選択肢を増やしてもなお接戦で、私自身も悩みに悩んでいるのですが、接戦とはいえ差はありますので、ブシン祭編は以下の流れで書き進めようと思います。
『イタチはブシン祭に参加せず、ローズ王女主体で物語を進め、且つ父である国王を救出する』
そんな…ブシン祭で戦うイタチが見たかったのに…。
という読者の皆様には大変心苦しくはありますが、ご理解いただけますと幸いです。
※もしかしたら、完結後にIFで書くかもしれません。気長にお待ちいただければ幸いです。
眩いほどの魔力の奔流に揉まれながら、再びイタチが目を見開くと、そこは山林の中であった。
周囲から感じる魔力反応から、聖域から出たことを把握する。
しかし、傍にシドもアウロラもいないようであった。
まあ、アウロラに関しては霊体らしいので、聖域が吹き飛んだ時点で目に映らないのは当然と言えば当然ではあるが…。
「(…災厄の魔女アウロラか…)」
イタチは、近くの木へと背中を預けながら、神妙な表情を浮かべる。
アウロラの容姿というよりは、彼女の行動と聖域に存在するという事実、そして先のオリヴィエと対峙した際の反応から、イタチは一つの仮説を見出す。
「(彼女が魔神ディアボロス…という可能性もあるか…)」
イタチは、バラバラのパズルのピースを一つずつ組み合わせるようにして思考する。
「(悪魔憑きから、最終的に魔神へと成り果てた…と考えれば全ての辻褄が合う…)」
仮説に仮説を重ね、更に考えを深めようとしていたが、背後を通り抜けるように走って向かってくる、記憶にある魔力3人組を捉える。
「…どこへいく?」
「「「ッ!!」」」
3人組からすれば、突然山道脇から声を掛けられたのだから、驚くのも当然であろう。
しかし、その人物が誰であるのかを察した1人が、目に涙を浮かべる。
「イタチさんッ!!」
その少女は、長く伸びた縦ロールの金髪を揺らしながら、イタチの正面へと周り、力強く抱きしめる。
「無事でよかった…ッ!」
「…あ、ああ…」
金髪縦ロール少女…ローズの柔らかい身体の感触をその身に受けたイタチは、些少の困惑を露にする。
イタチとローズの抱擁に、特に驚いた様子を見せない銀髪性悪少女アレクシアが、ふっと笑みを漏らす。
「…よく無事だったわね」
「…なんとかな」
シドとの混浴を目撃した騒動から、イタチとアレクシアは比較的フランクな関係性を築いていた。
「あの、ローズ王女?イタチさんが困っていますから、離れて頂けますか?」
表情を引きつらせながら、カフカが不穏な笑顔をもってしてローズに話しかける。
「イタチさんは私との抱擁を嫌がったりなどしませんわ」
あれだけ大ファンだと公言していたカフカに一瞥もくれず、イタチの胸へと顔を預けている。
カフカは、取り繕っていた笑顔がはがれかける。
それを見ていたイタチは、仕方ないとばかりにローズの両肩に手を置き、ゆっくりと引き剥がす。
イタチに肩を触れられた嬉しさと、身体を引き剥がされたことによる名残惜しさに、ローズは『あっ…///』と吐息を漏らす。
「…君たちも無事なようで安心した」
「は、はい…おかげさまで…」
イタチの柔らかく温かい言葉に、ローズは抱擁していた時よりも更に顔を赤く染める。
暫く見つめ合っていた2人であったが、アレクシアがそれを終わらせるように口を開く。
「イタチ…あなたに聞きたいことがあるわ」
アレクシアからの質問に、イタチは特に驚いた様子を見せることなく、彼女を視界に捉えた。
「あなたは、シャドウガーデンのことを、ディアボロス教団のことをどこまで知っているの?」
「そうだな…アレクシア達と変わらない程度…と言ったところだな…」
「そう…。ねえ、イタチ。あなたは悔しくないの?」
「…どういう意味だ?」
アレクシアの質問に、イタチは疑念を含めてそのまま返す。
「それほどの力を持っているあなたでも、奴らについて、世界の裏側について知りえていることが少ないということを…」
「…まあ、俺はただの流浪の魔剣士だからな…。世界の情勢についてはあまり興味がない」
「…私は悔しいわ…。私たちは、何もできなかった…。あなたのように力もないし、何も知らない…。何が正しくて、何が悪なのかさえ…」
アレクシアの苦悶に満ちた言葉は、ローズも感じるところがあるのか、真剣な様相で聞き入っている。
「このまま何もしなければ、気付かぬ間に大切なものを奪われてしまう…そんな気がするの…」
「…アレクシアさん…」
「…なら、どうする?」
もがき苦しむようなアレクシアの表情を見て、イタチは鋭いまなざしを向ける。
だがその眼差しには一切の嘲笑はなく、ただ一人の少女の決断を聞き及ぼうとしている目であった。
「…協力しない?私達4人で…。そうすれば必ず何か見えてくるはずよ」
「協力…?」
アレクシアの提案に、カフカは怪訝な表情を浮かべる。
「イタチはシャドウと渡り合えるほどの力を持っているし、私はミドガル王国の王女。ローズ先輩はオリアナ王国の王女…。ナツメ・カフカ…あなただって作家としての人脈やコネがあるんでしょ?…4人で協力して情報を集めるの」
「…情報を集めてどうなさるのですか?」
「情報次第だけど、4人で協力して戦えないかって…仲間を集めたり、拠点の確保…はいいか…」
「はぁ…具体性のかけらもないですね…」
カフカが大きくため息をつく。
それと同時に、イタチもふっと笑いを浮かべる。
「なによ!何か文句があるわけッ!」
カフカとイタチの様相に、アレクシアは苛立ちを露にする。
「いや、そうじゃない…」
「じゃあなによ…」
イタチの意味深な一言に、アレクシアは怪訝な様子を浮かべる。
イタチは、弟のとある親友の顔を思い浮かべながら、そっと口を開く。
「…君は、考えなしに一人で突っ込みかねないと思っていた、その予想が外れて、おかしかっただけだ…」
「バカにしてるの?」
「まあ、そんなところだ…」
「ッ!あんたねー!ちょっと強いからって…」
「協力しよう」
「…え?」
イタチの言葉に、アレクシアはきょとんとした顔を浮かべる。
カフカは、『えッ!』とギョッとして驚いていた。
「協力すると言っているんだ」
「ほ、本当に?」
イタチの回答は、アレクシアの予想に反していたのか、驚愕を表情に生んでいた。
「もちろん、私も協力させて頂きます!」
イタチが肯定したことで、一切の迷いがなくなったのか、ローズも力強く答える。
「…いいでしょう…。私も協力します」
カフカは、イタチに困惑した目線を送りながら、アレクシアの要請に応える。
「決まりね!…これで私たちは仲間よ…。国も立ち場も力も違う…。腹の中で何考えてるかわからないのもいるけど…。私は仲間だと信じてる」
…俺のことであろうか?いや、恐らく違うな…。
とイタチはアレクシアの意思表明を聞きながら思う。
「イタチさんと共に、世界の真実を暴く…。…伝説の始まりですね!」
…さて、この子の想いをどう扱うべきか…。
イタチは少しだけ目を細め、バレない程度にため息を吐く。
「…足手まといがいるのは残念ですが、勇者と賢者、従者が揃いましたね」
カフカは満面の笑みを浮かべながら、しかし不穏な様相を見せる。
…予想は的中していたようだ。
「足手まといは貴方よね?」
カフカの笑顔に、アレクシアも笑顔で答える。
ふふふっ!と笑う3人娘を見て、イタチは手を組んだことに、少しだけ、ほんの少しだけ後悔したとかしなかったとか…。
聖地リンドブルムでの作戦から2週間が経過したころ…。
ミツゴシ本社で休暇をとっていたイタチは、アルファからの報告を受け、アレクサンドリアへと足を運ぶ。
報告の内容は、『アレクシア王女誘拐事件の際に、あなたが救った少女が目を覚ましたわ』というものであった。
アルファとしては、ただ目を覚ましただけであれば、わざわざイタチに報告をするつもりはなかった。
だが、その少女が救ってくれた人物を探し求めるように泣き叫び、落ち着きのない様子を見せていたことから、報告するに至る。
アルファの力と、イータの技術をもってしても、その様相を収めることができないというのだから、イタチも内心驚いている。
特に暴力的な行動に出ていないというのだけが、救いではあったが…。
アレクサンドリアへ着いたイタチは、アルファと合流し、事の経緯を聞く。
「で、どういう状況なんだ?」
「一言でいえば、錯乱ね…。教団から随分と惨い実験を繰り返されていたのでしょう…」
「…そうか」
イタチは、自身の胸の奥で不快感が生まれるのを感じる。
「そもそも名前は?」
「名前はミリア…。彼女が首から掛けていたペンダントに、名前が彫られていたわ…」
アルファは、そのペンダントに父の名前も刻まれているのを知りえていたが、それをあえて伏せる。
イタチとミリアへ無理な負担を強いる、と考えてのことであった。
「ミリアか…」
アルファは、些少の緊張感を抱いて、横を歩くイタチへと視線を送る。
何か考え込むような様子を見せているが、アルファの意図に気付いてはいない様子であった。
…いや、気付いているが、あえて指摘しない、と言った方が正しいのだろう。
とにかく、怒りを抱いているわけではないようで、アルファは小さく胸を撫でおろす。
イタチは、一際騒がしい部屋の一室の前に立ち、アルファに声を掛ける。
「ここか?」
「ええ…」
アルファの短い返答に、イタチはゆっくりと扉を開く。
同時に、喧騒にも似た悲壮感溢れる様相が目に入った。
「どうして、どうして、どうして、どうして…」
長い銀髪を有した、可愛らしい少女が、ベッドの上で膝を抱えて座っている。
「どこ、どこ、どこ、どこ…」
その瞳は光を失い、絶望が支配している。
イタチはそんな少女、ミリアの様子を見て、苦悶に似た表情を浮かべると、ゆっくりと彼女へと近づく。
「ッ!誰ッ!」
ミリアからすれば、見知らぬ男が現れたことで、酷く怯えた様子を見せる。
このアレクサンドリアには、イタチとシドを除けば、男が足を踏み入れることはまずない。
故に、自身の身体を取り戻し、目を覚ましてから男と関わっていなかった。
加えて、教団にいる頃には、男どもに実験体にされてきたとなれば、その怯えも当然と言える。
「来ないで!!」
ミリアは、近くにある枕をイタチに向けて投げ飛ばす。
その枕をイタチは首を傾け、難なく避ける。
ミリアは、歩みを止めないイタチに向けて、バラ色の魔力を解放する。
「…ッ!来るな!!!」
その魔力の質と感覚に、イタチは目を見開く。
アルファは、イタチを守るように前に躍り出ようとするが、イタチがそれを手で制する。
「…なるほど、目覚めたばかりで俺の魔力をこうも精密に…」
「ッ!」
イタチの発言に、ミリアは一瞬動揺して見せる。
イタチは、彼女に自身の正体を明かそうと、彼女が恐怖しない程度に魔力を解放する。
解放された魔力は、深紅の色を有していた。
…ミリアが一瞬にして解放していた魔力を抑える。
「あ…あぁ…」
光を失っていた瞳が、徐々に輝きを取り戻す。
ミリアは知っている…。
この魔力を、この感覚を…。
震える身体でよろよろとイタチへ歩み寄る。
「…無事に目が覚めて何よりだ…。ミリア」
「あ…あなたが…あなたが…私を…ッ!」
光を取り戻した瞳から、滝のように涙が溢れている。
ミリアは、イタチの胸へ頭を預ける。
イタチは、ミリアの身体を優しく抱きとめる。
「よく頑張ったな…もう大丈夫だ」
自身を救ってくれた、その声をミリアはしっかりと覚えていた。
「王子様…私の…王子様ッ!!」
まるで親を見つけた幼子のように、ミリアは泣き叫びながらイタチを強く抱きしめた。
目覚めてから数日、発狂と精神異常をきたしていたミリア。
しかし、今は嘘のようにイタチの膝に頭を預けながら、スゥスゥと寝息を立てている。
イタチは、そんな可愛らしいミリアの頭を優しく撫でながら、笑みを浮かべて眺めている。
「…優しいのね、あなたは」
ベッドへと座っているイタチの隣に、アルファも腰を下ろす。
「当然のことをしているまでだ」
「…あなたにとっては当然でも、私たちにとって特別なのよ?」
イタチの飾り気のない言葉に、アルファは微笑む。
そして、アルファは顔を赤らめながら、ゆっくりと頭をイタチの肩に預ける。
「…アルファ?」
「なに…?」
イタチのそれは、何をしているんだ?という意図を持ったものであったが、アルファは惚けるようにして反応する。
「……いや、なんでもない」
それを察したのか、イタチはそれ以上何も口にせず、暫しの沈黙が部屋を支配する。
…ミリアの寝息だけが、静かに聞こえてくる。
「ねぇ…イタチ…」
「…珍しいな、君が俺をイタチと呼ぶのは…」
「あら、そんなことないわ。聖地でもあなたをイタチと呼んでいたわ…」
「…あれは、俺が表の顔として活動していたからだろう?」
「ふふっ…そうね…。でも、イタチがあなたの本当の名前だもの…。たまには、そう呼びたくもなるの」
「そうか…」
小さく呟くような声であったが、2人は穏やかな様子で会話を繰り広げる。
そして、再びアルファが会話を切り出す。
「イタチ…あなたにとって、私はなに?」
「…急にどうしたんだ?」
「…いいから…答えて…」
アルファの唐突な問いに、イタチは些少の驚きを見せるものの、特に動揺は見せない。
「俺にとって、アルファは…妹のような存在だな」
「妹…?」
「ああ…」
アルファは、どこか嬉しそうに、しかしどこか悲しそうな表情を見せる。
その表情が何を示しているのか、イタチは理解していたが、あえて口には出さない。
「嬉しいけれど…ちょっと不満ね」
「…可愛い妹だ」
「…ッ///。ありがと…。でも、そういうことじゃないのよ…」
アルファは一瞬顔を酷く赤らめるが、すぐに些少の赤らめへと戻す。
「アルファ…。君はきっと勘違いをしている」
「…勘違い?」
「そうだ…。君は、俺とシャドウに救われた…。地獄のような日々から解放された君は、ミリアと同じで俺たちを救世主だと勘違いしている。君の心にある俺への想いも、地獄から解放されて、感覚が麻痺しているからにすぎない…」
イタチの言葉に、アルファはバッと肩から頭を離し、イタチを睨む。
今迄イタチに向けたことのない視線であった。
「…私の、あなたへの気持ちは、本物よ!」
「違う…」
「違くない!!」
アルファは、普段の冷静な姿からは想像もつかないような声を張り上げる。
イタチの膝の上で眠るミリアが、身体をビクッと震わせる。
イタチとアルファは、暫く睨みあっていたが、アルファが視線を反らし、ミリアを起こさぬよう、イタチへと抱き着くことで、終わりを見せる。
「…本当よ…。私は、本当にあなたが……好きなの…」
「………」
「貴方とシャドウは、私の命と身体を救ってくれた…。そしてあなたは、全てを失った私に、温もりをくれた…。麻痺なんかしていない…。私は、本気であなたを愛しているの…」
「……すまなかった」
アルファの幸せを願い、そのために諭そうと考えていたイタチであったが、これ以上は無理だと判断し、素直に謝る。
「…許さないわ…」
「そうか…」
「許さない…絶対に許さない……。でも…」
アルファは、イタチの胸の中で、何度も繰り返すように呟く。
そして、ゆっくりとイタチを見上げる。
「…私をお嫁さんにしてくれるなら、許してあげる」
アルファは、小悪魔のような表情を向ける。
イタチは、その表情と言葉に大きく目を見開くが、思考は至って冷静であった。
「…悪いが、君のことは妹にしか見れない…許してくれ」
「…そう」
アルファは、ゆっくりとイタチから身を剥がす。
しかし、その瞳には一切の退きは見られなかった。
「…それなら、女として見てもらえるように頑張るわ…」
そう言い放った瞬間、アルファは自身の唇を、イタチの頬へと誘った…。
「それで、話って何かな?アルファ」
「…イタチのことについて、聞きたいことがあるのよ」
シドは、自分の寮の一室に現れた、アルファと顔を合わせる。
「イタチさんのこと?なんでまた急に…」
シドは、少し驚いた様子をみせる。
アルファに限らず、陰の実力者ムーブに付き合ってくれる彼女たちがそんなことを聞いてくるのは、初めてであったからだ。
「それは…。イタチのことをもっと知りたいと思ったからよ」
なるほど、イタチさんは、彼女から慕われている。
僕なんかよりもずっとだ…。
いや、そもそも僕のことはそんなに慕っていないであろう。
「それなら、直接イタチさんに聞いたらいいんじゃない?」
「…それができないから、あなたに聞いてるんじゃない…」
「なんで?」
「…なんでもよ」
シドの疑問に、アルファは言葉を濁す。
「んー…イタチさんはあんまり自分のことを喋らない人だから…僕も知らないことだらけだよ…」
「…本当に?」
「うん、君たちとそんなに大差はないと思うよ」
「うそ…」
「嘘じゃないさ…」
アルファの尋問に近い問いかけに、シドは余裕の表情で答える。
「イタチの昔の話とか、知っているんじゃないの?」
シドの顔から、余裕がなくなる。
「…どういうことかな?」
シドが真剣な表情で、どこかシャドウを思わせる声色に変わったことで、アルファは些少の緊張感を抱く。
「…彼と出会ったあの日…。それ以前のことを、私は殆ど知らない…。どんな暮らしをして、どんな人と関わってきたのか…私はそれが知りたいの…」
「なるほどね…。好奇心が旺盛なのはいいことだ…。でも、他人の過去を詮索するのは、あまりよくないよ」
シドの言葉に、アルファは押し黙る。
その言葉に反論する余地がないからである。
「…それに、イタチの過去については、僕の口からは何も言えない」
「…やっぱり、何か知っているのね?」
シドの含みある言葉に、アルファは少しだけ目を見開く。
「どうしても知りたいなら、それこそイタチさんに直接聞くべきだよ…。少なくとも、イタチさんの許可がない以上は、僕から話すことはできない…」
シドは、話は終わりとばかりに、アルファに背を向け、部屋を出ようとする。
しかし、アルファはそんなシドの歩みを止めようと、口を開く。
「イタチは…時折夜空を見上げて何かを考え込むことがあるの…。その表情には悲しみと寂しさが溢れていた…」
「…そっか」
アルファの悲痛にも似た言葉に、シドは短く返す。
「イタチだけじゃない…。あなたも何か大きなものを抱え込んでいるのは知っているわ…」
なんのことだろう?…僕はそんなものを抱えている自覚はないのだけど…。
と、シドは別の意味で頭を悩ませる。
「…私では、あなた達の憂いを払うことはできないの?」
アルファの言葉は、心の底から発せられているように思える。
「(すごいなー…さすがはシャドウガーデンのNO.3だ…演技も一流…)」
シドは、そう思いながらも、しかしイタチのことに関しては真剣に答える。
「答えは変わらない。イタチさんのことは、それこそ過去の話は、今は何があっても話せないよ…」
「そう…」
アルファは、絶対に崩せないシドの心に、これ以上の問いかけを諦める。
アルファにとって、イタチは心の底から敬愛する男性である。
シドに関しても、それと同等の尊敬の念を抱いている。
だからこそ、2人のことは、それこそイタチのことに関しては全てを知りたいと思っている。
2人の考えや思考は、アルファをもってしても、理解できないことが多い。
出会って5年以上が過ぎているにもかかわらず、シャドウの抱えているものも、イタチの寂しそうな、悲しそうな表情の理由も一切わからない。
だからこそ、勇気を振り絞って聞いてみたのだ。
結果は惨敗…。
しかし、その理由は至極当然で、至極真っ当なものであった。
故に、それ以上は聞けない…。
アルファは、小さくため息をついて、改めて口を開く。
「来るべき時が来たら…話してくれると思っていいのかしら?」
アルファの言葉に、シドは些少の興奮を覚える。
突然舞い降りた陰の実力者っぽい返答が頭に浮かび、声色を完全に変える。
「…時が来たら、教えよう…」
「信じているわ…」
シドの言葉に、アルファは小さく笑いかける。
ここで終われば、とりあえずは丸く収まったことだろう。
しかし、陰の実力者プレイのスイッチが入ってしまったシドは、止まらなかった。
「…それに、イタチのことは特に、今の君たちが知るには早すぎる…」
「…どういうこと?」
陰を含む物言いに、アルファは些少の動揺を見せる。
「…君たちでは、きっと耐えられないだろう…。我ですら…そうだったのだから…」
「え…ッ!そ、それって…どういう…」
シドはそう言い残し、部屋を後にする。
一人残されたアルファは、シドの言葉を何度も頭で繰り返しながら、呆然と立ち尽くしていた。