてこちらも空へ!」

 

「グリ!?」

 

「『ねっさのだいち+』!」

 

「ぐっ。そういうことか……」

 

 気付かれたか……! ヘルガーの吐いた炎を浴びながらカエンジシが放った反撃は、リザードンが無理やりカエンジシを乗せたことで外れていく。しかし熱を利用した激しい噴き出しも間一髪のところで躱されてしまった。ただグリーズの戦略は見えた!

 

「カエンジシに『いちゃもん』だ!」

 

「今度こそ『ハイパーボイス+』! ……なっ!」

 

 威力から察するにメガカエンジシはノーマル複合のまま。炎同士だと半減だから、もう一つのタイプ一致技で攻めてきていたんだ。ただゲーム的なセオリーだけにそれは読みやすかった。「いちゃもん」をつけられたカエンジシは続けて同じ技を出せず、折角のワザプラスも不発に終わってしまう。

 

「舐めた真似を!」

 

「落ち着いてください。行きますよ。『ドラゴンダイブ』をマフォクシーに」

 

「マフォクシー。箒の向きを右に!」

 

 リザードンがカエンジシを乗せたまま急上昇する。Xにメガシンカしたリザードンは飛行からドラゴン複合に変わり、特性も接触技の威力が上がる『かたいツメ』だ。上を見上げ警戒していると、旋回して位置を合わせ、指パッチンと共に急降下を始める瞬間にセレナさんも指示を出した。

 

「今よ。『こうそくいどう』で躱して!」

 

 再び後方の炎を燃え上がらせて急加速し、完全に位置をずらそうという腹積もりだろう。だが嫌な感覚が走った。上に視線を吸い寄せられるこの感じ……俺は地面を蹴ってローラースケートで下がり、視点を引いた。すると注目を集めるリザードンから離れるように、カエンジシが飛び出していた。しかし急降下と同時でマフォクシーとは位置が全く合わない。このままだと、セレナさんの目の前辺り……!?

 

「渦に向かって『かえんほうしゃ』を!」

 

「ターンしてマフォクシーに『かみくだく+』で喰らいつけ! ……!?」

 

 グリーズと指示が重なった。渦の円周に乗っかるように降りてきたカエンジシだったが、ヘルガーの炎で火力を増し、もはや業火の渦と呼ぶべき代物に乗りきれず、弾き出されて地面を転がっていった。

 

「カイト……!」

 

 前を向くセレナさんの表情こそ窺えなかったが、嬉しそうな声色で喜びが込み上げてくる。

 

「チャンスです! 『バークアウト+』をリザードンに!」

 

「『サイコショック+』で追撃よ!」

 

「くっ。『エアスラッシュ+』で凌ぎましょう」

 

 カエンジシは体勢を大きく崩していた。数的有利をいいことに俺達はタイプ一致技でリザードンを攻め立てる。リザードンはヘルガーの雄叫びから放たれた衝撃波こそ翼を振るった真空波で相殺したが、降り注ぐピンク色のビームをまともに受けた。

 

「立て! あいつを一人にはさせねえぞ!」

 

 このまま一気呵成に攻め立てたい気持ちはあったが、起き上がってくるカエンジシに背後を取られて挟み撃ちのピンチでもあった。セレナさんが狙っていない相手を意識すべきかと逡巡すると、彼女はそんな考えより早く体を動かしていた。口笛を吹いてマフォクシーの視線を向け、自分の方に移動するよう左手を引くと、残った右手を後ろに回して自分の前を指していた。

 

「はっ。今度こそ『ハイパーボイス+』の餌食だ!」

 

「追うのです! 隙を見せたらいきますよ」

 

「屈めヘルガー!」

 

「なっ。メガシンカが……!?」

 

 技を放とうとするメガカエンジシから抜けていく光にグリーズは慌ててリングに目をやる。ワザプラスを多用した代償でメガシンカが解除された……! 前を突き進むマフォクシーの体を盾にヘルガーは「ハイパーボイス」の脅威から逃れる。今だ!

 

「渦に飛び込め!」

 

「くっ。テメェに乗りこなせるかよ」

 

「グリーズ。油断は禁物ですよ」

 

「分かってるよ。こうなったらもう攻撃は受けられねえ。カエンジシ、ジャンプして離れろ!」

 

「いけるわねマフォクシー! 『ねっさのだいち』よ」

 

「……! 今です。『ドラゴンダイブ+』でマフォクシーにとどめを!」

 

 近くまで来た箒から渦の中央へとヘルガーが飛び乗ると、場が慌ただしく動いた。カエンジシは大きく離れ、マフォクシーはこちらを向いたまま地面から衝撃を出そうとし、リザードンは隙だらけの背後を狙い上空から一直線に突き進む。

 

「リザードンに『ほうふく』だ!」

 

「ふっ。今更間に合いませんよ」

 

「それはどうかしら?」

 

「なっ。グリ、あれを!」

 

「バカな……! 味方に攻撃を!?」

 

 どうやら彼らは感じ損ねたようだ。セレナさんが「ねっさのだいち」をワザプラスにしなかった理由を……! 渦の熱気を利用するような強い噴き出しがヘルガーを上空に飛ばした。そして下に突き進むリザードンに横槍を入れるように、土手っ腹を牙で切り裂いていく。

 

「リザードン!?」

 

 体勢を崩したリザードンはそのまま力無く墜落し、戦闘不能を示すようにメガシンカが解けていった。

 

「やりましたね」

 

「うん! カイトもいい動きだったわ」

 

 俺達は笑い合ってグータッチを交わした。動きに関してはまだまだセレナさんに引っ張られていたけど、彼女と真剣に戦ったおかげで少しずつ感じ取れるようにはなっていたのかな。

 

「グリ……」

 

 対照的に彼らは沈んでいた。特にグリはやりきれない気持ちの行き場を失うように茫然自失としていた。するとそんな彼を見て歯を食いしばったグリーズが声を張り上げた。

 

「違う! 私が足を引っ張っただけだ。あんたの力はセレナにだって負けちゃいない!」

 

 確かに今回のバトルはグリーズのミスに付け込み、グリを狙った部分はあった。彼自身のバトルの強さは疑いようはない。ただ、セレナさんがなぜ彼に譲ることをしなかったのか。その理由もバトルを通して伝わってきた。

 

「グリ……さん。あなたはミアレの街を本気で守りたいと考えていますか?」

 

「当たり前でしょう! 俺は本気ですよ。本気で俺の手で事態を解決し、フレア団の名誉回復を……!」

 

「あなたがフレア団のことを想っているのは伝わりました。それ自体はいいんです。それでも街を守ることを第一に考えれば、最強のメガシンカ使いが誰になろうと、選ばれた人を競った相手がサポートする……。それが一番いいはずです」

 

「…………」

 

 グリさんがその座を得たとして、他の者の協力は望まないだろう。結果として事態が収まれば、それでいい。しかしそうでなければ、最悪の結末に繋がってしまう。今の彼には"繋がり"がないんだ。いや、正確に言えば——

 

「グリーズ。あなたに焦りがあったのも、薄々気付いていたからよね。荒れたあなたの心も背負って、グリは贖罪を果たそうとしている。そんな彼を一人にさせまいと必死だった……」

 

「……………まあ、な」

 

「グリーズ……?」

 

「昔のあんたはそんな苦しそうじゃなかった。ひたすらに最強を目指して、ちょっとはいい顔をしてたよ」

 

「そう、ですか」

 

 収まる熱気と共に沈黙で満たされていく。しかしそれは決して冷たいものではなかった。

 

「実際……俺は負けてしまいましたからね。認めなくてはいけないでしょう。セレナ、あなたこそが……」

 

「そうそう。元々私辞退するつもりだったのよ」

 

「なっ!?」

 

 思わず苦笑してしまう。最初に問いかけられた時に言わずにここで告げる辺り、セレナさんらしいというか。

 

「さっきのAZさんの進言を受けて決めたの。ZAロワイヤルを制覇したトレーナー……今のミアレを愛して、未来を作り上げていく人に託すわ」

 

「AZがそんなことを……」

 

 AZさんは元凶である最終兵器を作った本人だ。彼へのグリーズさんの対応を見るに知っているのだろう。簡単には受け入れられず、かといって突っぱねられないようだった。

 

「今すぐに決めなくていいわ。ZAロワイヤルを通して感じてみて、あなたが本当にやりたいことを」

 

「……そろそろセイカやガイもBランクに上がってきますしね。最強の座を捨てるわけじゃありません。しかし、そうすると約束しましょう。グリーズのためにもね」

 

「いいんじゃないかそれで。……あ、それと悪かったなセレナ。色々ひどいこと言っちまって」

 

「いいの。私にとっても逃れられない事実だから」

 

 するとセレナさんがカロスエンブレムを胸に当てながら目を瞑った。どうしたのかと見ていると、少しして開かれた彼女の目がこちらに向く。そして息を一度大きく吸い込んでから、問いかけていた。

 

「一ついいかしら。あなた達なら……パキラの居場所を知らない?」

 

 三人とも目を見張った。ニュースキャスターにして四天王であり、フレア団でもある彼女の名がここで出るとは思わなかった。行方不明になっていたのか。

 

「パキラさん……ですか。仮にもフレア団の仲間です。相応の理由は必要ですよ」

 

「彼女はあなた達とは反対に、ずっとフラダリさんの歪んだ正義を信じているの。私はそれを止められなかった」

 

 胸が痛くなった。セレナさんは殿堂入り後に正体を知らされた。けど、ハンサムとパキラによる司法取引もあって、告発することはできなかった……。彼女にとっては、もう一つの贖罪なんだ。

 

「まあ、あの心酔ぶりを考えりゃそうかもな」

 

「いいでしょう。といっても我々も居場所は知りません。ただし、ラボのエレベータが頻繁に使用されていた時期がありました。恐らくパキラさんでしょう」

 

「キーを持ってるやつなんて限られてるからな。ラボ内で保管してるやつには手がつけられてねえし。ただ用があったのは隠しフロアじゃねえ。あそこはドクタークセロシキが封鎖しちまった」

 

「それじゃあ……地下三階に用事があったということ?」

 

 二人揃ってカフェに目をやる。よりによって最終兵器を起動するボタンがあった場所じゃないか。

 

「あそこには機密情報が保管されていますからね。必要な情報があったのでしょう」

 

「………。どうやら行かなきゃ分からないみたいね。なら……行って確かめるわ」

 

 二人には淀みないような決断に聞こえたかもしれない。しかし彼女らしくなく考え込んだのが分かった。

 

「彼女を追うなら気を付けてくださいね。パキラさんはイベルタルを確保するほどの実力を持っています。そして何より執念深い……」

 

「イベルタル? 最終兵器に囚われていたのはゼルネアスのはずじゃ……」

 

「ゼルネアスの大樹の地下にコクーンモードのイベルタルがいましてね。セレナがゼルネアスを従えた時点で、イベルタルも解放されたはず。しかしイベルタルのその後は誰一人として知らないのです」

 

 イベルタルは破壊を司るポケモンだ。もしパキラがフレア団の歪んだ正義を諦めていなければ、従えているかもしれないということか……。

 

「ま、私らに勝ったあんたらならなんとかするだろ。無事帰ってこれたら、コーヒーくらいなら出してやるさ」

 

「……ええ! もちろんよ」

 

「その時はまた同じものをお願いします」

 

「任せな!」

 

 二人と別れて俺達はカフェに入っていく。そして隠し扉を閉ざす家具の前までやってきた。しかしあれだけ普段通りの振る舞いをしていたセレナさんも、平常心を保っていられないようだった。

 

「カイト……」

 

 なんて冷たい手をしているんだ……。手を握ってもなお揺れは収まる気配を見せない。そりゃそうだ。誰が好き好んで、あの部屋をもう一度訪れようなんて思うものか。

 

「あなたが自分の意思で選んだことを尊敬します。共に乗り越えましょう。俺と、あなたならできるはずです」

 

 揺れは収まりきらない。過去に向き合うからこそ、怖さを抱えたままだった。それでも彼女の手は俺の手が冷えた分、温まっていくのが分かった。

 

「そう、ね。そう信じないと!」

 

 するとセレナさんはカロスエンブレムを「たいせつなもの」に戻し、代わりにエレベータのキーを取り出した。やがてセレナさんが頷き、俺達は声を張り上げた。

 

「「ひらけ ゴマ!」」

 

 立て付けが悪くなっているのか、家具が音を立ててスライドしていった。現れた通路の奥には暗闇が広がっている。その先に光があると信じ、俺達は飛び込んでいった。




Q:もし新規メガ勢の特性が判明して描写に矛盾が生まれたらどうしますか?
A:笑ってごまかすさあ!

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