うちはイタチ…再び陰として生きる   作:ペリカン96号

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第10話 須佐能乎

聖域…

 

円柱を横倒しにした、機械仕掛けのような、それでいて灰色が支配する場所であった。

 

この地は、英雄オリヴィエが倒した魔神ディアボロスの左腕が封印された地であった。

 

アルファ達シャドウガーデンは、ディアボロス教団によって闇に葬られた歴史の真実を探りに来たのだ。

 

その一つが、ここにある英雄オリヴィエの像が示していた。

 

「英雄オリヴィエ…男性のはずでは?」

 

ローズは、非常に困惑した様子で口を開く。

 

この世界において、英雄オリヴィエは男性であるというのが通説であり、歴史だったからだ。

 

しかし、それはディアボロス教団が捻じ曲げた歴史であった。

 

「我々はおおよそのことは理解している…歴史の真実も、教団の真の目的も。そしてなぜこの英雄が…」

 

アルファのスライムでできた黒いフードが消え、その容姿が明らかになる。

 

「私と同じ顔をしているのか…」

 

「貴様はエルフの悪魔憑き…?だが、適応できず死んだはずでは…」

 

「やはり知っているな!」

 

アルファの顔を見て、ネルソンが酷く狼狽して見せると、その両腕を背中に回して拘束しているイプシロンが、低く唸るようにして咆える。

 

オリヴィエとアルファ…その容姿は、確かに非常によく似ている。

 

「(しかし、シドの作り話が、ここまで本当だったとはな…。実際に見ても信じられんな…)」

 

イタチは、別の意味で心底驚いていた。

 

アルファは続けて、像に手をかざす。

 

すると、イタチが扉を開いた時と同じように赤い紋様が浮かび上がり、封じられていた門が開かれる。

 

「かつてこの地で、大きな戦いがあり、幾多の命が散った…」

 

聖域内は一気に明るさを有する。

 

「バカな…なぜ稼働する⁉」

 

「ここは、古の記憶と魔神の怨念が眠る墓場…」

 

アルファの横に、像とよく似た女性の姿が見られる。

 

皆がその姿に驚愕し、大きく目を見開く。

 

「オ、オリヴィー⁉」

 

一番の驚きを見せるのは、拘束されているネルソンであり、その額には多大な汗が滲み出ている。

 

「さあ、おとぎ話の世界へ旅立ちましょう…」

 

アルファはそう言って、オリヴィエと共に光の中へと姿を消す。

 

続けて、イタチ達のいる場所もその光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

アルファ達が飛ばされたのは、英雄オリヴィエの記憶の中であった。

 

そこでは、且つて身寄りのない子どもたちが集められ、ディアボロス細胞の適合実験が行われていた。

 

しかし、その多くが適合できず、見るも無残な姿で死に絶えた。

 

適合できたのはほんのわずかな、女の子だけであった。

 

その過程で生じる反応が、悪魔憑きである。

 

英雄オリヴィエもその一人…。

 

彼女は、最初にディアボロス細胞に適合した少女だった。

 

ディアボロス細胞によって力を得たオリヴィエは、魔神ディアボロスの左腕を切り落とすに至る。

 

その後、ディアボロス教団はその左腕を研究し、数多の失敗をしながらも、ある成果を得る。

 

それが、ディアボロスの雫。

 

飲めば不老不死になるという、神のような薬であった。

 

だが、現状ではそれは定期的に摂取しなければならず、且つ年にたった12滴しか採取できないというものであった。

 

…偶然にも、教団の最高幹部であるナイツ・オブ・ラウンズの数と一致する。

 

ディアボロス教団の目的は、この雫を完成させること…。

 

そのために必要なのが、封印されたディアボロスの身体と英雄の子孫…。

 

つまり、アルファのような英雄の血を色濃く受け継いだ者であった。

 

「…そうよね?第11席殿?」

 

アルファの説明に、ネルソンは表情を強張らせる。

 

「ふっふ…。教団では誰もがその雫から得られる力と永遠の力を求める…」

 

ネルソンの眼が真っ赤に染まり、急激な力を解放する。

 

その力は両手の拘束を解くに至る。

 

「いかにも、私は選ばれたナイツ・オブ・ラウンズ!強欲のネルソン…ぐおっ!」

 

威厳ある声と動作で宣言するも、後ろから襲ってきた黒いスライムに身体を貫かれ、鮮血を吹き出す。

 

デルタがネルソンの心臓を突き刺したようだ。

 

ネルソンはゆっくりと脱力し、死に絶えたように沈黙する。

 

デルタはそれを持ち上げ、真下にある水場へと落とす。

 

…イタチやアルファ、アレクシア達は、それを表情一つ変えずに眺めていた。

 

ネルソンが落ちた水場が、ジワリと赤く染まる。

 

デルタは満足げな様子を見せるが、後ろにいるイプシロンが呆れた様子で視線を向けていた。

 

「デルタ…殺すのは情報を全て聞き出した後と言われていたでしょ?」

 

「はッ!!」

 

デルタは、しまったと言った様子で、アルファへと視線を送る。

 

イタチも思わず小さくため息をつき、呆れかえっている。

 

アルファの視線は、些少の鋭さを有していた。

 

「すいません、アルファ様!でもデルタはあいつは狩った方がいいと思ったのです!この前山でイノシシを…」

 

「黙りなさい」

 

「ひぃ…」

 

アルファの低く唸る声に、デルタはその場で耳を隠してしゃがみ込む。 

 

「それと、いつも言っているでしょう?」

 

デルタは、きょとんとした顔で、再びアルファを見つめる。

 

「獲物を仕留めたかはちゃんと確認しなさい」

 

アルファがそう言い終えた瞬間、ネルソンが落ちた水場が一気に巻き上がり、肉塊のようなものがモゴモゴと発生する。

 

その肉塊のてっぺんには、巨大化したネルソンの姿が見られた。

 

「うわーはっはっはー!!」

 

ネルソンは高らかに笑い声をあげながら、聖域の防衛システムを稼働させる。

 

イタチ達のいる空間に、強大且つ多数のひび割れが生じ、再び光が支配した。

 

 

 

 

 

 

「これは…」

 

イタチは、先ほどとは違う空間へ飛ばされたことで、些少の驚きを有する。

 

「…分断されたか」

 

自身の周りには一切の生命体反応も、魔力も感じ取れない。

 

それどころか、自身の魔力すら異常性を生みだしていた。

 

「…学園の時と同じか…。魔力がすぐに四散する…」

 

イタチが今いる場所は、非常に奇妙な場所であった。

 

空間の形は丸く、しかし壁の一部が黒い扉のような形を成しており、それは数多の魔法の鎖で封じられている。

 

その扉の前には、あからさまに『これで壊してください』と言わんばかりの、輝かしい剣が地面に刺さっていた。

 

「…単純に考えれば、これで鎖を断ち切れってことなんだろうが…」

 

イタチが触れると、警告音と共に、赤い文字が浮かび上がる。

 

古代文字で書かれたそれは、イタチの知識をもってしても読み解けない。

 

だが、手段がないわけではない。

 

イタチは一度両目を閉じ、再度開く。

 

写輪眼を発動した瞳は赤く輝き、その瞳力によって古代文字を読み解く。

 

「…抜けるのは、英雄の子孫のみ…アルファか…」

 

だが、この場にアルファはいない…。

 

どうしたものかと顎に手を当てていると、上空に2つの気配を捉える。

 

「うおー」「きゃあッ!」

 

男女のペアのようであった。

 

案の定、落下してくる。

 

男の正体を一瞬で捉えたのち、イタチは即座に女の方へと手を差し伸べる。

 

イタチは落ちてきた女を両手で抱え、ゆっくりと地面へ降ろす。

 

「ありがとう…あら、あなたは…」

 

「あのさ…僕は助けてくれないの?」

 

女は妖艶な笑みを浮かばながら、男は地面に伏し、ジトっとした視線をイタチへと向ける。

 

「シド…お前は死んでも死なんだろう」

 

「まあ、ね。イタチさんはなんでここに?」

 

「さあな。気付いたらここにいた」

 

「僕と一緒だね」

 

シドはゆっくりと立ち上がりながら、服の汚れを落とすようにパンパンと手で払って見せる。

 

そんなシドを横目に、イタチは先の女へと視線を向ける。

 

「…アウロラ…だったか?」

 

「ええそうよ…。イタチ…でいいのかしら?」

 

「ああ」

 

「そう…戦い、楽しかったわ…。それに、ようやくまともな人に出会た」

 

アウロラのどこか安堵感のある言葉に、イタチは酷く共感を覚える。

 

恐らく、ここに至るまで、散々シドに振り回されてきたのだろう。

 

「でも、力は彼と同等ね…あのまま戦っていたら、どのみち私は負けていたわ」

 

「…力の殆どを封じられていて、よくそんなことが言えるな」

 

「あら…それはあなたもでしょ?まあ、あなたの場合は、自ら封じているみたいだけれど…」

 

「なるほど、全てお見通しか」

 

アウロラとイタチが淀みなく会話のキャッチボールをしていることで、シドは些少の不満を抱いていた。

 

「仲がいいのはいいけどさ、ここはどこなの?」

 

「ここが目的地よ…」

 

シドの疑問に、アウロラは些少の笑みを浮かべながら答える。

 

「ふーん…となると、この扉の奥に、壊すものがあるってこと?」

 

「そう言うことになるわ…」

 

「…悪いが、全く話が見えん」

 

「ああ、そっか…。魔力の核?がこの扉の奥にあるみたいで、それを壊せば、ここから出られるみたいなんだ」

 

イタチの疑問に、シドはなんとなく記憶をだどりながら答える。

 

「そうか…だが、その剣は抜けんぞ?」

 

「ああ、やっぱり?あからさまにこれが扉を解放する鍵っぽいけど、同じくあからさまに勇者とか英雄とかしか抜けないって感じするもんね」

 

シドの言葉に、イタチは大きく目を見開く。

 

この男は、何も考えずして、最適解を出すことが多い。

 

イタチがその結論に至ったのは、写輪眼で古代文字を読み解いたからである。

 

しかし、シドはその剣を一目見ただけで、この状況を正確に読み取っていた。

 

「(天才…でないことは確かだ…。だが、何かしらの知識は持っているということか…はたまた偶然か…)」

 

もう何度目になるのかわからないシドの、まるで初めから作られたような状況に、イタチは大きくため息をつく。

 

「でもさ、剣も使えなくて魔力も使えないとなると、壊すのは無理だよね?」

 

シドの言葉に、アウロラはあからさまにしょんぼりとした表情を浮かべる。

 

「いや、そうでもない」

 

「え?どういうこと…あれ?その眼…。なるほど、チャクラは使えるのか…気付かなかった」

 

シドは、且つてイタチから分けてもらったチャクラを、その掌に展開する。

 

球状の手のひらサイズの球は、乱回転を起こしながら青白く光っている。

 

「チャクラ…?魔力みたいなものかしら?」

 

「まあ、似たようなものだが、原理は全く別物だ」

 

「そうみたいね…同じだったら、魔力の核があるこの場で使えるはずないもの…」

 

アウロラは、自身の知らない力に、興味津々と言った様子であった。

 

イタチは、アウロラの魔力が使えないという言葉に同意をしながらも、シドが閉じた右目の奥にその揺らぎを感じ、小さく笑う。

 

シドの考えを、直接聞こうとしたその瞬間、イタチ達のいる空間に、赤黒い扉が現れる。

 

「来た!主人公⁉」

 

「…主人公?知り合いか?」

 

シドの歓喜が滲む声に、イタチが疑問を投げかける。

 

…現れたのは、神々しい頭皮をもつ、ハゲであった。

 

「…ネルソン」

 

「イ、イタチ⁉なぜ、貴様がここに…⁉」

 

イタチの姿を捉えたネルソンが、酷く狼狽した様子を見せる。

 

「…あのハゲ、誰?」

 

「…ディアボロス教団の幹部だ…」

 

「へえ…」

 

「誰がハゲだ!!……貴様は誰だか知らんが、アウロラがいるのを見ると、唆されたのだろう?哀れなガキだ!…オリヴィ!」

 

ネルソンが傍に控えるオリヴィエに声を掛けると、イタチ達に向けて剣を向ける。

 

「あの子は?」

 

「オリヴィエ…かつてディアボロスを撃退した英雄だ」

 

「…なんかアルファに似てるね」

 

「アルファの先祖にあたるらしい」

 

「へー、そうなんだ。どおりで…」

 

シドとイタチが、酷い位に冷静に言葉を交わしていることで、アウロラは困惑している。

 

「ちょっと!そんな悠長なことを言っている場合じゃないわよ!」

 

「え?」

 

アウロラの困惑に、シドが疑問をもって短く答える。

 

「あれは強い…。それこそ、魔力を封じられている状態じゃ絶対に勝てないほどに!」

 

「うん、それはわかるよ…」

 

「だったらッ!」

 

「でも、まあ、あともう少しで何とかなりそうだし」

 

「はぁ?」

 

シドの意味の分からない発言に、アウロラは些少の怒りを生みだす。

 

その発言の意図を理解したイタチは、一歩踏み出してシドへ視線を向ける。

 

「なら、準備ができるまでの間、時間稼ぎは引き受けよう」

 

「え?…別にいいよ」

 

「ダメだ」

 

「……わかったよ、ここは譲る」

 

イタチの抑揚のない、しかし反論を許さない雰囲気に、シドは早々に身を引く。

 

1ミリも焦りを見せないイタチとシドに、ネルソンは遂に我慢の限界を迎える。

 

「何を訳の分からないことを!オリヴィ!あいつらを殺せッ!」

 

ネルソンの指示のもと、オリヴィエが凄まじい速度でイタチ達へと迫る。

 

そして、剣を振るう。

 

しかし、謎の赤い力によってそれは防がれる。

 

「な、何ッ!」

 

魔力が封じ込められているこの場で、魔力と思しき力を発動したイタチに、ネルソンは酷く困惑する。

 

その赤い魔力らしき力は、骨のようなものを形成しており、それがオリヴィエの攻撃を防いだようだ。

 

「な、何だそれはッ!そ、それに、なぜ魔力が使える!!」

 

「これは魔力じゃないよ」

 

ネルソンの疑問は、シドが冷静に答えて見せる。

 

「何ッ!」

 

「こ、これがチャクラ…?」

 

ネルソンだけでなく、傍にいつアウロラもその力に魅入られるようにして驚く。

 

「これは、万華鏡写輪眼の力の1つ…。須佐能乎って言うんだ」

 

「……なんでお前が説明しているんだ…」

 

シドの力の入った説明に、イタチは呆れた様子で口を開く。

 

イタチの須佐能乎は、その後腕を一本形成し、攻撃を続けるオリヴィエを一撃で壁へと吹き飛ばす。

 

「バカなッ!オリヴィエが…一撃…⁉」

 

真っ赤で巨大な骨の胸骨と見られるものを身に纏いながら、こちらを一瞥してくるイタチに、ネルソンは恐怖を覚える。

 

「く…くそッ!だが…コピーを一体斃したくらいで、いい気になるんじゃない!!」

 

ネルソンが大きく手を振りかぶると、壁から数えきれないほどのオリヴィエが出現する。

 

その数優に100を超える。

 

流石の数に、アウロラが一歩後退して見せる。

 

「こ、これはさすがに…逃げましょう!」

 

イタチとシドに放った言葉は、2人には届いていないようであった。

 

「逃げる?その必要が何処にある?」

 

シドが、ドスの利いた声、シャドウとしての声を発する。

 

急に声色が変わったシドに、アウロラは引きつったような表情を見せる。

 

だが、声に大きく反応して見せたのは、ネルソンであった。

 

「そ、その声…まさか、貴様がッ!!…オリヴィ!!」

 

100体を超えるオリヴィエが、イタチ達に襲い掛かる。

 

だが、その全てが届かない。

 

「こ、これは…ッ!」

 

「巨人…?」

 

イタチの放つ須佐能乎は、骨ではなく、肉体を持った巨人のような様相をしていた。

 

先ほどの胸骨だけの状態よりもはるかに大きく、それは傍にいるシドやアウロラすらも包み込む大きさであった。

 

「おぉ、須佐能乎第二形態か…見るのは3年ぶりだね…」

 

「だ、第二形態…⁉こ、これ以上の形態があるというの?」

 

シドのどこか懐かしそうな発言…。

 

だが、その力に包まれているアウロラは、驚愕をもって唇を震わせる。

 

大量のオリヴィ達は、諦めることなくイタチの須佐能乎に攻撃を仕掛けるが、その全てが弾かれ、無に帰している。

 

「オ、オリヴィが手も足も出ないだと…そ、そんな馬鹿なことが…」

 

ネルソンは、冷や汗をたらたらと流しながら、一歩二歩と後退していく。

 

そんな折、シドがふっと笑う。

 

「イタチさん、お待たせ…準備できたよ」

 

「…そうか」

 

瞬間、シドは、ずっと閉じていた右目をカッと開き、圧縮し、練り上げていた魔力を解放した。

 

シドの眼には、その証拠とも言える、青紫色の炎に似た魔力が生まれていた。

 

 

 

 

 

シドが突然、常人ならざる魔力を纏ったことで、ネルソンは動揺の色を顔に浮かべる。

 

「な、何故……何故貴様も魔力が使えるッ!?」

 

「練った魔力が吸い取られるなら、吸い取られないほど強固に練れば良い。簡単な話さ…」

 

「……簡単、なの?」

 

「…俺に振るな…。あいつが異常なだけだ…」

 

イタチはアウロラの問いに、苦笑いに似た表情を浮かべながら、小さく呟く。

 

「そ、そんなことができるわけが…オリヴィ!!早く奴らを殺せぇッ!!」

 

イタチの発動している須佐能乎よりも、更に濃密な魔力に、ネルソンは大量の汗を流しながら狼狽える。

 

しかし、先ほどまでと同じように、イタチの須佐能乎を破ることはできない。

 

「シド…何をするのかはなんとなくわかるが…俺は巻き込まれないんだろうな?」

 

「………」

 

「おい…」

 

イタチの質問に、シドは一切答えない。

 

イタチの考えでは、シドは封じられた扉の奥にある魔力の核ごと、この聖域ごと吹き飛ばそうしていると捉える。

 

となると、シドがやろうとしていることはただ一つ…。

 

「アウロラさんは霊体みたいなものだから問題ないとして、イタチさんは、僕のこれ、防げるよね?」

 

「……はぁ……広範囲のものはよせよ?」

 

「うん」

 

イタチの回答で、シドは納得を見せ、軽い笑みを浮かべながら、放出している魔力を跳ね上げた。

 

「な、なに…何をしようとしているのッ!」

 

アウロラが狼狽して見せたその瞬間、圧縮された魔力が弾けた。

 

爆発的に増えた青紫色の魔力が部屋を覆い、イタチ以外のものの思考を止める。

 

ネルソンも、アウロラも、ただ呆然と立ち尽くしていた。

 

圧縮された魔力は、シドの持つ黒いスライムソードへと集約を見せる。

 

そして、詠唱が始まる。

 

それは、イタチがこの世界で最も危険視している力の詠唱であった。

 

「アイ…」

 

「…アム…」

 

「…ジ・オールレンジ…」

 

「……アトォミィック♡」

 

瞬間、世界が青紫の魔力に包まれ、静止した。

 

 

 

 

 

 

聖地リンドブルムの闘技場から離れた位置にある時計台の上で、アルファはこの上ない笑顔を見せていた。

 

先ほどまでいた闘技場、その位置に、眩いばかりの青紫色の魔力が天を突くほどの勢いで放出されていた。

 

その魔力は、間違いなくアルファが尊敬の念を抱いているシャドウのものであり、その力は聖域ごと吹き飛ばすほどの威力であった。

 

加えて、その青紫の魔力全体を覆うようにして、まるでその力を内へ内へと圧縮している深紅の魔力も見て取れる。

 

それは、自身でも理解しているほどの重い愛情を抱いている、イタチの魔力であった。

 

「シャドウ…シスイ…あなた達は一体どれほどの…」

 

喘ぎ声に似た声を、アルファは魔力の柱を見ながら呟く。

 

自分たちが仕留めきれなかったネルソンの始末…。

 

現状様子見と判断するしかなかった魔神ディアボロスの左腕…。

 

その他、聖域に存在するディアボロス教団の資産や研究資料…。

 

シャドウとイタチの力は、その全てをアルファ達がやり残したその全てを、たったの一撃で無に帰した。

 

それが正しい判断と考えたのだろう。

 

これを笑わずに、歓喜の声を上げずにいられるであろうか…?

 

アルファは、後ろに控える他のシャドウガーデンの存在には目もくれない。

 

きっと、彼女たちも、抱いている感情、見ている情景、思考は同じなのだから…。

 

 

 

 

 

聖地リンドブルから少し離れた位置にある山林…。

 

アレクシア、ローズは、その位置から、視界を青紫色の魔力が支配するのを呆然と見つめていた。

 

その魔力には、深紅の魔力も見て取れる。

 

それは、何やら他の力も混じり合っており、誰の魔力であるのかを理解できるのは、この場では1人しかいなかった。

 

その一人であるカフカは、2人とは対照的に、恍惚とした笑みを浮かべていた。

 

「これは…なに…」

 

震える声で、非常に小さな声で、ローズが呟く。

 

「シャドウ…シャドウの力よ…」

 

「こ、これが…シャドウの…ッ!」

 

力なく呟いたアレクシアの返答であったが、ローズはそれを聞き逃すことなく、しかし表情を変えずに応える。

 

「イ、イタチさん…は…」

 

その魔力に、飲み込まれたら絶対に助からないであろう力に、ローズは未だ合流を果たせていないイタチへの想いが生まれる。

 

「彼なら大丈夫でしょう」

 

ローズの心配は杞憂であると、カフカはバッサリと斬り捨てる。

 

「ッ!あれに巻き込まれたら!いくらイタチさんと言えどッ!」

 

「巻き込まれてはいませんよ…既に脱出しているものかと…」

 

「…何か根拠があるの?」

 

アレクシアは、カフカの非常に落ち着いた雰囲気に、苛立ちを隠せない。

 

「ありません…。ですが、大丈夫です」

 

「ッ!その保証が何処にあるというのですか⁉」

 

イタチへ只ならぬ想いを寄せているローズは、思わずカフカへと怒号を浴びせる。

 

その怒号と同時に、天を突かんばかりの魔力が、収縮を見せ、掻き消える。

 

「ローズ先輩!」

 

「アレクシアさん…ッ!」

 

魔力の奔流が終わりを見せたことで、アレクシアとローズが互いに目で語り合い、行動を開始しようとする。

 

「危険ですよ」

 

「ッ!敬愛する殿方のためです!どんな危険でも負いましょう!」

 

「イタチに死なれたら、誰がシャドウを止めるって言うのよ!…怖いならあなたはここにいなさい!」

 

カフカの制止を無視し、2人は森林を抜け、聖地へと戻ろうとする。

 

アレクシアの挑発に、ローズの発言に、異議申し立てをしたい気持ちを抑えながら、カフカは口角を震わせる。

 

「御守も仕事よ…ベータ…」

 

そう小さく呟き、カフカは2人の背中を追った。

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